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憂鬱な歌姫と不謹慎な賞金首

やっとルウナを見つけたクルト。

同行を試みるクルトだが、ルウナは冷たくてつれない態度。

クルトはルウナの仲間になれるのか?

二人の時間が回り始める。

「いやー、悪いねー?」


「・・・・」


目の前にいる男はその言葉とは裏腹に少しも悪びれたようすは無く、その向かい側に座るルウナは対照的に眉間に皺を寄せて片目を引きつらせていた。


「はい!お待ちどうさま」


「うおー、うまそー!いっただきまーす!」


ここはタンズリン一の食堂で、ルウナとクルトはその特等席で豪華なもてなしをうけていた。


次々に運ばれてくる豪勢な料理。


勿論、ほとんどがこの街自慢の魚料理。


ササメダイの香草焼きにキャットシャークの目玉スープ、海鮮クラゲ春巻きと骨なしマイロの唐辛子ソース。アッサリ貝のパエリアと海藻サラダ・・・などなど、その他いろいろ。


「おばちゃん!マイ・タイのトマトジュース入り、ジョッキで頂戴!」


「あいよ!」


「・・・私は、ソーダ茶で」


すごい勢いで山積みになっていく空になった皿。


ジョッキで貰ったはずのお酒もすでに3杯目のおかわり。


「おばちゃん!これもう一つ追加!」


「はいよ!」


「・・・・、それ食べたらこの店から出てってもらえます?」


「そんな冷たい事言わないでよー」


「これだけタダメシ奢ってもらったら十分だと思いますけど、1ギルドの賞金首のクルトさん?」


「きっついなー、あーでもさんづけじゃなくていいよ。呼び捨てで、俺も名前で呼ぶし?で、君の名前は何ていうの?」


「ノーコメントで」


「そんなー、つれない。仲良くしようぜ?」


「・・・・・」


失敗したとルウナは心の中で思っていた。


食事を奢ってやればあっさり離れてくれるものと思っていたが、どうやらこの男、他に目的があるらしい。日が暮れる前に街の外へ出て水脈の確認をしたいのに。こいつに構っていたら夜になってしまいそうだ。


「まぁ、そんな難しい顔しない。せっかくの美人が台無しだよ?お嬢さん」


「・・・・目的は、何?」


「そんなに警戒しなさんな、君と仲良くなりたいだけなんだから。・・・それとも警戒しなきゃいけない秘密でもあるのかな?」


しばらくの間にらみ合いは続いた。沈黙を破ったのはルウナの方。


「私、回りくどいのは嫌いなの。・・・目的は、何?」


「んー・・・・、君はいろんな意味でお金になりそうだなーと思って?」


「!」


ルウナの表情が強張る。


「・・・サーカスにでも売り飛ばそうっての?」


クルトの目つきが変わる。


「いや。・・・・君にはもっと別の才能があると思ってね?」


「・・・・」


憶測の域を出てはいないようだがこいつはどうやらルウナの正体に気づいている。


・・・・ここで騒ぎを起こすわけにはいかない。


「その才能とやらを、あなたは何に使おうと思っているわけ?」


「何だと思う?」


満面の笑みのクルト。・・・完全に舐められているようだ。


「・・・下らない」


そう言うとルウナは店を出て行く。


「ちょっと待ってよー!」


その後を追ってクルトも店を出る。


噴水のある大広場まで来るとルウナは立ち止った。


「・・・いつまでついて来るつもりですか?」


「え?・・・ずっと。君が俺のものになってくれるまで」


こめかみを押さえながらルウナは、噴水の真ん前でクルトに向き直った。


「ん?どうかした?」


「・・・・」


無言でルウナは錫杖を振りかざすと、クルトをど突いて噴水の中に突き落とした。


「のわー!!」


見事に噴水の中に落ちてずぶ濡れになるクルト。


「いきなり何すんだよ?!」


「・・・我は始まりの水を統べる者なり・・・」


呪文を唱えるルウナ。


「?!何だ??」


まるで水が生き物のように絡み付いてクルトを離そうとしない。噴水の中でもがき続けるクルト。


「水も滴るいい男ってね。バイバイ?」


「おい!ちょっと待てよ?!」


クルトの叫びも虚しく、ルウナはそんなクルトに構うことなく雑踏の中に消えていった。




翌日、ルウナは朝方に宿へ戻ってきた。


結局、昨日は安定した水脈を見つけることは出来なかった。


「あー、あの馬鹿男のせいで時間ロスしたー。」


ふて腐れながら砂だらけの服を脱いでシャワーを浴�びる。


生活用水や飲み水のほとんどは機械で作りだした合成容水だ。


この水では植物は育たないし、大地が潤うことも無い。


大昔は緑生い茂る豊かな星だったそうだが、巨大隕石の落下や天変地異で何千年も砂漠の星になってしまったのだ。


この星の緑化は人々の悲願のはずなのに、どうしてああも馬鹿な人間がいるのか、ルウナにはまったく理解が出来なかった。


「少し寝ますか・・・」


そう呟いてベットに横になったルウナ。


頭の中で考える。昼にはまたあの広場で歌わなければならない。どう考えてもクルトに見つかってしまう。それを思うと頭痛がしてくる。何かいい方法はないものか?何度も寝返りを打ちながらルウナは夢の中に落ちていった・・・。




結局、いい案は一つも浮かばないままルウナは広場に来てしまった。


「おぉ、姉さん。待ってたよ」


「早いとこ始めてよ」


ギャラリーはもう揃い始めている。


あの馬鹿男のせいで食事代がかさんでしまって、お金を稼がないといけない程度に無くなってしまった。


(仕方ない・・・)


噴水の真ん前に立つルウナ。


「さぁさ、みなさんお立会い!昨日見た人も見逃した人も寄っといで、寄っといで?大陸一の歌い手が今日もその美声を披露するよー!!」


「待ってましたー!!」


「聞くに値すると思われた方はどうかこの私めにお恵みを!それではさっそく、・・・・・・・・・・イッツ ア ショー タイム!・・・レディ ゴー!!」




 悲しみの始まりは喜びの始まり


 新しい靴を履いて出かけよう


 朝露に濡れた街は目覚めの時を待っている


 予感がする 予感がする


 約束の無い今日でも祝福は訪れると


 心無い鳥のさえずりが聞こえてくるけど


太陽がほほ笑みかけてくれるから気にしない


 明るい未来を夢見よう


 僕は君に出会うために生まれてきたんだ


 そよ風のしっぽを追いかけて


 感情のタガを外そう


 ばら撒かれた未来の予感はきっと幸せを連れてくる


 太陽に喝采を 太陽に喝采を


 明けない夜も止まない雨も絶対無い


 悲しみは喜びの始まり


 太陽のほほ笑みを浴びて


さぁ 歩き出そう


僕は君に会うために生まれてきたんだ




その後、3回もアンコールをやってショーは幕を閉じた。


昨日を上回る盛況ぶりだったが、どういうわけかクルトは姿を現さなかった。


大量のチップの入った箱を片付けてルウナは宿に戻る。


「夜には戻ってこれるかな?」


そう言いながらルウナは宿を出て、街を後にする。




「我は始まりの水を統べる者なり・・・」


ルウナが呪文を唱えると砂の上にか細い道のようなスジが現れた。


「・・・・・」


その上に手を置いて水の流れを感じ取るルウナ。


「・・・あっちだ」


その中の一つを選んで道を辿っていくルウナ。


焼けつくような日差し。


遠くの方を巨大なサンドワームが進んでいくのが見える。


陽炎が立ち上る砂丘の上を砂に足を取られながらも、着実に歩を進めていく。


「・・・!」


不意に強い風が吹き砂嵐がやってくる。


それでも道筋は消えることは無く、ルウナは強風にあおられながらもその先を辿っていった。


「?ここは・・・」


酷い砂嵐のせいで周りを視認することが出来ない。


仕方なくルウナは魔法を使うことにした。


「竜巻を消すには竜巻をぶつけるのが一番てね。・・・ホワイト・サイクロン!!」


ルウナの周りに白い風が集まりだして巨大な白い竜巻が発生する。


あっという間に相殺される砂嵐。


強い日差しに照らされて、目の前に現れたのは何かの遺跡跡だった。


「何の遺跡跡だろう・・・?」


「本当、何の遺跡跡だろうね?」


「!!」


誰もいないはずの後ろから声がしてルウナは慌てて振り返った。


「みーつけた」


そこには笑みを浮かべたクルトが立っていた。


「・・・・」


「いやー、大変だったよ。随分、厳しいとこばっかり歩いて行くんだもん。尾行も楽じゃないね?」


何時から後をつけられていたのか、ルウナはまるで気づいていなかった。


「随分、すごい魔法が使えるみたいだけど、やっぱり素人だね?盗賊には向かないよ。・・・俺、昔ちょっとだけやってた時期があるから気配を消すのは得意なんだよね」


「・・・1ギルドでも賞金首というのは伊達ではないということですか?」


満足げに笑うクルト。


「んで?こんなところで何を?」


「あなたに教える必要が?」


「あるね?・・・俺はとっても君に興味があるから。だから都市伝説みたいな噂を信じてこんなに遠くまで君を追いかけて来たんだ。リノの村からずっとね」


「・・・・?」


「何だ?」


ルウナが口を開きかけた時、二人の周りをすごい殺気が包んだ。


「グルルル・・・」


「キマイラだ・・・」


「・・・どうやらここは獣界の縄張りみたいですね」


周りを取り囲むモンスターは全部で6匹。


「話の通じる相手ではどうやら無いようです」


敵意をむき出しに近寄ってくるキマイラ・・・。


「話が通じるモンスターなんているのかよ?!」


クルトが情けない声を上げる。


「・・・場合によっては。・・・・・・来ますよ!!」


「ガーー!!」


「ちぃっ」


クルトは飛びかかってきたキマイラをかわしながらシルバーガンを取りだす。


「ガウン!ガウン!」


闇雲に撃つがキマイラには当たらない。


「ガンマンにはどうやら向いていないようですね?」


「嫌味言ってる余裕があるのかよ?!」


「・・・・」


ルウナの目つきが変わる。


ルウナは十字架のような錫杖の短い方を掴むと一気に引き抜いた。


すると中から両刃の長剣が姿を現した。


「仕込み刃か?」


「仕掛けはこれだけじゃありません」


そう言うとルウナは長剣の柄を鞘の部分に嵌めた。


「・・・大そうな槍だな」


「まぁ、それだけでも無いですけど。・・・やぁー!!」


巨大な槍を手にルウナはキマイラの中に突っ込んでいく。


「ギャウン!!」


その内の一匹が真っ二つに切り裂かれる。


「てい!!」


ルウナが槍を力一杯振り回すと長剣が外れてまるでブーメランのように飛んでいく。


「ウガー!!」


二匹が巻き込まれて倒れる。


「グルルルル・・・」


「後、3匹・・・」


「強えぇ・・・」


「伊達に女一人で旅をしていませんよ?」


放心状態のクルトと槍を構えたままのルウナ。


ルウナの強さに後ずさりして距離を置くキマイラ。


「?!」


「ガーーーーー!!」


3匹のキマイラがいっせいに炎を吐く。


「シールド!!」


円状の薄い膜が二人を包む。


「我は始まりの水を統べる者なり・・・アクア・ブレス!!」


ルウナが呪文を叫ぶと燃え盛る水がキマイラ達を包む。・・・だが。


「グガーー!!」


「そいつらに水属性のものは効かねえぞ!!」


クルトが叫ぶ。


「あっそ。・・・でもね、私が操れるのは水だけじゃないのよ?」


「?!」


「我は目覚めの炎を操りし者・・・ボルケーノ!!」


「!!!!」


激しく炎上する豪火に焼かれて灰になるキマイラ。


「・・・終わったかな?」


「・・・・」


唖然とするクルト。


これほどの事態を想定していなかったクルト。このままでは大金をせしめるどころかついて行くことすら出来ないかもしれない。


そんなことを考えていた時だった。


「グウウ・・・」


倒し損ねていた1匹のキマイラがルウナの背後に最後の一撃を食らわそうと襲いかかる。


「!」


考えるよりも先に体が動いていた。


「あっ!!」


ルウナが後ろを振り返った時には時遅く、クルトの胸はキマイラの鋭い爪によって切り裂かれていた。


「ホワイト・サイクロン!!」


「キャン!!」


白い竜巻に吹っ飛ばされてキマイラが息絶えた。


「なんで!!」


クルトに駆け寄るルウナ。


「・・・よかった・・怪我・無いみたいだな。・・女の子に傷があっちゃ大変・・・ごほっ」


「喋らないで!!・・・すごい出血・・・早く手当てを」


そう言ってルウナはキマイラの死体から離れたところにクルトを引きずって運んだ。




「心臓には届いてないみたい・・・。傷口を塞がなきゃ。・・・・リカバー!!」


強い魔力を送って傷口を塞ぐ。


見る見るうちに傷口が塞がって大きな傷跡だけが残る。


「・・・・」


顔面蒼白のクルト・・・。


体温がどんどん下がっていく。


「血が足りない・・・、このままじゃ・・・・」


ここは砂漠のど真ん中、輸血の道具や救急セットなどありはしない。


「うぅ・・・」


「・・・・・仕方ない」


そう呟いたルウナは、自分の親指に歯を立ててかみ傷を作った。


「ガリッ」


そこから大量の血気を吸い取る。


・・・そして。




クルトは生死の境目で夢を見ていた。


断片的な映像、ルウナの悲痛な顔、熱い傷口、強烈な光。


・・・甘い匂いに、柔らかい唇。


体中に広がる暖かい感触。


(・・・歌が、聞こえる。・・・・綺麗な声が・・・。)




 私の声が届かない場所など在りはしない


 点と点は繋がり線と線は重なる


 命の水を燃やして?


 泳ぐ心をつかまえて?


 私はあなただけのものになるの


 しみ出した悲しみは光る水面に落ちる


 絡み付く悪意


 はげ落ちるほほ笑み


 善と悪の岸辺に薄緑色のさざ波が打ち寄せる


 母の声を思い出して?


 母なる声を思い出して?


 この血や肉も命の螺旋から生まれて


 そして静寂のままに還っていくの


 私の声を聞いて?


 全てを思い出す頃に星が誕生するから


 私はあなただけのものになる


 あなたは私だけのものになる


 怖がらないで?


 始まりと終わりはいつだって同じ場所にあるから・・・




(綺麗な歌・・・だ。)


クルトの頬を涙が伝った。


(あの声に・・・触れてみたい・・・・。)


そこでクルトの意識は優しい闇の中に落ちていった。




「・・・ん」


「気がついた?」


「あれ・・・・」


クルトは周りを見回す。


自分たちは砂漠の真ん中にいたはずなのにここは緑生い茂る大きなオアシス。


それどころか胸にざっくり出来た傷口すら無くなっていた。


「どうして?・・・いっ・・」


「まだ動いたらダメだよ」


そう言ってルウナはクルトを寝かせる。


「何か欲しいものとかある?」


「・・・・」


巡々した後でクルトは答えた。


「トマト」


「は?」


「一度でいいから生の天然ものを食ってみたい・・・」


「・・・・」


それを聞いたルウナは少し考え込んでから、荷物の中を漁り始めた。


「・・・あった。あなたは運が良いわね?滅多にこんなのの種は持ち歩いてないんだよ?」


「?」


不思議そうな顔をするクルトの前にルウナは一粒の種を指さして見せた。


それを土の中に埋めるルウナ。そして・・・。


「我は始まりの水を統べる者なり・・・」


そうルウナが唱えると薄緑色の光が走り、目の前に小さなトマトの苗木が現れた。


それを幾つか取って水で洗うルウナ、あんぐりと口を開けるクルト。


「はい、どうぞ?」


「い、今の何?」


「あなたのものにしたい私の才能。いらないなら私が全部、食べちゃうけど?」


その言葉に慌ててクルトはトマトを受け取り、そしてそれに齧り付いた。


「・・・うまい」


「それはよかった」


夢中になって食べるクルト。


「・・・全部、食べても?」


「いいよ?」


10個以上実がついていた苗木の実はきれいになくなっていた。


その間、ルウナはクルトの横でずっと鼻歌を歌っていた。


しばらくそれに聞き入っていたクルトだが不意に口を開いた。


「・・・・君の目的は、何なの?」


「何が?」


「君が旅をしている目的・・・」


「・・・・」


考え込むルウナ、クルトのアイスブルーの瞳がじっと見つめる。


「・・・だって、これだけの才能があってあんなに歌がうまかったら旅なんかしなくてもいい暮らしが送れるじゃない?」


「これだけの才能があるなら、か。・・・・だからもっと大事なことに気づいたんだよ」


「大事なこと?」


クルトはさっぱり解らないという顔を浮かべる。


ルウナはクルトに向き直ると、その瞳をまっすぐに見つめて言った。


「・・・この星の緑化」


「!」


クルトは思わず目を見開いた。


この星の緑化、確かに彼女はそう言った。


そんなこといっぺんだって考えたことは無い、きっと一生考えることなんて無い。そもそも普通の人間には無理な話だ。


でも・・・。


目の前の少女を見る。


この才能があればそれも可能かも知れない。


それを悟った時、クルトはルウナの途轍もなく大きな宿命を見た気がした。


たった一人で途方もないことを成し遂げようとする少女。


何の見返りも必要とせずに・・・、それに比べて自分は?


(・・・何をしているんだ、俺は)


心の中で苦笑いをした。


こんな子を大金をせしめるために利用しようとした。しかもその上、命の恩人なのに。


『・・・・・下らない・・・・・』


不意にあの時のルウナの声がよみがえる。


そんなことを思っている内に空が白んできた。


地平線に浮かぶ太陽。


「・・・それじゃ、私は行くよ?」


「え?・・・ちょっと待ってよ。ケガ人一人置いて行っちゃうっていうの?まだ動けないのに?またモンスターが襲ってくるかもしれない砂漠のど真ん中に?」


「・・・本当に情けない人だね、それでもあなた男?」


「だって・・・」


「はぁ・・・、安静にしてれば1日で動けるようになります。ここなら2、3日いても死にはしません。ここの周りには魔物除けの結界を張ったから安全です。後、何かありますか?私はやることがいっぱいあって忙しいんです」


それはまるで母親が言うことを聞かない子供に言い聞かせるような様だった。


「だって、俺。・・・・君と一緒にいたい」


「はい?こんな目に遭ってもまだお金儲けを考えているんですか?いいかげんにしないと竜巻起こしてこの世の果てまでふっ飛ばしますよ」


「違うって!何ていうか・・・ほら!命の恩人だし」


「その命の恩人の足を引っ張るような弱い人とは旅をしたくありません」


「強くなる!俺、強くなるから!君のこと守れるくらい、だから連れてって・・・」


必死に言い下がるクルト。


「・・・何でそんなに?」


「分かんないよ!じゃあなんで俺のこと助けてくれたのさ?」


ほとんどやけになるクルト。離れたくないのも、それが解らないのも本当だった。


「・・・・」


まっすぐに見つめる漆黒の瞳。


クルトの手は無意識にその頬に触れていた。


「!」


すぐ近くで漆黒の瞳とアイスブルーの瞳がかち合う。


反射的に平手打ちをしようとするルウナ。


「・・・」


しかし、それは実行されることはなく、振り上げた手はクルトに制止されていた。


その手にはすごい力が篭っていた・・・。


「何がしたいんですか?」


「君と一緒に行きたい」


このまま離してくれそうにない・・・。


このまま離す気は無い・・・・。


見つめあったままの奇妙な二人。


根負けしたのはルウナの方。


「・・・ルウナです」


「え?」


「私の名前」


「あ!じゃぁっ」


「仕方ないから連れて行きます、でもじゃまになったらいつでも置いていきます」


「やったー!!」


そしてやっと解放されたルウナ。


「その前に・・・」


「ん?何?」


大喜びで小躍りしているクルトをルウナは手元で呼んだ。


そして、両手をクルトの顔に伸ばして・・・。


「いてててて!!!」


思いっきり頬を左右に引っ張った。


「今度、同じことをしたら絶交です!!」


さっきのお返しにと実行されたささやかでも痛い復讐はしばらく続いた・・・。



「んで、どうやって次の街まで移動するわけ?」


赤くなった頬をさすりながらクルトはたずねた、ルウナは地図とコンパスを見ている。


「次はライーデという街です。」


「お!カジノで有名な?」


「・・・・」


テンションの上がったクルトを冷ややかな目で見るルウナ。


「・・・ごめんなさい」


「カジノ代なんか出しませんからね」


「はい・・・」


がっくりと肩を落としているクルトを尻目に、ルウナは呪文を唱え始める。


「我は始まりの水を統べる者なり・・・」


見る見る水蒸気が上がりサイクロプスが現れる。


「・・・あれは、何?」


「私の移動手段です」


「はい?」


「サイクロプス!私達をあの方角に連れていって!」


降りてくる水蒸気、巻き上げられる二人。


「うわーー!!」


「・・・・」


突然の出来事に悲鳴を上げるクルト。


対照的にルウナはいつものことなので微動だにしない。


あっという間に二人ともサイクロプスの体の中に収まっていた。


「何なんだよ!!これ!!」


絶叫しながらサイクロプスの中で溺れるクルト。


完全に混乱状態だ。


そんなクルトの手を引いて、頭の方に移動するルウナ。


「大丈夫だから暴れないで下さい。いつまでも情けないことやってると、サイクロプスの外に突き落としますよ?」


「・・・・」


ルウナのきつい一言に何とか口を噤むクルト。


「流れに身を任せれば、自然と体は安定します」


「・・・これが移動手段?これは一体何?」


「サイクロプスといって水蒸気で出来た水龍族の一種です」


「生き物なの?」


「はい、元は水の精霊だったんですが私が手を加えて遠い距離を移動する時に力を貸して貰ってます」


「・・・単なる歌い手じゃ無いよね?」


「もともとはシャーマンだったんです」


「なるほど。それで後どれくらいこの状態でいなきゃいけないの?」


「2、3時間でしょうか?・・・もしかして高い所が苦手とか?」


「ご名答」


「まぁ、がんばってください」


「・・・・」


ルウナが心無いセリフと満面の笑みを浮かべるなか、クルトは顔を真っ青にしながら早く街に着くことを祈った・・・。




ライーデの街に着いた頃にはクルトはすっかりやつれていた。


ルウナは何事も無かったようにぴんぴんしていて、クルトは重い足取りでその後ろをついて歩いていた。


一軒の宿屋に入る二人。


「すいませーん」


「はいよ」


奥から店主が出てくる。


「部屋にシャワーかお風呂付いてますか?」


「ああ。家は広くてゆったりできる風呂場が自慢なんだ。なんなら別料金で大浴場にも入れるぜ?」


「じゃあ、二部屋お願いします」


「あいよ」


そうしてルームキーを渡されるルウナ。


ニ階に上がる。


どうやら隣同士の部屋らしい。


「はい、あなたの部屋のカギ」


「・・・・」


それを見て露骨に嫌そうな顔をするクルト。


「?」


「・・・何で部屋、一緒じゃないの?」


「・・・・」


今度はルウナが黙る番だった。


突っ込み所満載なのを何とか押しとどめて、こめかみを押さえながら取りあえずルウナは問う。


「・・・あえて問いますが、一緒の部屋にする必要性が?」


「・・・・・無いですよね。ごめんなさーい」


ルウナの殺気めいたオーラに押されてクルトは謝罪の言葉と共に部屋へ引っ込む。


「・・・まったく」


それを見ながら嘆息するルウナ。


日当たりの良い部屋に当たったらしく、部屋に入ると何となく陽だまりの匂いが漂っていた。荷物を置き、窓辺に腰掛けるルウナ。部屋に備え付けの時計は10時を回っていた。


「・・・・」


服を着替えて、マントをはおったルウナは部屋を出てクルトの部屋のドアをノックする。


「コン、コン」


「あい?」


「傷の具合は大丈夫?今から食事に行くけど、あなたは?」


「あー!行く、行く。置いてかないでー!」


慌てて部屋から飛び出してくるクルト。


「?そんなに慌てなくても。」


「だって・・・」


「行きますよ」


歩き出すルウナ。


それに続くクルト。


「体はもう平気ですか?」


「まだ少しフラフラするけど、一杯食って寝れば問題無いっしょ」


「そうですか・・・」


「どうかした?」


「いえ、傷跡までは消せなかったので少し・・・。」


「いいって、いいって。傷は男の勲章ってね」


「・・・・」


「それより、どの店に入るの?」


そこは飲食店が立ち並ぶ路地だった。


「パスタが食べたいので、あそこのカフェなんてどうでしょう?」


「ん、いいよ?」


テラスの付いたオープンカフェに入る二人。


眺めの良い、日陰の席に着くとメニューを決める。


「ご注文はお決まりですか?」


「私は、ドラゴントマトのミネストローネとトクトク鳥のカルボナーラ。後、カプカ茶の生クリームのせ。アイスでお願いします。」


「俺はー・・・、デザートウルフのミートパイと砂大トカゲ肉のドミノ風バーガーを3つ。デザートアイのブラウンシチューにカオカオ種の特製クッキー、ドラゴントマトの種のロースト、Lサイズ。後、ドライトマトのソーダ割り。」


「はい、かしこまりました」


店員がオーダーを持って厨房へと引っ込む。


「あれで足りるんですか?」


「遠慮したんだけど・・・、やっぱりピザとドーナッツもたのんで良い?」


「どーぞ、貧血で倒れられても困るので」


「すいませーん!追加注文いいすかー」


「はーい」


嬉しそうに追加注文をするクルトをルウナは黙って見つめていた。


今日中に安定した水脈を発見するのは多分、無理だろう。病み上がりのクルトを連れていたら尚更。・・・だとすれば今日の所は一人で探索に行き、明日にでもゆっくり見つければ良い。


問題はこの男。


絶対について来ると言い張るだろう。


でも病み上がりの体に無理はさせたくないし、・・・それにはっきり言って完全な足手まといだった。戻ってくると約束をしても信用しないだろう、あまり守りたい約束でも無いが・・・。


はてさて一体どうしたものか・・・?


「ねぇ、このミートパイおいしいよ、一口食べる?」


何も知らないクルトは嬉しそうに食事を堪能している。


残りのミネストローネをスプーンで掬いながらルウナは、これしか無いかなとため息をついた。




「んで、これからどうするの?」


「広場に歌をうたいに行きます」


「おっ、歌姫参上。じゃあさ、呼び込みは俺にまかせてくれる?」


「・・・・」


「大丈夫、大丈夫。こういうことだけは足引っ張らないから」


率先してクルトが歩き出す、対照的にルウナは重い足取りでその後へと続いた。




「そこの御目麗しいお嬢さん方、仕事に精を出すお兄さん方。はい!ご注目、大陸一の称号を得た歌い手の歌を今ここで聞きたくはないでしょうか?!」


「まぁ、賞金首のクルトじゃない?あれ」


「大陸一のヘタレが何をおっぱじめようっていうんだ?!」


「まぁまぁ、俺の評判はさておき。ここにいるお嬢さんはどんなに名立たる歌い手よりも歌のうまい歌い手だ!嘘だと思うんなら百聞は一見に如かず、気に入らなかったら御代はいらない・・・・。が、しかし聞くに値すると思われた方はチップの方はずんで下さいな?それでは、イッツ ア ショータイム・・・・歌姫参上だ!!」


(やれやれ・・・)


クルトの張り切りっぷりに嘆息しながらもルウナは目を閉じて息を吸い込んだ。




 終わりの無い恋があったとしても


 始まりの無い愛は決して無い


 回りながら崩壊する一輪のバラ


 恋に咲いたら 舞う蝶は愛


 あなたに触れることが出来たなら


 あなたに触れることが出来たなら


 だけど、きっと起こる奇跡は一度で良い


 くちびるが夢見るのは真っ赤なバラで


 この指先が求めるのは蒼穹なあなたの心


 ホルマリン漬けにされた私の心は


 あなたの誘惑から逃げられない


 例え 泡と消える娘を夢見ても


 愛の烙印を押された者は


一度見た夢を捨てることは許されない


 早急な心と蒼穹な心


 走り続ける私の心


 逃げているの? 追いかけているの?


 何から? 何を?


 焼け付く心はあなたを求めて


 一度見た夢からは逃げられない


 あなたに触れることが出来たなら


 誘惑の糸の先にはあなた


 だからそう、起こる奇跡は一度で良い




初めはクルトの呼び込みというのもあってか、訝しげにしていた人々もルウナの歌が始まると誰もが聞き入っていた。


まばらだった観客も増えていき、歌が終わる頃には喝采の嵐。


「アンコール!!」


「アンコール!!」


群衆の中に紛れてクルトがチップを集めて走り回っていた。


「相変わらず良い声だな!もっと歌えよ!」


その言葉にルウナは少しだけはにかんだ表情を返した。


「それではお言葉に甘えて、ワン モア タイム!!」




結局、アンコールはその後5回まで続いた・・・。




「明日もやっておくれよー?」


「またねー!」


散りじりになっていく人ごみに声をかけられる。


「ドサッ!!」


そこへチップの箱を抱えたクルトが戻ってくる。


「いやー、大漁、大漁。」


「こんなに集めちゃって・・・、銀行に預けに行かなきゃダメじゃない。」


「へー、口座も持ってるんだ。すごいね?」


「銀行に行ってくるから、ここで待ってて?」


「えー、俺も行くよ」


「・・・・」


やっぱりそうきたか・・・。


「ちゃんと戻ってきますから。・・・それに用足しはそれだけじゃないので、大人しく待ってて下さい。」


「・・・本当に戻ってくる?」


「約束は守ります」


「・・・わかった」


ふて腐れているクルトを置いてルウナは銀行に向かう。




「全部で25万4585ギルドになります」


広場で貰ったチップを銀行で集計する。


「10万ギルドをカードにロードして下さい、後、5万ギルド分の宝石と金貨を。残りはこの口座に振り込んで下さい。」


「かしこまりました」


物々交換が主流の地域もあるので、ギルド・・・つまりお金の他に宝石や金を軸にこの世界の経済は回っている。


なので、大半の銀行は宝石商とセットだ。


「手続き完了致しました。こちらが5万ギルド分の宝石と金貨になります。」


「ありがとう」


足早に銀行を後にするルウナ。


次に向かうは、希少価値の高い苗木を扱っている花屋だ。


「いらっしゃいませ」


「すみません、種の販売はしてますか?」


「種、ですか・・・?少々お待ち下さい」


訝しげな顔をして、奥へ引っ込む店員。


それはそうだ。


この星の上で種から植物を育てられる環境を持っている人間なんてたかが知れている。金持ちと商人、そして定められた植物を守る部族と特殊な能力者。


だから殆どの人間には植物の種なんて無用の長物でしかない。


「失礼しました。・・・種をお求めでいらっしゃいますか?」


「はい、出来るだけ育つと食べられる種のものがいいんですが。」


「・・・失礼ですが、ご予算の方は?当店に置いてあるものは珍しいものばかりでして」


(ふっかける気だ・・・)


いつものことだが、足元を見て来た。


身なりが身なりなので仕方がないが、金や権力の無い者には商人は容赦無い。


でも、こういうヤツの方がやり易い。


目的が何だか分かっているから、かえって手玉に取り易い。


「実はそんなに持ってなくて・・・。見せていただくだけでも出来ませんか?一つくらいなら買えるかも知れないし。」


「では、こちらへ・・・」


店主は渋々といった感じでルウナを案内した。


今は出来るだけ下手下手に。


形勢逆転はいつでも出来る・・・。


「こちらになります」


「・・・・」


ルウナは種の入った瓶が並べられた部屋をゆっくり見て回った。


野菜や果物、薬草や食べられる草花・・・。


「・・・あれは?」


部屋の奥に大事に飾られている・・・、というよりは祀られていると言った方がいい様な石があった。


「お嬢さんの様な方には縁が無いから知らないと思うが、あれは人魚の睫毛というとても珍しい石でね。とても強い魔力が宿ってるんだ。滝や湖の跡地から極稀に採掘されるものでね、あれ一つあれば1年木を枯らすことが無いぐらいの水の力を秘めているんだ」


「へー・・・、因みにおいくら?」


「はっはっは、お嬢さんでは話にもならない額さ。この店ごと買い取ってもお釣りが山ほど来る値段さ」


「ふーん・・・、じゃあこの棚にあるのを全部頂戴」


「おいおい、その棚だけでも20種以上あるのに。金はあるのかい?お嬢ちゃん」


「これと交換なら文句は無いはずだわ」


そう言うとルウナはバックの中から人魚の睫毛を取りだした。


「そっそれは!!」


実はこの石、ルウナが森やオアシスを作る度に幾つか出来る産物なのだ。


燃える水を使った後の残りカスみたいな物。


それだけ強く、そして多くの魔力を使っている証拠。


「この店以上の価値があるのでしょう?」


「ほ、本物だという証拠は無い!!」


「本物だよ」


ルウナは静かに言うと、石を枯れた苗木や草花に近付けていった。


「!!」


すると寸前まで茶色く萎びていた植物が青々と茂り、輝き始めた。


脂汗を滲ませている店主を尻目に、ルウナは一言。


「嫌なら他に行くけど?」




「ありがとうございましたー」


「よし・・・」


大漁に種を仕入れて満足のルウナ。


クルトのためにトマト類の種を多めに買っておいた。


そして重い足取りで広場へと戻る。


「・・・やっぱり、これしか無いかなー?」


そう呟いて別口座で作ったカードを取りだしたのだった・・・。




「あ、遅かったじゃない。戻って来ないんじゃないかって心配したよー」


広場に戻るとクルトが首を長くして待っていた。


「今度は何するの?」


「・・・。これから水脈を探しに外へ出ます」


「お、じゃあ俺も・・・」


「あなたはここにいて下さい」


「えー!嫌だよ、絶対。置いてく気でしょ?」


「病み上がりのその体では危険すぎます」


「がんばるから?」


「・・・・」


仕方なくルウナはカードを差し出した。


「ん、何これ?」


「カジノに行く許可証みたいなものです。10万ギルド入ってますから、夜には戻ります。足りなかったら自力で増やして下さい。言っておきますが、あそこはイカサマ御法度ですからね」


「こんなに使っていいの?ヤッター!!ルウナのために倍以上にしておくよ。楽しみにしてて?じゃあ行ってきまーす!!」


足取り軽く、投げキッスして去っていくクルト。


「はぁー・・・、疲れる」


重いため息を吐いて街を後にしたルウナだった・・・。



街の外に出たルウナは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


「・・・」


見渡す限り岩石混じりの砂漠、砂丘がオンパレードの世界。


これでは歩いて移動するのはかなり難しそうだ。


少し考えたルウナは懐を漁って、細い石で出来た青い笛を取りだした。


唇に当てて息を吹き込むが音はしない。


「・・・・・」


しばらくすると足元の砂が見る見る盛り上がり、砂の中から3mほどのサンドワームが姿を現した。ヤツメウナギの様に黒光りしたグロテスクな姿。


ここで言っておくとルウナは虫が大大大嫌いだ。


引きつるのを堪えながら幾つかの種を取り出す。


「我は始まりの水を統べる者なり・・・」


砂の中に埋めたそれは芽を出し、小さな苗木になりそして小振りの木になった。そのえだには赤い実と青い実が付いており、赤い実からは酸の様な刺激臭が、青い実からはむせ返る様な甘い匂いがしていた。


スパイシーコンビ、別名「罪の果実」。


何の因果かこの果実にまつわる作り話が後を絶たないこの星、そして何故かこの実がサンドワームの大好物だった。6歳の頃に師匠の書庫でこの生き物を知ったルウナ、2晩ほど食事が喉を通らなかった事を未だに覚えている。


罪の果実を枝ごと豪快に食べるサンドワーム、鳥肌が立つほどに気持ちの悪い食べ方は相変わらずだった。


これからこれに乗って移動しなければならない事実をルウナは出来るだけ直視しないことにしている。そうでもしなければ吐いてしまいそうだ。


食事の済んだサンドワームは契約完了とでも言いたげに近づいてくる。全力疾走したい気持ちを何とか飲み込んでサンドワームの上に乗るルウナ。


幾つかの水脈を浮かび上がらせると、無言でその跡を辿って行ったのだった・・・。






一方、その頃クルトの方は・・・。


「赤の28番でございます」


「やりー!!」


ルーレットにハマり、賭け金をどんどん増やしている最中だった。


「この分だと昼間のチップの10倍は稼げるぜ。楽しみにしてろよー、ルウナ!」


この後に大惨事が起こることなど知る由も無く、鼻息荒くどんどん賭け金を上げていくクルトだった・・・。






「あっ、あれだね」


緩い砂嵐の中、ルウナは目的の場所に辿りついた。


サンドワームから降りて、辺りを見回すルウナ。


「これじゃまずいね・・・」


目的の場所一帯は大きな岩のゴロゴロ転がる岩石地帯だった。


「面倒だけど除けなきゃこれ。」


「キュウウウ・・・」


待っているのがじれったいのかサンドワームが小さく唸る。


「・・・」


ルウナは少し多めにスパイシーコンビの種を出し、芽吹かせる。


「時間がかかるから、お願いだから大人しく待ってて」


生ったばかり実を指してルウナは黒光りする目を見た。


心得たという感じで実を食べ始めるサンドワーム。


それを座った目で見ながらも、岩石地帯に向き直るルウナ。


出来るだけ岩石地帯の中心に立つ。


錫杖に魔力を集めて、地面を目一杯突く。


岩石地帯全体に魔方陣が広がる。


「フロート!!」


ルウナがそう唱えると、地響きのような音がして岩たちが少しずつ浮き始めた。


ズウウウンッ


一帯の岩が全て浮いている状態となった。


「どうしようか?浮かしてみたものの、一つずつ壊していくのも大変だし・・・」


考え込むルウナ。


「とりあえず一か所に集めてみようか」


錫杖をかざして岩を一か所に集める。


見る見るうちに岩山が出来上がった。


「うー・・・、めんどくさい。メッサメサ壊していくか。メテオアタック!!」


ズガンッズガンッ


日が暮れるまで効率の悪いことに勤しんだルウナだった。






「はあー、疲れた。早く帰って寝よう・・・ん?あっそうだ、クルトのことすっかり忘れてた。何もやらかしてなければいいけど」


岩山の殆どを粉砕して帰って来たルウナはクタクタだった。


クルトが負けて借金でもしていると困るので、銀行でギルドをおろして約束を果たすべくクルトのいるはずのカジノへ向かう。


「んー?・・・なんか嫌な予感」


カジノの表に辿りついたが、裏口の方が何か騒がしい。


「待ってよ!臓器だけは勘弁してー!!」


クルトの叫び声がする。


「・・・」


こめかみを押さえながらルウナは裏口に。


「誰かー!ヘルプミー!!」


そこには身ぐるみ剥がされて、すまきにされたクルトが。


「・・・・・・・」


呆れて言葉も出ないルウナ。


「オラ!大人しくしろ!お前バラシタところでこっちは元は取れねーんだぞ!」


「・・・あの、その人いくら負けたんですか?」


「ああ!!ルウナ!」


「なんだ?あんたは」


「その人のツレです」


「こいつの負けた分、払ってくれんのかい?お嬢さん」


「・・・そうですね。でも金額によります」


「え゛っ」


「まあ、そりゃそうだ。んじゃ100万ギルド、耳をそろえて払ってもらおうか」


「100万・・・、あなたバカですね?」


「ごめんなさい!!」


半べそで謝るクルトを冷たい目で見るルウナ。


これはちょっと、流石に簡単に払える額では無い。


「もし、払わなかったら?」


「こいつの身体をバラシテ闇市にながすだけだ」


「頼むルウナ!ヘルプミー!!」


「みっともないから黙っててもらえます?・・・額が大きいので責任者の方にお会いしたいのですが」


「ふっ、いいぜ。ついてきな」




「私がこのカジノの責任者だ」


ルウナの前に歩み寄る、初老の老人。


黒のスーツに派手なアクセサリー、でもどこか品がある。


「私は回りくどい話と往生際の悪いヤツが大嫌いでね。100万ギルド払うのか払わないのか、お答えはお嬢さん?」


「・・・答えはNOよ。払えるわけないわ、そんな大金」


「そんなー!!」


「おめーは黙ってろ!!」


「・・・ではこの男、闇市に流しても構わないね?」


「それはそれで困るんです」


「ほう?」


「面白い賭けをしません?もしそれに私が勝ったら、この人返して下さいな」


その言葉を聞いて老人の目つきが変わる。


「何をする気かね?」


「ここに10万ギルドあります」


そう言うとルウナは金貨の入った袋をテーブルの上に置いた。


「これをあそこのスロットで、スリーセブンを一発で出して100倍にします。それで勘弁してもらえませんか?」


「・・・」


老人はルウナの目を見たまま動かない。


その内、手下たちが笑い始めた。


「おいおい、お嬢さん。本気かよ?そんなのイカサマでも使わなきゃ絶対無理だぜ!」


「だからこその博打でしょう?」


「・・・何かする気ではあるまいな?」


「さぁ?」


意味ありげに微笑むルウナ。


老人は考える。


たいした度胸だが、どう見ても目の前の小娘に自分の目を誤魔化せるほどのイカサマの技があるとは思えない。


それにルウナの示したスロットは一番、細工などイカサマがし難い仕様のものだ。


何か出来るとは思えない、どう見てもただの小娘。


だが、勝算の無い大博打に出るようなバカには見えない。


「もし・・・、もしイカサマが発覚した場合、君もただでは済まないが。良いかね?」


「ええ、でも何も見つからなかったら約束通りその人返してもらいますよ」


「この賭けに勝てたらの話じゃ」


「・・・じゃ、いきますよ」


にっこり微笑んでスロットの前に立つルウナ。


ガチャン!!


回り始めるスロット。


ルウナの瞳の瞳孔がこれ以上無いくらいまで開く。


ピッピッ・・・ピッ


「777」


パンパカパーン!!


スロットからファンファーレが響く。


「・・・・」


息をのむ老人たち。


「私の勝ちです」


ルウナが笑顔で向き直る。


「きっ機械を調べろ!!今すぐ!!」


「は!!」


まだ大丈夫、ルウナは内心の動揺を隠しながらも自分に言い聞かせる。


チェック、チェック、チェック・・・。


調べども調べども、何も出ない。


「・・・以上ありません」


「そんなはずが無かろう!!」


「ですが・・・」


「約束は守ってもらいますよ」


そう言ってクルトの縄を解き始めるルウナ。


「この人の装備返して下さい」


「・・・小娘、このままで済むと思うなよ?」


「・・・」


「ふあ!助かったー・・・」


「じゃあ、私たちはこれで」


クルトの手を取り、歩き出すルウナ。


「・・・後をつけろ。このまま引き下がるわけにはいかん」


「はい」


カジノを後にするルウナたちを尻目に老人は命令を発した。




「・・・ルウナ、怒ってるよね?」


店を出てから一言もしゃべろうとしないルウナに、力無く話しかけるクルト。


「あっあの!ほんとに・・・」


「黙って歩いて下さい!!」


「!!」


あまりの怒声に縮みあがるクルト。


「はい・・・」


もう黙る他に術は無かった。


「・・・」


宿屋とは反対に歩くルウナたち。


確実に後ろには追手がいるはず。


逃げなくては。


簡単にはバレないイカサマ、常人には出来ないイカサマ。


ルウナは常人では、無い。


さっきのスロットは強い魔石で制御されていた。


だからその強い魔力を相殺出来るほどの魔力と少しの動体視力があれば、簡単に好きなものを揃えることが出来る。


ただの小娘にそんなことが出来るとは到底思わないだろう。クルトのような男のツレだと言えば尚更に。


でもイカサマはイカサマ。


バレれば二人とも命は無い。


ルウナのクルトを握る手に力が入る。


「ル、ルウナ?」


流石に不審に思ったクルトが小さく声を上げる。


「普通にしてて、つけられてる」


「!」


街の入り口まで歩いて、ルウナはようやく口を開いた。


「私から離れないで。・・・かの者たちを惑わせ、イリュージョン!!」


街全体が幻に包まれる。


「なっなんだ?!何が起こった!!」


追手たちが突然の出来事に戸惑う。


「奴らはどこだー!!」


完全に標的を見失った追手。


その隙にルウナは錫杖で魔方陣を描く。


「飛ぶよ」


「え」


ルウナはクルトの腕を掴み、魔方陣の中へと走る。


「約束の地まで我らは還る!リターン!!」


「うおおおお?!」


青い旋風が起こりルウナたちは空高く飛ばされた。




「・・・ん?」


「気がついた」


クルトが目を覚ますとそこは何も無い、砂漠のど真ん中だった。


「ここは?」


「今回目的の水脈のある場所です。来た時に魔法で目印をつけておいたの。一瞬でここまで戻れるように、・・・おかげで助かったわね」


「あっ・・・」


ようやくクルトは状況を思い出し、理解した。


大迷惑を掛けてまた助けられたことを。


「ごめんなさい!!」


「・・・」


土下座して謝るクルトとそれを見ようともしないルウナ。


「許してくれなくてもいい。だけど本当にごめん!!」


その言葉にため息をつきながらルウナはクルトに向き直った。


「私が助けなかったらどうするつもりだったの?」


「だから、ごめん!!」


「・・・どうするつもりだった?」


「その時はその時で・・・、だめだったら死ぬだけだよ」


ルウナのまっすぐな視線に俯きながら、クルトは力無く呟いた。


「はぁー、・・・どうしてそんな身の丈に合わないことばかりするの?」


「え・・・だって」


「命は一つしかないんだよ」


「・・・ルウナに言われたくないよ。さっきも俺の為にあんな危ないことして、この砂漠の星を緑化させるとか。ルウナだって死んでもおかしくないことしてるじゃん!」


正論じみたへ理屈を言って、逆切れし始めるクルト。


「あんなくだらないことの為に、あなたは死んでも構わないと?」


「・・・それって、自分が志が高いとでも言いたいの?」


噛み合わない二人。


「一つしか無いんだから、もう少し有益に命を生かそうとは思わないの?さっきのあれは誰の為になるの?」


「金持ちになるのは悪なわけ?」


「さっきのはアウト、命を引き合いに博打に出るなんて」


「人生なんて博打みたいなもんだよ。それにルウナだって危ない賭けしたじゃん」


「イカサマです」


「え、・・・今なんて」


「さっきのは正当な勝負では無いと言ったの」


「どうやって・・・、イカサマ御法度って言ったじゃん。ガラじゃ無いじゃん、どうしてそんなこと」


「・・・さあ、分かんない。どうしてあなたを助けようと思ったのか」


「!」


「あなただって私を助けてくれたじゃない?その気持ちとたいして変わらないと思うけど?」


「・・・」


「まだ私について来るつもり?」


ルウナからの言葉に答えられないクルト。


不正をしてまで自分を助けてくれた。


それは彼女のスタンスに背くこと、そうまでしてくれたのは嬉しいが情けない。


喜ぶことが出来ない・・・非力な自分。


(クソッ!!)


心の中で自分をなじることしか、今のクルトに出来ることは無かった。


「・・・他の水脈とここの水脈をつなげるからさがってて」


そんなクルトの心を見透かしたようなルウナは、ただ淡々と作業を始めた。




 誰の為に泣いているの?


 追いかければ追いかけるほどに


 全ては圧倒的に早く逃げて行くよ


 閉じこもった殻の中で求めたものを否定していても


 あなたは救われない


 身の丈に合わない言葉は


 あなたを壊すだけ


 あなたから奪うだけ


運命は正直者


 器に合ったことしか起こらない人生


 それでも奇跡を信じることが出来る?


 交わった始まりと終わりは


 新しい明日をくれる


 根源はいつも同じ


 強さと弱さは選ぶものじゃ無い


 与えられた全てはあなた


 命は強くて弱い


 今日の誓い 明日の誓い


 運命に奇跡を信じるのなら


 一つしかない全てを例え陳腐でも愛していて


 そうすれば求めるものは降ってくる




響く澄んだスイートソプラノ。


歌をうたう時だけはルウナの心は優しさで満ちている。


描かれる魔方陣と脈打つ魔力。


見る見る水が湧き出て、景色が様変わりしていく。


クルトは黙って見ていた。


否、涙が頬を伝っていた。


優しさが痛い。


そんなことを感じたのは何時以来だろうか?


もう恋しく無いはずの母を思い出す。


思い出ももう思い出せないのに。


特別な誰かの為に、いつか必ず出会う。


いつかの母の言葉を思い出す。


(出会ったよ、母さん・・・)


涙目でルウナを見つめるクルト。


誓いなんて立てるガラでは無いが、久しぶりに痛かった優しさに心が固まって行く。


強くなりたい。


・・・そして、彼女の特別になりたい。


ただただ涙を流しながら、クルトは祈りにも似た誓いを立てていた。


ありふれたセリフを口にするだけで、求めたものが手に入るなら・・・。


やってみよう。


ガラにもない、努力ってやつを。




すっかりオアシスと化した一帯。


「ふぅ」


息をつくルウナ。


見つめるクルト。


目が合う二人。


「愛してる、俺のものになって」


「・・・」


ルウナの目が見開かれる。


おしはかることの出来ないクルトの言葉。


「ちゃんと強くなるから、だからついて行くよ。ずっと・・・」


まっすぐな眼差し。


「・・・」


逃げる事の出来ない視線の先で、音が聞こえてきそうなくらいに赤面するルウナ。


向けられた事の無い感情に戸惑い、たじろぐ。


「・・・嫌だと言ったら?」


「いつまでもそんなツレナイこと言ってると、・・・押し倒しちゃうよ?」


効果てき面な言葉と、いつの間にか至近距離のクルト。


「やっぱりあなた、バカですね」


「それでもいいよ。ルウナ大好き」


厄介なものを拾った。


そんなことを思いつつもルウナの心臓は臨界値を超えそうだと、悲鳴を上げていたのだった。


不謹慎な愛の告白に憂鬱な返事の明け方だった。


夜明けは良い事と悪い事の両方?を連れて来る。


しばらくクルトと二人っきりの時は用人せねばと誓いを立てるルウナだった。



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