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第一話 絶対にぶん殴る-1

 *****




 この世界に異世界から突如現れた獣頭の亜人、魔族。

 魔王とに率いられた魔王軍は暴虐の限りを尽くし、殺戮を楽しんだという。

 この暴虐に対し、人間たちは各々の思惑こそあれど結束して立ち向かった。

 人間たちは恐るべき侵略者たちに対抗するため、あらゆる方法を使った。


 魔族が使う万能の業"魔法"。

 それを火、水、風、土に限定して人間にも使えるようにした"魔術"。

 魔法によって強化された"魔道具"と呼ばれる物品の奪取と分析。

 魔王軍の魔族たちへの調略。いかなる策だったのかは定かでないが、

 最終的に魔王軍の六割が離反、人間と共に戦ったとされている。


 十年にわたる人魔の戦争は、人間側が圧倒的優位な戦況を整えた事に加えて、

 人間の勇者が魔王を討つ事で終止符が打たれる。

 勇者が振るったという大聖剣、聖なる短剣は魔王の復活に備え、

 ある王国で代々保管される事となった。


 それから五百年。人間。人間側に与したという魔族の子孫。

 そして彼らの混血、獣の耳と尻尾だけを持つ者たち。

 彼らは種族の違いなど問題にせず、当たり前のように日常を過ごしている。

 魔王が復活し、魔王軍が再結成されようとしている事を大半の者が知らぬまま。



 これから始まる物語は、勇者と魔王に関わりはするが英雄譚ではない。

 勇者を殴るために旅をしたという、ある農民の物語だ。




 *****




 名もなき鉱山の村。

 荒野のど真ん中に存在し、周辺との行き来が隔絶された陸の孤島。

 七日に一度訪れる、生活必需品を売りに来る商人以外は、

 旅人でさえも立ち寄る事がない。

 そんな村で、物語は始まる。




 険しい表情で小さな畑の前に立つ青年。

 畑の作物はすっかり萎びて、実も小さく貧相な物ばかり。


「リレックさーん、シュペさん連れてきましたよー」


 リレックと呼ばれた青年は、声の主の方へと振り向く。

 鈴が鳴るような可愛らしい少女の声。それを発しているのは案山子だ。


 村にふらりとやってきた女魔法使いが実験とやらで何かを埋め込み、

 リレックの畑にあった案山子は自我をもって動き出した。

 魔力によって動く自我を持つ人形、魔導人形として。

 人の物に勝手な事をした女魔法使いは捕まえられ、

 今は村の鉱山で強制労働に従事している。


 ライチェと名付けた動く案山子が、

 リレックにとって家族のような存在となった事には感謝すべきだろうか。

 汚れが目立つ簡素な服と頭巾に白い前掛け。

 前掛けに描かれた赤い実は、すっかりくすんでしまっている。

 洗濯を五日に一度くらいしかやらない事を、リレックは少しだけ反省した。


「リレック、やはり駄目か」


 案山子に連れられてきた魔術師、シュペナートは畑を見て残念そうな顔をする。

 肉体の鍛錬を至上とするこの村では数少ない知識人で、リレックの幼馴染。

 親同士が仲が良かったので自然と兄弟のような友人になっていた。

 今はライチェを数に入れなければ、お互いに天涯孤独。

 だからだろうか、何となく助け合って生きてきた。


 二十日ほど前に彼が調べてくれた農法を試してみたのだが、

 あまり効果はなかったようだ。


「土地が限界なのかもしれねえな。

 ここが特に酷いが、他の畑も似たようなもんだ」

「そ、そんな事……その……」


 リレックに何かを言おうとして言葉に詰まってしまうライチェ。

 動き出してしばらく後に作った顔のパーツが、悲しみの表情へと変わる。

 もっとも畑の状態を見ているのは案山子としてずっと立っていた彼女だ。


 元々農地としては適していない荒野だった。

 それでもと手を尽くしたが、これ以上打つ手がない。


「それよりも今日は宴らしいから、よさげな物を収穫しないと。

 故郷を旅立つ"勇者様"に豪勢な食事をってさ」

「あいつが魔王を討つ勇者だなんて、この世界も終わりですね」


 辛辣なライチェの言葉に、リレックたちは深く頷く。

 "勇者様"の事をよく知っているからだ。


 名はツィブレ。村長の孫であり、村長一家の破綻した教育の結果、

 とんでもない悪童となり果てた少年。

 人や物を傷つけるのに良心の呵責が一切なく、善悪の区別がつかない。

 その上ずる賢くわがまま。

 村長一家に溺愛されており、権力をかさに着て好き放題をする下劣な精神性。


 村長は剣術の稽古場で師範をしているが、

 ツィブレは稽古などした事もなく日々を怠惰に生きている。


 畑を荒らされた事も一度や二度ではないので、

 ライチェはツィブレを害虫のように嫌っている。

 この村の住人で嫌っていないのは祖父と父親だけだと断言できるほどだ。


「だが、聖なる短剣を抜いた。大聖剣の話を御伽噺で聞いた事はあるだろう」


 シュペナートが出した聖剣という単語に、リレックとライチェは渋い顔をする。


 大聖剣。五百年前に魔王を討ち果たした勇者が振るったといわれる剣。

 刀身が大人の男四人分という、

 あまりに巨大すぎるその剣は王国に保管されており、

 魔王が復活した時に勇者の手によって振るわれるという。


 そして、勇者を選ぶとされる大聖剣と対になる短剣。

 その短剣がなぜか悪童を選び、王国の宮廷魔術師がこの村にやって来た。

 復活した魔王を倒す勇者として王国に招きたいと。


 村長一家はあまりの喜びで泡を吹いて倒れるまで叫び続け、

 村長の弟子たちもそれなりの歓喜に沸き、

 散々迷惑をかけられていた村民とリレックたちは白けた表情でそれを見つめた。

 その勇者様が、明日旅立つ。


「オレも出ていきたいな、こんな村」

「村長が許すとは思えんがな」


 村を出るには村長の許しがいる。それが何よりも困難な事だった。


 リレックの母は旅の武芸者で、

 たまたま立ち寄った町で領主に見初められたのが最大の不幸。

 公衆の面前で手酷い振り方をしたあげく、

 それを酒場で面白おかしく話していた自業自得の面もあろうが。

 面子を潰された領主は怒り狂い、

 母を捕らえて強制労働所であり収容所たるこの鉱山村に押し込んだ。


 今から十五年前、リレックが五歳の時にその貴族は死に、

 村は看守だった現在の村長に委ねられた。

 新領主からは採算に合わぬと見捨てられ、小さな鉱山しかない陸の孤島。

 囚人でなくなった村人たちが去ろうとするのは当然の事だ。


 それを許さなかったのが村長だった。

 看守としての使命感ではなく、村の支配者であり続けるために。


 雑貨屋と食料品店など、村の生活基盤は村長一家が握っていて、

 許しがなければ旅の準備を整える事さえできない。

 荒野にぽつんとあるこの村で、旅の準備を整えずに出ていくのは自殺行為だ。

 それでも逃げ出そうとする者たちが後を絶たず、

 激怒した村長は狂った掟を作った。

 村長と弟子五人を倒せば村を出てもよい、と。


 挑んだ者たちは恐ろしい強さの村長に重傷を負わされ、誰一人勝てなかった。

 それ以降、村から出ようという者はいなくなった。

 暗殺が試みられたのも一度や二度ではない。

 その全てを跳ね除け、村長は未だ君臨している。

 それどころか村長の噂を聞きつけやって来た武芸者までも、

 掟で捕らえて逃がさなくなった。まるで蟻地獄のような村。


 母は村から出る事も叶わず、結局残りの生をこの村で過ごした。

 晩年、母は家の近くに小さな畑を作った。

 故郷の物だという紫の実をつける野菜を植えて。

 母が生きているうちに、それを食べさせる事はできなかった。

 リレックが農業をやっているのはそれが理由なのかもしれない。


「まあ、あのクソガキがいなくなってくれるなら、少しは村もマシになるだろ」


 深いため息に諦めを乗せて、リレックは紫の実を収穫する。

 この辺りでは珍しい野菜らしく、村長から持ってくるように言われている。

 勇者様はこの実が嫌いだから、どんな暴言が飛んでくるだろうと思いながらも

 できるだけ良い実を選んだ。



 ***



 宴は意外にもつつがなく終わった。

 宮廷魔術師が同席していたためか、

 村長もツィブレもまるで別人のように大人しかった。

 とはいえツィブレは見るからに不機嫌そうな表情をしており、

 少年が何をしたかったのかは一目瞭然だった。


 野菜炒めの紫の実が硬くて不味いとリレックに因縁をつけようとしたのだが、

 宮廷魔術師は美味しいと言ってそれを食べていたので、

 それ以上何も言えなかったのだ。


 その野菜の事をきっかけに、宮廷魔術師と話が弾んだ。

 ずいぶんと気さくな男で、

 あまり学のないリレックにも分かりやすい言葉で話してくれる。

 どうせ碌な目に合わないと宴に出なかったシュペナートは、

 さぞかし彼と話をしたかったろうと心の中で謝った。


 彼によると、勇者は大聖剣を抜くために王国の各地で洗礼を受けるのだという。

 僕は同行できませんが、と彼は笑った。

 勇者の要望で美しい女性を供とするのだと。

 その話の一瞬、彼はツィブレの方を凍るような冷たい目で見た。


 何となく理解する。

 彼は、村長やツィブレと話がしたくないからリレックに話しかけていると。

 ならせめて、嫌な任務の中でも楽しくしようと、

 リレックは下らない笑い話をする。

 宮廷魔術師はそれを聞いて笑い、

 宴の最後には酒を酌み交わすほど仲良くなっていた。


 その時は酔っていた事もあって気付かなかったのだろう。

 ツィブレの顔が、屈辱と悪意にまみれてリレックを向いている事に。




 すっかり遅くなってしまったが気分よく家へと帰る。

 家の中ではライチェとシュペナートが寝ていた。

 シュペナートのそばに酒があるので、

 宴で嫌な気分になったのを忘れさせようと待っていてくれたのだろう。


 案山子のライチェが寝るというのはいつ見ても不思議に思うが、

 昼は日光を食べていて、夜は日光がないから

 節約のため休んでいるとシュペナートから説明された。

 どんな光ならいいのか、三人で実験した事を思い出して笑いが漏れた。

 薄暗い部屋の中で松明を掲げてみたり、ランタンをつけてみたり。

 松明のような強い光源であれば食べられるという事が分かり、

 三人で笑いながら疲れて寝たものだ。


 他にも色々な物をシュペナートと協力して作った。

 簡単な関節部分を取り付けて、肘と膝の部分を動かせるようにしたり。

 ただ描かれていただけの顔を、個別の部品として作ったり。

 経年劣化していた腕と、膝から下の足を鋼鉄の棒に換えたりもした。

 ライチェが喜ぶのが、我が子を見ているように嬉しかったのを覚えている。


 二人に毛布をかけてやり、自分も横になって眠る。

 この二人がいてくれれば、

 ゴミ溜めのような村でも笑っていられると思いながら。


 その時は、まだ知らなかっただけだった。

 内に溜まり続けたものは火を近づけても燃えなかったわけではない。

 諦めという冷たさに負け、熱量が足りなかっただけだ。

 己の身すら焼き尽くしても構わないと思えるほどの熱が。



 ***



 次の日の朝。

 リレックは、小さな畑の前で立ち尽くしていた。


 徹底的に破壊された畑。

 野菜は折られ、千切られ、まだ紫になっていない実は踏みつぶされていた。

 悪戯で済ませていい事ではない、明確な悪意を持った破壊行為。

 獣の仕業では断じてない。知性を持った者の、あまりに的確な破壊。


「無事な株が、ありません……こんなのって……」


 畑を見回ったライチェが、声を震わせながら残酷な報告をする。

 もし彼女が涙を流せたのならば、きっと泣いていた。

 昨晩リレックを待って家にいた事が仇になってしまった。

 声の震えはその自責もあるのだろう。


 リレックは茫然自失で立ち尽くす。何が起きているのか、頭が理解を拒む。

 畑を調べていたシュペナートがリレックの前に立つ。

 その顔は無感情を装っていたが、激怒がにじみ出ていた。


「足跡からして数人で夜のうちに荒らしたらしい。

 魔力を感じたから調べてみたが、聖なる短剣で斬られていた物があった」


 勇者だけが使えるという聖なる短剣。勇者だけが。


「……間違いないのか、シュペ」

「魔術師や魔法使いなら誰でも分かるよ、あの短剣の魔力は特徴的すぎるから」

 

 昨晩、宮廷魔術師も話していた。

 他の魔道具とは比べ物にならない異質で強大な魔力が付与されていると。

 それ故に選ばれし者にしか抜けず、

 五百年を経ても錆一つ無く美しさを保っているとも。


 つまり、これをやった主犯格はただ一人。

 畑に背を向け、ゆらりとリレックが歩き出す。

 それに続くライチェとシュペナート。

 行く先は、当然村長の家だ。




 村長の家の扉を壊れそうな位の勢いで開ける。

 ちょうど昼食時だったのか、村長と稽古場の弟子たちが揃っていた。


「ツィブレは何処だ」


 怒気、もはや殺意とさえいえるものを乗せたリレックの言葉に、

 村長以外の全員が後ずさる。


「ツィブレなら宮廷魔術師殿の転移魔術で先ほど王国に向かった。

 一足遅かったなあ」


 嘲るような村長の答えに、なぜか納得した。

 まるでリレックたちが何をしに来たのか知っているような口調。


「なるほど、ツィブレと村長に言われて

 畑を荒らしたのはお前たちか、弟子の皆さん」


 シュペナートの指摘を聞き、弟子たちが一斉に目を逸らす。

 答えを言っているのと変わらない。

 その様を見てリレックは内に溜めたものが燃え上がるのを感じた。

 もう自分自身でも止める事はできない。向かう先に何があろうと。


「村長、許可をよこせ。オレは村を出る」

「自分の言っている事が分かっておるのか?」


 村長が作った掟。

 自分たちと戦い、勝った者だけが村を出る事ができる馬鹿げた掟。

 母と自分たちを縛り続けたものだ、理解しているに決まっている。


「そっちこそ分からねえのか? てめえを叩き潰すって言ってんだよ」

「吠えよるわ、若造が。一度だけなら戯言と流してやるが?」

「本気に決まってんだろうが。

 あのクソガキの面をぐちゃぐちゃにしねえと収まらねえ。

 人の大事な物を壊しておいて、今頃へらへら笑ってるあの面をッ!」


 その掟に真っ向から立ち向かい、勇者とは名ばかりのクソガキを追うと決めた。

 村長はまったく動じることなくリレックの怒りを受け流す。


「よかろう、戦いは明日の朝。場所は村の広場だ」


 それ以上話す事は無いとばかりにリレックは踵を返す。

 ライチェもそれに続くが、動かない者が一人。


「"村長と弟子五人を倒せば村を出てもよい"。これが掟の全文か確認したい。

 後出しで実は何々だったから無効、なんてお前らなら平気で言うだろうしな」

「ふん……掟にそれ以外の事など書いておらん。

 胡散臭い魔術師らしい下種の勘繰りだな」

「普段の言動を鏡で見てから物を言え、下劣な畑荒らしども」


 シュペナートがここまで悪し様に人を貶すのは見た事がなかった。

 彼も腹に据えかねていたのだろう。

 それ以上に、友人の大切な物を壊された事に激怒している。


 そして今気が付いた事だが、

 ライチェの両腕がリレックの左腕を包むように触れていた。

 彼女は案山子であるため、手袋と靴こそつけているが

 腕も足もただの棒で、何かを掴む事はできない。

 それでも、せめてこの位はと寄り添ってくれていたのだろう。

 二人の友の存在が、涙が出そうなほど嬉しかった。


 村長の家を後にする。

 三人の誰も、開けられたままの扉に触れる事すらしなかった。




 夜、リレックの家。

 顎に手を当てて考え事をしていたシュペナートが口を開く。


「盛大に啖呵を切ったはいいが、勝つ算段はあるのか?」

「ない。それでも、ああしなかったらオレは生きていけなかった」


 古びてはいるが手入れの行き届いた槍を手に、リレックは正直に答える。

 あの感情を抑え込んで生きていくくらいなら、きっと死を選んだろう。


 農家にとって我が子も同然の作物。母が故郷を思って作った小さな畑。

 それを徹底的に破壊された。

 一時の怒りで済む一線を越えた。


 家族が叱る事もしない。勇者である以上もう誰も逆らえない。

 誰も罰を与えてくれない。

 ならば自分がやるだけだ。あのクソガキの顔面に拳を叩き込む。

 そのためにこの村を出る。隠れて逃げ出すのでは意味がない、

 下らない掟を力づくでねじ伏せて出る。


「だろうと思ったから、算段を立てたぞ。今から簡単に説明する」


 シュペナートの説明を聞きながら、

 半日で作戦を立ててくれた友人に心から感謝する。

 作戦というにはあまりに稚拙で簡素。

 それでも勝率を少しでも上げようと考え抜いたもの。


「シュペさん、もうちょっとこう……何かないですか?」

「無茶を言われても出てこない。

 魔術の事しか知らない俺に常勝の作戦なんか求めないでくれ」

「それはそうかもしれませんが……」


 返答にライチェががっかりしていると、扉が軽く叩かれる。

 扉を開けると、村長の弟子の一人が立っていた。


「何の用だ」

「率直に言う、戦いを止める気はないか? その気ならば私が村長に話をつける」


 リレックの敵意に怯む事なく、男は言う。

 三人とも心は怒りで燃えているのだが、

 なぜか男の言葉に感情が動く事はなかった。

 この男はリレックを心配して言っているのだと、何となくだが理解したからだ。

 実直ゆえに従う事しか知らない男。そんな印象の弟子だった。


「下らない気を使おうとするな。さっさと帰れ」

「……そうか、失礼した」


 リレックの決意は固いと判断し、それ以上何か言う事もなく帰ろうとする男。

 その後ろ姿に声をかけた。


「あんた武芸者なんて向いてねえよ。

 今以上を目指さない武芸者は路傍の石にも劣る」


 いつも、母が自嘲気味に言っていた言葉だ。

 罵倒を受けた男は寂しそうな笑みを浮かべ、リレックの方を向いて言った。


「ならば今の君は、この村の誰よりも武芸者なのだな」


 その羨望だけを残し扉は閉められた。

 リレックは憮然とした表情で、手に持った槍ではなく鍬を見る。


「オレは農民だ。武芸者じゃねえ」


 何かを傷つけ壊すより、野菜を作る方がずっと好きだ。

 自分の愛したものを壊された。今は亡き母が愛したものまで壊された。

 ならばそれをした者を傷つけ壊さなければ、

 この怒りと憎悪という炎は消えない。


 だから今、手に持つのは槍でいい。

 この炎で立ちふさがる障害を焼き尽くすために。


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