聖女と勇者に挟まれて
イケメン勇者クリスと、美しい聖女フィアナは嫌でも目立つ存在だ。周囲の人々も、私たちを取り巻く不穏な空気に気づき始め、興味深そうに眺めだす。
傍目から見たら、聖女様を巡って争っている二人に見えるかもしれない。いや、みなさん。誤解だからね。
勇者クリスは、困ったように私と、その背後で縮こまっている聖女を見比べていたが、ため息を吐いて口を開く。
「無理にとは言わない。魔王を倒す為なんだ、どうか考えてほしい。……君は、俺たちの邪魔しないでくれ」
そう言って、クリスは私を睨むように見据えた。ひええ、まるで私が悪者みたいじゃない。でも邪魔者なのは確かだ。ただの通りすがりのモブだし。
私は振り返って聖女フィアナに助けを求める。彼女は私の背にすがり付いていたが、小動物のように顔をのぞかせて言う。
「この、テラ・ダアヤカ様が一緒なら、クリス様に着いていっても構いません」
うおおい、うっかり巻き込まれちゃってるよ私。ついでに名前がすっかり奇妙なイントネーションになっちゃってるし。それにしてもこの子、なんで私になついてるの?
ふと周囲を見渡して、すぐにその理由に気がついた。広間の人々は歴戦を勝ち抜いただろう、むさ苦しい男達ばかり。少数派ながら女戦士もいるが、筋骨隆々で聖女とは毛色が違いすぎる。
同年代の背格好が似ている少女が、単に私一人だっただけか。
……まあ、美少女になつかれるなんて悪い気がしない。
勇者クリスは眉間にシワを寄せて、悩んでいる様子だった。が、観念したように言う。
「分かったよ。テラ・ダアヤカか、どうぞよろしく」
彼はスッと丁寧なお辞儀をする。この世界も腰を折ってお辞儀するのか。不思議と親しみがわく青年だ。
周囲の人々が私の返答に注目している。緊張するから見ないでええ。私はぎこちなく笑みを浮かべ、言葉を選んだ。
「よ、よろしくお願いしま……」
しまった。承諾してしまった。これから、この主人公級の二人に挟まれるとか、邪魔者の極みだ。それともキューピッドとして二人をくっつけるのが、モブの私の使命?
いや、これは逆にチャンスだ。イケメン勇者と美少女聖女なら、主人公補正か何かで、必ずや魔王を倒してくれるだろう。私はこの二人に付いていくだけで、あら不思議。魔王を倒す目的を果たすことが出来るのだ。そして、余命も伸びて万事解決。めでたしめでたし。その為なら、私は二人を全力でサポートしようではないか。
「ありがとうございます。テラ・ダアヤカ様」
聖女フィアナが私の手を握り、はにかみながら言った。間近に迫る麗しの美少女、眩しい。勇者クリスの方は、少し不満気な様子だが、私の大義のためだ。許して欲しい。それにちゃんと二人をくっつけてあげるから安心してくれ。
いつの間にか加護の授与式は終了していた。今度は城の大臣と思われる姿のおじさんが立ち、勇者達に呼びかける。
「これより、勇者の活躍を祈り、労いの晩餐会を行う。勇者たちよ、馳走を味わい存分に精をつけたまえ」
ウオオオオーー!と前よりも一層大きな歓声が上がる。奥の巨大なカーテンが開くと、ご飯が山のように積まれた大きなテーブルがいくつも並んでいる。
晩餐会か、うんと食べて頑張ってこいよ、ということね。ともあれ、美味しいご飯が食べられるのはありがたい。なんたって私、深夜の残業明けだもんね。お腹が急に空腹を訴えだした。
「テラ・ダアヤカ様、参りましょう」
聖女がニッコリ笑顔で誘ってくれた。癒しスマイルだね。
「ええと名前、アヤカ、と呼んでくれたら嬉しいな」
私は勇気を出して伝える。いつか重要な局面中、変にツボに入り笑い出してしまいそうで、耐えられない。今のうちに正しておかなければ。
「では、アヤカ様、私のことはフィアナとお呼びください」
「俺は、クリス・レオン。クリスでもレオンでもいい」
お、聖女フィアナにほぼガン無視されている勇者クリスが、無理矢理入ってきた。ガッツあるな。その勇気尊敬する。おっと、聖女が露骨に目を伏せた。微妙な沈黙が気まずい。私は空気を壊さないよう慌てて口を開く。
「よ、よろしく、フィアナ、クリス。頑張って魔王を倒そうね」
フィアナはハイと可愛らしく返事をし、クリスは一瞬眉を寄せたが取り繕うかのように笑顔を向けた。
ここに、全く噛み合わない三人パーティーが誕生した。