謳う少女と水の噂
あらすじ下手くそでごめんなさい。
歌で植樹していく話です。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
「へぇー、そいつは本当かい?」
ゴロつきばかりが集う安酒場でクルトは興味深げな噂を耳にしていた。
最近、この広大な砂漠の大陸の各地で昨日までは何も無かった場所にオアシスが出来たり、突如として森が出来ていたりするといった具合だ。
「アッシが仕入れた情報によれば、オアシスが出来た晩には少女の歌声が聞こえていたそうですよ?旦那。」
「少女?」
情報屋のその言葉にクルトは訝しげな表情を返した。
「少し前までは西の大陸で評判の歌い手がどうやってか、この東の大陸にやってきているらしいんですが・・・、どうやらこの話にはこの娘が関係しているかと」
「・・・その根拠は?」
「丁度、同じ時期なんでさぁ。この噂と歌い手が現れた時が。しかもこの噂は元々、西の大陸から流れて来たネタなんでさぁ、・・・どう思います?旦那」
「・・・・」
そう言われたクルトは無言で飲んでいたジンを傾けた。
ここは大陸の大多数が砂の砂漠の星。
水や森、木の苗木などは希少で高値で取引されている。
そんな中で持ち上がった奇妙な噂。
はてさてこれは一体・・・?
次の日、クルトは一夜にして森が出来た場所のすぐ近くの村に来ていた。
「わーい!ヘタレのクルトが来たぞー!!」
「やーい!ヘタレのクルト、ヘタレのクルト!!」
相変わらずの歓迎っぷりにクルトは苦笑いをした。
「やー、有名人はどこに行っても辛いなー・・・。」
このクルトという男、実は東の大陸では知らぬ者はいないというほど有名なのだ。
早い話がただの賞金首なのだが、その理由が実に下らない。
その日クルトは酒場で一人の美しい娘と出会った。生来の女ったらしのクルトは当然、あの手この手の巧みな話術で難なく口説き落とすことに成功。その日限りの素晴らしいデートをものにした。
だが問題はここからで、この娘、実はその時滞在していた大きな都市の最大権力者の娘で、そのクルトとのことを聞き馬鹿親丸出しに憤慨して保安軍に怒鳴りこんだのだ。クルトを誘拐罪で逮捕しろと。困った保安軍は面目を立てるために仕方なくクルトに賞金をかけた。犬も見向きもしないくらい安い賞金を・・・。
賞金1ギルドのクルトの顔写真は瞬く間にいろんな場所に貼られた、ウォンテットの文字と共に。
というわけで、大陸一、有名だが誰一人として捕まえようとは思はない賞金首になったクルト。石こそ飛んでこないものの、情けない男としていろんな歓迎が絶えない。
勿論、悪い意味で・・・。
「さぁてと・・・」
クルトは歌う少女の話と突然出来た森の話を聞いてまわった。
確かにその晩、砂漠の方から歌声が聞こえた事、何日か前に歌うたいの少女が滞在していて森が出来たその翌日に消えた事。
・・・そしてその日の朝、不可思議な雲が空に出ていたこと。
「どうしたもんかね?」
少女の格好は19歳くらいでジプシー風の白い装束を着ていたらしい。瞳の色はこの国にしては珍しく漆黒の瞳だったという。大きな十字架の錫杖を持っていて、何かを探している風でしょっちゅう村の外に出ていたらしいのだ。
悩んだあげくクルトはその妙な雲が出たという方角に集落はないかとたずねて歩いた。
「だったら、ここから馬で5日ほど走った所にリノって村があるぜ?」
この辺りの地理に詳しい武器屋の主人がそう教えてくれた。
「なぁ、あんたもその少女とやらの歌を聞いたのかい?」
「あぁ。こんな田舎であんな綺麗な歌を聞けるとは思わなかったぜ?綺麗な娘でなぁ、・・・そういや俺のとこに来て剣の手入れを頼んだっけな」
「剣?」
「あぁ、細身で随分と刃の長いヤツ。護身用にしちゃちょっと大げさだが、西の方じゃ大分、治安が悪かったらしい。」
「西?彼女は西から来たと言ったのか?!」
「ん?くわしいことは聞かなかったがそうみたいだぜ」
「なるほど・・・」
村で装備を整えるとクルトはそのリノという村に向かうことにした。
「ヒヒーン!!」
馬を調達したのはやはり正解だったようだ。
焼けつくような日差しと酷い砂嵐。
「頼むぞー、3日分しか食料調達出来なかったんだからな」
ふんぱつして馬を買ったはいいものの、元来、真面目に働く気のないこの男。お金などそんなに持っているわけはなく、赤貧もいい所。おかげで馬を買った残金でかえたのは食料3日分。武器屋の主人の話では馬で5日はかかるというのに・・・。
だが、クルトには妙な確信があった。
きっとこの水の噂にはその歌い手の少女が関係していて、うまく話が転がればこれは大金をせしめるチャンスだと。そのためにわざわざこんな文字通り雲を掴むような噂を追っかけているのだ。真面目に生きる気も無い、守るものも大切なものも無い、クルトのような男には目的があってもそれが金儲けならば生きる事は博打と同じだ。この広大な砂漠で何時、野垂れ死にするかもしれない。
約束の無い明日。
ならば、一生に一度でいい、大金をせしめて豪勢に暮らしてみたい。
それが今のクルトの願望と呼べる代物だった。
「よし、砂嵐が弱まってきたな・・・」
不可思議な雲のしっぽを追いかけてクルトは馬を走らせた。
月夜の砂漠。
柔らかい静寂に包まれた厳かな世界。
見渡す限り砂漠のその世界に少女は立っていた。
ジプシー風の白い装束に、漆黒の瞳。
少女は月が夜空の天辺にくるのを待っていた。
そして・・・。
始まりの水は全てを燃やしつくした
白い灰になった世界、白い灰になった世界
始まりはいつも燃える水と白い灰から
崩れ去る悪意は静寂の水面に沈み慈しみの種になる
舞い降りる泳ぐ炎は白い世界の目覚めの時を告げる
目覚める世界、弾け飛ぶ命
泳ぐ炎は目覚めの連鎖反応を巻き起こす
全ては水と炎の成せる技によって始まる
枯渇した大地に祝福されし命を
私は始まりの水と目覚めの炎を操りし者
今宵 相容れぬものが共に踊る
眠れる命を呼びさませ
私は始まりの水と目覚めの炎を操りし者
歌声は響き 魔力は踊る
目覚めの時は来た 届けこの力・・・
「愛されし者たちに祝福を!!」
少女の歌と共に砂の上に不可思議な文様の魔方陣が広がり、文字通り燃え盛るような水と泳いでいるような炎が現れて重なり合うように魔方陣の上を走る。
持っていた十字架のような錫杖を振りかざしながら、少女は艶のある声を響かせる。そしてその杖の先で魔方陣を力強く突いた。
と、途端に魔方陣から目を開けていられないほどの光が溢れ出し、なんと砂の中から小さな緑の苗木が姿を現したのだった。
それは徐々に成長していき見る間に立派な大木になり、周辺も緑に包まれてあっという間に見事な森になった。
「こんなもんかな?」
少女は最初に出来た大木に触りながらそう呟いた。
「この辺の水脈は変化が激しいけど、ここなら大丈夫だと思うよ?」
そう言った少女は青緑色の魔宝玉を取り出して、呪文を唱えながらその木の内部に埋め込んだ。
「よし、次は南東の方角だね。元気に育てよ?」
そう言って少女は空を仰いだ。
もう夜空が白み始めていた。
「師匠は朝焼けが嫌いだったな・・・」
昇り始めた太陽を見て少女は師の言葉を思い出していた。
「ルウナよ、わしは夜明けがあまり好かん。良い事と悪い事の両方がやってくるようで心臓に悪い」
そう口癖のように言っていた師匠は夜明けに息を引き取った・・・。
「さぁ、干渉に浸っている時間は無い。やることはまだ山のように残ってるんだ」
そう言った彼女は森を抜けるべく歩き出した。
彼女の名前はルウナ、職業は歌い手をしながらのシャーマンをしている。
旅の目的は、・・・目的はこの星に豊かな緑を取り戻すこと。
それが自分を育ててくれた師への恩返しでもあり、生まれながらにして強すぎる魔力を持った自分の宿命でもあると、そうルウナは感じていた。
王族の歌姫の家系に生まれたルウナ。
だが生まれながらに強すぎる魔力を持って生まれたルウナは、ロクに言葉も喋れない内から人の死を予見したり、災害や疫病を言い当てたりしていた。
皆、ルウナを気味悪がり、父や母でさえもルウナを毛嫌いしていた。
そんな中、当時、宮廷にシャーマンとして仕えていた師がルウナの里親を申し出たのだ。引き取り手を探していた両親は一も二も無く承知。ルウナを引き取って間もなくわが師、ラビ・ロクスは宮廷を後にしたのだった。
貧乏だったけど愛情を注いでくれた師匠。魔力の制御や使い方を伝授してくれて本当にルウナは感謝している。
この旅の半分はそんなラビ師匠のためでもある。
ラビが最後に研究していたのはこの砂漠化した星の緑化だった。志半ばで逝ってしまったラビのためにルウナは旅をしているのだ。
・・・そして自分のためにも。
強すぎる魔力のせいで捨てられた自分。この力が何かの役に立たなければ自分には価値がない気がしていた。どんなにラビに可愛がられてもこの感情は消えなかった。
だからルウナはラビの埋葬が済んだ後、ラビの意志をついで旅に出る決意をしたのだった。
研究のほとんどは完成していて後は実行しながら手直しをしていけばよかっただけだった。旅のお金はすぐに底をついてしまったけれど問題なかった。でもまさか歌がお金になるなんて思いもしなかったルウナ。この時だけは自分の家系に感謝した。おかげで、人前で歌をうたう時だけ性格が豹変してしまうほど・・・。
「よし、・・・我は始まりの水を統べる者なり・・・・・・」
森を抜けたルウナは呪文を唱え始める。
ルウナの周りから激しい水蒸気が上がり、その頭上には見る間に巨大な雲が出来上がった。ルウナはコンパスを出して方角を確認する。
「サイクロプス!あの方角に私を連れて行って!」
するとどうだろう、サイクロプスと呼ばれた雲はまるで巨大な龍のような姿になって頭をもたげた。ルウナの指した方角を見るとルウナの周りに水蒸気が降りてくる。
「行こうか?」
そう呟いた瞬間、ルウナの体は水蒸気に巻き上げられてサイクロプスの中、つまり巨大な雲の気流の中に飲み込まれていた。
その中を器用に泳ぐように気流に乗り、サイクロプスの頭の方まで移動するルウナ。地図とコンパスを取り出し眼下に目をやる。
「もう少し右!」
指示を出しながら雲の中をフワフワと泳ぐ。
生まれながらに、燃える水と泳ぐ炎を操ることが出来たルウナ。
ルウナに従わない水や炎など在りはしない。
ちなみにこの雲はサイクロプス。
水蒸気の塊で出来た水龍族。元々は小さな水の精霊だったのに、ルウナが少々手を加えて遠い距離を移動する時に力を貸して貰っている。
「えっと、次はトラバールって街だって。」
地図を見るかぎりではかなり大きな都市のようだ。
「変な騒ぎを起こさないよう気をつけないと・・・。もう大分、水の少女の噂が広まっているみたいだし。」
一度、小さな村で正体を明かして大騒ぎになったことでルウナは懲りている。
考えてみれば水が高値で取引されているこの星でルウナのような存在がどんなものであるか容易に想像出来たことであった。
・・・が、ラビと二人っきりで育ったルウナは世間知らずもいいところ。
うっかり旅の理由を口にしたのは間違いだった。
いい金になると村人総出で襲って来られた時の衝撃を思い出すと今でも身震いがする。死者こそ出さなかったものの人を傷つけてしまったことをルウナは悔いている。
なので何とかひっそりとやっていこうと心に誓ったルウナ。
「お願いだから何も起こりませんように・・・」
半ば祈りながらルウナは次の街に向かった。
ボロボロになりながらクルトがリノの村に到着した時、すでに水の少女は姿を消していた。
「入れ違いだったみたいだねぇ。昨日まではこの先の広場で歌ってたんだけどねぇ。」
「・・・・」
それを聞いたクルトは目の前が白くなる思いだった。
とりあえず疲れ切った体を休めるべく宿を取った。
何時間か泥のように眠った後、夕食にするために近くの酒場に向かう。
とは言っても一銭もお金を持っていないクルト。手始めに頭の悪そうなのを引っかけてカードゲームで賭けをする。餌に使うのは母親の形見の大きな宝石のついた懐中時計。これはこれで買えばけっこうな値が張る。
「さぁ、もうひとゲーム行こうか?」
「おいおい、もう勘弁してくれよ」
「ちぇ、シケてやがんな。誰か相手してくんない?!」
「よぉし、次は俺だ」
その声にクルトはニヤリとする。これでメシ代も宿代もこと欠かなくて済む。
当たり前だが、もちろんクルトが勝っているのはイカサマだからである。
「あぁ、もう!!全部持ってけ!!」
「毎度どうも~」
生活がかかっているんだ。この世界騙される方がどうかしている。
ホクホク顔でクルトはカウンターに座る。
「マスター、バルバターライスの大盛とガリクミートの蜂蜜焼き、後アップルトマトのスコーン。マスコットシロップ付きね」
「あいよ。んで酒は?まさか酒場で紅茶とか言わねえだろうな」
「じゃぁ、ブラッティ・マリー。氷砂糖入りね」
「妙な組み合わせだな?まぁいいか」
運ばれて来た料理に目を輝かせるクルト。久方ぶりの豪勢な食事にすごい勢いでがっつく。大盛のライスと肉を難なく平らげて、たっぷりのシロップを垂らしたスコーンを口に運ぶ。シロップの甘さとアップルトマト独特の香りが何とも言えない。
嫌味とも取れるほどに氷砂糖が多量に入ったブラッティ・マリーを飲みながら、クルトは水の少女のことを考えていた。
このままではトカゲのしっぽ切りやいたちごっこのごとく、いつまで経っても彼女に追いつくことは出来ないかも知れない。
「・・・・」
金になることが分かっていてもどうにか遭遇することが出来なければ話にもならないわけで、・・・最悪の場合、気がつき始めた他の連中に持っていかれるということも。
「・・・マスター、地図ある?」
マスターから地図を借りるとクルトは水の少女の現れた地点に印をつけ始めた。
「・・・なるほど」
何らかの法則でもあるのか印はある一定の距離を保っていた。
・・・これなら先回りすることが出来るかもしれない。
でも、一歩間違えばとんでもないすれ違いをする羽目になるかも知れない。
地図を見直す・・・。
しょっちゅう村の外に出ていたということは、彼女の目的は街や村を回ることではない。その外にある何かということになる。勿論、それは森やオアシスを出現させることだろう。街に寄るのは旅賃を稼ぐためと宿を取るため・・・。
リノの周りには幾つか街や村があった。
一定の距離で測って数を絞っていく。
シシリナ、ラカンス、トラバール、ディオス、エンカル・・・。
多分、この中のどれかに彼女は向かったはず。
今から追ったのでは間に合わない。
この中から選んでさらにその先を予測しなければならない。
勘を信じるなら、トラバールかディオス・・・。だがディオスの近くに街や村は存在しない。
「・・・行ってみるか?」
クルトは悩んだ末、トラバールの先のタンズリンという都市に行くことにした。
全ての始まりは水
全ての目覚めは炎
水面を震わせる歌声
陽炎が集う瞬きの舞
足跡をつけて?夢と現に
足跡をつけて?愛と罪に
始まりは水 目覚めは炎
おいで、おいで おいで、おいで
ここにはぬくもりがある
ここには悪意がある
心が歌うは愛
応えるは悲しみ
鈍感な世界に始まりの涙 目覚めの悪意
おいで、おいで いこう、いこう
私は歌う
夢と現を
愛と罪を
悲しみと悪意が交わる場所に全ての始まりがある
いこう、いこう・・・
「愛されし者たちに祝福を!!」
不可思議な魔方陣が現れて、燃える水と泳ぐ炎が舞踊る。
見る見るうちに砂漠の真ん中に泉が湧き出す。
周りには花や緑が生い茂り、美しいオアシスが誕生する。
歌い終わったルウナは青緑色の魔宝玉を出して呪文を唱える。
「チャポン!!」
唱え終わるとその魔宝玉を泉の真ん中に投げ入れた。
「よし、これで完了っと。」
ルウナはそう言うと、ブーツを脱ぎ捨ててチャパ、チャパと泉の中に入ってしばしの休息にはいった。
トラバールは大きい都市のせいもあってか、皆、沢山チップをくれた。何のトラブルもなく順調に今に至っている。この次は地図によるとタンズリンというこれまた大きな都市だ。トラバールはお肉料理が美味しかったが、タンズリンにはこの大陸では非常に珍しい養殖漁場というものがあって希少な魚が手に入るらしい。
魚の稚魚は見た事があるが大物にお目にかかったことはない。
まぁ、水を操る力を持っているのだから、食べれない魚には幾らでもお目にかかってはいるのだが・・・。
この泉にもやがて魚が泳ぐ日がやってくるだろう。
ここの地層が元、海だったならば海水魚が。命はどこからでも生まれ出るものだから。ルウナが星の緑化に成功すれば海も出来るかもしれない。
感慨にふけりながら一通り泉を堪能したルウナはまたブーツを履く。
「あー、綺麗な花」
何輪か気に入った花を見つけて、それを摘むとルウナは呪文を唱え始めた。
「我は目覚めの炎を操りし者・・・」
一瞬にして花は燃えて押し花のようなドライフラワーが出来上がった。
こういったものは貴族にしか手に入らない嗜好品の部類に入るが、ルウナにかかればこの通り。単なる趣味というのもあるが、こういったものを贈ると喜ぶ婦人や子供たちがたまにいるのだ。大した荷物にもならないので本に挟んで持ち歩いている。
「さて、サイクロプスを呼びますか。・・・我は始まりの水を統べし者・・・」
見る間に大量の水蒸気が上がりサイクロプスが現れる。
「行こうか?」
そうしてまた、ルウナの体が水蒸気に巻き上げられていくのだった。
「ふぅ、やれやれ・・・」
5日以上かかる道のりをクルトは3日で走り続け、タンズリンまで来ていた。
ボロボロの体で宿を取り、いろいろな所を聞いて回ったが、この街に水の少女は現れていないようすだった。
「・・・ハズレだったかなー・・・」
これからどうしようかと途方に暮れていた、次の日の昼だった。
クルトは何とはなしに噴水のある大広場に来ていた。
するといきなり噴水のある広場のど真ん中で大きな声が聞こえてきた。
「さぁさ、みなさんお立会い。忙しい人もそうじゃない人も寄っといで、寄っといで?大陸一の歌い手の歌声をみなさん聞きたくないですかー!見るのも聞くのもタダだよー!しかーし、これは聞くに値すると評価して下さる奇特な方はこの旅の歌い手にどーぞカンパを!その値段はあなた次第!!ちょっとした幻想のショーと世界にみなさんをご案内・・・・・・・・・」
「なんだ、なんだ?」
見る見る広場の周りに人だかりが出来る。その中にはクルトも混じっていた。
「イッツ ア ショー タイム!!・・・・・・レディー ゴー!!!!」
水と炎のイリュウジョンが弾ける。
張りつめた緊張感
つま先立ちして私は世界を見つめている
あなたを想うだけでいつだって救われているけど
あなたと目が合うだけで何もかもがグルグル
甘いシェリー酒のように全て溶けてしまいそう
ねぇ名前を呼んで? ねぇ名前を呼んで?
あなたを好きだというこの気持ちをこっそり
世界中にバラしてしまいたいの
愛を歌って 愛を歌って
あなただけの天使になりたい
始まりは極端で最後は初歩的
猫という動物はどうやら恋に敏感らしい
その瞳とそのヒゲで私に合図を送ってる
それはきっと好奇心
だけどそれはあなたも私も一緒でしょ?
虹色の雨が降ってくる
ねぇ名前を呼んで? ねぇ名前を呼んで?
甘いシェリー酒のように溶けてしまいそうよ?
あなたを好きだという証を証明して回りたいの
愛を歌って 愛を歌って
あなただけの天使になりたい
始まりは極端で最後は初歩的
ねぇ名前を呼んで あなただけの天使になりたい
初めはまばらだった手拍子も最終的には大喝采に変わっていた。
それでもルウナの声が聞こえなくなることなど無く、クルトもいつの間にか手拍子をしていた。
水と炎は歌に合わせて姿を変えて幻想的にショーを演出していた。
「いーぞ、姉ちゃん!もう一曲!!」
「もう一回、もう一回!!」
「ではでは、お言葉に甘えてもう2、3曲!!」
その後、アンコールは2回ほど続いた。
「今日はこれにてお開きです!また聞きたいというお方は明日またこの時間に!!」
「明日もたのむぜー」
「後で私の店に寄っとくれ?サービスするよ」
「はーい」
がやがやと人ごみが散っていく。
ルウナがかなりの量のチップが入った箱を片付けていると後ろから声をかけられた。
「すごく景気が良さそうじゃない、お嬢さんそれで一杯、俺に酒奢ってくんない?」
ルウナの後ろにはクルトが立っていた。
「・・・そういうことしてるから、大陸一情けない男になっちゃうんですよ?」
そう、これが二人の運命的?な出会いの一コマ…。