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聖女フィアナ

 群衆を掻き分けながら、私は前へ向かう。と言っても、でかいマッチョの群れを、雑魚のような私がすり抜けるのは一筋縄ではいかない。スミマセン、スミマセン、と連呼しながら懸命に進む。

「もう一度読み上げる、テラダアヤカ、前へ」

 しびれを切らした神官が見渡しながら言う。ヤメテェェ注目あびちゃうから。ほら、みんな、ざわざわしながらテラダアヤカ探しちゃってるから。

 ようやく群衆を抜けた私は、ヨロヨロと神官の前へ進む。

「あいつが勇者……?近所の娘っ子が迷子になったかのようだな」

「ははっ、何かの間違いじゃないか」

 人々の呟きが、私の心にダイレクトアタック。うう、怖くて人様の方へ顔を向けられない。

「いや、ああ見えて魔法が使えるのかもしれんぞ」

「なかなか可愛い娘だな」

 お、いいこと言ってくれてる人もいる。そうだ。私は前よりも若いしカワイイし、こう見えてウッカリ魔王になってしまうような器なのだ。魔王を倒すために、女神から魔法の一つや二つ、授かっているかもしれない。ウェルカム、新しい勇者の私!


 神官の目の前へ、大きな一歩を踏み出す。

 そこは段差だった。

 一瞬の出来事だった。私は床にダイブした。おでこが無情にゴーンという音を立て、目の前には火花が散っていた。

 終わった……新しい勇者の私、一瞬で終わった。

 痛さと恥ずかしさで呻いていると、

「大丈夫ですか、お手をどうぞ」

 鈴を転がしたかのような可愛らしい声で、優しい言葉がかかった。


 ゆっくり顔を上げると、目の前には銀髪の美少女がいた。空を写し取ったかのような青い瞳、珊瑚のような唇。雪のように白く繊細な手。銀の聖女フィアナ。

 おお、なんて美少女。目の保養だ。私は痛さも忘れてボケっと彼女を見つめる。

 細く柔らかい手で、私の手を取った聖女は、ぶつぶつと何かを呟き出した。よく分からないけど、呪文ってやつかな。おでこ辺りがフワリと青く光ったかと思うと、痛みがすっかり消えていた。

「回復魔法だ」

「直に見たのは始めてだ」

 周囲はざわざわと興奮気味な様子だ。聖女フィアナの手を借りて、私は立ち上がった。彼女はニッコリ優しい笑顔を見せる。

「無事に治って良かったです。災難でしたね。あと、勇者の証の石、落とされましたよ」

 おおお、なんていい子なんだ。アラサーお姉さんはキュンとなってしまうじゃないか。彼女のしなやかな手から、転んだ拍子に落としただろう勇者の証を受けとる。

「あ、ありがとうございます。お、おかげさまで大丈夫です」

 モジモジとお礼を伝える。横で、ゴホンと急かすように神官が咳をした。そうだ。儀式があるんだった。


 急いで神官の前へひざまずくと、神官はお経のような一節を唱える。手に握っている勇者の証である石がじんわりと熱を帯びてきた。あったかい。カイロ代わりに使えそう。

 石の暖かさを堪能していると、神官が目配せしてくる。終わったから早くあっちへ行けと言ってるらしい。


 立ち上がった私は、今度は段差に気を付けながら慎重に歩く。その先には、聖女フィアナがダークブラウンの髪の青年と話している光景があった。二人とも美男美女で眩しい。お似合いだし微笑ましい様子だ。確かあの青年は御前試合優勝者のクリス・レオン。さしずめ、主人公と聖女が出会った所か。

 えーと、邪魔しちゃ悪いかな。もう一度聖女にお礼を言いたかったけどしょうがない。諦めて横をすり抜けようとすると、ちょうど二人の会話が耳に入ってきた。


「お願いだ。俺と組んでくれ。聖女様の癒しの力と俺の魔力で、きっと魔王が倒せるはずなんだ」

 おや、クリス・レオンは顔に似合わずオレ様タイプのようだ。

 対して聖女様は口ごもって困っている。先程までの凛としたお姿が嘘のようだ。それにしても眉を下げた困り顔もかわいい。

 思わず二人を眺めていると、聖女様が私に気がつき、ハッとしたようにこちらを見る。しまった。覗き見なんて趣味が悪いよね。邪魔者はすぐに退散するからねっ。

 慌てて通り抜けようと、足を踏み出すと、聖女様がサッと私の後ろに隠れてきた。えっなに?子犬みたいでかわいいけど、どうしたの?聖女が私の背中でコソッと囁く。

「すみません。私、神殿暮らしで、殿方に慣れていなくて……。どうか助けていただけませんでしょうか」

 澄んだ空色の瞳を潤ませる聖女。えええ、意外とウブな一面がある娘なのね。お姉さんがどーんと助けちゃうよ。

 顔を上げると、怪訝な表情の勇者クリスがいた。顔立ちは整っているが、黒い瞳にはどことなく親近感を感じさせる。困り顔のイケメンも悪くない。

 それにしても私、今、とっても邪魔者だよね。ヒーローと聖女に挟まれるって、一体どういう状況なの。私は作り笑顔で固まった。

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