各地小咄~幽香な話とアリスな話~
―太陽の畑・幽香宅
フラワーマスターこと風見幽香は自宅で紅茶をすすっていた。
幽香「…そろそろ来る頃かしら」
幽香は窓のそとを眺めた。ついにこの日がやって来たんだ。幻想郷は今日で終わりかもしれないわね。
幽香が物思いにふけっているとコンコンッと戸を叩く音がした。
幽香「やっぱり来たのね。」
椅子から腰を上げ扉まで歩いていった。
幽香「久しぶりね」
幽香は扉を開いた。
幽香「エリー、くるみ!」
扉の前には二人の少女が立っていた。―金髪、麦わら帽子、曲がった鎌―エリーと―金髪、白いリボン、黒い翼―くるみである。
エリー「お久しぶりです!」
くるみ「幽香さん、髪切りました?」
幽香は二人に中に入るように促した。二人に紅茶を出し、話し出した。
幽香「私が出ていってから夢幻館はどうなっているの?」
エリー「変わってないですよ。幽香さんがいつ帰ってきてもいいように常にきれいな状態にしてあります。」
幽香は困ったような顔をして言った。
幽香「悪いけどそっちに戻る気はないわ。夢幻館はあなたたちの好きなようにして頂戴。」
するとくるみが言いにくそうに話した。
くるみ「それでは今回の戦いでも…」
幽香「私たちは敵になる。」
エリーとくるみは気まずそうに顔をあわせた。
エリー「でも…私…幽香さんに死んでほしくない…」
幽香はエリーとくるみを見つめた。
幽香「もし私がそっちの味方をすればどうなると思う?」
エリーとくるみは再び顔をあわせた。
幽香「そうよ。あなたたちのお荷物になる。そっちの世界の最弱になるくらいならこっちの世界の最強として潔く死んでやるわ!」
しばらく沈黙があった。場に気まずい空気が流れる。沈黙を破ったのはエリーだった。
エリー「幽香さん…随分と変わりましたね。昔の幽香さんならもっと強気で…」
エリーの声は静かであったが、はっきりと失念の思いが含まれていた。幽香は思わず顔を背けた。エリーは立ち上がり背を向けた。
エリー「なんだか…すごく悔しいです!」
一点の皮肉もこもっていないエリーの純粋な言葉は幽香の心に重くのしかかった。
エリーはそのまま扉から出ていった。くるみもそれに続いた。
幽香「ごめんね。エリー、くるみ…」
幽香はひとりで呟いた。
―アリス宅
???「ここみたいですね。神綺様。」
アリスの家の前に二つの影があった。魔界神、神綺とそのメイド、夢子である。
夢子がアリスの家の扉をノックした。しばらくすると中から扉が開きアリスが現れた。
アリス「あ!神綺様!夢子も!」
神綺「久しぶりね!アリスちゃん!」
夢子「成長早すぎないか?」
アリスは二人を中に通し座らせた。
アリス「ごめん。こんなに早く来るとは思ってなかったもんだからなんにも用意できてないんだけど。」
神綺「そんなに気を使わなくてもいいのよ。ちょっとお話がしたかっただけだから」
アリスは真剣な顔になり神綺を見つめた。神綺の言いたいことはだいたいわかる。
アリス「そっちに味方する気はないわよ。」
夢子「まあまあ…そう焦らないで。」
神綺「そう言うと思って、今回は私たちに勝つための秘策を教えようと思ってね。というかあなたなら多分、分かってるんじゃないかしら」
そう言うと神綺はアリスに一冊の本を渡した。アリスは鳥肌がたった。
アリス 「こ、これは…」
慌てているアリスを諭すように神綺は静かに答えた。
神綺「そうよ。これは究極の魔法を記した本。『Grimoire of Alice』よ。」
アリス「でもこれは私が壊したのよ。あの状態から修理したというの?」
神綺はうふふっと笑い答えた。
神綺「あの状態から修理するのは無理よ。これは原本をもとにして作った二代目よ。でも性能は前と全く同じだから安心してね!」
アリスは本を受け取った。そのとたん自分が何をすべきかをなんとなく理解した。今すぐ霊夢に会わなければ!
アリス「神綺様、夢子、ありがとう!ちょっと出掛けてくるわ!」
そういうとアリスは家を飛び出していった。
夢子「神綺様…実はアリス達の味方をしたいんじゃないんですか?」
神綺はゆっくりと首をふった。
神綺「いいえ。私もこの幻想郷を破壊するために来たのよ。でもね…アリスちゃんが幻想郷を守りたいっていう気持ちも応援してあげたいの。」
夢子はあははっと笑った。
夢子「魔界神も親心を大切にしますか!まあ、私もアリスの姉として応援していますけどね!」
―その頃アリスは博麗神社に向けて全速力で飛んでいた。早く行かなければ。幻想郷が滅んでしまう前に!幻想郷を弱体化させたスペルカードを今こそ放棄する時だ!