表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いは知らない  作者: もとび
魔法使いを知らない
3/41

魔法ってすごいんだ。

中途半端なところで切ってしまいます。申し訳ございません

現在廊下で果てしなく繰り広げられている二名の会話(プラス爪咬み一名)を横目に通り過ぎて、私はそれとなく散らかり放題のリビングにお邪魔してみることにする。いや、勝手すぎて常識なしとか言われかねないけど、これ以上あの空間にいるのも耐えられなかったわけで。まあ、察してほしい。

 そして私は紗絵のごとく「仕方ないなあ」と心の中で呟きながら片づけに取り掛かる。うん、四人のうち三人は修羅場、一人は掃除。効率の良い、って感じだ。我ながら気遣いのできる自分が恐ろしい……。

 落ちている紙の多くは、やたらと古ぼけているように見えた。ぼろぼろだ。

「……………………」

 その場にしゃがんで、一枚拾い、内容を読んでみる。

「………………………」

 灰宮さんは、厨二病だった、のか? 拗らせてしまっているのか? という、紙の内容を読んだ感想。だがそこに、ごく最近の出来事が記憶として蘇ってくる。

――緑枝台には、魔法使いがいるらしい。

 ……灰宮さんが、そうだというのだろうか? 私はあまりにも突拍子すぎて、ついつい首を傾げてしまう。しかし、その可能性は、大いにあるのだ。

 だってここは緑枝台だし、あの変死体によって緑枝台に魔法使いがいることは証明されているし――この紙には、円の中に六芒星やアルファベットのような文字群が並べられたものが書いてあって。きっとそれは、厨二的な何かじゃなくて、本当に、魔法に関わる、何かなのだろうから。

 私の直感(センス)がそう言っている。……とまあ今のでわかる通り、私の方は普通にまあまあ拗らせちゃってる人ではあるのだけれど。

「あちゃー、見られちゃったかあ」

 背後から突然、声がした。騒動は収まっていたということか。いつの間に。紙を手に持ったまま振り向くと、灰宮さんが腰に手を当てて、笑みを浮かべていた。

「…………」

「そう。私が、最近噂の魔法使いだよ」よかったー、取り敢えず秘密を知られたから殺されるとかは、なさそう。

 と、いうことは、だ。

 第一公園における性暴行と殺人は、この人による仕業ということだろうか? そんな私の心情を察してか、紗絵もリビングに入ってきて、

「いや、違うと思う」と言った。

「なんでさ」

「この女がレズであるという説は大いに現実であってほしいものではあるけれども、あの現場はやっぱり、男によってなされたものだと考えるべきだと思うな」

「だから、なんでさ」っていうか、『この女』って。

「女性の陰部からは、白濁液が……初めて見るけど、多分そう」

「……うえ」

 臭かったよー、と平然とした顔でそう言う紗絵に、私はドン引きしていた。見ると、令代も少々身じろいでいる。好感度が真っ逆さま。

 しかし、なるほど。それなら犯人はほとんど男で確定だよな……こんなに令代にべたべたしてる時点で、レズビアンだと疑ってしまうのもなんだかなあ、って感じだし。

「………………」

 いや、待てよ? 頭に浮かんだ!

「それなら、令代巧くんが犯人なんじゃない?」

「え、ええ!?」

 何が何なのかわからぬまま犯人に仕立て上げられてしまった、という様子を装っている令代。いや、令代が犯人だというのなら私はなにも驚かない。

「いや、なんでなんで、なんでさ!」

 早速異議を唱える紗絵。仕方がない、私が完璧な推理を披露してやろう……。

「令代は男だし、どうやら魔法使いらしい灰宮さんを師匠と呼ぶ、いわば弟子だから。弟子ならたぶん魔法も使えるでしょ。以上、証明終了。Q・E・D」

「がっばがばじゃん!」

「推理にも穴はあるんだよね……」

「認めたふりして下ネタぶち込まないでよ! っていうか、そのキャラ何なの!?」

 はー、はー、と疲れたように肩で息をする紗絵。体育のマラソンではほとんど息を切らさない女を息切れさせる(ササイ)(マコト)クオリティ。

「――何の話をしているのかはわからないけど、うちの巧は、その犯人とやらじゃ絶対にないと思うよ」

 灰宮置いてけぼ璃さんは突然そんな意見を主張した。「私の令代くんだよ!」という紗絵の叫びを華麗にスルーして、私は彼女にこんな疑問を投げかける。

「はあ――親しい人を庇いたいのはわかりますけど、もう確定ですよ、これは。私の完璧な推理もありますし……お宅の令代巧くんは、魔法を使って女性を拘束、殺したうえに、それを犯したんですよ、ええそうに決まってます」

 灰宮さんは、「巧、そんな事件の犯人として疑われてたんだ……」とあきれた様子で呟くと、

「まあ、否定せざるを得ないよね――推理どうこう以前の問題だからね、これって」と肩をすくめた。

「? どういうことですか?」

「だって、令代巧に魔法は使えないんだからね。――いくら修行して研鑚を積んだところで……この世で、魔法を使えるのは、私だけなんだから」



 4



 取り敢えず。期せずして、私たちの当初の目的は達成されたのであった。「せっかく魔法使いが見つかったってのに、それがあの女だったなんて、胸糞悪いよ!」と紗絵は私に主張したけれども、お前は一体あの灰宮さんと以前何があったのかと訊ねたくなったし、私的にはこれは紗絵にとって一石二鳥であるとしか思えないのだった。だって、令代の家に来ることができたし、それと同時に魔法使いも見つかったし。そんなわけでもう用もないことだし私としてはおなかも空いたのでもう帰りたい気持ちで胸がいっぱいだったのだが、灰宮さんの「なんか食べてく?」という魅力的な誘いには抗うことができず、どうやら私の身体はまるで遠慮するということを知らなかったようで、食卓に着いたのだった。紗絵は依然として灰宮さんに反抗できれば良いといった感じで、「どうせ、あんたの作る飯なんかまずいんでしょ、帰る!」と、灰宮さんがどの程度の腕前の魔法使いかは知らないが一歩間違えれば殺されかねないんじゃないかと思うほどの過激な発言をして外に出て行こうとするも、灰宮さんの「いや、作るのは巧」という鶴の一声によって、すぐさま紗絵は立ち止って、回れ右してリビングに戻ってきて、食卓に着いたのだった。っていうか、令代好きすぎでしょ。最早、気持ち悪いの域に達する――……私なんて、むしろ食べたくなくなっちゃったんですけど。

 令代は慣れた手つきで、オムライス三皿をすぐさま完成させ、スプーンと一緒に食卓に並べたのだった。うわ、不覚ながらも、おいしそう。

「っていうか、まさか令代くんちに魔法つ……魔女がいたなんてね。正直、驚きだよ」

 紗絵は、落ち着き払ったようにそう言ってから、オムライスを一口、自分の口に運んだ。よく咀嚼して、飲み込む。……なんか、幸せそうだ。めでたいことである。

 私も試しに一口食べてみると、本当においしかった。不覚だ。

 ところで、何で『魔法使い』って言おうとしたのをわざわざ言い直したんだろうね。『魔女』の方が、確かに印象悪い感じあるかもだけど。逆に『魔法少女』だったら、かーわいー! ってなるんだろうけど、灰宮さん、そんな歳じゃないからなあ……少女というにはでかいし。どこのこととは言わないけど。

「うわさが広まっちゃった原因は師匠自身にあってですね」

 令代が言うにはどうやら、偶にする魔法使いっぽい格好のまま外に出たところを近所の子供に目撃されてしまったらしい……。なんて、間抜けな理由なんだろう。子供は見た感じそのままに『魔法使い』がいる、と喋りまわり、それがうわさとして広まったのだろう。ただ、見た目と真実は見事に合致していたらしいが。

 ここまで魔法使い魔法使いと言ってきたけれども実は明確な証拠を見ていないことに、ふと気づく。

「魔法、見せてくださいよ」

 そう言った私に、

「いいよー」

 と、灰宮さんは手軽く応じてくれた。そして、立ち上がってテーブルの前にある棚から杖らしきものを取り出してきて、また食卓に着くと、「浮け!」と言って杖を自分のオムライスの皿に振りかざす。すると、皿はカタカタと音を立てて、回転し出した。おお、回転し出した! 浮いてないけど! すごい、これは魔法だ、逆に魔法じゃなかったら、一体何なのだというのだろう。

「……浮かないじゃん」と言ったのは、紗絵。にこにこしている。……すっごい、いい顔。

 そんな紗絵に構わず皿の回転を素手で止めて、今度は「回れ!」と命じた。すると今度は、じわじわと皿は浮き出す。

「……全然、言った通りになんないじゃん」そう呟いたのも、もちろん紗絵。うん、灰宮さんがうまくいかないことが面白いんだね。

 しかし、本当、すごいなあ。これが、魔法、か。正直、零信十疑くらいのもんだったけど、これは疑いの余地もない。魔法だ。私は今、おとぎ話の世界を目の当たりにしているのだ。そう私が感動していると、

「すごいですね、これはどういうトリックなんですか?」

 と、紗絵が話しかけた。あんた、さっき「私は魔法を信じたい」みたいなこと言ってたじゃん、と突っ込みたい。お前はサタンか、とも。悪魔じゃない方ね。

「トリックじゃないんだよねー、これが」

 灰宮さんは悪戯っぽく笑ったかと思うと、今度は、紗絵に杖を向けた。そしてその手首を返すと、紗絵は浮き上がった。足の裏は既に、床から一メートルは離れている。

「え!? え!?」と慌てふためき、じたばたと手足を動かす紗絵に、

「別にさっきのも失敗ってわけじゃなくって、命令しなくても私のやりたいことを行えるってことなんだよー、って示したかっただけなんだよねー。そうだね、少年漫画風に言ったら詠唱破棄、みたいな?」

 魔法というものをまるで知らない私にはその詠唱破棄というのがすごいものなのか、そもそも詠唱というのが必要なものなのか、そして、ただ魔法を見せろと言った私にわざわざそんな自慢をしてくれたわけは何なのかが、まるで分らなかった。

 ふんふふん、と鼻歌交じりに杖を振り回す灰宮さん。すると今度は、ただ浮いていただけの紗絵がぐるぐると回転しだした! 

「だったら、最初っからこうして何も言わずにやってりゃよかったのに!」

 分かりづらいんだよ! と捨て台詞のように叫ぶと、紗絵の回転数はさらに上昇していくのだった。

 うわー、目が回りそう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ