晩餐会
勇者達の底無し胃袋に合わせたのか、晩餐会のメニューは意外と大味だった。王宮料理ということで、ホテルのビュッフェみたいなのを期待していたのに予想外だ。肉の固まりやジャガイモの山を崩してはつまむ。
私の隣では、聖女フィアナが小さな口で、大きなお肉を懸命に頬張っている。
クリスはというと、私達から少し離れた場所でひとり、肉を掻き込んでいた。聖女に警戒されている為、私達から着かず離れず見守る事にしたらしい。ただ、有名人なので、ひっきりなしに話しかけられては談笑する姿が見られる。彼は放っておいても、それなりに楽しくやっていることだろう。
さて、フィアナと何を話そうか。先程から続く微妙な沈黙が気まずい。何しろ私、コミュ症だもんね。うーん、脳をフル回転させて話題を探す。そういえば、任命式中に見た二人組の会話を思い出した。
「あ、あの。フィアナはどうやって勇者に任命されたの?」
フィアナは食べかけていた口を閉じ、照れたように私を見る。
「ある朝、目を覚ましたら枕元に勇者の証の石があったんです」
丁寧にペンダントにした石を胸元から取り出して見せてくれた。そして、大切そうにぎゅっと握る。
「これを発見してから、私、とっても嬉しくて嬉しくて……」
「へえ、どうして?」
神殿にいた方が安全だし、勇者なんて正直メリットが思い浮かばない。
フィアナは、思い出すように宙を仰ぎ見て、口を開く。
「私、平民の出なんです。珍しい治癒魔法が使えたので、5歳の頃、神殿に召し上げられました。それからずっと、小さな神殿の世界しか知りませんでした」
言葉を切ってフィアナは俯く。銀髪が縁取るその横顔は哀しげだ。
「私は恵まれている方だと思います。神殿で、聖女の称号を得てからは、高位貴族や騎士様の治療をする毎日でした。でも、これが一生続くのかと思うと……小さい頃、治癒魔法に喜んでくれた家族や、近所の人達の顔が思い出されて辛かったんです。ですから、勇者の証を見たときは、やっと神殿から出られる、と思って喜んでしまいました。私、愚かですよね」
そう言って、自嘲気味に微笑むフィアナ。私はぶんぶんと首をふる。
「誰だってその場から逃げ出したくなることがあるよ、私も……多分そうだし」
そうだ。この世界に来てから、意外と楽しんでいる自分がいる。余命100日らしいし、魔王を倒さなきゃいけないのに、仕事からの解放感の方が勝っているのが不思議だ。まだ実感が無いだけだろうか。
「ありがとうございます。すみません、このような場でつまらないお話をしてしまって。でも、聞いていただけたおかげでスッキリしました」
晴れやかな笑みを見せるフィアナからは、綺麗なだけでなく、運命に立ち向かう強さも感じられる。よおし、私はフィアナちゃんを全力で応援しちゃうぞ。そして魔王をさくっと倒してもらうんだ。私の決意も改まった。
食べて飲んでしゃべっている内に、晩餐会はお開きになった。最後に演説した大臣によると、勇者達は皆、城に宿泊することが出来るらしい。とりあえず宿無しにならなくて済んでホッとする。ざわざわと解散ムードになる中、今までずっと離れた場所にいたクリスが私達の方へ歩み寄ってきた。
「明日の朝、城の噴水前に集合だ。そこで目的地について話し合おう。明日からよろしく頼む」
相変わらずサッと頭を下げ、礼儀正しいクリス。フィアナは少しだけ慣れたのかぎこちない笑みを浮かべていた。
今日は聖女の隣のポジション取ってしまってごめんよクリス。私も明日から二人のキューピッド役、頑張るからね。よろしくと軽く頭を下げる。
去り際に、クリスは私にそっと耳打ちしてきた。
「この後、広間裏の廊下へ来い。話がある」
ひええ、呼び出し食らっちゃった。イケメンからのお誘いだけど、悪い予感しかしない。私はふああい、と口の中で籠った返事をした。