二話
桃太郎は一路、南を目指します。
どうせ死ぬのだから……万が一にも鬼退治を成功させる可能性があるのなら、それを為したいと思った所以です。
自分が鬼を退治して村に帰る情景を想像して、桃太郎は小さく笑います。
喜び祝う村人、優しく迎えてくれるお爺さんとお婆さん。
そこから生まれる様々なことを考えながら歩いていると、やがて日が傾いてきたので桃太郎は野宿の準備を始めます。
野党や鬼に見つからないよう、街道から離れ死角になる場所に乾いた枝葉を集めて火を焚きます。
野営の準備が整う頃には辺りは既に夜になっていました。
周囲に気を配りながら体を休めていると、背後からなにやら物音が聞こえます。
人や鬼のものではない小さな気配に、桃太郎は興味を抱きます。
「獣であれば捕えて、夕飯にしよう」
慎重に草むらを掻きわけ探ると、そう遠くない場所で桃太郎は不思議な光景を目にします。
獣が3匹、身を寄せ合って寒さをしのいでいます。
犬と猿と雉……本来であれば天敵であるはずの3匹が仲良く身を合わせる姿は、ある種の異様さすら漂わせています。
彼らは桃太郎に気が付くと身を起こし、警戒心をあらわにしました。
「お前たちは、どうしてそんなに仲良さそうにしているのか?」
桃太郎が率直な疑問を投げかけます。
「私たちは獣の社会から弾かれたのです」と犬。
「犬と仲の良い猿など、この世のどこにおりましょうか」と猿。
確かに犬猿の仲と言われるほどの間柄である犬と猿が仲良くしているなど、桃太郎は他で見たことがありません。
「では、雉は一体どうして?」桃太郎が問いかけます。
「捕食されるべき私を、彼らは受けれてくれます」雉が泣きながら語ります。
「私たちの誰もが同族の中では受けれてもらえなかったのです」犬も泣いています。
「だからこそ、私たちはお互いに受け入れ合うのです」猿が皆の涙を拭います。
桃太郎は彼らを羨ましく思い、より詳しく話しを聞こうと焚火に誘います。
ひとりと3匹は、焚火を囲んで語り合います。
桃太郎の心が、生まれて初めて他人と触れあう喜びに満ち溢れます。
自分の生い立ちに涙して、彼らの生い立ちに涙して……みなは泣きながらお婆さんの作ってくれた黍団子を食べます。
藁のこびりついた団子は酷い味でしたが、それすらどうでもいいと思えるほど彼らの心は喜びで溢れています。
身の上話が一段落して、これからの話になったときに桃太郎は語ります。
「私は鬼ヶ島の鬼を退治して、村の人々に受け入れてもらいたい」
人でなし、と蔑まれた自分は一体何者なのか。
桃から生まれた桃太郎。けれども自分の血は赤く、そして鉄の味がする。
それがこの世で最も美味だと言われる桃の味だとでも言うのか。
そんなことは鬼を退治すれば、きっとどうでもいいことになるに違いない。
「自分たちも、そうなることができるのかな」
鬼を退治すれば何もかもが変わる。目を輝かせて語る桃太郎に3匹は心を惹かれます。
「桃太郎さん、私たちも一緒に連れて行って下さい」
桃太郎が命に関わることを説きますが3匹とも引きません。
仕方ない、と桃太郎は3匹をお供に加えることを了承します。
……きっとひとりと3匹であれば、鬼を退治などしなくても生きていくことはできるのでしょう。
けれどここにいる皆が社会から弾かれた者。受けれてもらえることを渇望しているのです。




