各地小咄~命蓮寺な話~
―命蓮寺
命蓮寺の門前にも怪しい人影が現れた。長髪の赤髪で着物をきた少女だ。
???「ここはお寺かしら?ずいぶんと大きいのねえ」
そう言うと少女は寺に足を踏み入れた。
それを端から見ている者がいた。庭を掃除中のナズーリンである。ナズーリンはその少女を見たとたん冷や汗が止まらなかった。ネズミの勘だろうか、圧倒的な力を肌に感じたのだ。それでナズーリンは慌てて寺に駆け込んだのだ。さっきの雷といい一体今日は何が起ころうとしているんだ?
ナズーリン「ご、ご主人!大変だ!侵入者だよ!」
ナズーリンの主人であり、毘沙門天の代理である寅丸星はナズーリンの声を聞いて慌てて出てきた。
星「ど、どうしたんですか?ナズーリン。」
普段は落ち着いた態度でどんな強敵にも果敢に向かっていくナズーリンが慌てている。一体何があったんだ?星はナズーリン以上に慌てていた。
ナズーリン「だから!侵入者だよ!とりあえず来て!」
そう言うとナズーリンは飛び出していった。星はそれに続いた。
ナズーリン「あいつだ!あの着物を着た…」
星はその少女を見た。なんだ…普通の少女じゃないか。ナズーリンは何を見てあんなに慌てたんだろう…
星「ナズーリン。とにかく落ち着いてください。もしかしたらお客様かもしれないのですよ?」
ナズーリン「で、でもご主人…早く追い返したほうが…」
慌てるナズーリンを星はさとした。
星「うーん。とりあえず話してみましょう。敵かどうかはそれから決めればいいわ。」
何を呑気な事を…ナズーリンは心の中で呆れていた。なんとかしてご主人を戦う気にさせなければ…ナズーリンは身構えた。
ナズーリン「覚悟!」
ナズーリンはゆったりと歩く少女に向かって飛び出していった。
星「ナズーリン!?」
ナズーリンは弾幕を力いっぱい少女に向かって乱射した。少女は奇襲に驚きながらも弾を軽々とかわし、お返しにと弾を1つナズーリンにぶちこんだ。
ナズーリン「う…ぐぅ…」
ナズーリンはその場に倒れこんだ。なんてことだ…たった一撃でやられてしまうとは。博麗の巫女のお札がかわいく思えるレベルだ。
星「ナ、ナズーリン!!」
星は慌ててナズーリンに駆け寄った。肩を揺らしてみたが、もう意識は無い。星は少女をきっと睨み付けた。
???「え?えぇー!?ご、ごめんなさい!急に襲ってきたもんだからつい…」
星「ナズーリンの言う通りでした。最初に私が行くべきでした!」
星は弾幕を少女に向けて放った。しかし少女はそれを軽々とかわした。
星「光符『正義の威光』!!」
星はスペルカードを唱え、弾幕を放った。少女は弾をかわしながら嬉しそうに笑った。
???「あら。素敵!」
星「法灯『隙間無い法の独鈷杵』!!」
星は更にスペルカードを唱え弾を飛ばした。少女はまたも軽くかわし微笑んだ。
???「あなたの弾幕、美しいわ!お名前伺ってもよろしいかしら?」
星は自分の弾幕が全く通用していないのを見て、ショックを受けていた。博麗の巫女さえ、自分の弾幕を見て笑ったりはしなかったのに!
星「と、寅丸星と申します。」
???「寅丸星さん?私は小兎姫っていうの。よろしくね!」
星「小兎姫さんは反撃できないのですか?」
星はつい言ってしまった。あまりに自分が惨めで焦っていたのだ。
小兎姫「反撃?したほうがいい?」
星「当然です!今度はあなたの番ですよ!」
すると小兎姫は右手に白い弾を出現させた。星はそれを見て膝が震えた。あれはナズーリンを一撃で仕留めた弾だ。当たれば自分もただではすまない。星の心は一瞬にして恐怖に支配さてしまった。
小兎姫「じゃぁいくよ!」
星は恐怖で固まった。落ち着け…落ち着くんだ!星は自分にそう言い聞かせるが足が動かない。小兎姫の手から弾が放たれようとしていた。
???「お待ちください!小兎姫さん!」
突然、背後で声がした。
小兎姫「ん?これはもしやピンチの時に助けが入るお決まりのパターンかな?」
???「困っている方を助けるのは私の仕事です。」
そこに現れたのは命蓮寺の僧侶、聖白蓮だ。
白蓮「この度は家の者が失礼いたしました。」
小兎姫「なんか謝られた。」
白蓮「私は聖白蓮と申します。小兎姫さん、中でお茶でもしませんか?」
小兎姫「じゃあ遠慮なく。」
白蓮は寺の中に向かって歩き出した。小兎姫もそれに続いた。
星「聖…」
星もナズーリンを背負って白蓮に続いた。
寺に入り、白蓮は小兎姫を部屋に通した。
白蓮「ここでくつろいでおいてください。すぐにお茶を出しますので。」
しばらくして白蓮がお茶を用意し、小兎姫と話始めた。
白蓮「先ほどは本当に失礼いたしました。ナズーリンも星も普段はあんなに逆上したりしないのですが…今回ばかりは許していただけないでしょうか?」
となりで座っている星は緊張していた。聖がこんなに下手にでるのを見たのは初めてだ。
小兎姫「あら…別に怒ってなんかないわよ。弾幕もきれいだったし…」
しばらく沈黙があった。星は白蓮の顔色を伺った。白蓮は何か悩ましい顔つきだ。白蓮は口を開いた。
白蓮「小兎姫さん。あなたはもしかして…そのー…外界とかから来たのですか?」
白蓮は小兎姫が放つ異質な雰囲気が不思議で仕方がなかった。
小兎姫「んー?外界?知らないわ。」
小兎姫はしばらく天井を見つめ、白蓮に目線を戻した。
小兎姫「今日は散歩してたら突然、景色が変わってお寺が現れたのよ。」
白蓮「それがここだったと…」
小兎姫「そうなの。あ!そうねー…まずは知り合いを見つけないとね。」
小兎姫は突然立ち上がった。
小兎姫「じゃあ…そろそろ失礼するわ」
星は困惑した。この人やっぱりすごいな。なんとなく雰囲気が違うのだ。
星「お知り合いを探すのですね。私もお供しましょうか?」
そういうと小兎姫はにっこりと笑い、
小兎姫「ありがとう!気持ちだけ受け取っておくわ。また困ったときはここを頼りにさせてね!」
白蓮「もちろんです!それでは門までお送りしましょう。」
小兎姫を門までお送り、門から白蓮と星は小兎姫に向けて手を振っていた。小兎姫の姿が見えなくなると白蓮は真剣な目付きで星を見つめた。
白蓮「星。いそいで出かける準備を。私は村沙と一輪を呼んでくるわ。」
星「いったいどこへ?」
白蓮「博麗神社。もう手遅れかも知れないけど、急いで向かうわよ!」
星は黙って頷き寺の中に戻った。星はこんなに焦っている聖を見るのは初めてだった。
白蓮「まさか…そんなことって…」
白蓮はふっと笑って呟いた。
白蓮「まさかね…」