勇者と聖女
広間内は、屈強な男達や女戦士達がひしめき合っていた。皆、ゲームに出てくるような豪華で個性的な甲冑やアイテムを身につけ、実に勇者らしい出で立ちだ。
対して、簡素な服装の私は雑魚中のモブって感じで、逆にひどくこの場から浮いているような気がする。
急に「オォォォーッ!」と、周囲が雄叫びを上げて、私はびくっと飛び上がった。前で演説をしていた王様が「行け、勇者たちよ、魔王を倒すのだ」と呼びかけたのに反応したらしい。
ガチャガチャとゴツい武器を床に叩きつけて己を鼓舞する勇者達。ちょっと、そんなに叩いたらツルツルピカピカな床が壊れそうだから。私、このテンションついていけないよ。ああ、静かなお家が恋しい。
歓声が静まると今度は、白い衣装の神官らしいおじさんが進み出て喋り出した。
「続いて、勇者の任命式を行う。名を呼ばれた者は速やかに前へ進み、神官から加護を授かるように」
名前、呼ばれるんだ。卒業式以来だこんなシチュエーション。ちょっと緊張する。私の名前も、女神パワーで勝手に伝わっているのかな。へえ、と勝手に感心する。
次々と名前が呼ばれる中、目の前のごつい筋肉質な男二人組がこそこそとおしゃべりを始めた。
「それで結局、勇者の証はどうやって授かったんだ?」
銀の甲冑に髭を蓄えた男が、隣の紫色のマントの男に尋ねる。
「それがぁ、目が覚めたら手に握っててぇ。もうびっくりよぉ。彼からのプレゼントかと勘違いしたじゃないのよぉ」
この厳つい紫のマントの人、お姉系だったんだ。人は見かけによらない。思わず二人の会話に、耳を傾けてしまう私。
「俺は裸で素振りをしていたら、勇者の証の石が空から降ってきてな。この俺に勇者になれとは、時の女神エリス様は気まぐれだな」
二人はガハハと笑った。どうやら、女神エリスは勇者の証である石を、屈強な人々にばらまいているらしい。女神は私を呼び寄せるだけでなく、大勢の勇者達を集めて魔王を倒そうとしてるってこと?この強そうな勇者達全員でフルボッコにすれば、いくら魔王でもひとたまりもないんじゃない?楽勝のような気がするけど、魔王って未来の私のようだし、複雑な気分だ。
広間の奥では、呼ばれた人達が次々と神官の前に膝まづき、儀式らしきものを受けていた。すると、ある名前が呼ばれた途端、オォーと歓声が上がる。
「クリス・レオンだ。この前の御前試合で優勝した田舎者だ」
「あんまり強そうじゃないわよねぇ。でも、最上級の風の魔法が使えるって話よぉ」
目の前のおしゃべり二人組が解説してくれた。私も興味をひかれて広間の奥へ目をやる。
遠目でダークブラウンの髪の青年が見えた。周囲のマッチョ達と比べて随分と小柄だ。でも、サッと膝を折りながら青いマントを閃かせる仕草には、イケメン主人公オーラがある。クリス・レオンこそ魔王を倒せそうだ。
思わぬ盛り上がりに、名前を読み上げている神官は戸惑っている様子だったが、咳払いをしながら次の名前を告げる。
「フィアナ・ロミナリス、前へ」
次の名前を聞くと、広間はワアッとさらに盛り上がった。
「聖女フィアナよ。勇者に任命されたって噂本当だったのね」
「銀の聖女か。光魔法の回復力は神レベルだと聞く。麗しのお姿が見られるとはラッキーだな」
二人組によるお決まりの解説が入る。
フワリと銀の髪をなびかせながら、白いローブの少女が前へ歩み出る。ローブの間からチラリと見える白い肌で、遠目でもスタイル抜群だということが分かる。これはぜひ、美人なご尊顔を拝みたい。そう思っていると、彼女が観衆の方へニコリとかわいい笑顔を向けた。ワアアッと広間は盛り上がる。
かわいい聖女がいれば魔王退治も安心だね!て、倒されるの私かあ。私は自ずと遠い目になる。
興奮冷めやらぬ広間で、次の名前が呼ばれた。
「テラダアヤカ、前へ」
私はピシリと固まる。うわ、かわいい聖女の後とか、タイミングが悪すぎる。あんまり目立ちたくないんですけど。
途端にざわざわとトーンダウンしていく広間。
「テラダアヤカ……おかしな名前ね。どこの田舎者かしら」
「アヤカとは、魔王の真の名だったような……不吉な名だな」
ああああ、前の二人組の解説も、いつになく酷い。
私は逃げ出したい気持ちを抑えつつ、しぶしぶ前へ向かった。
読んでくださってる方、ありがとうございます。読者少ないのをいいことに時々改稿してます。スミマセン。