各地小咄~妖夢な話と文な話~
―人里外れ
ここに、夕飯の買い出しを済まし冥界へ帰ろうとする半人半霊がいた。魂魄妖夢である。
妖夢「やれやれ…幽々子様はなぜ食べる必要が無いのにあんなに食べるのでしょうか…」
妖夢がため息をつきながら歩いていると、後ろから声がした。
???「剣士たる者、余計な心の揺らぎは隙に繋がる。悩みなら私が聞いてやるぞ。」
妖夢は後ろを振り向いた。そこには紫の髪の剣士が立っていた。
妖夢「どちら様でしょうか?」
???「私は明羅。お前と同じ剣士だ。」
妖夢「そうですか。私は妖夢です。冥界で庭師やってます。」
すると明羅は突然、刀を引き抜いた。続いて妖夢も二本の刀を鞘から引き抜く。二人は刀を構え、間合いに入った。夕焼けが辺りを橙色に染めるなか、刀が交わる音が響いた。二人は一度にらみあった後、刀を下ろし、鞘にしまった。
明羅「ふっ…魂魄妖夢。お前とはまた会えるかもしれんな。」
妖夢「その時は私の悩み、しっかり聞いてもらいますからね?」
明羅は笑みを浮かべた。
明羅「どうせたいした悩みではないのだろう?お前の刀からそう伝わってきたよ。では…」
妖夢「さようなら。明羅さん。」
明羅は背を向け、林の中へと消えていった。
―妖怪の山ふもと
妖怪の山のふもとに怪しい人影があった。丸眼鏡を掛け白衣を着た女性である。何やらさっきからぶつぶつと一人で呟いている。
???「一体何が起こったというのだ…突然こんな山に飛ばされて…私の研究室はどこへ行ったの?」
そう言いながらそこらを歩き回っていると、頭上を影が横切った。
???「あやややや…なんか変な服装の人を発見しました。」
山の天狗、射命丸文だ。文は白衣の女性にカメラを向けた。
文「一枚よろしいでしょうか?」
白衣の女性はカメラを向けられて初めて反応した。
???「何それ?武器?そんなものは初めて見るわ。」
文は不思議そうな顔を向けた。
文「カメラを見るのが初めてなんですか?ますます不思議な方ですねえ。是非取材させて頂きたいです。」
???「待て。まずそのカメラとかいうやつの説明をしてくれ。」
文は今度は困った顔を向けた。
文「取材はそれからですか…そうですねえ…まあ簡単に言いますと、写したものを絵にする機械とでも言いましょうか。」
???「それはつまりどういうことだ?」
すると文はポケットから写真を一枚取り出した。
文「これはこの前カメラで妖怪の山を写した時の物です。これを写真といいますが…」
白衣の女性は目を見開いた。
???「こ、これはすごい…本物そっくり!いや、本物その物が描いてあるじゃないか!それをこんなに小さな物で?ま、まさかこれは科学?」
文「そうですよ。最近では幻想郷でも科学が普及し始めましてねえ。本当に便利なんですよ。」
???「やっぱりそうか…夢美にもらった本にも写真があったからまさかとは思ったけど。ちょっとそのカメラ貸してくれないかしら?」
文「いいですけど何に使うんです?」
???「ちょっと分解して中身を見せてもらうわ」
文は顔を真っ青にしてカメラを取り返した。
文「止めてくださいよー!大事な物なんですから」
???「じゃあ私と勝負して勝ったらって事でどう?」
それって私に利点ないよね。文はそう思った。
文「あー!わかりましたよ。カメラは渡せませんが、科学好きの河童を紹介するのでそれで勘弁してください。」
???「仕方ないわね。それでは早く案内しなさい。」
文は相当頭にきたが、仕事上これくらいの事は慣れっこだ。すぐさま文は河童のいる川に向かって歩き出した。
???「あら?飛ばないの?」
文「飛べば目立ちますからね。隠すようなことではないのですが、あなたのような珍しい方は騒ぎの種になりかねませんから。」
ほう…白衣の女性は思った。さっきからなかなか知的な話し方をするな。今は頼るあてもないわけだから、一応知り合いくらいにはなっておくべきだな。
???「申し遅れた。私は朝倉理香子という。以後よろしく。」
文「突然ですね。理香子さんですか。私は射命丸文と申します。」
そんなこんなで、二人は川に着いた。
文「おおーい!にとりー!」
理香子「そんなんで河童がでてくるのか?」
するとその時、川から水色の服を着た少女が現れた。河城にとりである。
にとり「げげ、人間!?天狗に呼ばれたと思ったんだけどなー」
理香子「本当に出てきた。」
文「呼んだのは私ですよ。確かに用があるのはこちらの方ですけど。」
にとりは川から上がり、理香子の前に立った。
にとり「へえー。珍しい服じゃないか。で?私に何の用だい?」
理香子「あなた科学に興味があるんでしょう?」
にとり「文に聞いたのかい?うん確かに興味あるよ。」
理香子「それについてお話がしたいの。」
にとり「用ってのはそれかい?いいよ!いくらでも話してあげるよ!」
そう言うと二人は科学談義に花を咲かせた。どうやら意気投合したみたいだ。
文「それでは私はここらで…」
二人は会話に夢中になって文の声が聞こえていない。文はにこっと笑うとそのまま飛び去っていった。