危険手当は300%増しで
内容修正しました.
人類は地球を食いつぶした。
そして宇宙にトンズラした。
時代はいわゆる宇宙世紀。
とはいっても、モビルスーツとか宇宙戦艦とかそんなもんはありゃしない。
あんなのコストかかり過ぎだろうよ。
そんなもんは実現しやしなかった。
けど月や火星には、ドーム状の都市が建設されたし、周辺の宇宙空間には産業用のコロニーが開発された。
気温・湿度は完全管理!いつでも小春日和!虫ゼロ!ウイルスゼロ!
月面や火星表面のドーム内は、リアル桃源郷だ。
とうぜん選ばれたエリートしか住めない。
あんまり努力しなかったのね、俺の先祖よ。
というわけで、俺みたいなのは地球に取り残されたわけ。
さて、人間は宇宙に飛び出せるほど知識や技術を増やした。
もちろん、クリーンにではない。むしろ全然なりふり構わなかった。
掘れるだけ資源を掘りつくして、あと、ほとんど放置。
そりゃあ、地球だって怒るって。ヒステリーだって起こしちゃうよ!
天変地異のオンパレード!エブリウェア洪水!常に海面上昇中!
人間は地球をサバイバルエリアにしちまった。
俺たち地球の人間は、いつだって住む場所を追われる覚悟をしながら、でもがんばって生きている。
俺の名前はショーン。地球連邦・北米州シカゴ市在住、20歳、性別男。どうぞよろしく。
「えぇ?ニューヨークですか?いまさら、あんな廃墟特集してどうするんですか?誰得?今、本社のデスクに廃墟マニアいましたっけ?」
俺は、携帯端末の画面の向こうで、涼しげにコーヒー飲んでる編集長にむかって文句を言った。
「今度うちの傘下のWEB雑誌で、下院議員の若手NO1、最近じゃ大統領候補とまで噂されているマイケル=デイビスの特集組むんだよ。政界じゃ名うてのイケメンだ。彼をあつかえば、売上UP間違いなし。それで編集会議で彼のルーツも調べることになったんだけどねぇ」
編集長は頬杖突いて気だるそうに、ソーサーに添えられていたチョコを頬張った。
赤い包装紙には、ハートのクイーンが描かれている。
月面都市限定販売の高級チョコ。うまそうだ。
「まぁこの御時世よくあることだけど、月面都市移住前の彼の経歴が月面のデータベースではよくわからなくってな。唯一わかったのは、ニューヨークマンハッタン地区の住所だけ。というわけで、北米地区の特派員である君に取材を頼みたい。現地にいって、その建物の画像を入手し、できたら情報も得てきてほしい。」
「編集長、いまのニューヨークの状況わかってます?あそこは海抜マイナス10M地帯に指定されてるんですよ?ガンガン液状化が進んでる上に、高層建築物がそのまま放置されてるんですよ?めちゃくちゃ危険地域です!確かにおもしろい企画ですけど、俺はまだ死にたくありません。衛星写真とか、昔の映像とか、合成でもなんでもして誤魔化してくださいよ」
シカゴの安アパートで、昼飯作りながら俺は叫んだ。
俺は副業の一つとして、通信社ネオロイターの地方特派員ってのをやっている。
本社は月の首都ルナパレスにある。
もちろん月の本社に行ったことはないし、編集長と直接会ったこともない。
こうやって、いつもモニター越しに指示を受けている。
編集長は月面に住むエリートだから、たまに常識はずれで無茶なことを言いだしたりするんだよな。
「うーん。でも、この企画、オーナーが乗り気なんだよね。企画の発案者のオーナーの甥は、合成画像嫌いのリアリストだし。オーナーに嫌われると出世に響くしねぇ」
そんな本音は聞きたくない・・・。
「よし、危険手当はずむから!通常の200%増しで!これでどうだ!」
少しそそられたが、でも嫌だ。
時代が進んでも、今のところは、金で命は買えません。
無視したら編集長の目つきが変わった。
あ、やばい。
「うん。別に辞めてもらってもいいんだよ?君の代わりはいくらでもいるんだからね」
出た、伝家の宝刀。編集長の必殺技。
はいはい、行きますよ。行けばいいんでしょ。
だけど、危険手当は300%増しでお願いします。