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九話

「服だったらこの店ね」


 レベッカがそう言って案内してくれたのは大通りに面した、立派な店構えの大きな服屋だった。ちゃんと三十人で一緒に入れる店に案内してくれたらしい。既に娘たちは中に飛び込んでしまい、店の前には二人だけだ。


「入らないの?」


「服のことはよくわからないんだ、中に入ってもしょうがない。君が渡したお金であの子たちに服を買ってやってくれ、君の分も買っていいから。……できれば一人一万ルコン以内で頼む」


 レベッカは呆れたように首を振って腕を組んできた。そのまま俺を引きずるように店の入り口に向かい、少し怒ったような口調で口を開く。


「あの子たちはあなたに見てもらえるからこそ、服に気を遣うのよ。あなたが見てあげなくて一体誰が見てあげるの」


 引きずられながら店の中に入るとまず目に飛び込んできたのは色とりどりの服。目がちかちかしそうになりながらも店内を見回すと、娘たちが似合うかどうかお互いに見せ合っている。隣にいたレベッカもいつの間にかそれに加わり、一緒になってはしゃいでいた。


さっきまで敵視していたのにもう友人みたいに仲良くなったのか。……だが、レベッカもこうしてみると普通の女性に見えるな。


「ねぇ、お父さんこれ似合ってる? それともこっちのほうがいいかな?」


 蜜柑色のロングヘアで比較的発育のいい少女アッタルがそう言って二つの服を交互に身体の前に出してくる。片方は水色のワンピース、もう片方は淡い緑のパステルカラーのワンピースで、どちらも彼女に似合っているように見える。


 思わず助け舟を探すが、レベッカは娘たちと話していてこちらに気が付いていない。こういう事になりそうだったから来たくはなかったのだが、先ほどレベッカに言われたことにも一理あると思い、自分が見て思った通りの答えを出した。


「どっちも似合ってると思うけど……」


「ふふ、ありがとう。う~ん、……じゃあこっちにしようかな」


 思った通りにそう言うとアッタルは嬉しそうに微笑み、右手に持っていた水色のワンピースの方を選んだようだった。思わず最初から決まっているなら俺に聞いた意味があるのかと思ってしまうが、きっとこういう無駄にも思えるコミュニケーションが大事なことなんだろう。


 その後もみんなが意見を求めてきたが、その都度どっちも似合っているというような返事をしていたが、みんな嬉しそうにしていた。そもそもみんな自分に似合うようなものしか持ってこないから大体いくつかに絞った時点でどちらも甲乙つけがたいものだ。なので、どっちもいいと言って彼女たちの決断を後押ししてあげればいいのだろう。その様子を遠くからレベッカが生暖かい目で見ていた。


 一人一着ずつ服を買い、それをまとめてアイテムポーチにしまう。服屋での買い物の後、八十万ルコンのうち、五十六万ルコンが残った。ちなみに一番高いものを買ったのはレベッカで九千九百八十ルコンと、一人分の上限額一万ルコンにギリギリの値段の赤い下着を買っていた。レベッカ曰くこれは下着としては安い方らしい。



「お父さん、あ~ん」


 アッタルがそう言って串焼きを口に近づけてくる。肉の香ばしい匂いが食欲をそそり、何の肉かは分からないがとても旨そうだ。言われるがままに口を開けると口の中に、特製のタレとおそらく牛肉の旨味が一気に広がり、ハーモニーを奏でている。


 昼食は出店で売っていた串焼きを、行儀は悪いが歩きながら食べていた。この串焼きだけでは昼食には少々物足りないような気もするが、この後三時からお茶会があり、そこでも多分何か食べると思うので昼食は軽めにしておく。


 ちなみに今日は街に行く予定だったのでお弁当は作ってもらっていない。当初はお昼になったらどこかで簡単な食事をとろうと思っていたのだが、レベッカとのことがあったので、娘たちを呼ぶのが遅れてしまった。そのため一緒に街を回る時間が減ってしまったので、お詫び代わりにほとんど昼食の時間を取らなかった。


「みんなは食べないの?」


 自分も串焼きを買って、口にくわえているレベッカはこちらのことを不審げな目で見ている。まだあって間もないレベッカにこの子たちは人形だから食べられないんだというわけにもいかず困っていると、アッタルがレベッカに耳打ちした。彼女はそれで納得したようだったのでどうにかごまかせたようだ。……一体何を話したのか気になるが、あえて聞くのも変だろう。



「……武器屋はどこがいい店なのかよくわからないのよね。とりあえず近いところでいいのかしら?」


 昼食の後は武器屋へ行った。比較的オシャレな店構えの武器屋は大通りには面しているが、店が狭く全員で入れなかったので、また外に娘たちを置いて一人で中に入る。レベッカも今回は店が大通りに面してるおかげか、何も言わなかった。


 店内は所狭しと武器や鎧が並べられており、品質はともかく品ぞろえはいいようだ。


「これはこれは、いらっしゃいませ。どんな武器をお探しですかな」


 中年の店長と思わしき男がすぐにこちらに走って来て出迎えてくれた。小太りのちょび髭で揉み手をしながら話しかけてくるこの男は、どう見ても鍛冶屋ではなく商人にしか見えない。ならば、この男が店の武器を作っているのではなく、どこかで買い付けたものを売っているんだろう。


「とりあえず、一番いい武器を見せてくれませんか」


 特にこれを買いたいというものがなく、どんなものが売っているのか、それがどのくらいの値段なのかを知りたかっただけなので、はっきり言ってこの男が話しかけてくるのは鬱陶しい。なので、男に一番いい武器を取って来させる間に急いで店内の武器を見回した。


 だが、ほとんどの武器が鉄や鋼鉄といった普通の金属で出来ていて、魔法金属製の武器が見当たらない。特殊な魔法効果もついていないようなものばかりで、はっきり言ってほしいと思えるものが一つもなかった。そのくせに値段だけは一丁前に高く、この店が悪いのかそれとも武器屋そのものの質が低いのかは判断がつかない。とりあえず、一番いい武器にも期待せずに男が戻って来るのを待っていた。


「……お待たせしました、これが当店の武器、ミスリルのナイフです。どうです、この美しさ。白銀の刀身が見たこともないほど美しいでしょう。多少値段は張りますが、それほどの価値があると思いませんか」


 男の持ってきたガラスケースの中には一つだけミスリル製のナイフが恭しく飾られていた。値段は四十万ルコンとなっており、ミスリル製の武器というレアなアイテムだが『エイジオブドラゴン』での適正価格と同じ位安い。


 しかし、そのナイフをよくよく見てみると質が悪く実用に耐えうるようなものではなかった。おそらくミスリルを扱うのに必要な鍛冶スキルが足りない者が無理やり作ろうとしたのだろう。せっかくのミスリルなのにその良さが全く生かされていなかった。


 はたしてこの男はこのミスリル製のナイフが粗悪品だと知っているのだろうか。一見しては普通のナイフと変わらないので、武器を作ったことのないようなこの男が騙されている可能性もないわけではない。


「これ、手に取ってもいいんですか?」


「……持ってみてもいいですが、振り回したりはしないでくださいね。壊したら弁償ですから」


 手に持ってみると、〈賢者の眼鏡〉で見るまでもなく、その質の悪さがよくわかる。振り回したくらいではボロは出ないと思うが、これでモンスターに攻撃したら多分すぐ壊れてしまうのではないだろうか。今言った言葉から見ても、おそらくこの商人はこのナイフが質が悪いと知っていて、売りつけているのだろう。


 だが、こんなものを買うのは武器など碌に扱ったことのない馬鹿だけだろう。ある程度腕の立つものならこんな粗悪品位すぐ見抜けるし、駆出しの冒険者なら高すぎて買えない。せいぜい馬鹿な金持ちがその価値も知らず観賞用にするくらいしか売れないだろう。……まあ、観賞用なら、ミスリルの刀身や装飾もきれいだしいいのかもしれないな。


「……なるほど、ありがとうございました」


 そう言ってガラスケースの中にナイフを戻す。商人は一瞬残念そうな顔をするが、すぐにまた胡散臭い笑顔に戻り、話しかけてくる。


「……お気に召しませんでしたか? 魔法使いが懐に潜ませておく緊急用の武器としてはナイフが最もおすすめなのですが。……ではもう少し大きなミスリル製の短剣はどうですか? その他にも様々な種類のミスリル製品がありますが……」


「いえ、結構です」


 商人が再び店の奥に行こうとするのを押しとどめてそう言った。もしかして俺がローブ姿だからナイフを出してきたのだろうか。ならばほかにもいろいろな種類の粗悪なミスリル製品があるかもしれない。この商人はその粗悪なミスリル製品を売りまくっているのだろうか。仮にそう仮定すると、この商人は多くの人をだましているのに平然と営業していることになる。だが、ミスリルそのものは本物であることを考えるとどうなのだろうか。


 四十万ルコンとは、すくなくとも『エイジオブドラゴン』では、ミスリルそのものとしてはとても高いが、ミスリル製の武器の値段としては普通だ。だが、この世界ではレアなものはゲームの世界よりも高い。さっきも魔石がとても高い値段で売れた。ならばミスリルの価値も高くなっているはずなので、四十万ルコンという値段がそのままミスリルの適正価格なのかもしれない。


 あのナイフを再び分解すればミスリルに戻るのだから、本当に使えないごみを売っているわけではない。もっとも、ミスリル製の武器をミスリルに変えるには、普通にミスリルを扱えるほどの鍛冶スキルが必要だが。


 そんなことを考えながら、店の外に出る。とりあえず、この国のことを何も知らない俺が勝手に武器屋を一方的に弾劾するのはまずいのではないか。まあ、少なくとも二度とこの店に来ることはないだろうなと思いながら、また話し込んでいる娘たちとレベッカのもとに向かった。



「そろそろ待ち合わせの時間だな。……みんなはどうする? 多分アリシアたちは一緒に来てもいいって言ってくれると思うけど……」


 娘たちやレベッカと街を回っていると、いつの間にか午後二時半になっていた。待ち合わせの時間は城に三時なのでここから城に向かえば十分間に合うだろう。


「行ってもいいなら行きたいけど、……レベッカも連れて行っちゃダメ?」


 そう言ってアッタルは上目づかいで見上げてくる。だからそういうお願いは断れないからやめてほしい。……しかし、レベッカがいつの間にか娘たちの友達の様になっている。親としては友達が出来たのは嬉しくもあり、少し寂しくもあった。


「……俺はいいけど、アリシアたちがなんていうか分からないな。でも、俺はアリシアたちと話してるから、みんなはレベッカと一緒に遊んでるなら大丈夫なんじゃないか、多分」


「なんの話をしているの? それから次はどこに案内すればいいのかしら? ……きゃっ!」


「ほらほら、はやくお城にいくよ」


 そう言うレベッカをアッタルが腕を組んで引きずるように歩いていく。さっきまでの俺とレベッカのようだ。俺も遅れないようについて行った。

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