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第一話 勇者、旅立つ?

「……だりー。やる気しねー。歩くだけで体力と気力と精神力と……あとなんか色々消耗するわー……」


 猫背のまま両手をダラリとぶら下げ、だーらだーらと歩いている青いジャージ姿のこの男。一体誰がこの男を『勇者』だと思うだろうか。




 この男は正真正銘、天地天命に誓って、紛れもなく本物の『勇者』なのだ。

 ありえねー、とか言わない、そこ。一番そう思っているのは私なのだから。

 はぁ……なんで私はコイツに『勇者の紋章』を授けてしまったのだろうか?

 ん? お前は誰だって? あぁ、申し訳ない。私は『神』だ。

 この世界『イルムンガルド』を創成し、空とか海とか大地とか部屋とかワイシャツとかなんやかんやと造り上げたのだ、えっへん。あ、ちょっとっ! 石とか投げないでっ! 痛っ! 誰だ、今この『阿修羅像』投げつけた奴ァ!? 出てこいやゴルァ!




――――――――――――閑話休題(ちょっとまってね)――――――――――――




 さて、この男【ランド・D・ニーズ】が今、何をしているのかというと、まぁ、街の自警団と言えば分かり易いだろうか、この世界に突如として現れ出した【獣魔】と呼ばれる得体の知れぬ存在を退治する使命を【聖・パーテマクー王国】の国王から授かり、その長い旅の途上にあるのだ。

 あるのだが……おかしいなぁ……どこでどう人間という存在(モノ)の創り方を間違ったのだろう。こんな変な存在(モノ)を創った記憶は無いのだが。




 話は数時間前に(さかのぼ)る。

 国王からの招集に一向に応じようともしなかったランドだったが、18度目の招集は強制召喚とでも言えば良いか、近衛兵数十人がかりで無理矢理国王の前へと謁見(ひっぱりだ)させられたところからこの物語を語り出すとしよう。




「おぉ! お前があの誇り高き勇者『シー・D・ニーズ』の血を受け継ぐ勇者『ランド・D・ニーズ』か。待っておったぞ。早速だが……」

「断る」


 筋骨隆々な肉体美を惜しげもなくさらけ出した素肌にツータックという、個性が核融合を起こしたかのように爆発したファッションセンスだ。そして、即行でキャンセルするとは、本当にヤル気の欠片も見当たらない。


「最近、この国の近辺にも『獣魔』と呼ばれる魔物が現れ始めたのだが、そなたが本物の勇者の血を受け継ぐ者ならば、この脅威を払い除けてくれるのであろう?」

「あの、人の話聞いてます? 断るって言ったよな? 俺、そーゆー面倒(めんど)いの嫌なんで。他の人、当たってもらえます?」

「おぉ、そうか! 引き受けてくれるか! ならば褒美としてワシの自慢の四人の娘のうち一人をそなたの妻とし、ワシの跡を継いでこの国の次期国王としての座を約束しようではないか!」

「マジでか!? っしゃ! その話、乗った!」


 全く噛み合っていなかった会話が延々と続くかと思いきや、呆気に取られる大臣や近衛兵達をよそ目にあっさりと商談成立した二人のやり取り……当然と言うべきであろう、四姉妹は地鳴りのような足音を伴ってやってくるなり国王の前で馬鹿笑いしているランドを突き飛ばすと、国王に向けて言葉を荒らげた。


「お父様っ! 何をまたバカな事を言っているのですか!? アタシはこんなヘンな人と結婚だなんて絶っっっ対に嫌ですからねっ!」


 鬼の形相で訴える金髪メガネ美女が国王の首根っこを掴んで前後に揺らす。それに伴い彼女の後頭部の尻尾もふりふりと揺れていた。


「お姉様の言う通り、ウチも嫌やわ」


 着物の裾を掴んで口元を押さえながら、ランドを横目で見ている美しく長い黒髪の美女も姉と同意見である事を主張する。


「コイツが金持ちだったら話は別だけど、ボクのマネー・センサーが反応しないし、見るからに人間のクズじゃん、コイツ。ボク無理。オヤジ、ざけんなし」


 フードを目深にかぶり直し、ポケットに手を突っ込んだまま毒づく青髪ツインテール少女は、ランドを見下ろし、いや、見下している。


「お姉ちゃん達、ちょっと落ち着きなよー。もしかしたらこの人、実は凄い人かも知れないよー? 私は別にいいと思うけどなー」


 チャイナドレスを着た黒髪おかっぱ幼女(・・)だけは姉達とは違い、賛成意見を出している。


「パンジャ、アンタはまだ10歳のガキなんだから結婚なんて出来る訳ねーし」

「そういうサユ、アナタも14歳なんだから子供でしょ」

「うっせーし。つーか、着物の下にスク水着()けてるような変態ルス(ねえ)には言われたくねーし」

「へ、変態とは何よ、変態とは!」

「は? 見たまんまじゃん」

「ルスタオもサユもやめなさい! 大体、もしお父様の言う通りになったら、その、け、結婚、するのは長女のアタシ……になるんだから。あ、でも、アンタ達がこの人と結婚したいって言うんだったら別に譲ってあげてもいいような気もするけど……」

「ジニ(ねえ)……結婚したいのかしたくないのか分かんねーし」


 女三人集まれば(かしま)しい、とはよく言ったものだが、女四人集まれば、ただただやかましいだけである。

 ヒートアップした四姉妹に勢いよく突き飛ばされてしまったランドは、そのまま右手で頭を支えると、その場で横になり四姉妹のやり取りを傍観していた。


「うーん……あの下の二人は論外として……やっぱり長女と次女の二択だな。しかしなぁ……長女の方はメガネ美人だけど、あんまりおっぱい無さそうだよなぁ、どう見ても。次女の方は……普通だよなぁ。スタイルも普通だし、つーか、普通過ぎなんだよなぁ」


 ランドの呟きを耳ざとく聞き取ったのは長女のジニーバだった。足早にランドの元へと歩み寄るやいなや、むんずとジャージの襟首を掴み、そのまま姉妹達の前へと放り投げた。


「アンタ、今……何かものすごォく失礼な事を言ってたわよねぇ?」


 ジニーバに放り投げられた際に、したたかに臀部(でんぶ)を強打したのか、お尻をさすりながらランドが抗議する。


「おぃぃぃっ! テメ、何しやがるっ! ケツが二つに割れたらどうすんだっ!」

「最初から二つに割れてるわよ。なんなら四つに増やす?」


 どこから取り出したのか、ジニーバは巨大なハサミを手に凄んでみせた。


「ンなもん、どっから出したんだよっ! つーか、ホントに王女なのかよ!?」

「ワシの娘がどうかしたか?」

「ホントなんかいっ! つーか、オッサンさぁ、これじゃ話が違うぜ。この四人から一人選べだぁ? 下の二人はまだガキじゃねーか! 必然的に選択肢は半分に減っちまったよ!」


 そのランドの言葉に今度はサユとパンジャが反応する。


「ボクがいつアンタと結婚するなんて言ったし? つーか、うざいし」

「その性格の悪さと年齢制限が無ければ即採用なのによぅ……なんだよそのワガママボディはっ!」


 ランドの視線はサユの胸の辺りでふよふよと泳いでいた。その視線に割り込む形でパンジャがニュッと顔を出す。


「私だって、あと五、六年もすればきっと素敵なレディになると思いますけど……?」

「幼女に興味はないっ! いや、待てよ。そうか……まぁ、五、六年後なら……」

「アンタ……ホントに人間のクズね」


 ジニーバが心底呆れたように言う。


「うるせーっ! なんだったら今すぐ俺の股間のグングニルをテメーの股間の腐った沼にぶっ刺して浄化してやろうかっ!? アァン!?」

「刺せるもんなら刺してみなさいよ、この〇ン〇野郎! それにさぁ……アンタの股間のソレ、腐ってんでしょ? 臭うわよ」

「ぬあぁあぁっ!! テメー、言うに事欠いてなんつー事を……えーいっ! やめたやめたっ! 大体だなぁ、何で勇者であるこの俺がテメーみてーな性悪女と『おせっくす』しなきゃなんねーんだっつーの。俺のグングニルはもっと高潔で純粋で素直で俺にだけ従順な女のためにそそり立ってんだよ」


 ランドのクズ人間発言は、とても勇者としてのそれとは思えなかった。しかし、この人の考え方は想像のはるか斜め上を爆進していた。


「おぉ、勇者ランド・D・ニーズよ、それほどまでに言うのならば、ワシの娘達を連れて旅に行くが良い。旅の途中で仲も深まるであろう。それに、娘達は各々に武術の心得もある。そなたの足手まといにはならぬはずじゃ」

「おぃぃぃっ! オッサァァァン! もう話がめちゃくちゃじゃねーかっ! つーか、コイツらがそれを許さねぇだろうに」


 私も許さない、そんな事は。しかし、末っ子のパンジャが乗り気だった。そして、末っ子の貞操を心配した姉達も渋々ながら国王の言に承服したのだった。


「パンジャに何かしたら絶対に許さないから! だからと言ってアタシに何かしたら……その〇ン〇、ぶった斬るからね」

「ふざけんなーっ! 俺にだって選ぶ権利くらいあるわーっ!」

「お姉様もこんなのに絡まれて大変ね」

「乙」

「だったら私が代わりに相手してあげよっか?」

「だから俺に幼女を抱く趣味はねぇって言ってんだろーがぁぁぁ! 好き放題言いやがってぇぇぇ……ケッ、頼まれたってテメーらなんかとヤってやるかよ! ヴォケッ!!」


 こうして勇者の旅は始まったのだった……

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