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13番目の魔女  作者: くろえ
1/7

アネッタとお人形

7話で完結です。よろしくお願いします!

国を治める大魔女の娘は13人。

どの娘も優秀な魔女で、1人に1つ町や村を担当させて守護するように命じている。

「この国の行く末のために、そろそろ跡継ぎを決めて教育しないとねぇ。そうだろ?大臣や。」

大魔女はお城の大広間、玉座に座って傍らに控えるお気に入りの大臣に告げた。

「今度は、慎重にやらないとねぇ。またあんな事が起こったらたまったものじゃないわ!」

眉を潜める大魔女に、大臣はただ黙って頭を下げるだけだった。


------------------------------------------


大魔女のいるお城から遠く放れた小さな街。

すっかり日が暮れ人気の無くなった広場のベンチに、アネッタは半べそかきながら腰を下ろしていた。

口をへの字に曲げた彼女はまだ8才。こんな時分に外を出歩いていい歳ではない。

(いやよ!あたしもう帰らないから!)

ペコペコのお腹が帰宅を促すが、アネッタは頑なに頭を振った。

(お母さんなんか嫌いだもん! 妹も大っ嫌い!!もうお家に帰ってやらないんだから!!

・・・あぁ、あたしって、ハッコウでヒゲキテキ・・・。)

威勢良く心の中で叫んでみても、暗い広場にポツンと1人で座っていると寂しさと一緒に怖さがこみ上げてくる。

それでも帰りたくなかった。アネッタは堪えきれずにこぼれてくる涙を手の甲で拭った。


シャラン・・・・。


耳に心地よい綺麗な音がした。

アネッタがパッと笑顔になる。彼女は勢いよく顔を上げ、元気にベンチから立ち上がる。

「こんばんは! 13番目の魔女様!!」

ぴょこん、とお辞儀をしたその相手は、銀のローブをはためかせて宙を漂う、顔をすっぽりとフードで隠した小柄な「魔女」。

この街を守護する、大魔女の13番目の娘である。


「あたしね、家出してきたの!」

魔女は何も聞いていない。それでもアネッタは、「薄倖で悲劇的な」自分の今の状況を説明し始める。

「お母さんが約束を破ったの!許せないわ!!

あたしお姉ちゃんだから、いろんな事我慢しなきゃならないのはわかってるの。先に生まれた子はいろいろ譲ってあげなきゃいけないのよ。

でも、あのお人形はあたしにくれるって言ったのに!! 今日学校から帰ったら、妹がそのお人形で遊んでいたの!ひどいと思わない!?

あのお姫様のお人形だけは、どうしても欲しかったのに!!!」

わっと泣き出したアネッタを見つめ、魔女は少し困惑した。

アネッタが言う、「お姫様のお人形」は知っている。古びているが柔らかい金の巻毛で桃色のドレスを着た可愛い人形だ。

アネッタの妹のことも知っている。彼女とは5つも年が離れていて、身体が弱い。だから、母親もつい甘やかしてしまうのだろう。

アネッタの事もよく知っている。今は癇癪を起こしているが、我慢強いとてもよい子だ。妹に手が掛かりっぱなしの母親に我が儘を言った事は一度も無い。

本当に「欲しい」と思った人形を妹に取られ、今まで押さえ込んでいた感情が爆発してしまったようだ。


シャラーーーーン・・・

13番目の魔女は細い腕を大きく振る。その腕にはめられた、色とりどりの魔石を連ねた腕飾りが鳴った。

驚いたアネッタが顔を上げる。目の前の景色が大きく変っていた。


どこかの病院の一室のようだ。

優しそうな婦人がベットの上で身を起こして、赤ちゃんを抱いている。

お母さん? アネッタは驚いた。でも髪型が違うわ。お母さんの髪は短いもの。

「よかったわ。無事に生まれてきてくれて・・・。」

長い髪を三つ編みにしてたアネッタの母親は、涙ぐみながら赤ちゃんを眺めている。

その傍らで、今よりもスレンダーなアネッタの父親が愛おしそうに母子を見つめていた。

「医者に子供か、母親かって言われた時には俺が生きた心地しなかったよ。2人ともよく頑張ってくれたね。ありがとう・・・。」

「きっとお母さんのお人形が守ってくれたのね。この子は私のように弱い子じゃないといいんだけど。」

「大丈夫だよ。君だって病気がちだったのは子供の時だけで、大人になって随分健康になったじゃないか。」

「それもお母さんのお人形のお陰かもね。」

アネッタの母親は微笑み、枕元に座る人形を見た。

「死んだお母さんが、私の為に大魔女様にお願いして守護の術を掛けて頂いたお人形。

この子はお人形に頼らずに育ってくれるといいんだけど・・・。」

「頑張って守っていこう、俺達2人で。」

母親は微笑んだ。夫に、そして、愛する娘に。

「私の可愛いアネッタ。元気に、幸せに育ってね・・・。」

彼女の腕の中の赤ちゃんは額に優しいキスを受け、健やかに欠伸した。


シャラーーーーン・・・

再び魔女の腕飾りの音がした。

場面が、変った。


医者は様子を見よう、と言って、大量の薬を残して帰っていった。

微熱でむずがりやっと寝付いた子供の寝顔に、母親はホッと一息つく。

そして子供が眠るベットの端に座り、部屋の壁一面に張られている絵を眺めた。

学校に通うアネッタが持って帰る、画用紙に描かれたたくさんの絵。色彩豊かだが何が描いてあるのかイマイチわからないその絵を前に、楽しそうに説明してくれるアネッタの笑顔が目に浮かぶ。

あの子が元気でいてくれるから、頑張れる。

あの子が元気を与えてくれる。あの子の笑顔に支えてもらっている。

母親は微笑んだ。疲れた、それでも穏やかな笑みだった。

「早く元気になって、お姉ちゃんと遊ぼうね・・・。」汗ばむ子供の額を優しく撫でた。

撫でている内に、ふと気が付き母親は子供のベットから放れた。

部屋を出て持ってきたのは、あの人形。

母親は、眠る子供にそっと人形を抱かせてやった。

苦しそうだった寝息が少しだけ和らぎ、子供はほんのり微笑んだ。


「あのお人形・・・お母さんがお祖母ちゃんからもらったお守りだったのね・・・。」

アネッタは小さくつぶやいた。

だったら、仕方ないのかも知れない。自分は有り余る程元気だけど、妹は身体が弱い。ずっと前に天使になったお祖母ちゃんもきっと妹の事を心配しているだろう。

「そうね、お人形は妹にあげる。わたし、お姉ちゃんだもん!」

魔女を見上げるアネッタはもうすっかり泣き止んでいた。

「アネッタ!アネッタ!」

誰かが読んでる声がする。

「お父さんだ!お父さーん!!」

アネッタの笑顔が輝いた。元気に声がする方へと駆けていく。

広場の出口で振り向き、ぴょこん、と魔女に頭を下げた。

「ありがとう!13番目の魔女様!!」


シャラン・・・・。

魔女の腕飾りが鳴った。

今度の魔法は、守りの魔法。

アネッタとその父親が、無事に母親と妹が待つお家へ帰れるように。

父親の腕の中に飛び込んだアネッタが振り向いた時には、もう魔女の姿はなかった。

シャラン・・・・。

さよなら。おやすみなさい。

魔女の挨拶が聞こえた気がした。

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