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FLOOD!!!  作者: nozomi
3/22

生首男と腹の虫

 地面にえた泥まみれの顔が、足元あしもとから必死に話しかけてくる。

 人相にんそうがわからないくらいどろにまみれた黒い顔の、唇のあかだけが妙に目についた。



 ちょうシュールな光景である・・・。



 だが、この時の俺はとにかく疲れていた。

 普通ならぎょっとして飛び退くところだが、正直言って驚く元気も無かった。




「なんでもするって何を?」



 つい、変なツッコミをいれていまった・・・。



 だが、生首男なまくびおとこの方は、俺のめた返事に対して大げさなほど喜んだ。



 その表情かおはまぎれもなく、生きた人間のものだった。

 それで俺はわれに返った。

 事情はわからないが、相手は首から下を地面にめられて身動きとれなくなってんだ。

 早く助けてやれよ、俺。

 すぐに反省してベンチから立ち上がった。・・・のだが、しかし。


 生首男なまくびおとこの次のセリフを聞いた瞬間とき、助ける気持ちがせてしまった。



「オレけっこう役に立つよ?・・・例えば、アンタ誰かに借金とかしてない?それなら返済の催促さいそくされる前に、ソイツ人知ひとしれず行方不明にしてやるよ?それか、誰かれたオンナとかいる?いるなら、そのオンナがアンタに振り向くまで、邪魔なヤロウを片っ端から始末してやるし・・・って、おいおい、アンタどこ行くの!?」



 水没すいぼつまじかの無人の廃墟にり残されて、穴埋あなうめにされている人間が「まとも」な筈ないんだよな・・・。




 俺は無言で反対方向にきびすを返した。

 さわらぬ神にたたりなし! さわり三百! Let sleeping dogs lie(ねてる犬はほっておけ)!

 この生首男なまくびおとこを助けたら、とんでもなくやっかいなことになる気がする・・・。




「頼む!ここから出してくれ!もう5日もここにこうしてるんだ!その間、通りがかったのはアンタだけだよ!首元まで水も上昇あがってきたし!アンタに見捨てられたら、オレはいよいよ溺死できしか飢死だ!」


「や、掘り出すの大変そうだし・・・、掘り出したあとは、もっと大変になりそうだし」



 必死にすがりつく声に、意味のよくわからない言い訳をしながら背を向ける。


 そしたら今度はおどしが来た・・・。

「・・・呪ってやる。たたってやる。アジア人種なめるなよ・・・中華4千年の歴史にかけて意地でも黄泉よみがえってやるからな」


 本当に黄泉がえれるのなら、ここで慌てる必要ないだろ?

 思わずみそうになったが、なんとかこらえた・・・。



 俺をうらむ声もつぶやきに変わり、その小さなつぶやきも聞こえなくなるほど離れたところで。

 この廃墟はいきょには、あまりにも場違いで、「まぬけ」な音が、聞こえてきた。

 俺は思わず足を止め、生首男なまくびおとこの方を振り向いてしまった。


「腹減少了(腹減った)・・・想吃垃面(ラーメン食いてぇ)・・・」


 生首男なまくびおとこのでかい「腹の虫」が、摩天楼に鳴り響いた。



 俺は結局、生首男なまくびおとこを見捨てきることができなかった。


 そしてこのあと、予想通り厄介ごとに巻き込まれたんである・・・。


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