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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
ハクロ王都編
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クエスト85 巨人サイズの大きなパフェを食べよう

 上級ギルド ヤタガラスの執務室で、本日の売り上げを計算していたギルド長 蝋九ロウクは、渋い顔で会計を任せている側近の男を叱りつけていた。


「おい、ココ2、3日の売り上げが酷く落ちているぞっ!?

 仕事のキャンセルや商品破損の始末書、巨人王帰還で儲け時なにの、キサマ等何やってんだ」


「そ、それがロウク様、日雇いの下請け仕事を受けるハーフ巨人の様子がオカシいんですよ」


 ダルマ体型をした会計係の男が冷や汗を流しながら答える。


「仕事を貰いに来るハーフ巨人の数が足りてるんですが、どうも段取りの悪く使えない連中ばかりなんです。

 ミスが多くて文句ばかり言う、あれじゃ仕事を任せられません」


「今まで来ていたハーフ巨人達はどうした?

 牛馬以下の癖に、連中ストライキでも起こしてるのか」


「いえ……人間の王都の東外れにある下級ギルドの手伝いに行っているらしいんです」


 東の端にある下級ギルドと言えば、落ちこぼれハーフ巨人ばかり集めて世話をする、物好きの桔梗キキョウが営むロクジョウギルドだ。


「馬鹿なこと言うな、あんな貧乏ギルドに仕事なんて無いだろう」


「ロウクさま、アノ話を知らないんですか?

 ロクジョウギルドに腕っ節のイイ黒髪のハーフ巨人がいて、巨人も恐れる深い森の中で魔獣を狩っているって話ですよ。

 その証拠に、テンガン上級ギルドにいたハーフ巨人戦士が深い森の狩りに加わって、高価な白蒼斑豹をしとめてきたそうです」


 ロウクは王の帰還で盛り上がる巨人の王都でヤバ目の仕事に手を出していたため、城壁の外での出来事に疎くなっていた。

 ダルマ男の報告にロウクは表情を変え、口元に歪んだ笑みを浮かべる。


「それじゃあ用心棒を十人ぐらい引き連れて、ロクジョウギルドに遊びに行くか。

 ハーフ巨人どもから、深い森の宝物を奪い取ってこよう」


「ロウク様、本当になにも知らないんですね。

 今ロクジョウギルドには、筋骨隆々で力のあるハーフ巨人戦士が百人近く集まっているんですよ」


 いま、コイツは何と言った!?

 ダルマ男の言葉に、ロウクは声を失った。


「キサマこそ、何のんきに構えてるんだ!

 ハーフ巨人は力だけなら人間様以上、それが百人も集まっているとなると俺の持つ用心棒の二倍以上、いや、人間の自警団二百人と互角の力を持つぞ。

 黒髪のハーフ巨人が深い森でモンスターを狩るという名目で仲間を集め、人間に復讐しようと悪さ企んでいたらどうする?」


 今まで人間の王都で詐欺と暴力でのし上がったロウクは、人間の王都一の用心棒集団を持っていた。

 しかし、自分のそれを遙かに上回る『武装集団』が登場したのだ。

 それはハーフ巨人を奴隷のように扱っていたロウクにとって、自分に対する反逆に等しかった。



 ***



 巨人の王都の整備された石畳を進む。

 空木ウツギの引く木の手押し車は、鉄の車輪に綺麗に青いペンキが塗られた屋根付きの馬車に変わっていた。毛並の良いロバが馬車を引く荷台には、深い森で採取した珍しい食材と二人の少女が乗っている。

 一週間前は人間の自警団にからかわれていたウツギも、身なりを整え、立派な荷馬車に人間の少女を乗せているので嫌がらせを受けることはない。


「そういえば、竜胆さんに王都を案内するって言われて連れて行かれたのに、全然王都の中を見てない。

 ウツギさん、少し寄り道して面白い場所を案内してよ」


 ウツギに声をかけたのは、紺色のエプロンドレスを着た少女。再び女装中のハルだ。

 ハルはその理由を、料理の腕を買われ女装姿で後宮の見習い料理人として働いていると告げた。

 ウツギはその完璧な女装に単純に驚いただけだが、ロクジョウギルド長の桔梗キキョウは、王族のみ使用を許される紺色の生地と膨らんだ肩と袖口に金糸で刺繍された家紋に、ハルが何者であるのか薄々感じ取っていた。


「まだ昼過ぎで時間があるから、巨人王宮の西側にある市場の屋台を見物しようか。

 市場の隣は歓楽街だけど、昼間は飲酒禁止で酔っぱらいは居ないから安心ですよ」


 そうしてウツギの引く荷馬車は、巨人王宮前を通り過ぎると、カラフルなテントの立ち並ぶハクロ王都公設マーケットに向かう。



 公設マーケットは昼食時の喧噪が一段落して、人々はノンビルと屋台を見て回り買い物を楽しんでいる様子だ。

 愛らしいお嬢様風のハルと萌黄、後ろから付いて歩くウツギはその使用人に見え、市場を行き交う人々は三人の姿に別段何の気にも止めずにいる。


「さすが巨人の王都だね。

 値段は他のエリアよりちょっと高めだけど、ありとあらゆる商品、質のいい一級品がそろっているよ。」


「ハルお兄……お姉ちゃん。

 ねぇ見て、あちこちにミゾノゾミ女神様の絵が飾られているよ。

 ミゾノゾミ女神様の顔が、YUYUちゃんやティダさんや水浅葱さんや、ハルお兄ちゃんに似てる」


 それは女神降臨の噂を聞いての便乗商法で、マーケット中にミゾノゾミ女神画が溢れ返っている。

 化粧品を売る屋台にミゾノゾミ女神ポスター、ミゾノゾミ女神と同じ衣装(コスプレ風)を売る衣料店、ほろ酔いミゾノゾミ女神画を飾っている酒屋もある。


「ミゾノゾミ女神様は、四十八人の美女の姿をしてるんだと。

 ハルさんもちょっとミゾノゾミ女神に似てるけど、アノ絵みたいに色気無いから気にする必要ないっすよ」


 SENはハルが女神の憑代だと特定されにくい様に、天才画伯に意図的に様々なタイプの女神を描かせた。

 でもSENさんやりすぎだよ。まさか天才画伯に描かせた美少女集めて「MGM(メガミ48」でもプロデュースするつもりなの?


 ハルは、自分に似たセクシーポーズの女神絵を複雑な心境で眺めながら、中央の屋台でパフェ風果物盛り合わせを注文した。




「うわっ、こんな巨人サイズの大きなパフェを一人で食べられないよ。

 萌黄ちゃん、半分こしようね」


 店の前に準備されたテーブル席に座り、盛りつけられたフルーツかき氷を少しずつ崩して口に運び、熱々の紅茶を飲む。

見た目はそれほど綺麗ではないが、完熟フルーツの甘みは砂糖以上の旨味で、美味しいデザートを提供したいという料理人の気持ちが感じられる。


「完熟果物をカットした上に、凍らせた果物をかき氷にしてる。

 丁寧に果肉を裏ごししてるから、舌触りが優しい。

 上から振りかけられた蜂蜜の風味で、自然な甘みが増して美味しいね」


「おっ、娘さん。嬉しいこと言ってくれるねぇ」


 背の低い丸顔のフルーツかき氷屋の店主は、ハルの言葉に喜んで巨人サイズクッキーをおまけする。


 それから少し経つと、不思議なことに二人の少女が楽しそうに食べている姿に通りすがりの客が足を止め、次から次へと同じパフェを注文する。

 いつの間に屋台の前には長い列が出来て、たった一人の店主が大慌てで客の注文を聞いている。


「あれ、ハルお兄、お姉ちゃん。どうしたの?」


 椅子から腰を浮かしたハルは、いつものお人好しさを発揮して客をさばききれなくなった屋台の前に立ち、出来上がったフルーツパフェを給仕始め、つられて萌黄も皿片づけの手伝いをする。

 驚いた店主も、とにかく客の注文を受け続け、全部捌くまで半刻も忙しく働いた。




「お嬢ちゃん達、手伝ってくれてありがとう。

 不思議なこともあるもんだなぁ、こんな肌寒い日にかき氷を食いたがる客が押し掛けるなんて。まるでミゾノゾミ女神が気まぐれの祝福をしてくれたようだ」


 客の引けた店前で、店主は一息付いて手伝ってくれたハルたちに礼を言いながら新しい紅茶を入れる。

 その間ウツギは屋台の周りを掃除して、ハルはパフェに使われていた果物のことを詳しく聞きたがり、店主も気前よく教えてやる。


「なるほど、嬢ちゃんは王宮の調理場で手伝いしてるのか。それで料理に詳しいんだな。

 俺の娘は嬢ちゃんより少し年上だが全然店に興味無くて、歓楽街で酔っぱらい相手に唄ってやがる。

 最近そこで嫌な男に目を付けられて……大事にならなきゃイイんだが」


 どうやら店主は愚痴りながらも娘を案じていて、繁華街の目の前の公設マーケットに屋台を出しているようだ。

 ハルたちはすっかりおしゃべりに夢中になって長居してしまい、片づけの済んだウツギが二人を呼び、店主に挨拶をして荷馬車に乗り込んだところで……


 数人の男の罵声と、逃げる女の悲鳴が聞こえた。



 ***



 まさか自分が詐欺ギルドのロウクに目を付けられ、巨人王御用達の店 星雲館を乗っ取られるとは……

 行きつけの賭場が実は詐欺ギルド運営のカジノで、そこの客だったオーナーは知らぬ間に莫大な賭の借金を抱えさせられていた。


「そうだなぁ、巨人王御用達の星雲館を手放して、店の女と歓楽街一の歌姫 鈴蘭スズランをヤタガラスギルド専属にするなら、貴様の賭の借金はチャラにしてやる」


 そして土下座したまま頭を押さえつけられる店のオーナー、嫌がる娘達は用心棒に頬を激しく打たれ別の場所へ連れ出される。




 ロウクは靴裏で男の頭を踏みつけながら、黒い禍々しい笑みを浮かべる。


 巨人王が帰還すれば、確実の巨人王御用達の店を訪ねる。

 コレは一攫千金のチャンスだ。腕利きのイカサマ師を準備して巨人王相手に大博打を仕掛け、黄金の王都の莫大な富を根こそぎ奪い取ってやろう。


 そしてアノ女も、やっと俺のモノになる。

 誰の目にも触れさせないように監禁して、自分だけの玩具に仕立てて、ベッドの上で喉が枯れるまで唄わせてやる。


 しかし、歪んだ欲望に思い巡らせ悦に入っている詐欺ギルドのロウクに、慌てふためいた用心棒の声が聞こえる。


「ロウクさま、スズランが閉じこめていた三階の窓を蹴破り、外へ逃げ出しました」


「な、なんだとぉ、馬鹿なこと言うな!?

 女が鉄格子のハマった窓を蹴破って、しかも三階から飛び降りて逃げだしただと。


「スズランは人間じゃありません。巨人の血が流れるハーフ巨人の女です」




 ハーフ巨人の女は数が少ない。

 性欲旺盛な巨人族だが、生まれてくるのは男ばかりで、女が生まれる確率は一割を切っていた。

 したがってハーフ巨人の女の数も少なく、しかも背丈は人間の男と同じぐらいで種族の区別がつきにくい。

 僅かでも巨人の血を引く女は貴重で、後宮で務める娘達も半分はハーフ巨人の娘だ。


 そして巨人王御用達の星雲館では、大柄で豊満な肉体を持ち美しい歌声のスズランが店のナンバーワンになっていた。

 ハーフ巨人独特の迫力のある美声、彼女の歌声を聴きに来る客が店から溢れ、その人気はついに王都一の歌姫とまで呼ばれるようになる。

 しかし数か月前からスズランはある男に気に入られ、しつこく付きまとわれていた。


「ほんの一週間前、赤毛のハンサムなハーフ巨人がアイツを追い払ってくれたのに……

 まさかアタシを手に入れるため、店ごと乗っ取っとるなんて」


 あの蝋人形色の顔をした毒蛇のような性格の男に捕らえられたら、どんな酷い目に遇うか分からない。

 

 スズランは男並みの脚力で、閉じ込められた錆びてボロボロの窓枠を力任せに蹴破ると、いとも簡単に三階から飛び降り、ハイヒールを脱ぎ捨てると裸足で歓楽街の裏通りを走った。

 割れた酒瓶のガラスの破片が足裏を切って、血がしたたり落ちても、走ることをやめない。





「父さん、父さん、助けてっ!!

 店のオーナーが騙されて博打で借金を抱えて、アタシを詐欺ギルドのロウクに売ったの。

 あんな男のトコロに行きたくない、助けて」


 数人の男の罵声と、逃げる女の悲鳴が聞こえた。

 公設マーケットの屋台に駆け込んできたのは、コノ街で一番人気の美しい金色の巻き毛の歌姫だった。


ツイッターにて零夜さんから 鈴蘭スズラン 名前アイデアいただきました。


ブログに「神科学種の魔法陣」おまけ話 はじめました。

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