39.道中
どれくらい歩いただろうか、オタクながらそこそこ体力には自信があったんだけど。
「すいません、もう、無理です。」
ドサッ!
真横を歩いていたタニアさんが倒れた。いや、さっきからゼェゼェ言ってたけど。大丈夫か聞いても、ずっと平気だって。嘘ついてたってこと?人ってよくわかんないな、
「大丈夫ですか?!」
私はタニアさんを抱えた。こんなになるまで黙ってたなんて。
「きっと、迷惑かけたくなかったんだよ。このクエストでカリノはキーになるから。」
「お嬢なりの優しさだな」
そうだったのか。タニアさんなりにちゃんと考えて。そっと頭を撫でる。
「くすぐったいです、カリノ。それに汗たくさんかいてますよ。」
タニアさんは私の腕の中で目を覚ましていた。すごく心配した。前から倒れていったから、打ち所悪かったらって。
「いいんですよ。おでこ擦りむいちゃいましたね。」
(消毒液とガーゼ、絆創膏を)
よし、これで軽く手当をしよう。
「ちょっとしみますけど、じっとしててくださいね。」
まずは、ガーゼに消毒液を垂らしてっと。タニアさんのかわいい顔に傷できちゃったな。傷痕できないといいんだけど。
「ギィーーーー」
タニアさんから聞いた事のない声が出た。消毒液がしみたのか。これ、結構痛いよな。
「全然ちょっとじゃないです!」
タニアさんは起き上がって私に言った。そんなに痛かったか。
「すいません、でもバイ菌を消毒しないと」
「その道具でそんなことできるのか。」
横からスっと出てきたのは、アイリスさんだ。この世界には、消毒液がないのか。
「消毒液か。うん、この世界には、ないね。こっちでは、ドクターによるガーべで治療とかされるんだよ。」
なるほど、治療中の痛みはほぼないんだ。いいな。私もこっちで生まれたかった。痛いの嫌じゃん。
「もう、その痛いのしませんか?」
タニアさんは少し涙目になっている。心が痛む。
「はい、もう痛くしませんよ。大丈夫です。最後にこれを貼っておきましょう。」
絆創膏を箱から取り出し、タニアさんの額に貼り付ける。三人は物珍しそうに見つめる。
「これはなんや?」
「テープ、ではないよな」
「これは絆創膏っていうもの、傷口にバイ菌が入らないようにするんだよ。」
タニアさんは額をポリポリする。ほんとに子どもみたい。かわいいな。
「傷痕にならないように、帰ったらガーべで治してもらってください。」
「わかりました、ただ歩けそうにないです。」
タニアさんが少し俯いて言った。
「置いていく訳にもいかないですし、どうぞ」
タニアさんの前に背中を向けてしゃがみ、おんぶを促す。歩けないならこうするしかない。咄嗟の時にキキョウには動けて欲しいし、判断力のあるアイリスは周りに集中して欲しい。サフラの場合は、ただ不安だ。
「そんな、悪いですよ!今回のクエストはカリノがキーなんだし、」
「そんなこと気にしてたんですか?私のガーべは身体を使わないので大丈夫です!」
アイリスの言う通りだったか。迷惑なんて思わないのにな。むしろウェルカムって感じ。
「じ、じゃお願いします、」
私はタニアさんをおぶって、また前に進み始める。
「ねぇ、あとどれくらいで着く?」
「そうじゃな、あ、あの森じゃ。」
お、もう少しじゃないか。ほんとに大丈夫なのかな。
読んでいただきありがとうございます。
前話からだいぶ期間が空いてしまいましたが、またちょくちょく書いていこうと思います。