64.ポチ
「どういうことですか?」
「ここのシヤンは、タマって名前気に入ってないんじゃないですかね。」
「どうしてわかんだよ。」
「私も確信を持ってるわけじゃないよ。だから、試してみよう。」
気に入ってないんじゃ、とか言って違ったら恥ずいな。でも、可能性があるなら試してみようじゃないか。
「ポチー!どこだよーポチー!」
ダッダッダッ!
どこからか足音が聞こえてくる。その音は次第に大きくなって、
「ようやく読んでくれたか!」
「え?」
イヌがしゃべった。これはなんだ、サネと同じ感じなのか。私にはそういう声が聞こえるのか。それとも私の頭がおかしいのか。
「いや、今回ばかりはカリノがおかしいんじゃない。」
「あぁ、俺たちにも聞こえるみたいだ。」
言葉を発していない二人を見た。驚きすぎて、言葉が出ていないようだ。
「なんだよ、タマって。それじゃネコじゃねえか。」
「タマさん、ネコってなんです?」
「あ、こっちじゃ名前違うのか。面倒だな。」
え、今ネコって。え、じゃあ日本から来たのは依頼主じゃなくて、イヌ?!
「あ、あのネコって、」
「おめーも知らねえのか。んーなんて言えばいいんだ?」
「いや、そうじゃなくて、ご存知なのかと。」
「あたりめーよ。そこら辺にいっぱいいたわ。って、ん?おめーはネコ知ってんのか?」
「、はい。」
やっぱりそうだ。この人は元の世界から来た人だ。ん?人でいいのか?
「そうかそうか!オレは日本ってとこから来てな、なぜかイヌになってたわ。」
「あなたも日本人なんですか?!」
「おう、純粋な日本人だ。こんな姿だけどな。」
まさか、日本人がこんなところにいた。イヌだけど。
「私も日本から来て、まぁ向こうで死んでしまったからなんですけど。」
「そうなのか、でもオレは死んだ覚えなんてないんだ。」
「え?」
じゃあ、死ななくてもこっちの世界に来る方法があるのか?だとしたら、その逆も。
「まぁ今のこの姿は、気に入ってるからいいんだけどよ。」
「でもなんでこの家にいるんですか?」
いきなり入ってきたサフラにびっくりした。シヤンが好きなんだろうか。すごいウキウキしているような気がする。
「拾われたんだ、この家の主人に。どこかに行くにも遠そうなんでな。ここに住まわせてもらってる。」
その判断は正しいだろう。いくらイヌの体でも、街まで歩きはしんどいと思う。
「おや、主人が帰ってくるな。」
イヌだから耳がいいのか、それとも嗅覚なのか。次第に馬車の音が聞こえてくる。馬車が止まり、男性の声がする。
ガチャ
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