納涼話(実体験)
大学三回生の夏の出来事。期末テストも終わり、セミの鳴き声があちらこちらで聞こえ出したあたりから長い長い夏休みに突入した。僕は地方出身者だったため、毎年夏休みの間は田舎の実家へ帰省することにしていた。
久しぶりに地元の友人に連絡を取ると、何人かすでに帰省しており、せっかくだからみんなで集まってバーベキューでもしようという話になった。
当日7、8人ほど集まり、久々の再会からかみんなテンションもあがりっぱなしだった。ひとしきりバーベキューを楽しんだ後、1人が肝試をでもしようと言い出した。僕を含め4人がそれを承諾し、計5人で出かけることにした。
行く場所はものの数分で決まった。なぜなら、地元限定だが肝試しにうってつけの有名なスポットがあったからだ。そこは山道全体が肝試しコースなっており、昔は絶景が見渡せるドライビングコースとして活用されていたみたいだが今はほとんど車通りはなく、夜なんかは街灯1つない薄気味悪い場所になっていた。
コースには大きく3つの有名箇所がある。
1つは病院の廃墟だ。建物自体に辿り着くまでには鎖で封鎖された小道を歩いて行かなければいけない。僕たちは車を脇に止め、その小道を歩いた。しかし、あまりにも気味が悪かったため途中で引き返すことにした。
2つ目はトンネルである。昔からそこには妙な噂がたっており、そのせいで地元住人が気味が悪いと苦情を言ったのかその辺りの事情は知らないが、トンネルを新しくすべく工事が行われた。しかし犠牲者は出なかったものの途中何らかの事故で工事は一旦見送られた、そういう経緯がある。その噂とは以下である。
「トンネルの途中で車のエンジンを止め、ライトを消し、クラクションを3回鳴らすと呪われる。」
嫌がる僕達を静止しハンドルを握っていた友人は、クラクションまでは鳴らさないからとの理由で、車を止めた。その瞬間、案の上と言っていいだろう、トンネル内にクラクションが3回こだました。僕たちは警察がいたら即捕まっていたであろうスピートでトンネルから逃げ出した。
そろそろやばい。見てはいけない気がするが、人の心理とはなんとも不思議なものでついついバックミラーに目がいくのだ。その行為がますます恐怖を助長する。5人いようが怖いものは怖い、1人なら失神寸前だろうと思いつつ、シートベルトを掴む力は益々強くなっていった。ほどなく3つ目のスポットに到着した。
3つ目、最終スポットは「100体地蔵」である。自分が聞いた話によると昔、児童を乗せた保育園のバスがこの場所で事故にあい、多くの命が犠牲になったことでつくられた、とのことだった。その場所は、Uの字型の急カーブで下り坂になっていた。
車を降りた友人をみんなで置いて行くというイタズラをしたら、後で彼に本気で怒られた記憶が残っている。
そんなこんなでその場を後にした。もう深夜1時を回っていただろうか。恐怖のあまり今日は帰れないという理由から、一番家の近い友人宅へ4人全員泊まらせてもらうことになった。寝る前にみんなで仏様に手を合わせた。
次の日、各自解散していった。一応玄関に入る前に自分の体に塩をかけた。
その夜、兄と父、それと僕で2階の畳部屋で3人麻雀をしていた時のこと。少し説明をすると、麻雀を知らない人は「ドンジャラ」ならば知っているだろうか。あの類である。初めは牌を自分の手前に1列に並べ、その上にもう1段牌を重ねた形を作る。ゲームに入る前準備みたいなものだ。
数ゲームが終わった辺りで、牌を並べ終わった後に1枚足りないことに気づいた。2段の山積みなので牌が欠けると容易に分かるのだ。何が足りないかの確認方法もある。牌は1種ごとに4枚あるため、全てを開いて並べれば一目瞭然だ。さっそく僕たちはそれらを並べていく。しかし4種ずつ綺麗にそれが揃っていたのである。確実に1枚欠けていた。3人ともそれに気づいて周りを必死に探したし、結果見つからなかったから面倒な作業をしたのにもかかわらず。
少し不思議に思ったが気を取りなおして再開する。するとまた1枚足りない。今度こそ注意深く探した。どうしても欠けた牌が見つからないため、2段に積み上げた牌を崩して並べ始める。少し寒気を感じた。目の前に並んだ牌は見事に4種づつ綺麗に揃っていたからだ。さすがに気味が悪くなってもうやめようという結論に至り、みな1階へ降りていった。
それから数分程度経ったあたりだろうか、父はすでに寝床に入っており、僕と兄、母の3人でテレビを見ていた時のこと。あの時はさすがに背筋が凍り、3人同時に強張った顔を見合わせたのを覚えている。
誰もいないはずの2階から声が聞こえた。
「……よ……うや」
「…はよ やろうや」
あの時、山で麻雀好きでも連れて帰って来てしまったのだろうか。その声は麻雀の続きを希望していた。
――おしまい――
暑い夏の夜のお供にと思い実体験を書いてみました。少しでも涼しくなって貰えたなら幸いです。