113.秘密の特訓-7
ムスクは私が落ち着くまで、そっと抱きしめてくれていた。こんな風に抱きしめられるのは、初めてだ。ずっと、毛嫌いされて友達なんていなかった。支えてくれる存在がいるって、こんなにも暖かくなるんだ。
「絶対にトラウベを助けてあげよう。私も手伝うからさ。残念ながら、攻撃に使えるようなガーべじゃないから作戦自体には参加できないかもしれないけど。」
「手伝ってくれるだけで嬉しいよ。」
「そう言ってくれるとありがたいな。あと、二人が脱出出来たら、サリュにおいでよ。この前、レザンが寝ていたところは人を入れないところだから、身を潜めるにはもってこいだよ。次のあてを決めるまででもさ。」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな。」
正直、これから先ムスクと離れるってことを考えられていなかった。ずっと一緒にいたいと、思っていた。でも、私たちは囚われの身になってしまう。それにムスクまで加える訳にはいかない。
「正直ね、私、レザンとトラウベと離れたくないんだよね。もちろん、絶対にトラウベを助けたいって思ってる。でも、レザンが力をつけるごとに別れも近づいてきてるんだって最近思うようになってさ。」
なんだ、ムスクも同じことを考えていたんだ。ムスクの少し寂しそうな横顔を見ると胸がキュッとなった。私も家でふとムスクのことを考える。別に別れのことだけじゃない。今何してるんだろうとか、ムスクはどんな生活を送ってるんだろう、なにが好きなんだろう、なにが苦手なんだろう。私の事、どう思ってるんだろう。
「もういっそのこと、二人について行ってしまおうかな。」
「え、でも囚われの身になるんだよ?!安全だなんて言えないよ。」
「そんなのわかってるさ。もうそれは、覚悟の上だよ。そもそも、レザンを手伝ってる時点で片足は突っ込んでるだろ。」
「それもそうだけど、あまりムスクを巻き込みたくないよ。ムスクにはきっといい道があるだろうし、そっちの方が幸せ、、、」
「私にとって、今の幸せはこの時間だよ。レザンと特訓して、トラウベともご飯食べて、笑いあって。二人がいれば幸せなんだ。サリュはもう、他の人に預けようとも思ってたし。」
ムスクが、私たちといて幸せ。それを考えると、顔が熱くなった。それと同時にムスクの顔を見れなくなってしまった。胸が苦しい。なんなんだ、これ。
「大丈夫か、レザン。頭痛い?」
「ううん、大丈夫だよ。」
なにを意識してるんだ。泣いたり、熱くなって顔見れなくなったり、私の情緒が自分でもわからなくなってる。このまま二人きりだとやばい、早く時間進んでくれ。
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