66.勇者
「そんなの嫌に決まってんだろ!」
ポチはそう叫んだ。その目は怒りと涙が溢れていた。依頼主がそっと頭に触れようとした時、ポチは依頼主の手を噛んだ。
「大丈夫だよ、ポチ。」
「大丈夫なわけねぇよ。オレは嫌だよ。」
ポチの涙は怒りではなく、悲しみに変わったように見えた。依頼主がポチを大好きなように、ポチもまた依頼主が大好きなんだ。
「オレは絶対に出ていかないからな。お前が死ぬまで隣にいてやる。タマでもなんでもいい、お前が好きな名前をたくさん読んでくれよ。」
私たちはポチが何を言っているのか、依頼主に通訳をする。
「ポチ、お前は人と話せるんだ。意見の通じるところの方が生きやすいぞ?」
「そんなことどうだっていい!言葉が通じていなくても、心が繋がってると思ってる。だから、ここにいさせてくれ。頼むよ。」
ポチは下を向いて泣いている。そんなポチを依頼主は両手で持ち上げ、自分の膝に乗せた。
「下を向くんじゃない、ポチ。お前はまだまだ先が長いんだ。上を向け!この世界にはお前の知らないことがまだまだある。私が見れなかったものをお前に見て欲しい。」
「わかった。お前の分まで色んなものを見る。でも、最後まで付き添わせてくれ。」
この二人は互いを想いあってる。私たちは、今回のクエスト報酬を受け取らなかった。あの二人の少ない時間に使って欲しいからだ。ポチは依頼主に最後のときまで寄り添うことを選んだ。依頼主もまた、それを了承した。逝ってしまった後、旅することを約束して。
「そういえば、あの人のオーラの正体、私わかったよ。」
「え、なんだったんだい?」
「元勇者なんじゃないかな。リビングに飾ってあった写真を見て思ったんだ。」
「たしかに勇者なら、あの風格で納得できる。」
私が見たその写真の隣には、私たちと二人の集合写真、そして二人の写真が新しく飾られた。
「僕たちも依頼主さんより、もっとたくさんの景色が見られるように頑張ろうか。」
「うん!」
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