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第三話 勇者、戦える?

 聖パーテマクー王国……この国は未曾有の危機に襲われていた。ある日突然、何処からともなく現れた『獣魔』によってこの世界は一夜にして闇に葬られた。人々は絶望に打ちひしがれ、暗雲が垂れ込める荒れ果てたこの大地に差し込む一筋の光明……勇者の誕生だった。

 荒野を駈け、襲い来る獣魔を薙ぎ倒すその姿はまさに勇者の名を冠するに相応しいものだった。勇者はその類い稀なる戦闘(バトル)スキルをフル回転でいかんなく発揮し、パーテマクー王国を救った英雄は、そのまま世界を救う為に旅立っていった。

 その後の勇者の行方は要として知れず……

 それが今より八年前の話。


(わり)ぃけど俺は世界を救おうなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇからな。どうせあのクソ親父がサクッとやっちまうんだから。俺がやるこたぁ、せーぜーあの戦闘(バトル)マニアのクソ親父が討ち洩らしたザコをテキトーにぺしぺし叩き回るくらいなもんだろ」


 ボロ雑巾状態のランドが、噴水の縁にもたれ掛かるように座りながら呟く。元より無かったヤル気はこれで完全にゼロになったようだ。


「アンタがどう思おうと勝手だけど、アンタのワガママにアタシ達を巻き込まないで欲しいわね」

「激しく同意」

「ウチも」

「うーん……じゃあ私も」

「ランド様、僭越ながらスーニャもそう思います」

「僭越ながらの使い方、間違ってね? つーかよぅ……巻き込まれたのはコッチの方だっつーの。いい迷惑なんだよ……俺の事なんかほっといてくれりゃいいんだっつーの」


 吐き捨てるように呟いたランドは腰の剣を鞘ごと投げ捨てる。


「一歩この街から外に出てみろ。獣魔がいるんだぜ? お前ら……戦えんのかよ?」


 ランドの言葉に全員が沈黙する。確かに、戦闘力としては申し分無い能力を持ち合わせているのかも知れないが、実戦となれば話は別だろう。


「スーニャがつえーのは知ってる。ハサミ女もまぁ大丈夫だろう。だがな……ルスタオ、サユ、パンジャ。おめーらは多分厳しいんじゃねーか?」

「ハサミ女とは何よっ!?」

「んじゃ、シザーウーマン」

「同じ意味じゃない! まぁいいわ。それより、妹達に戦力外通告とは随分な言い方じゃない?」


 座り込むランドを見下ろすジニーバ。しかし、ランドはその視線に気付きながらも目を合わす事無く語り続けた。


「じゃあ聞くがよ……木刀にムチにハリセンだぁ? そんなモンで戦えると本気で思ってんのか? 世の中そんなに(あめ)ぇモンじゃねぇんだよ、世間知らずのお嬢様よぉ。さっきの俺への攻撃も手ぇ抜いてた訳じゃねぇんだろ? 効いたのはスーニャとシザーウーマンの攻撃だけだったぜ? まぁ、スーニャは手加減しただろうけど」


 ランドの言い分は的を射ていたのか、誰もそれに対して反論することは無かった。王女達は一様に俯き、互いの顔を見合わせていた。確かに彼女達のアタック・ウェポンでは、人間に対してはそれなりのダメージ(肉体的にも精神的にも)を与える事は出来るだろうが、獣魔が相手では致命傷を与える事は不可能に近い。ランドの持つ勇者の剣は言わずもがな、ジニーバの巨大ハサミは切れ味も鋭く戦力としても申し分ないと言える。スーニャの鋼の箒も本来の用途をガン無視しており、加えてスーニャ本人の戦闘力も計り知れないとくればエース・アタッカーの資格十分である。

 それに対してルスタオ、サユ、パンジャの三人のアタック・ウェポンでは心許ない、戦力として頭数に入れられないとランドは判断したのだ。


「……確かにアンタの言う通りかも知れない。でもね、アンタがアタシ達の事を全部知ってるわけじゃないのも確かな事よ。あと、シザーウーマンの呼び名を定着させないでよね」

「ついさっき知り会ったオメーらの事なんて知るわけねーだろ。ま、ベッドの中でなら手っ取り早くお互いの事を知る事が出来るけどな」

「ランド様……ぶっ叩きますわよ?」


 笑顔のまま眉間に青スジを立てたスーニャが鋼の箒の柄をランドに向け、ジニーバの横に立つ。


「じゃあ、俺の知らねぇオメーらってのは何なんだよ?」

魔力付与(エンチャント)


 ルスタオの呟きを皮切りにサユとパンジャもそれぞれ呟くと、三人のアタック・ウェポンに光が宿り始めた。


「オメーら……付術師(エンチャンター)かよ……」

「これでもウチらは戦力にならはりませんか?」

「……舐めんなし」

「ランド様、私もちゃんと戦えます! 力をお貸ししますので、犯して……」

「それはもういいっつーの!」


 駆け寄り抱きつこうとするパンジャの顔面を片手で抑えつけ、ランドは改めて全員の顔を見渡す。三白眼には僅かながらヤル気の炎が灯る。強力なアタッカーが三人、底知れぬ力を秘める付術師(エンチャンター)が三人。戦力としては、そこらの獣魔を相手にしてもお釣りが来る程の大ダメージを与える事は可能である。

 攻撃力はそれでいい。しかし……しかしだ。ガード・ウェポンはどうなの? ジャージにセーラー服に着物アンダー・ザ・スク水にスウェットにチャイナドレスにメイド服だろ、一撃食らったら即死するよ、君達。え、大丈夫なの、これ?

 一人の町人を発見した私こと神は、彼を媒介にしてそれとなくランド達に伝える事にした。


――そこを往く名も無き町人Aよ。私の声が聞こえますか。


「なんかスゲー悪口を言われた気がする……誰だ?」


――私はこの世界の創造主たる神です。暫しの間、そなたの身体をお借りしたいのですが良いですか?


「はぁ? ンな事出来んのかよ? 出来たとしても、タダじゃこの身体を貸す訳にはいかねぇよ」


――分かりました。では、そなたに名前を与えましょう。


「名前……だと? よし、分かった。好きなように使ってくんな」


――感謝致します。


 町人Aへの憑依に成功し、ランド達に語り掛ける事も可能になった私は、彼らの元へと駆け寄り先程の懸案を伝える。


「お前た……いや、あなた達はこれから獣魔退治に向かわれるのですよね? 差し出がましい事かも知れませんが、そのようなガード・ウェポンで旅に出るなど自殺行為にも等しいかと……」


 旅に出た瞬間、ジ・エンドでは困る。死んだらおしまい、サヨナラ、グッバイ、アデュー、アディオス、アッディーオ! しかし、私の言葉など意にも介さないランド達は一様に眉をひそめている。


「俺達が簡単に死ぬ様に見えるってか。つーか、そもそも獣魔の攻撃なんざ喰らわねぇよ」

「そうね。先手必勝、一撃必殺、一気呵成がアタシの信条よ」

「モブに言われる筋合いねーし」

「こら、サユ! そんな言い方したらあきまへんえ」

「私の事はランド様が守ってくれるからだいじょーぶ。ねぇ、ランド様?」

「なんで俺が守らなきゃなんねーんだよ?」

「ランド様、勇者は人々を守る立場にあるのですよ? そして、その勇者であるランド様を守るのがメイドである私の務めです」


 土埃を払いながら立ち上がるランドの根拠の無い自信はどこからくるのか分からない。


「それによぉ、その辺にいる獣魔なんざどーせザコだろ? らくしょーらくしょー、よゆーよゆー。んじゃ、ちょっくら行ってくらぁ。あ、それから……帰ってきたら俺がこの国の王様だから。よろぴくー」


 チンピラさながらにゆらゆらと歩き出すランドの後を慌てて追いかける五人の背中を見送りながら、私は町人Aの身体を彼に返す事にした。そういえば彼に名前をつけるという約束を思い出し、何か良い名は無いかと思案に耽る。

 思案に耽った所で妙案が浮かぶ訳でもないので、いつも通り適当に名付ける事にした。




 モブロー、と。

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