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一話

 俺がこの世界に来てから一か月がたった。この一か月で、家の周りは一キロほどがただの平地となり、屋敷から見える風景は『エイジオブドラゴン』で見ていた風景とあまり変わらなくなっていた。変わったところはというと、家から二百メートルほどに金属製の柵がぐるりと屋敷を囲むように設置され、その内側では小さいながらも家庭菜園が出来ていた。


「……ふぅ」


 その菜園で鍬を使い土を耕していたが、額の汗を腕で拭いながら雲一つない晴天の空を見上げる。二週間ほど前から耕している菜園では、とりあえず持っていた植物の種を土や季節のことも考えず適当に植えたが、土に一緒に埋めた土晶石のおかげか、ちゃんと芽は出たし、成長速度がとても速い。水を出す水晶石、光を放つ光晶石、熱を放つ火晶石などと比べ土晶石はいまいちどういうものなのか分からないが、ゲームでは農場に使うと植物の成長がよくなり、肥料や水を使わなくても大きくなった。なので、植物の種と一緒に埋めてみたのだが、使い方はこれであっているようだ。まあ、未だにどういうものか分からないのだが……。


 最近の日課は、朝の涼しい時間帯に畑いじり、昼になると恒例になった娘たちとの散策に行き、午後は南の海まで行って魚釣りをしたり、水棲モンスター――カニやタコ、魚や海獣の姿のモンスター――を倒したり、あるいは森の中で果物や花を取ったり、植物や虫のモンスターに襲われたりして、夕方に家に帰ってくる。そこから娘たちと風呂に入り、食事をとった後、一人の自由時間があって、娘たちと大部屋で就寝という一日であった。毎日歩いたり、農業をしたりしているおかげで、この世界に来た時よりも体つきは多少がっしりとしており、肌の色も健康的な色に焼けていた。


 ちなみに一緒に散策に行っていない娘たちは、少し前までは家の周りの森を開拓していたが、今のところはこれ以上開拓しても意味がないので自由行動にさせている。何をしているのか正確には知らないが、半分ほどは畑を耕したり、中庭の手入れをしたり、屋敷の掃除をしたり、家の中の事をしてくれているようだ。

 もう半分ほどは、ラルズール山に行ってイオレースをとってくれているらしい。一緒に行こうかといっても、自分たちのことは自分たちですると言って遠慮したので、好きにさせている。そのおかげでイオレースのほかにも、大量の鉱物や宝石が手に入った。例えばイシルディンやガルヴォルンと同じく魔法金属であるミスリルやオリハルコン、宝石ではクリスタルが多く取れた。


 ミスリルは、ガルヴォルンとは正反対の金属で、魔法効果を増大する魔法金属である。この金属で作った装備に魔法効果をつけると、より強化されるという金属で、とても軽く、ミスリル製の装備は軽装備扱いになるのでよく後衛の魔法使いタイプが好んでミスリル制の装備を使用していた。ただし、防具に使用する際には攻撃魔法軽減の効果をつけないと、いつもより余計に魔法ダメージを食らってしまうので、扱いには注意しなければならない金属でもあった。また、この金属で作った武器は不死者や精霊といった存在により大きなダメージを与えられるという特性を持っていた。


 オリハルコンは、身に着けたものの身体能力を上げる効果を持つ魔法金属である。おそらく、魔法金属を含めた金属の中で最も重いが、装備しているときは身体が強化されているのであまり重さは感じない。装備に使われるオリハルコンの量によって、強化の度合いが変化するので、オリハルコン製の装備を使用する際は、全身鎧に巨大な武器というのが定番であり、重装備の前衛にのみ、とても人気のある金属である。


 ちなみに、娘たちの薄く金色に輝くバトルドレス――胸当てに前面の空いたスカートが一緒になったような防具もこのオリハルコン製であった。もっとも、オリハルコンは胸当て部分にしか使用しておらず、スカート部分は布製なので、それほどまでは強化されないが。……全身鎧にしなかったのは、もちろん見た目の部分も大きいのだが、なによりそんなに多くのオリハルコンを用意するのが不可能だったからである。


 そろそろイオレースが手に入りづらくなったので、サルグレット山脈の奥地に入ろうかと娘たちが言っていたが、あそこはレベルが高く危険なのでやめさせた。もちろん娘たち五百人で入ればいくら対象レベル百の竜の巣といえども攻略できるだろうがそこまで切羽詰っておらず、今のところは必要ではないから止めたのである。


「今日もいい天気だな……、暑くなりそうだ」


 まだ空を見上げたまま呟く。季節は初夏になっており、これから夏に向けて暑くなっていくだろう。初夏の朝の清涼な空気の中でこれまでの生活に思いを馳せていた。娘たちとの生活は上手くいっており、何も問題はない。一か月がたち、散策も全ての娘と行った。なぜかイヴは毎日お弁当をもってついてきたが……。なんとか娘たちとの入浴にも慣れてきた。未だに体を他人に洗われるというのは落ち着かないが……。畑仕事も慣れてきて、体には筋肉がついてきた。もっとも戦いの強さは変わっていないが……。

 毎日が充実していないとは言わないが、どこか物足りない感情を味わっていた。比較的安全な今の生活を望んでいるのは確かだが、せっかくこんなファンタジーの世界に来たのだから、ここでしかできないことをやりたいという気持ちもある。男として冒険に出たいという気持ちがないわけではないが、この子たちを置いていくことはできないし、一緒に連れて行くには多すぎる。そんな悶々とした思いが胸の内で燻っていた。


「お父様~」


 イヴと数人の娘が手を振りながら駆け寄って来た。その胸元には真新しいペンダントが揺れており、よく見ると一人一人クリスタルの色が違っている。そのペンダントは、丸いクリスタルとミスリルで出来ていて、直径三センチほどのクリスタルに細いツタが巻き付くようにミスリルの装飾が施されている。これは、娘たちがとって来た鉱物で作ったもので、魔法耐性上昇の効果と【リターン/帰還】の魔法が込められている。これはラルズール山での戦闘の反省から作られたもので、これさえ持っていれば全員が一度に家に帰ることができるようになった。とりあえず危なくなったら家に戻るように言ってあるので、危険なところに行っても自分の心配だけしていればいい。もっとも、そんな危険なところに行く予定は今のところないのだが。


「どうした?」


 駆け寄って来たイヴに問いかけると、イヴは息を整えてから珍しく少々困ったような様子で答えた。


「……ふぅ、お父様、あの……女性を一人森の中で見つけたのですが、お父様に会いたいと言っているようです。お父様が会いたくないんだったら、お引き取り願いますが……」


 その知らせにはとても驚いた。いくらあまり広い範囲を探索していないとはいえ今まで一人も人間を見つけられず、人の生活の痕跡さえも見つけられていなかったので、いきなり森の中に人がいたと聞いてとても興味を持った。あわよくばその人間からこの世界の情報を得られるかもしれない、そう考え会うことにした。


「こんなところまで人が尋ねてきたのか、どんな人なんだ? いろいろ聞いてみたいこともあるし、会ってみることにするよ。今どこにいるんだ?」


「ええと、その、もうすぐここにつくと思いますが……」


「じゃあ玄関まで行って出迎えようか」


 そう言って農作業をやめて玄関に向かうと、今まで一緒に農作業をしていた娘たち二十人ほども一緒についてきた。

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