魔王降臨
その夜は雨がしとしとと降っていた。黒くて暗い真夜中の闇はもしかしたら全てを知っていたのかもしれない。激しい雨が大地に叩きつけられて全てを洗い流すようにも見えた。
城の暗い部屋のドアがキイという鈍い摩擦音を立てながら開いた。部屋の外から少し光が差し込む。その光に続いて若い男が部屋の中へと入ってきた。いくつもの剣を抱えている。男の髪は黒く、顔立ちもなかなか綺麗である。そして、目は深紅に光っていた。王家の証である。彼の名は”ハイン・サンアントレス”。強大なサンアントレス帝国の十七代目の王である。ハイン・サンアントレスは部屋に入ると静かにドアを閉めた。窓が風でガタガタとうるさく感じられる。
その部屋は広く石造で中に十二個の石の台座がある。その一つ一つに剣を差し込む穴がついていた。ハイン・サンアントレスはその一つ一つに剣を差し込んでいった。剣を入れるたびに台座は十二色に光っていく。そうして、ついに最後の一本となった。ハイン・サンアントレスは、
「我に魔王の力を・・・」
と呟き、剣を思いっきり差し込んだ。石の台座が、青い線で結ばれていく。全てが繋がったところでどこからともなく叫びが聞こえた。
「グォォ・・・。やっと出てこられたぞ!!!」
と。ハイン・サンアントレスは部屋を見渡すが声の主の姿はない。しかし、確かにそれは聞こえた。そして、その声の主は続けた。
「フハハハ。こんな若造が俺様を呼ぶとは大したもんだ。私の力を操れるのか?」
ハイン・サンアントレスはニヤリとほほ笑む。
「あぁ。大陸制覇に力を貸してほしい。ダメか?」
声の主は笑った。
「グハハハ。いいだろう、貸してやるよ。血の儀式を結んだらなぁ・・・」
「血の儀式?」
「・・・。お前、何も知らずに私を呼び寄せたのか?まぁ、私のことを知っているのは、ヴァンパイア以外もう死んだがなぁ・・・」
「んなことはどうでも良い。早く血の儀式について教えろ」
魔王の雰囲気がだれにでも分かるほど冷たくなった。まるで、この世の恨みや怒りを全て集めたかのように。魔王がハイン・サンアントレスの言葉遣いに怒ったのは明白だ。
「お前、私に向ってそんな言葉遣いは良くないなぁ・・・」
背中がぞくりとするほど冷たい。大陸制覇戦争中の今ですらこれほど冷たい気を感じることはないだろう。魔王の気はそれほどまでに冷たかった。
「まぁ、こんなことはどうでも良い。それよりも血の儀式についての説明だ。血の儀式は血、つまり運命を共にする儀式だ。私は、お前に力を貸す代償としてお前を少しすつ乗っ取っていく。つまり、お前は力を使えば使うほど、私になっていくということだ。大きな力であればあつほどに一回分も多くなる」
「全てを奪われたら俺はどうなる?」
「その時は、私は完全復活。お前はいなくなる。だが、全てを奪われる前に私から離れればお前は普通に戻る」
「お前から離れる方法はなんだ?」
この手の種類の儀式で必ず結ぶ前に聞いておかなければならないことは儀式解除の仕方である。儀式を行ってから儀式解除は出来ない、では話にならないのだ。
「ふっ・・・。いくつかある。が、今は二つだけ教えといてやろう。他は自分で見つけるんだ。一つ目は死ぬことだ。私は他の人を生き返らせることができる。だから、死んで誰かがもう一度、儀式を行い生き返らせてもらうという方法。だが、生き返らせるというのはたくさんの魔力が必要で一度使えばかなり私に自分を奪われる。二つ目は、再び封印すれば良い。儀式に使った十二本の剣はこのあとに大陸中に飛散する。その十二本の剣の持ち主はお前と私の敵だ。そのものに封印されたら無理やり私はお前から剝がれることになる」
「なろほどな。では、なぜそんなことを教えてくれた?お前は完全復活したいのなら教えなくても良いんじゃないか?」
声の主は再び笑った。部屋に笑いが響き渡る。
「今までに大国サンアントレスの王家たちは何度もこの儀式を行って私を呼び寄せた。その時は必ず、お前が完全復活することはない、と言う。だが、全員失敗している。私を呼び寄せて、力を使い切らなかった者はいない。まぁ、お前はせいぜい力を使い切らないよう努力でもするんだな・・・。では、血の儀式はこの説明がお前の脳に入ったことで成立するようになっている。私の力存分に使うが良い」
声の主、つまり魔王は笑って消えた。というか、もともと姿は見えなかったのだが、リアルに伝わってきていた魔王の気が消えた。窓の外を見れば雷がどこかに落ちていたのだった。