116.別れ、そして。
ムスクを死なせてしまったのは私のせいだ。ガーべなんて特訓しないで、トラウベを無理やり連れ出せばよかった。そうしたら、今でもムスクは暖かかったかもしれない。私たちが会うことはなかっただろうけど、それでもいい。生きていてくれればいいのに。
「お姉ちゃん、、、。」
もう何もしたくない。私がなにかしても、全てが負の方向に行ってしまう気がする。
「もし私が死んだらさ、適当に埋めて笑っていて欲しいんだ。変だって思われるかもしれないけどさ、天に登っていく時、もし周りを見れるんだったら、泣いてる顔じゃなくて笑顔が見たいだろ。最後に見る顔が泣き顔ってのが嫌なんだ。だからさ、レザンも笑顔でいてくれよ。そしてたら私、きっと生きててよかったって、レザンとこうして出会うことが出来てよかったって、最後まで思いながら死ねるからさ。」
なんで、思い出してしまうんだ。余計に涙がこぼれる。でも、ムスクがそう言っていたんだ。私が最後にムスクにしてあげられることなんだ。私は立ち上がり、二人でいつも座っていた岩の横を掘り始める。シャベルなんてものはないので、石などで土を柔らかくして、手で掘っていく。
それからどれくらい経っただろうか、自分の胸までくらいの穴ができた。私はムスクを抱え、その穴に入れる。少しの間、穴の上からムスクを見つめた。
「ありがとう、ムスク。私も大好きだ、今までも、これからも。」
そう笑顔で言った。笑顔だと思っているのは、私だけかもしれない。でも、これ以上は無理だ。今も泣いてしまいそうなのを抑えている。そう思いながら、ムスクを少しずつ埋めていく。またいつかここに来よう。笑って、思い出話をしたり、私がどんなことをしてきたのかを話そう。
私たちは、ムスクのもとを離れた。サリュに行くかという話も出たが、やめた。私たちが行ったという情報が両親に伝わってしまうと、迷惑をかけてしまう可能性があるからだ。やることがなくなってしまったので、ひとまず路地裏に戻ることにした。この街の路地裏は、ほとんど人がいない。入り組んでいるし、路地裏の数が多すぎるので、上手く逃げれば捕まることは無いだろう。隠れるには絶好のポイントってことだ。
「お姉ちゃん、これから僕たちどうなるのかな。」
「もしかして、助けない方がよかった?」
「そんなことない。僕もあの訓練にはうんざりだったし、死ぬ思いだってした。できることなら、もうあの二人の顔は見たくなかったんだ。だから、ありがとう、お姉ちゃん。」
私たちにはこれから、行き場のない生活が待っているだろう。それでも、強く生きるんだ。ムスクの分まで、きっとムスクは私たちを見守ってくれている。一緒に見てくれている。そう思いながら、私は足を進めた。
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