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深泥池ー幽霊話と現実と伝承と本当に不思議なのはどれか比較してみた件

 京都洛北に深泥池はある。ガマが茂りジュンサイが池面を覆う、周囲が1、500メートルほどの沼のような池だ。たいへん歴史のある池なのだが、近年では幽霊話ばかり取りざたされるので、地元に暮らす人間としては不本意だ。この誤解を解きたいと思う。実は自然科学的にも伝承的にもかなり興味深い池なのだ。


1.自然科学からみる深泥池


 池の中央に灌木の生えた島がある。一見草の茂った陸地に見えるが、実は泥炭と植物群で構成された「浮島」である。浮島は文字通り池上に浮いており、大風が吹くと移動する。まるでリアルひょっこりひょうたん島だ。浮島そのものは日本国内でもいくつか確認されているが、灌木まで生えたものは珍しい。

 また氷河期より植生がほとんど変わっていないとされる(※1)。本来この緯度では生息しないはずのミツガシワ、ホロムイソウ、モウセンゴケなどが取り残されたように群生しているのだ(※2)。「数万年間一度も池が枯れたことがない」のが理由らしい。しかしこの深泥池に注ぐ河川はない。水源は雨水と地下水のみとされる(※3)。安定的な水源を持たないこの小さな池が、何故数万年単位で枯れないのか明確な理由はわかっていない。貴船神社と繋がっているとか(後述)、琵琶湖と繋がっているとか、意味不明な噂話もこう言ったとことから発生している。

 深泥池公園の方角からみる深泥池は、周囲に住宅が並び、とても風情のある池とは言い難い。だが一歩奥に足を踏み入れると、まるで尾瀬のような風景が広がる(※4)。このような場所が京都市内に存在すること自体不思議なのだ。


(※1)堆積物の調査による。

(※2)この特種な生態系が希だとして国の天然記念物に指定されている。

(※3)近年は浄水場の水が流れ込んでいるようだ。

(※4)足元が悪いのでヒールのある靴は不可。


2.伝承からみる深泥池


 深泥池に纏わる伝承は多い。大蛇伝説などが知られるが、今回はあまり知られていないであろうものをひとつ。

 鞍馬寺の北西に位置する貴船神社は、5世紀頃に建てられたと伝わる古い神社だ。山中にありながら祀られているのは水の神様で、航海安全に御利益があるという(※1)。境内には船形石と呼ばれる大きな石が鎮座している。太古この石に神が乗り、海から川を遡ってこの地におわしたのだ。その貴船神社が深泥池と繋がっているという。ここからは全て伝聞である。故に信憑性については一切責任を持たない。

 貴船神社本殿地下には鬼の世界に繋がる穴「龍穴」が存在するとされる。貴船神社はこの龍穴を封じるため建てられたのだ(※2)。この龍穴が水脈で深泥池と繋がっているらしい。平安時代には鬼がその水脈を通じて度々深泥池から現れ、都で悪さをしたという。そこで人々は鬼封じの儀式を行った。魔滅と言われる儀式で、煎った豆を池に投げこんで鬼の通り道を塞いだのだ。「魔を滅する」を「豆(魔滅)」にかけた(まじな)いである。一説によるとこれが節分の豆撒き行事発祥とも言われる(※3)。

 昭和最初期までこの儀式は行われていたらしい。平安時代から続いた儀式がなぜ突然行われなくなったのかは不明である。今では儀式そのものも忘れ去れ、知る者も少ない。また「豆塚」と呼ばれる塚が池のどこかにあったらしいのだが、その所在も不明となっている(※4)。


(※1)雨乞い、雨止め、縁結び、丑の刻参りでも有名。矛盾するようだが、縁結びと丑の刻参り(縁切り)はセットになっているらしい。

(※2)諸説あり。貴船神社は修験者の修行場起源が説として本流。

(※3)あくまで諸説あり。「うちの○○祭りが豆撒きの起源だ!」とか文句言われても困ります。

(※4)二〇一六年、長く途絶えていた深泥池の豆撒行事が、貴舩神社節分祭として復活しました(二〇一六年二月三日追記)。


 ここに記載した内容は深泥池の極々表面的な事柄に過ぎない。昨今の幽霊話(タクシー怪談)など、これらに比べれば遙かに見劣りするものだと私は思うのだが如何だろう。


 おしまい

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