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こんな良い日には

作者: sugar life

ゴドーを待ちながらを意識して書きました。是非最後までよろしくお願いします。

目を凝らせば何処までも見えそうな晴天。突き抜ける様だともよく言われるが、本当に突き抜けそうだ。突き抜けた先は何処なのかは分からないけど。

ガタンゴトンと、頭上の高架橋を電車が通る。まだ朝日が昇り始めたばかりだと言うのに、日本人は何て真面目なのだろうか。仕事をやめ、逃げるようにここへ来た自分も同じ日本人とは思えない。いや、日本という国が真面目なんだろう。きっと自分は日本から外されたのだ。

「よお、久し振りだな」

みすぼらしいコートを羽織った、中年くらいの男性がこっちに歩いてきた。酷い猫背のくせに170㎝の俺より頭の位置が高い。

「お前が来ると雨が降るから帰ってくれ、雨男」

知り合った時からこいつは仲間内に雨男と呼ばれていた。大学生時代からの友人ではあるが本名は知らない。もしかしたら聞いたかもしれないが、俺の脳ミソには残念ながら記憶されていない。 本人は雨男というあだ名に不満は無いようで、自分からそう名乗る。

「つれないこと言うなよ、今日は同窓会だろ?」

「その同窓会を雨にしたくないんだよ」

同窓会といっても、大学生時代の親しかった友人グループ五、六人の、ただの集まりだ。今回は全員の都合が上手くあって集まれるそうだから、同窓会の名を借りたのだ。

「他に誰が来るか聞いてるか、お稲荷」

お稲荷とは俺のあだ名だ。人を食ったような態度と人を化かす狐とを結びつけてお稲荷らしい。食ったような態度と狐は意味合いが違うように思うし、そもそも俺はそんな性格ではない。雨男は自分のあだ名を気に入っているから、俺もお稲荷というあだ名を気に入っていると思っている。それも気に入らない。

「知らないよ、ほっといても来るやつは来るだろ」

「俺は来ましたよ」

突然後ろから声がかかってビクッとした。振り向くとそこにいたのは、通り魔だった。

「通り魔じゃないか、変わってないな」

「先輩たちこそお元気なようで」

仲間内で唯一の年下の通り魔は、卒業後も俺たちに敬語を使っている。ちなみに、その他のメンバーは俺と同い年だが、雨男は一年留年しているから一つ年上だ。だからといって通り魔のように敬語を使う気にはならない。

通り魔はジーンズのポケットから煙草を取り出すと、こなれた手つきで反対のポケットからだしたジッポで火を着ける。ジーンズと白のワイシャツというラフな格好ながら、煙草を吸うその姿はまるでハリウッドから抜け出した俳優のようだ。人を射殺すのではないかと思わせる目付きから通り魔というあだ名をつけられてはいるが、その目付きすら彼をイケメンに仕立てあげている。

「骨折さんは来ると聞いてますけど、皿洗いさんは急にバイトが入って来られないそうです」

骨折は不思議なやつで、年に一回ペースでどこか骨折をしている。いつか骨折のしすぎで死ぬんじゃないかと、俺は本気で思っている。雨男は「まあ、問題無いだろ」としか言わないが。

皿洗いはさらに不思議で、大学生時代から今に至るまでバイトをこれでもかという程にいれている。しかし絶対に皿洗いのバイトだけはやらない。以前に何故やらないのかと雨男が聞いたら、ポリシーだと言っていた。俺の一番嫌いな理由だ。かといって皿洗いが苦手なのかというとそんなことはなく、一度皿洗いの家で飲み会をした時は手際の良い皿洗いを披露してくれた。

「なら後はあいつだけだな」

「あいつならこういう集まり好きなはずですから、来ますよ」

そうかあいつも来るのか、それは少し楽しみだ。

「あいつはお稲荷のお気に入りだよな」

「え、まさかお稲荷さん、そういう趣味が…」

「無いよ、そんな趣味。後俺にはさんをつけるな」

まるで本物のお稲荷さんになったようで、嫌な気分になる。

「あいつだけだよな、結婚してるのって」

「そうだよ。あいつ恋愛なんて興味ないって言ってたのに、誰よりも早く結婚しやがって」

俺なんか彼女がいたことすらない。

「お稲荷さんには彼女とかいないんですか」

「…後で締めるぞ通り魔」

とはいえ喧嘩で勝てる気がしない。仕事をやめて三ヶ月、住む家もなく、貯金を切り崩しての少ない飯しか食べていない身に喧嘩は荷が重い。いや、あいつはそんな状況下でも何とかしそうな人間ではあるが。

あいつの話をしていると、一人の女性がやって来た。骨折だ。

「ヤッホー、皆元気にしてる?」

「むしろお前が元気か聞きたい。その手どうした」

白のワンピースに赤のヒールと女性的な出で立ちだが、左手はギプスを付けて首に吊られてる。見慣れた光景と言えばそれまでだが、やはり心配にはなる。

「あ、この手? この前合コンでやっちゃってさ」

「いや、合コンで骨折する意味が分かりませんよ」

本当なら通り魔の言うとおりなのだが、骨折が言うと不思議と納得してしまう。

「あれれ、あいつはまだ来てないの?」

「もう約束の12時になるのにな」

「あいつは時間にルーズだったろ。いつものことさ」

「本棚はビックリするくらい綺麗に整頓されているんですけどね」

皆が口々にあいつにまつわることを言う。


あいつ一緒にいると雨が降らないんだよな。でも私あいつのせいで骨折したわよ? あいつはなんだか優しい雰囲気があって、癒されるんですよね。俺もあいつは凄い良いやつだと思っている。お稲荷もあいつくらい素直になれれば良いのに。そこがお稲荷さんなんですよ。私知ってる。それツンデレって言うんでしょ? 骨折は黙ってろ。骨折さんの制御も、あいつ得意でしたよね。あいつは何でも出来るからな。そうそう、あいつって言えばこの前……。


「あいつ、来ないなぁ」

誰が呟いたのか、もしかしたら自分が呟いたのか分からない言葉が聞こえた。

その時だった。

ざりっ、ざりっ、と引きずるような独特の足音が聞こえてくる。あいつの足音だ。

「やっと来たか」

足音が大きくなり、次第に近付いて来る。

そして、やっと、あいつが、ここに……。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

ここのキャラクターは書いてて気に入ったので、また短編で彼らを出すのもありだと思ってます。

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