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多くの街の中心地にはギルドがある。だいたいどこも同じような外観で、探索士として登録していればどの街でも依頼を受けられるし、様々な情報が集まってくる。
1年ごとに会費なんてものはかからないけれど、依頼の達成報酬や素材の買い取りから数%を引かれ、それが税金のようになっているらしい。
だから基本的にはギルドを通しての活動が推奨されている。周辺国がお金を出し合って運営していることもあって、査定も信頼できるし買い取り額の変動も少ない。
個人で商会のところに売りつけにいく探索士もいるにはいるけれど、そういうのはだいたい独自で取引のルートをもっていたりする人ばかりだし、どうせいきなり売りに行っても門前払いされるか、ぼったくられるだけだ。
「竜の鱗だけか?」
いつ来ても買取カウンターにいる髭面のおっさんがぶっきらぼうに話しかけてくる。身長が小さいことを気にしてか、他のギルド職員よりもかなり背の高いイスに座ってこちらを見下ろしている。
「いつものポイントに他に誰もいなかったから、もう少し期待したんだけど。鉄どころか魔獣の痕跡もなかったよ。先週砂嵐が起きていたらしいからそれが原因かもね」
駆け出しの探索士は主に薬草集めばかりだ。すり傷に効く薬草、錬金術の材料、罠に使う毒草や料理に使うスパイスなど多種多様。それらをしっかりと区別し安全に効率よく収穫できるようにならなければいけない。
そして技術を磨きパーティを組んで魔獣を狩りに行く。それぞれの得意分野を生かし連携しながらトドメを刺し、解体し持ち帰る。魔獣は肉も骨も毛皮も、そして魔石も、捨てるところはほとんどないのでいい収入になる。
そういった経験を経て、知識技術ともに認められるとようやく1人前の探索士だ。あるものは馴染みのパーティで魔獣専門に。あるものは長期で遠征し、秘境から金属を探し出す。
私は金属を探しながら魔獣を狩るスタイルでやっている。
幼いころに教えこまれたせいで、魔獣の性質や天候を読みながら毒や罠を使うスタイルが身についてしまっているから、ほとんど1人でしか活動していない。パーティを組んだこともあったけれど、どうも性に合ってない。それもこれもきっとアイツのせい。
金属は比較的どれも高価だ。この国でも鉱山はここ百年見つかっていないらしい。だからすでに使われている金属を再利用するか、どこかから見つけてくるしかない。
過去の滅びた街から集めてきたり、魔獣に殺されたであろう死体から装備を剥ぎ取ったり、ときには砂漠の下から昔何かに使われていたようなものが出てきたりもする。
鉄は加工もしやすいので、頻繁に装備品に使われるし、竜車や建物の部品にも使う。
なかには明らかに軽くて丈夫な鉄が見つかるらしいけれど、一度でいいからそれを使った防具を使ってみたいと思う。魔獣の骨と同じくらいの軽さで、鉄の大盾を何枚も重ねたほどの頑丈さなんて信じられない…。
鉄よりも柔らかくなかなか防具には使えないような金属もいくつもあるけれど、最近はその中でも美しく金色に輝くものが貴族たちに人気らしい。そんな見た目だけで、特に使えないものを屋敷に飾ったところで自慢にでもなるのだろうか。
歴史家たちの中では、大昔の街には鉄や銅などの金属があふれていたという説が有力と言われている。そんなに金属があったら探索士は仕事にならないんじゃないかな。
今でこそ一攫千金を狙って、貴重な金属の収集をメインで行う探索士が大勢いるが、その人たちが全員魔獣を狩るようになると生活できなくなる人もたくさん出てきてしまうだろう。なにより魔獣が絶滅しちゃうかも。
人を襲ったり作物を荒らしたりもするけれど、そういった魔獣によって土や森が豊かになっていることはみんな分かっているはず。
大地の多くが砂漠化し、水や植物をはじめとする資源が貴重なんだから。もっと魔獣と共存していくようなやり方も考えるべきだと思うなあ。なによりかわいい魔獣もけっこういるんだしね。
嫌いだと思いながらもアイツの背中を追いかけるような考え方をしてしまう自分がいやになる。
名前まで付けて愛おしそうに魔獣を撫でながら、私にエラそうになんでも指摘してくる顔を思い出してしまった。
3日間のソロでの遠征にしては悪くない報酬を受け取り、いつもの宿に向かう。
仕事が終わった日くらいは、酒でも飲んで、はやく毛布にくるまって寝よう。