キャッチボー
今度の日曜日、小学校でソフトボールをする事になった、阿部のん。
「それー!」
「ナイスボール!」
クラスメイトとキャッチボールをして練習。知り合いに野球好きな人がいて、グラブを借り、バットまで貸してもらい、これはもう活躍しないとって意気込んでそれらしい練習を校庭でする。
任されたポジションはセカンドだ。
「やぁっ!」
野球好きな人曰く、
『初心者はまずキャッチボールから』
らしい。
ビュッ
相手の胸に向かって、丁寧にまず投げ込むこと。
捕る時もグラブを意識して捕球。
パァンッ
「良い球だねー!」
「のんちゃんこそ!運動神経が良いね!球が男子並じゃん!」
小学校くらいならば、まだ性別による肉体的な差はそこまで現れないんだろう。男子に混ざってもおかしくはない身体能力を持っている、のんちゃんだった。
女子達の可愛げあるソフトボールの練習風景に、嫉妬というより邪魔っぽく感じる、大将気取りの男子とその子分達が現れた。
「おいおい!ソフトボールの練習なら他でやれ!」
「そーだそーだ。ここら一体は、男子のサッカー練習の縄張りだぞ」
「サッカーなら他の公園でできるでしょ。ソフトボールの練習場は少ないのよ」
「そうよ、男子!っていうか、先にあたし達が使ってるんだから!」
子供にとっては早い者勝ちが正しいと思っているが、女子に劣るわけないとまだ世間を知らない男子達は引き下がらない。
「ふん、女子のスポーツなんざ。男から観たら、ただのじゃれ合いレベルなんだよ。低レベル!」
「むぅっ……」
「じゃあ、のんちゃんと勝負です!!のんちゃん、怒りました!!」
「は!なんの勝負をするってんだ?」
「野球の対決です!のんちゃんがピッチャーで、あなたがバッター!!1打席勝負でのんちゃんが抑えたら、潔く退いてください!のんちゃんがヒット以上を打たれたら、譲ります!」
「ははははは、それは面白い!俺はサッカーだけじゃなく、野球も毎週日曜日やっていたんだぜ。ど素人で低レベルな女子が勝負とは!」
でもこの人、小4の時に辞めたのよね。
根性なくて辞めた。
勝てる勝負だとすぐ調子に乗るよな。
などという男子と女子、彼への双方の陰口はヒソヒソにしておく辺り、周りは優しい。
こうして、投手と打者の1打席勝負が始まる。
◇ ◇
「だ、大丈夫なの?いちお彼、野球もしてたのよ。2年くらい……」
「のんちゃんに任せてください!のんちゃん、野球の方が知ってます!」
これも野球好きの人からの受け入りだが。
『1打席勝負の時は必ず、投手を選択しろ』
「野球もソフトボールも、打者は打率三割で一流です。この勝負、七割で投手側ののんちゃん達が有利です!」
『ヒットを打てたら勝ちってルールなら、四球にして勝てる。……そーいうズル抜きでも勝てる方法として、自分も相手も知らない者同士で勝負をすりゃ、投手がどーいう球を投げれるか分からないから、すでに有利だと思ってろ』
「ミットをずーっと、外角低めに構えてください。のんちゃん、そこ目掛けて投げます!」
『外角ストレート。できるだけ、低めに投げろ。駆け引きなしでなら、それだけで雑魚は抑えられる』
キャッチボールの基本。
それは相手に向かって、ビシッと精確に投げ込むこと。
「すっとろい球なんて軽くヒットにしてやるぜ」
「やってみなさい!」
ビュッ
『良いコースに決まれば、球速がなくても打ち損じる。とはいえ、少年野球ってのは守備がまだお粗末だから、当たればヒットっぽいエラーになっちまう。でも、こーいう打席勝負なら捕りさえすれば勝ちを拾える』
バシイィッ
「ス、ストライク!」
「!ふん、まぐれで良いところに投げたな」
球速は100キロどころか、90キロもないが。丁寧なストレートがアウトローに決まった。フォームは全然固まってないし、手投げもいいとこ。言われたことだけ守って投げる。
同じコースにまた、さっきの球が来た。球のスピードを見るための様子見だったと、打者は侮っていてバットを出した。だが、そーいうコースの球をヒットゾーンに運ぶのは、練習が必要なものだ。
ガギイイィッ
「あの当たりじゃ、ショートの正面だね」
「クッソーーーー!!」
守備人数がいても守りに就かなかったのは、エラー負けを回避するため。打球方向でのジャッジにより、のんちゃん達の勝利……
「そんなん認めるかーー!そもそも不公平だ!3打席勝負にしろ!」
「往生際が悪いですね。みっともない」
とはいえ、男の言い分も分かる。それを乗り越えるのが男だろってのも言いたい。また喧嘩になろうって時に
「おーーーい!のんちゃん、練習頑張ってるー!お迎えに来たんだけどー」
校庭の外からのんちゃんを呼ぶ声。のんちゃんと同居している、大学生の沖ミムラの声だった。
「って……男子が女子を相手に何をしてるのよ!」
今にも喧嘩しそうな雰囲気が伝わり、ミムラは自分の立場など考えずに校庭に入って来る。バット持ってる男子が、女子をそれで乱暴しようという雰囲気を察知したのだ。
そして、事情が分かり。
「往生際が悪いわね!それにのんちゃんみたいな同学年の女子を相手にイキるなんて、カッコ悪いよ男子達!」
「なんだとーー!」
「このミムラお姉ちゃんが成敗してあげる!!なんたって、のんちゃんの同居人で大人!大人なんだから!これなら女子と男子のハンデはないようなもんでしょ!」
「いや、なんでそうなるんです……。ミムラさんは待っていてください。関わらないでください」
「まーまー!今度は男子の言う通り、女子達が守備に就いて、この子にヒットを打たれなければいいだけじゃない!私がピッチャーをやってバシッと抑えればいいんだし!」
ヤバイ。この人、勝負の運び方が下手だ。これじゃあ、負けもあり得る。っていうか、この人がピッチャーっていう時点で嫌な予感が
「や、止めてください!」
「のんちゃん!私が負けると思ってんの?私だって、広嶋くんに野球を付き合わされてる身!カーブだって投げれるんだから!」
「そーじゃなくて!……もー、いいです!どーなっても知りません!!」
そんなわけで投手がミムラとなり、女子達が全員守備に就いての2打席勝負が始まった。
始まったわけだが、のんちゃんの懸念通り
「とりゃあーーーー!!」
ダイナミックなフォームから手投げで繰り出されたストレートは、時速110キロは出ていた中々の良い球が。
ガコオオォォッ
「ぐほおぉぉっ」
「広嶋くんの秘技!!顔面死球!女のストレートだって、痛いんだからね!」
「なにカッコ悪い球投げるんですかーーー!!」
打者への故意死球でこの勝負はノーカンになった。やっぱりやりやがったと、のんちゃんは……まぁ、男子達が悪いと思うから、これくらいで良いかと思った。
その後、ソフトボールの練習もできたし、ぶつけられた男子もタンコブができただけで終わったし。
自分のしている仕事だけじゃないと思うんですけど。(R_15っぽい、あとがきでごめん)
学校でもテストに制限時間があるように、定期的に従業員の作業能率を計ることがあるんですよ。
どれだけ早く配達ができるかー。準備に手間取ってないかーって感じの。
自分はそれ断ってるんですよね。
上司や本社命令でもそれはやりませんって。
そんで先日断ったら、口論になりまして。
作業能率が良い = 人件費が掛からない人材(奴隷)。みたいな感じを調べてるって言うんですよ。作業能率が良いので固めれば、余計な人材(奴隷)を雇わないで済むって考えなわけですな。
でも、作業能率の計り方の基準が、準備は素早く荷物のチェックをしろ、配達地域まで車をすっ飛ばせ、走って荷物を運べ、階段は二段飛ばしで駆け上がれやら……。
その日の仕事ぶりしか調べる気がないんですよ。
事故ったり、誤配したら、翌日以降で余計な手間になるんだから。
そもそも仕事の作業能率って、スピードじゃないでしょって。この基準がおかしいって。
いかにミスしないかが仕事とお客にとって大事なんだから、っていう文句を言っちゃったんですよね。そんで口が滑ってしまって。
『そんな調査に人材割けるなら、配達の仕事しろ。客はお前等なんか見てないぞ』
ついつい、本音を言っちゃったら大激怒されたっていう。
キャッチボールからドッヂボールになってしまったというね。
あまり生意気な態度を見せると、怒られるので辞めようね。本音でもうっかりの一言で、減給されるからね(経験済み)。