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一話

おぎゃあおぎゃあと赤子が泣く。

真っ赤な顔はまるで鬼のよう。

愛くるしい頬は美味しそうな桃の色。


「鬼の子だ」と、誰かが声を潜めて噂する。

誰がなんと言おうとも、これは私の子だ。

愛しい愛しい、私の坊や。

愛しい愛しい、私の鬼子。






桃太郎に親はいません。

お爺さんとお婆さんは、彼が桃の中から産まれたと言います。

2人とも結構な歳なので畑仕事も山菜採り、川での洗濯も桃太郎が一人で行っています。


桃太郎が14歳を迎えたその日、老人たちは神妙な顔をして言いました。

「これ以上お前を育てることはできん」とお爺さん。

「お前は人ではない」とお婆さん。

村中の誰もが桃太郎を「人ではない」と言い、遠巻きに噂話に花を咲かせていることを彼は知っています。

―ああそうか。自分はこれ以上ここに居てはいけないのだな―

桃太郎は気付きます。

「ここから南に行き、海を渡ったところに鬼ヶ島と呼ばれる場所がある」お爺さんが続けます。

「皆に認められたければ、そこに棲む鬼を退治してきなさい」

鬼退治……日々の暮らしに精一杯で、武器も持ったことのない桃太郎にできることなどありません。

鬼に出会った瞬間に、殺されてしまうことでしょう。

鬼ヶ島へ行けば殺され、余所へ行けばきっと野垂れ死んでしまう。

桃太郎は必死に考えます。今まで老人たちの為に必死になって生きてきた結果がこれだなんて、認めるわけにはいきません。

さまざまに言葉を並べたてますが、お爺さんもお婆さんも首を横に振るばかり。

「今まで育ててやったんだから、感謝しろ」ぴしゃりとお爺さんが言い放ちます。

「餞別です。持って行きなさい」お婆さんが藁に包まれたものを差しだします。

「これは……?」桃太郎が不思議そうに眺めていると

「黍団子です」お婆さんが言います。


……涙を流しながら、桃太郎は村を出ます。

お爺さんもお婆さんも、他の村人も誰ひとりとして見送ってはくれません。

黍団子……あぁ、黍団子。

自分に与えられる粗末な食事の裏で、お爺さんとお婆さんがどんないいものを食べてきたのか桃太郎は知っていました。

けれど、育ての恩に対して一言の文句も言ったことはありません。

夏は朝から畑を耕し、冬は日が暮れるまで食べものを求めて山へ登り、どれだけ彼らの為に頑張って来たことでしょう。

それなのに……せめて最後くらい白い米というものを食べてみたかったなぁ。

普通の団子が食べてみたかったなぁ。

せめて最後くらい、普通の家族であって欲しかったなぁ。

泣きながら桃太郎は南へと下ります。


「ひとでなし!!」


耳には村人たちの悪口が焼きついてしまったように木霊しています。



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