73.私の過去
「泣くなよ、ちんちくりん。」
キキョウは頭を撫でてくれた。その優しさで泣いてるんだよ、バカ。初めて、人になら話したいと思えた。こんな人たちなかなか会えないだろう。パーティとしてやっていくには、お互いを知ってた方がいい。
「私も話すよ。自分の過去のこと。」
「いいのか?」
「うん、人に話してもいいかもって思えたのは、初めてなんだ。みんなの過去を聞いてもっと話したいと思った。」
みんな真っ直ぐな目で私を見てくれる。この人たちの心に淀んだ空気がない。淀んでいるのは、多分私だけ。
「私は日本ってとこで生まれたんだけど、こことは全然違う場所だったよ。私が住んでいたのは、そんなに栄えているとこじゃなかったけど、不自由はなかった。」
異世界に来てから、あまり考えることがなかった。人間の慣れって怖いな。
「私にはお兄ちゃんがいたんだ。すごく優しくて、かっこよくて、面白くて、大好きだった。日常が崩れたのは、私が10歳のとき。」
考えてみれば、あれから七年経ってるんだ。
「火事があったんだ。私とお兄ちゃんは家の中にいた。お兄ちゃんは私のことを突き飛ばして、瓦礫から守ってくれた。だけど、お兄ちゃんが瓦礫に巻き込まれたんだ。」
「そんな、」
今でもあの時のお兄ちゃんの顔をはっきりと思い出すことが出来る。思い出す度に胸が痛くなる。
「私が手を伸ばせば、お兄ちゃんも助かったかもしれない。私にはないもできなかった。逃げられないお兄ちゃんを目の前にして、ただ泣くことしかしなかった。」
勝手に涙が込み上げてくる。
「時期にお兄ちゃんは動かなくなった。そのタイミングで助けが来たんだ。私だけが生き残った。隣にお兄ちゃんがいないことが辛かった。お兄ちゃんの最後の言葉は、」
「俺も誰かのヒーローになれたかな」
「そう笑顔で言ったんだ。一番つらくて、きついはずなのに。お兄ちゃんが死んで、私は学校に行かなくなった。そして、現実逃避するようになった。」
それがアニメや漫画だ。どっぷりと沼にハマった。作品を見ている時だけは、私も誰かのヒーローなんだって、錯覚してた。
「やっと学校に通うようになった時も自分を隠し続けた。周りの人から見たら、私は普通の人。でも、本当はそうじゃない。そんなことを言える友達も出来ずに、気がついたらここにいた。」
「そうだったのか、系統が違えどもカリノも辛かったんだな。」
「カリノさんもヒーローになりたいんですか?」
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