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八話

 気が付くと目の前にはマイホームの玄関があった。


「ふう、ちゃんと成功したみたいだな」


 ちゃんと魔法が行使できたことにすこし安心感を覚えた。それはもちろん初めて【リターン/帰還】の魔法の行使ができたということもそうだが、午前中に【テレポート/転移】の行使を失敗していたからでもある。

 【テレポート/転移】とは、一度行ったことのある都市に転移できるという【リターン/帰還】とよく似た魔法である。朝にいくらこの魔法を使おうとしても何も起こらないので、もしかして魔法は使えないんじゃないかとも思ったが、とりあえず【リターン/帰還】が使えたのでそれだけでもよかった。この世界で迷子になっても、どうにかこの家までは帰って来れるだろう。


「魔法が使えないわけではない、ならば【テレポート/転移】が使えなかったわけは、ルグミーヌのようにほかの都市も存在しないからなのか、あるいは都市はあっても行ったことがないとみなされているのか」


 そんなことを考えるが、すぐに答えが出るものではないと考え直し、とりあえず置いておくことにした。いつまでも玄関の中で突っ立っているのも何なので、とりあえず家の中まで入る。エントランスでは二人の少女が話をしていた。こちらを見つけると駆けよってくる。


「おかえりー、お父さん。もうピクニックは終わり?」


 臙脂色の髪をツーサイドアップにした、少々大人びた雰囲気の少女、アルルが走ったことで乱れた髪を手で直しながら話しかけてくる。


「いや、まだだよ。今から北の山にイオレースを取りに行くんだ」


 黒橡色の髪をツインテールにした、少々子供っぽい雰囲気の少女ダムキナが不思議な顔をして尋ねてくる。


「あれ、みんなはどうしたんですか?」


「俺だけ【リターン/帰還】で一歩先に帰ってきたんだよ。いまから《コーリング》で全員呼ぶから……」


 そう言いかけて、あることに気付く。《コーリング》って複数相手にできるのかだろうか、いや《コーリング》だけじゃなくて《ブースト》とか《リペア》はどうなんだろうか。

 《ブースト》とは、自動人形の全ての能力を一時的に上昇させるスキルである。このスキルを使うことで、自動人形のただでさえ一般的な前衛職より高めなステータスがより高くなる。効果時間も長く、人形遣いはとにかくこのスキルを切らさないように戦わないといけない。

 《リペア》とは、自動人形を回復するスキルである。人形のHPがゼロになって、機能停止状態にならない限り、この《リペア》で回復できる。機能停止状態を回復する《リバース》というスキルにはイオレースが必要になるが、この《リペア》は何も消費することなく回復することが出来るスキルだった。

 人形遣いの戦い方とは、攻撃を人形に任せ、《ブースト》と《リペア》という二つのスキルを使い、支援と回復を中心にチャンスがあったら攻撃するといった戦法が基本的だった。しかし、《ブースト》と《リペア》はどちらもかなり敵のヘイトを貯めるため、打たれ弱い本体をどうやって倒されないようにするかを考えるのも人形遣いの腕の見せ所だった。

 『エイジオブドラゴン』では、一度に連れて歩ける自動人形は一体までだったので自動的に、《コーリング》を使えばその一体が近くに来たし、《ブースト》を使えばその人形の全能力値が上昇し、《リペア》を使えばその人形を回復することが出来たが、ここではどうなのだろう。


 そう考え、一度にさっきまで一緒にいた全員を《コーリング》で召喚しようとしたが、何も起こらない。次にイヴだけを思い浮かべて《コーリング》で召喚すると、今度は成功し、イヴが目の前に現れた。


「それじゃあお父様、私はみんなに家の周りだけでも掃除するように言ってきますので、その間にみんなを呼んでおいてくださいね」


 そう言うとイヴは東館のほうに小走りで走って行ってしまった。とりあえず《コーリング》は一人ずつしかできないらしい。スキルは魔法と違って詠唱も魔力を消費することもないが、一度使うと次に使うまでにクールタイムが必要である。基本的にそのスキルの効果が高ければ高いほどクールタイムは長くなり、長いものでは一日に一回しか使えないといったものまである。ちなみに《コーリング》のクールタイムは一分であり、全員を呼び出すのに三十分もかかってしまう計算となる。できれば一回で全員呼びたかったのだが……。


「やっぱりだめだったか」


 思わず口に出た言葉にアルルが反応する。


「何がダメだったの?」


「んー? そうだな……。あ、そうだ。ちょっと協力してくれないか?」


 次の一分まで暇なので、何かできることはないだろうか。そう考えていると、ふと試してみたいことが思いつく。


「協力? 私たちに協力できるものなら何でも言ってください!」


 ダムキナが腰に両手を当て、ない胸を張る。


一回ブーストをかけてみたいんだが……」


 そう言うと、二人とも顔を見合わせて何とも言えないような表情で下を向く。


「えっ……。まぁ、お父さんがしたいならいいけど……」


 アルルがうつむきながら呟く。なんだこの反応。とりあえず《ブースト》を両方にかけてみようとするが、何も起こらない。やはり人形遣いのスキルは対象が一人のようだ。できれば《リペア》もかけたいが、娘たちが傷ついていないので効いているのかどうか分からない。だがまあ多分同じだろう。

 次に、《ブースト》を片方にかけ、さらにもう片方にかけることで、最初にかけた方の《ブースト》が切れないかどうかを調べる。まずはアルルに《ブースト》をかけた。ゲームのエフェクトと同じ青いオーラがアルルを包む。今、全能力値が上昇していることだろう。きちんとスキルは発動したようだ。


「んっ……ふぁ」


 アルルは顔を赤く染め、体を両手で抱いて何やらもじもじしている。何なんだその反応は。とりあえず《ブースト》のクールタイムである三分間を待つ。《ブースト》は三分経ったとしてもきれることはない。その間に娘たちを《コーリング》で呼び出すことも忘れない。三分経ったら今度はダムキナに《ブースト》をかけた。アルルの周りから青いオーラが消え、ダムキナを青いオーラが包む。誰かに《ブースト》がかかっている状態でほかの誰かに《ブースト》をかけても、最初にかけた《ブースト》が消えてしまうらしい。


「くぅ……はぁ」


 ダムキナもアルルと同じような反応をする。だから何なんだその反応は。とりあえず、実験は終了だ。期待した結果は得られなかったが仕方ない。ダムキナにかけた《ブースト》を解除してから二人にお礼を言った。


「……なるほど。分かったよ、二人ともありがとう」


「い、いえ。どういたしまして」


 二人ともまだ顔が赤い。多分ブーストの効果なんだろう。だが、この結果じゃ支援役にもなれない。大人数での戦いでは《リペア》はともかく《ブースト》を一人にかけたところであまり意味はないだろう。このままでは戦闘で回復しかすることがなくなってしまいそうだ。少し落ち込みながら散策に行った全員を一人ずつ、三十分かけて《コーリング》で呼び出すのであった。 


 全員を呼び出してからエントランスを出て、玄関の前でしばらく待っていると、エントランスからざわざわとした話し声が聞こえ始め、イヴを先頭にして娘たちが中から出てきた。娘たちはこちらを見つけると駆け寄って来る。


「私たちもついていった方がいいですか?」


「あなたたちはちゃんとこの辺りをきれいにしておきなさい!」


 イヴがそう言うと、娘たちは未練がましそうに見ていたが、しばらくすると作業に取り掛かるために散っていった。どうやら、斧や大剣を武器として持たせた娘たちが木を切り、小さな剣や刀を持たせた娘たちは草や蔓などを切り、そのほかの槍や鈍器などを持たせた娘たちが切ったものを集めているようであった。


「じゃあ行こうか」


 そう言って北の山に向かって歩き始めた。


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