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13番目の魔女  作者: くろえ
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魔女の名前

大魔女は、国の内外に宣言した。

「私の後を継ぐのは、13番目の魔女。今日より7日後、継承の儀式を執り行うのものとする!」

この突然の発言に、お城の広間に集められた娘の魔女達、大臣達はもちろん、国中が騒然となった。

誰よりも驚いたのは13番目の魔女。彼女は今日この時まで、何も知らされていなかった。

「言うまでも無いが、これは決定事項だよ!」

大魔女は居並ぶ娘達、特に2番目の魔女を見据えて命令した。

「では解散。13番目の魔女はお残り。お前はもう守護魔女なんかじゃ無い、正式な私の跡取りだ。城から出てはいけないよ!」

半ば呆然となっていた13番目の魔女が慌てて母に走り寄る。

末娘の必死の目に何かを悟った大魔女は、彼女が口を開く前に優しい口調で話しかけた。

「1番目の魔女があんな事になった時、私がどんなに悲しんだか、覚えているだろう?

かわいい娘や、どうかお前はこの母に、あんな思いはもうさせないでおくれ!」

13番目の魔女は、何も言えなくなってしまった。


大魔女の爆弾宣言があった翌日、朝食を食べる大魔女の元に大臣が血相を変えて飛び込んできた。

「た、大変です!大魔女様!!」

「何事だい、騒々しい!」

「そ、それが・・・13番目の魔女様がお守りになっていた街の者達が、『直談判』に来ております!!」

「・・・は?」

大魔女の手から生クリームがたっぷりのったパンケーキがささったフォークが滑り落ち、ドレスの胸元をべっちょりと汚した。


慌てて着替えて「会見の間」での会見に臨んだ大魔女は、街の者達の「直談判」を聞いて唖然となった。

「とにかく!我々は反対です、宣言を取り消していただきたいっ!!」

怒気も露わにがなり立てるのは、13番目の魔女が守っていた街の「町長」。ピンと両端が跳ね上がった立派な口ひげの初老の男は、顔を真っ赤にして大魔女に詰め寄った。

「13番目の魔女様は街の者達の大事な友人ですぞ!勝手に大魔女なんかにされたらもう会えなくなってしまうではありませんか!

そんな事、魔女様だってお望みでは無いはずだ。即刻、宣言を取り消してください!!」

そうだそうだ!と、町長の後ろで押しかけてきた街の者達が喚いた。

・・・なんでこうなる? 大魔女は口をポカンと開けたまま固まった。

街を守っていた守護魔女が国を治める大魔女になる。それは素晴らしく光栄な事だ。

新しい大魔女に取り立てられ街は大きく発展できるし、優遇される。街の者は狂喜乱舞して歓喜に沸き、国を統べる偉大な大魔女となる自分達の守護魔女を、喜びと感謝と共に送り出す。

・・・本来ならば。

「こ、これこれ!大魔女様にそのような・・・。」

「何が大魔女だ! 一方的にウチの大事な魔女様を跡取りにしやがって!」

慌てて諫める大臣を怒鳴り付けたのは、バラを育てるセシリアの家の向かいに住む、口の悪い爺さんである。

「大魔女だぁ?けっ、アホらしい!」

「あ、アホらしい!? これ、何を言うんだい!」 大魔女は驚いて目を剥いた。

「大魔女なんかになっちゃったらお城に入り浸りだ。もう魔女様に会えなくなるんて、そんなのゴメンだね!!」

「お城に閉じ込められるなんて、魔女様が可哀想!」

「ウチの魔女様がそんなモンになりたいわけない! どーせ、勝手に決めたんだろう!?」

「13番目の魔女様を返して!!」

大工のオヤジが、装飾職人を目指す少女が、家具職人の青年が、酒場に勤める姐さんが、声を張り上げて抗議する。

「えっ?ちょ、あの・・・」

さすがにたじろぐ大魔女に両親に連れられたアネッタと妹も泣き叫んで訴える。

「おばちゃん、ひどい!魔女様に会いたいよぉ!!」

「ひどーい!!」

「お、お、お、おばちゃん!? 」 子供とは言え、おばちゃん呼ばわりされたのは初めてだった。

「まぁまぁ、皆さん相手は大魔女様です。失礼はいけませんよ。落ち着いて話し合いましょう。」

「ギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャン!!!」

靴工房を経営するネット氏がその場を取りなそうとする横で、妻のマーサが連れてきた子犬が大魔女に向かって咆えまくる。彼の愛犬は理性的になろうと勤める主人の本心を勇敢に代弁していた。

「い、犬まで!? いくら何でも無礼だろう!!」

「無礼もへったくれもあるもんか! 娘の気持ちも知らないで!! 」

「大魔女様がどれだけお偉いかは知らないけどね、それが親のする事かい!?」

アマンダの家のおかみさんとその近所の婆さんが喚いた言葉は、さすがに大魔女の逆鱗に触れた。

「お、お黙り! この私が、娘のことをまったく思ってないとでも!?」

「思ってるようには見えないけど? 娘が痩せる努力してるのに目の前でお菓子食べまくってるウチの母親よりタチ悪いわ!!」

しゃしゃり出てきたアマンダはおかみさんに叱り飛ばされた。

「あの、魔女様は私たちの街がお好きなんです!」

オズオズとセシリアが歩み出る。

「どうか、このまま私たちと一緒に居させてあげていただけませんか?」

そうだそうだ!!街の者達は一層声を張り上げて喚き立てた。その騒々しさときたら、耳を覆いたくなるほどだ。


こんな事は初めてだった。

自分達の守護魔女が偉大な大魔女になろうとするのを、街の者達が反対するなんて!!

大魔女は戸惑うと同時に怒りを覚えた。

彼女はその強大な魔力で国を治めてきた女王である。彼女の言う事は国の取り決め事、それに逆らうなど許されない。

しかしここまで反対されると厄介だ。決定を覆す気は無いが、この者達を放っておくと後々問題が起きるかも・・・。

大魔女の口元に笑みが浮かんだ。意地の悪い、嫌らしい笑みが。

「そこまで言うのなら、一つお前達を試してやろう。

7日後の儀式までに13番目の魔女の『名前』を言い当てたならば、あの娘をお前達の街へ帰してやろうじゃないか。」

「・・・な、名前、ですか?」

セシリアが驚いて聞き返した。

「そうさ。『名前』さ。

どうして私たち魔女が『名前』で呼ばれないか知ってるかい? 魔女の名前は『禁忌の呪文』だからだよ。

血の繋がった家族以外の者に『名前』を呼ばれた魔女は、魔力のほとんどを失う。大魔女なんかにはもうなれないさ。

出来るのかい、お前達? もしお前達が名前を言い立ててしまったら、あの娘は魔女ではなく、ただの人間になってしまうんだよ?そんな残酷な事をするなんて・・・。」

「わかりました!大魔女様!!」

「・・・へ?」

弾けるような笑顔になったセシリアに、大魔女の目が点になった。

「皆さん、お聞きなりまして!?」

「おぅよ!早速街へ帰ってみんなにも知らせてやらなきゃな!」

「よかった、魔女様、人になれるのね!!」

「よし、今までの恩返しだ!何としてでも俺達の魔女様の夢を叶えるぞ!!」

「女の子の名前でしょ?たくさんあるわよ、街の人全員で考えないと!」

「それじゃ大魔女様、失礼します!!!」

13番目の魔女が守る街の者達は、走り出す勢いで大魔女の前から去って行った。


「・・・なんなんだい!あの連中はー!!!」

呆気にとられて彼らを見送った大魔女が我に返ってヒステリックに喚くのを、13番目の魔女は「会見の間」の柱の陰からこっそり覗いていた。

胸にわき起こる複雑な思いに苦しくなり、そっと抜けだし与えられたばかりの自室へ帰る。

13番目の魔女は嬉しかった。

街の人達が王都まで来て自分を連れ戻そうとしてくれた。

それに、これは魔女自身も驚きだったのだが、街の人達はわかってくれていた。

魔女でなく、人として生きたい。そう願う、13番目の魔女の小さな夢を。

人になれば魔力を失う。今までみたいに街の人達の為に魔法を使えなくなってしまう。

それでもいいから帰ってきて欲しい。そう思ってくれているのが、涙が出るほど有り難かった。

13番目の魔女は悲しかった。

街の人達は精一杯努力してくれるだろう。

それこそ、街を挙げて頑張って考えてくれるに違いない。

しかし、魔女は知っていた。その努力は報われない事を・・・。

街の人達が言っていたように、大魔女になれば滅多にお城からは出られなくなる。

国を統べ守るために自分の全てを捧げて生きる。それが大魔女の義務であり、使命だった。

そうなると、もう街の人達とは会えない。

あの子にも、もう二度と会えなくなってしまう・・・。

13番目の魔女は、静かに泣いた。

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