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第四話 勇者、ヤバクね?

 ランド達六人は聖パーテマクー王国を後にした。

 それぞれに秘めた思いはあるのだろうが、この国から、いや、この世界から一切の魔を払い除ける旅へと確かな一歩を踏み出す。

 山間(やまあい)から射し込む朝陽が眩く大地を照らし出す頃を見計らい、一向は街を後にする。小鳥達も彼等の旅立ちを祝福するかのように(さえず)り、爽やかな朝という言葉が実に相応しい。


「ンだよ……今日も暑くなりそうじゃねぇか。こんな日は酒場でキンキンに冷えたビールでも呑んでダラダラ過ごしてぇよなぁ……」


 先程少し見せたヤル気はどこへやら。そんなランドに向けられる四人のジト目線は五寸釘を打ち込むかのように深々と突き刺さっていく。


「アンタ……この清々しい朝陽を浴びてよくそんな事が言えたものね。本当に呆れるわ」

「ランド様はバンパイアか何かどすか?」

「やっぱりクズい人間だね。乙」

「ランド様……勇者の家系であるニーズ家の当主たるもの、 毅然たる態度をとって下さいませ」


 にべもない言葉を浴びせられても何処吹く風のランドは、青々と生い茂る草むらから『狗の尾草』を一本引きちぎると、それを口に咥え、鞘に収められたままの勇者の剣をグルグルと回しながらだらりだらりと歩き出す。その姿を真似てか、パンジャも『狗の尾草』を振り回しながらランドの横について歩いている。傍目から見る分には仲のいい兄妹に見えなくもない。


「ちょっと、もっとしっかり歩きなさいよ! パンジャに悪影響を与えるでしょ!」

「あ? ンだよ、いちいちうるせぇな。俺がどう歩こうが勝手だろ。それに、コイツが勝手に真似してんだから俺のせいじゃねぇだろ。つーか、子供の自主性を否定すんなよな。あ、それともお前もパンジャみたいに俺の横に並んで歩きたいのか?」

「ふ、ふざけないでよねっ! 誰がアンタと一緒に歩きたいなんて言ったのよっ!?」


 その言葉とは裏腹に、ジニーバの頬は紅く染まっていた。その姿に気付いていたのはスーニャだけだったが、敢えて気づかぬふりを決め込みランドの側へと駆け寄る。


「ランド様。形はどうあれ、獣魔討伐の旅に出る事になって、スーニャは嬉しく思います。しかし、このまま当てもなく歩いていても仕方がありません。ここより南に進んだ所に洞窟があるのはご存知ですか?」

「洞窟ぅ? ンだよ、嫌な予感しかしねぇな。そこに何があんだよ?」

「何、という訳ではありませんが、強いて言うならば、その洞窟に獣魔の残党が蔓延(はびこ)っている、という事でしょうか」

「パス」


 スーニャの進言は無下に却下された。


「ランド様! もし洞窟に巣食う獣魔どもが外に出てきたらどうなるか容易に想像出来ますよね? 私達の住む街がどうなってもいいと仰るのですか?」

「ンな簡単に出てくるワケねーじゃん。スーニャは心配性過ぎんだよ。だーいじょーぶ! つーわけでパス」


 どこまでもお気楽なランドの態度に業を煮やしたジニーバがランドの背中に向けて飛び膝蹴りを食らわす。鈍い音が辺りに響き渡った。


「あだっ! な、何すんだこのアマ!」

「何すんだ、じゃないわよっ! アンタには勇者としての自覚とか責任感とか無いの?」

「だからさっきも言ったろーがっ! 俺は望んで勇者になったワケじゃねーんだよっ!」

「それでもアンタがやらなきゃ、獣魔に襲われたらこの国はおしまいなのよ? それに……ア、アンタが……この国の、次期こくぉぅ……」

「あん? 何だって? 聞こえなーい」

「うっさい、バカ! とにかく行くのよっ!」


 ツン多めのデレ少なめを発動させたジニーバは、一人スタスタと洞窟へと向かっていってしまった。


「何なんだよ、アイツ」

「ジニ姉もまだまだガキだね」

「こら、サユ。そういう事を言ったらあきまへん。でも、姉様も可愛らしいところがあるんやねぇ」


 長姉を放っておく訳にもいかず、姉妹とスーニャは後を追う。一人取り残された形になってしまったランドは頭をボリボリと掻くと「しゃーねーな」と呟き、狗の尾草を投げ捨て五人の後を追う。


 一人洞窟へと足を踏み入れたジニーバは、松明の灯りだけを頼りに奥へと足を踏み入れていく。


「アホランド……少しはアタシの気持ちとか考えなさいよね。それよりも、このまま先へ進むのも危険かしら……」


 埃とカビの匂いが充満する洞窟の中はたった一本の松明の灯りだけでは頼りなく、ジニーバは奥へ進む事を躊躇(ためら)い、入口付近で足を止めていた。そのおかげもあり、六人はすんなりと合流する事が出来たのだが。先陣を切っていたスーニャがジニーバの姿を目視するなり駆け寄る。


「ジニーバ様! なんとか間に合って良かったです」

「スーニャ……間に合った、って何が?」

「何やら危険な匂いを察したもので……今ならまだ間に合うハズです」

「危険な匂いって何よ? ランドとの事? それなら別に……」

「そうではありません! いや、それもそうなのですけれど、今はそれはそれでどれがあれで……あら? 何でしたっけ?」


 緊迫した表情から瞬時に間抜けな顔を見せるスーニャを見て、ジニーバは派手にズッコケた。そして私もズッコケた。


「何やってんだよ、スーニャ。さっさと戻るぞ」


 洞窟の入口の方からランド達が追いついて来たが、何故か二人とは一定の距離を保ち、それ以上近付く事は無かった。

 ランドの言葉に違和感を覚えたジニーバは、眉間にシワを寄せあらん限りの罵詈雑言をランドに浴びせかける。


「戻るって何よ? いくらアンタがヤル気なしで脳みそが五グラムしかなくてチ〇コが五センチしかなくて、でも性欲だけは百人前あるけどしょせんは名ばかりのヘタレ勇者でも、ここまで来たんだから刺し違えてでも退治するのが勇者ってものじゃなくて?」


 洞窟の隅には、膝を抱え地面にのの字を書き続けているランドの哀れな姿があった。パンジャがよしよしとランドの頭を撫でていた事がランドの惨め感を更に倍増させていた。


「ジニーバ様、先程も申し上げましたがこの洞窟は危険です」

「スーニャ、私達はこの国の平穏を守るために旅立ったのです。多少の危険は承知の上ですわ」

「ジニ姉、後ろ」


 サユが指差した方向に松明を向けたジニーバは、目を大きく見開きながら口をぱくぱくと開閉し、声にならない声をあげる。

 大きく開かれた口には鋭い牙がギラリと光り、赤黒い宝石のような二つの目は虚ろに宙を舞ったかと思えば、ジニーバを捉えじっと見つめている。口元と同様に四肢の先には鋭く尖った爪が伸び、洞窟内では四足歩行だが、おそらく開けた場所ならば二足歩行も可能なのだろう。鉱物を思わせる鱗に覆われた表皮を持つその姿はまさに異形、亜種、そして獣魔と呼ぶにふさわしい姿だった。

 獣魔の中でも上位に位置する上級獣魔……それは……


「何でンなとこにドラゴンがいるんだーっ!? アホかーっ!」

「ふ、ふへ、ふへへ、ほどどどど……どりゃぎょん……」

「姉様! しっかりして下さいましっ!」

「うーわ、すっげ」

「カッコいいー!」

「ですから申し上げましたのに……」

「ざっけんなーっ! 何でいきなりドラゴンと遭遇(エンカウント)しなきゃなんねーんだよっ!?」

「先代の御主人様はここの獣魔を殲滅されたはずなのですが……どうやら卵が残っていたようですね」

「卵て……と、とにかく逃げるぞーっ!」


 一目散に洞窟の入口を目指して駆け出す一行をドラゴンが見逃す事は……残念ながら無かった。

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