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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
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クエスト7 ログアウトしよう

MHネタが少々。

 2日目は、宿屋の太陽の匂いのするベットで熟睡できた。


 朝、ハルが目を覚ますとSENとティダはすでに起きて、着替えも何もかも済ませていた。

 何気にSENの顔を見て違和感が……あれ、無精ひげ、すこしワイルドな顔立ちになってるかも。


「おはよう、よく眠れたかハル」


「あっ、おっはようございます、SENさん、ティダさん」


 二人は僕が起きるのを待っていたようだ。

 どうしたんだろう、なんだか少し妙な雰囲気だな?


「ハル、ちょっと確認したいことがあるんだ。

 試しに落ちて(ログアウト)みてくれないか」


 そうか、ちゃんとセーブ(就寝)してからでないと、ログアウトできないからね。

 ゲーム世界での2日目は、リアルでは2時間。

 僕は、9時にログインしたから、ログアウトしたらお昼前になっているはずだ。


 判りました、と返事して、僕は首のチョーカーに触れようと……


 あれ、リアルの腕ってどうやって動かす?

 頭は、首は、

 腕は、指は、

 僕の体は、どこにいった?


「あっ、な、なんで、ログアウトできない?」


 SENとティダは、黙って僕を見つめている。その視線は探る様に鋭い。


 どうしたんだろう、これは……夢?

 鮮明な夢の中に居て、夢だと意識しているのに起きられない感じに似ている。


 体が目覚めない。


「ハルちゃん、風邪ひいて学校休んだって言ってたよね。

 風邪薬の成分に眠気を誘う作用があれば、本体は眠てる状態かもしれない」


「そうだ、僕ログインする前に風邪薬を飲みました。

 ということは、SENさんもティダさんもログアウトできないの?」


 僕ら三人とも、体調不良の状態でゲームにログインしてしまったらしい。

 ゲーム使用上の注意‥‥甘く見てました、すみません。

 リアルの体は、インフルの高熱にうなされて昏倒してるかもしれない。


 はぁ、とSENはため息を吐くと髪をガシガシ掻き毟る。


「ハル、お前はゲーム初心者で、このエリアを初めて来たのだから気が付かないだろうが、ココは、俺たちが知っている場所とは、あまりに違い過ぎている。

 オアシスの村はこんな悲惨な状況ではなかったし、モンスターバトルもリアルすぎる。

 疑似体感システムが本当にここまで再現できるのか?」


「しかしなぁ、逆に剣や魔法の世界がリアルなんて、ありえないよ。

 元々VBWシステム自体が、二世代先を行く謎の技術と噂されるくらいだ。

 リアルっぽいのも、ゲーム内で新たな技術導入がされたんじゃないか?」


 どうやら、異世界迷い込み派のSENと、ゲームの新システム導入派のティダで意見が対立中。

 結局、10日(リアル10時間)後の強制ログアウトを待つか、少しでもリアルの体が動ければ、その場でログアウトするという話になった。





 三人は1階の食堂へ降りると、自警団の数人が地図を広げ何やら話しこんでいる。


 竜胆たち自警団は、半年に一度オアシスを襲う蒼珠砂竜を追っていた。

 机の上に広げられた地図には、広いタイショ砂漠の中を回遊する砂漠竜の進路コースが数パターン記されている。


「今回の砂漠竜の動きは、3日後にオアシスを襲うコースだ」


 自警団は、砂漠竜をオアシスに近寄らせないように何度も攻撃したが、砂の中を縦横無尽に泳ぎ回る相手を倒すことが出来なかった。


 興味津々で横から地図を覗き込むハル達に、竜胆は気軽に席を勧める。

 SENが地図の上に、オアシスを示す一点に×印があるのを見つける。


「砂漠竜はオアシスのこの場所で引き返している、どうしてだ?」


 ああ、と竜胆は苦々しそうに呟く。


「この位置は女神聖堂のある場所だ。

 聖堂の連中は砂漠竜に建物を破壊されないように、生贄を差し出して餌付けするのさ」


「なんだって、竜の生贄……まさか」


「ご想像通りだ。村の若い娘を生贄に差し出して、竜の怒りを抑えてもらうんだとよ」


 ガンッ


 黙って話を聞いていたティダが、突然立ち上がると怒りに任せて机を叩く。


「あんたら馬鹿か!!砂漠竜は神じゃない。

 生贄が豚でも人間でも、喰って腹いっぱいになれば満足して帰っていくんだ。

 ……そうか、お嬢ちゃんが攫われたのは、生贄にするためか」


「あの腹黒い大神官は、反乱分子への見せしめのために、関係者の娘を生贄にする。

 三日後には、聖堂前に砂漠竜が餌をもらいにやってくる。

 萌黄もえぎの代わりに、別の娘が生贄になるはずだ」


 SENは腕組みしたまま地図を眺めると、不敵な笑いを浮かべる。


『最上級 蒼珠砂竜 討伐クエスト』

 それは、砂漠竜の貴重部位を手に入れたくて、SENとティダが挑戦したクエスト。

 当時【物欲センサー】が働いていたせいか、討伐しても討伐しても欲しい部位は出なくて、SENのハートをズタボロにしてしまった、トラウマのあるクエスト。


※【物欲センサー】主にネットゲームなどで、プレイヤーが欲しいアイテムほど入手できないような場合に働いていると噂される特殊なセンサー。



「くくくっ、大剣溜め△長押し点滅3回 移動ステック×回転 大剣溜め△長押し」


「うわっ、SEN正気に戻れ!!電波垂れ流している」


「それは神科学種の呪文なのか、どういった意味なんだ?」


 なにやら目が座り、異様な黒いオーラを放ちながら、SENは宣言する。


「最上級 蒼珠砂竜 討伐クエ68回クリアの実力見せてやる。

 王子竜胆、それに自警団諸君、神科学種 最強武士(廃プレイヤー)が竜の狩り方を教えてやろう」



 ***



 午後から、ハル達はオアシスの村と女神聖堂を尋ねるために宿を出た。


 以前のオアシスは『病を治す奇跡の水』を求めて各地から巡礼者集まり、観光と商業でとても賑わっていた。

 しかし今は奇跡の水は枯れ、転送ゲートが壊れて訪れる者もいない、以前の華やかさは見る影もない。


 干ばつと圧政とモンスターの襲撃で、畑は荒れ作物も育たず、建物は破壊されたまま放置されていた。

 木の陰に座り込んで動かない老婆や、大きな荷物を抱え疲れたように歩く親子、物陰からハル達の様子を監視する視線。


 スラムと化した家々を見下ろすように、村の中心にオアシス聖堂はそびえ建っていた。


 オアシス女神聖堂は、白い石積の巨大な長方形の箱のような、一風変わった建物だ。

 建物前面は、色とりどりのタイルで女神と神話の世界が描かれ、屋上は供物を捧げる祭壇の様な造りになっている。

 聖堂前大広場は白い石畳が村の大通りから砂漠まで伸びて、広場中央には『奇跡の池』と呼ばれていた、水の枯れた池が備え付けられていた。


 聖堂訪問用に、SENは黒のシルクハットに白い艶のあるシャツ、燕尾服の様な黒いコートを羽織り、クラシカルな雰囲気のイケメンになっていた。

 ティダは「どこぞの花嫁ですか」と言いたいような、全身白のドレス姿。

 そして僕は、無料キャラ設定で平々凡々、見た目二人の従者です。


「あら、ハルちゃんも高貴な御曹司に見えるようにお姉さまが着替え「やめろ変態エロフ」げふっ」


 強欲悪大神官との面談はSENに一任することになる。

 ティダは、会話をするとイメージぶち壊しなので黙って立っていろと言われた。


「王や貴族、神官や将軍、身分の高いキャラに会う場合は、テンプレ通りの会話をしないと面倒な事が起こるんだ」


「なんですか、テンプレ通りの会話って?」


「ふざけた会話して相手を怒らせると「地下牢ダンジョン」に送り込まれる。

地下牢ダンジョンも凝っていて面白いんだが、今は後回しだな」


 なるほど、僕みたいなゲーム初心者が会話したら、大神官を怒らせて「即 地下牢ダンション」決定だね。


 周囲の人々の恐れるような視線を感じながら、3人の異邦人は、伏魔殿 オアシス女神聖堂の大きな門をくぐった。


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