表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり武者大戦神  作者: 夜光電卓
2/2

大零幕 後陣

 でぃだらは探していた。自分の意味を、存在する理由を。

 探していた。理由無く存在していた我等を、意味あるものへと変えたその核を。

 それは、今は違う意味を持つものに変わっていた。

 しかし、それでも今も尚、その残り香を放っている。


 匂う、香る。


 腐臭、生臭さ、命あったものの証。

 そして、魂の残り香。

 それが叫んでいる。

 深い憎悪を、怒りを、哀しみを……。

 でぃだらは探した。


 それは、木陰に横たわっていた。

 でぃだらはそれを長い手で拾い上げる。

 それは、白目を剥き、すでに虫達がその肉を蝕み始めていた。胸には大きな刀傷があり、右手は無かった。


 でぃだらはそれを我等の胸に埋めた。

 深く、深く。

 核が還ってきた。

 でぃだら、一つの存在として孵った。


 ―怨―


 叫ぶ、深い憎悪を、


 ―怨―


 叫ぶ、深い怒りを、


 ―怨―


 叫ぶ、深い哀しみを――。


 でぃだらは闇の中で啼いた。

 いや、泣いたのかもしれない。

 怒りがその胸を焦がす。


 ―破壊衝動― 


 でぃだらは辺りの木々を踏みつけ、地肌を抉り、殴り壊した。


 嗚ぉおおおおおおおおお……。


 魂が無いその核は、でぃだらの中で、

 笑った。


 斬――、


 でぃだらは後ろからいきなり斬りつけられ、体勢をよろめかせた。



 そこに立っていたのは、戦場の武者であった。

 朱備えの甲冑に身を宿し、身の丈と同じは有ろうかという大太刀を振り下ろした。武将が、威風堂々そこに立っていた。

 しかし、それはただの武将ではなかった。

 山ほどあるかというでぃだらと同じ丈で、森の木々を踏みしめ夜の闇の中に立っている。


「まったく、面倒な事になっちまったよ」


 鎧武者の頭部から、聞こえたのはあの男の声であった。


「しかたねぇ、もう数刻で丑三つ時よ、一気に片付けようか……」


 鎧武者は再び太刀を振りかぶると、でぃだらに切りつけた。

 しかし、鎧武者は横からの大きな衝撃に吹っ飛ばされた。


「!」


 中の男が呻く。


「なんだ?」


 見るとでぃだらが四つんばいになり、鎧武者を睨みつけている。その背の下のほうには、長い尾がしなっていた。

 どうやらその尾で鎧武者を薙いだらしい。


「へぇ、いつの間に……。面白いことすんじゃないか」


 鎧武者は体勢を立て直すと太刀を八双に構える。


「おぅ」


 烈破の気迫とともに、鎧武者は間を詰め寄りる。でぃだらは再び尾を振り上げ横に薙ぐ。


「くぅっ、」


 鎧武者は瞬間跳躍した。障害物を失くしたでぃだらの尾が空を裂く。

 その尾の根本を空中から振り下ろした太刀で切り離した。


 奇ィィィィィィ――


 でぃだらが叫び声を上げ、飛んだ。

 長い腕を使い、鎧武者に襲い掛かる。鎧武者は上から来るでぃだらを体当たりで払いのけると、すかさず太刀で横に薙いだ。

しかしでぃだらは体を低く落とし、それを避ける。空を切った太刀を横目に、でぃだらは再び鎧武者に襲い掛かる。

でぃだらはその長い両手で鎧武者に抱きつくと、そのまま強い力で締め上げていく。

鎧武者の体が軋んでいく。


 餓ァァァァァァ―


 でぃだらは叫び声を上げながらその首筋へと噛みついた。

 牙が喰い込んだ痕から、歯車が落ち、火花が散った。

 その火花にでぃだらが少し慄いたその刹那。

 電光が鎧武者のその体を包んだ。

 強烈な雷がでぃだらを襲う。


 唖ぁぁぁぁぁぁー


 たまらず、でぃだらが鎧武者を突き放した。つき放たれた鎧武者は足を踏み込み、その場に踏み留まると再びその太刀を八双に構えた。


「思った以上に大した事無いじゃないか、これ以上遊ぶ暇も無いからな、店仕舞いにするよ」


 バチッ、電光が奔る。鎧武者が雷を纏い、雷鳴に光った。


「稲妻一文字……、タケミカヅチ」


 鎧武者が光の残像になった次の間、その姿はでぃだらの向こうへと移っていた。

 その体は先程と違い、電光は消え、太刀は振り下ろされていた。


「残夢に散りな」


 言うと共に、でぃだらは火の粉と共に霧散した。

 散っていった炎は、森に引火することも無く花火のように消えていく。


『残夢に散りな……』


 散っていく火の粉に照らされながら、鎧武者は右手で火の粉の一つを掴んだ。

 その中には黒く焦げた躯が、灰になっていた。


「まったく、面倒なことしてくれたよ……」


 そう言い右手の中にある躯を見つめる鎧武者、『大戦神』の姿は、その大きさからは滑稽なほど寂しく火の粉に照らされていた。


× × ×


 朱の鳥居、神聖なる境内の神木に身を預け、男は昼間から酒瓶をあおいでいた。

男は蓬髪の頭に、適当に結んだ髷。着物はボロボロで、下のほうには袴がなんとか見て取れる。

 男は侍だった。

それも浪人の風体である。


「まったく、清めのささと言っても、貴方の前では全て同じ酒のでしょうね……」


 そこに女の声がかかった。

 優しく芯のある声だ。

 女が男の前に立つ。白い着物に赤袴。見るからに巫女と分かる姿に、結わえた黒髪が靡く。


「はは、そんなことは無い。酒の味はちゃんと味わっているよ」


 そう言って男は笑う。

 粗悪な身なりをしているが、この男、風体を整えればなかなかの色男らしい。

 明るく笑った顔は、木陰に差し込んだ日溜まりかと間違うばかりの温かさがあった。


「うん、旨い」


 そう言って男は酒をあおる。


「はぁ、」


 と女は溜息をつくと、貴方の朝餉の用意が出来ましたよ、と言った。


「おう」


 とそう答え、男は立ち上がった。

 空の日は、既に天頂にかかり始めている。


「ところで、今回の核は何故あのような事を?」


 女が振り返って男に尋ねた。

 男は、少し俯くと。


「うん、どうやら奴ぁ腕の良い大工か、細工職人だったらしくてな。けど、夜盗かなんかに右腕斬られちまったみたいだ。仕事は無くなるは、その所為で縁組も破談になっちまったらしい」


 男は酒瓶をあおる。しかし中身は空のようだった。


「怨みつらみ晴らそうとも、腕斬った夜盗は行方を暗まし、縁談を蹴った相手方は他に嫁に行っちまった。恨みを何処にもぶつけられねぇ、奴は森ん中で厭身に走ったんだろうな」

「それに、寄せられたの?」

「そうらしい、まったく、魑魅魍魎跋扈するも触らぬ神に祟りなしって、なんにもしなきゃ、なんにも無ぇのにな」


 男は小さく溜息をついた。


「それでも貴方の働きにお上も満足してるわよ」


 よせやい、そう言いながら男は空を見上げた。


「せめて、此処では無い何処かでは、幸せになってくれ」


――てめぇに何が分かる――


 そう言われた刹那に胸を斬りつけた、でぃだらの核に向かって男は声なき声で投げかけた。


「行きましょう、早くしないと本当に朝餉が昼餉になってしまうわ」


 行きましょう、雷道――。

 そう女に言われ、一文字雷道は立ち止まった歩みを、再び進め始めた。


この作品は本編の前の序章みたいなものです>>

本編は、様子を見て発表しようか決めたいと思っています>>

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ