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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
ハクロ王都編
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クエスト84 巨大肉団子料理を作ろう

 ロクジョウギルドに匿われている若い黒髪のハーフ巨人が、一帯の畑を荒らし回っていた獰猛なボス鬼イノシシを倒したというと言う噂は、瞬く間に人間の王都に住むハーフ巨人の間に広まった。

 巨大モンスターの住処である深い森は、巨人王兵士が戦闘訓練のために入る事はあるが、人が簡単にに立ち入れるものではない。

 命の保証がない深い森で若いハーフ巨人が狩った獲物は金貨百枚で買い取られ、採取した高級果実は巨人王への献上用に貴族に取引され、等価交換で金剛石を手に入れたという。


 そして噂は、巨人すら恐れる深い森に分け入り上位モンスターを狩り高級素材を手に入れる男と、男の手助けもせず指をくわえて見てるだけの情けないギルド員の事も伝わっていた。


 その黒髪のハーフ巨人が、実は歓楽街で善良な人間?を襲った凶暴な赤毛ハーフ巨人だと気づかれない。

 深い森で狩りをする男の話は、ハーフ巨人たちの間で小さな動きとなって表れる。




 今日の竜胆の狩りの獲物は、美しい白にまだらの毛皮、蒼く長い牙を持つ白蒼斑豹だった。

 王族や貴族のマントの襟周りに毛皮が使用される貴重な高級品である。

 その獲物を深い森の入り口で待っていた空木ウツギの手押し車で運ばせて、隠れ家であるギルドの別荘に帰ってくる。


 人間の王都の東端、辺鄙な場所にあるギルドに立ち寄るモノは少ない……はずなのだが、建物の入り口には明らかにロクジョウギルド員とは異なる、いかにも戦士風なハーフ巨人が数人たむろして誰かを待っている様子だった。


「うわっ、奴らは上級ギルドの凄腕ハーフ巨人戦士だ。

 ウチみたいな貧乏ギルドに何の用があるんだろう。

 まさか竜胆さんの素性がばれて、懸賞首を探しに来たんじゃないか?」


 ハーフ巨人戦士の姿にウツギは押し殺した悲鳴を上げ、怯えてその場から動けずにガタガタと震え出す。

 そんなウツギを放置して竜胆は先を進む。


 ギルド長の桔梗キキョウは、自ら表に出て一際体格の良いハーフ巨人戦士のリーダーと話をしていた。


「我が上級ギルド長も、高名なキキョウさまの元に行くのであればと、喜んで送り出して下さいました。

 巨人も恐れる深い森で、ひとり巨大モンスターを狩るハーフ巨人殿の手助けをするため、我々をロクジョウギルドに受け入れて下さい」


 巨人王側近の近衛兵だったキキョウを意識してか、白銀の髪を短く刈り込んだリーダーは、拳を握りしめたまま左胸に手を当て深々と頭を下げる軍隊式の叩頭を行う。

 その仕草は、キキョウの後ろで唖然としているギルド員との格の違いを見せつけていた。

 上級ギルドで鍛えられたハーフ巨人戦士は、巨人王の近衛兵へ推薦されるほどの実力を持つと言われている。


「ふうん、見かけは立派に整えられている。しかし、使えるかな」


 竜胆は相変わらずの不遜な態度で、彼らに声をかけてきた。

 彼らは仕事で貴族や王族と関わる機会も多い。一瞬で竜胆の風貌を判断し見極めるたリーダーのハーフ巨人戦士は、緊張した表情で返事をする。


「貴方がボス鬼イノシシを倒したという竜胆様ですか。

 我々はハーフ巨人の猛者である竜胆様の噂を聞き、居ても立っても居られずこちらへ馳せ散じました」


 一人のハーフ巨人戦士が、竜胆のやってきた方向に停止したままの手押し車の上の獲物を見て声を上げる。


「おい、アレを見ろっ!?

 荷台に乗っている獣は、年に数頭しか捕獲できない白蒼斑豹だぞ。あんな凶暴な魔獣を倒したのか」


 男達は驚きの声を上げ、一斉にウツギの手押し車に乗せられている獲物に群がり、白に斑の美しい毛皮の獣を珍しそうに眺めている。


「彼らはアンタの噂を聞きつけて、上級ギルドを辞めてウチの貧乏ギルドに入りたいと言ってきた」


 そう竜胆に告げたキキョウは、自分が苦労して集め世話をしたギルド員達を見回す。

 くたびれて無気力な表情のギルドのハーフ巨人たちは、はっきり言えば落ちこぼれ集団だった。 

 それが僅か2日で、竜胆王子の噂を聞きつけ優秀なハーフ巨人が集まってくる。

 これが巨人王の血を引く者の威光なのだろうか。

 

 しかし感動で身を震わせるキキョウとは反対に、竜胆は冷静そのものだった。


「王都の連中は実戦経験が少ないらしい、本当に深い森での狩りに役に立つのか?」


 勇ましいハーフ巨人戦士だが、その姿が見かけ倒しでは困る。

 巨大モンスターを前にして狩りの役に立たないなら、ウツギのように森の外で待機してる方がマシだからだ。




 ウツギの手押し車に乗せられた珍獣は、群がったハーフ巨人戦士によってギルドの建物前まで運ばれる。


「この白蒼斑豹は、なんと美しい素晴らしい毛皮だ。

 心の臓を槍で一突きして仕留められているので、毛皮のどこにも傷が付いていない。

 私の居た上級ギルドなら金貨百五十枚、いや二百枚で買い上げるでしょう」


 ハーフ巨人戦士リーダーの言葉に、キキョウの後ろでツマラナそうに控えていたギルド員達からもドヨメキが起こる。


「へぇ金貨二百枚とはイイ値だ、それならアンタの居たギルドに買い取ってもらおう。

 おいハル、今夜は景気よく前祝いに豪勢な料理を作れ。

 俺のおごりでアンタ達ハーフ巨人戦士と、ギルドの連中も腹一杯喰わせてやる」


 上機嫌な竜胆の言葉に、これまでハルの作る旨そうな料理の匂いだけで我慢を強いられたギルド員から吼えるような歓声が起こる。


「ち、ちょっと、竜胆さん。

 ギルドの人には食べさせちゃダメだって言ってたのに、どういう風の吹き回しなの?」


 料理の振る舞い癖を我慢していたハルの抗議に、竜胆は獰猛な笑みを口元に浮かべ答える。


「話をよく聞けよ、俺様は儲けをおごるとは一言もいってないぞ。

 明日の狩りの前祝いでおごるんだ。

 大勢で狩りをするとなると雑用の人夫も必要だから、俺様のおごり飯を食ったヤツは強制的に狩りに連れて行く。

 それに実際の狩の場面では、ハーフ巨人戦士でも使えないヤツもいれば、逆にギルド員の中に役に立つ者も出てくるはずだ」


 実に単純な騙しだが、竜胆に弱みを握られて逆らえるギルド員はいないだろう。

 自ら進んで動こうとしない、力のある者の指示には従うギルド員だからこそ有効な手段だ。


「もうっ、判ったよ。でも僕一人で大人数のハーフ巨人用の料理を作るのは大変だよ。

 ウツギさんも少し料理が出来るらしいから手伝って貰おう」


 愚痴りながらもどことなく嬉しそうなハルは、腕まくりをするとウツギを呼びに行った。



 ***



 日が暮れる頃、ロクジョウギルド建物の調理場から、何かを激しく叩く音が響いてきた。


「ハーフ巨人三十人分もの大量な食材って、ボス鬼イノシシの肉しかないんだよね。

 でも、五十年生きた年寄りイノシシ肉って硬すぎるから、ミンチにしてハンバーグを作ることにするよ。

 畑を荒らすイノシシを退治した畑の主から、お礼に貰った卵や野菜でピザも作ろう」


「ハルさん、どんだけ肉を細かくすればいいんだっ。俺もう肉を叩きすぎて腕がもげそうだっ」


「まだ全然だよウツギさん、イノシシ肉は硬いからもっと細かくして。

 この後は、ハンバーグの種を粘りけが出るまでコネてね」


 すっかり料理オタクモードに入ったハルは、ウツギの泣き言に一切耳を貸さず次から次へと仕事を言いつける。


「いつもウツギさん達が食べている粉モノで、ピザを作るんだ。

 平たく焼いたパンみたいなもので、しっかり生地を伸ばして三十枚作ってね。

 トッピングはワニ肉とタマネギトマトもどき。それにパインに似た森の果物を乗せよう」


「グハッ、コネて伸ばして三十枚、腕がっ、腕がぁぁ痺れてきた。

 ハルさん、もうこれで全部終わりっすか?」


「えっと、次はピザに使うチーズとバターを作るから、この牛乳二十本の中身が固まるまでシェイク、しっかり振ってね。

 途中で休んだらバターは固まらないよ、料理はスピードが命だからね」


 シャカシャカ「ひいっ、腕が……腕が千切れそうだ」シャカシャカ


 ハーフ巨人の中でも腕力があり、仕事の段取りも良いウツギは、悲鳴を上げながらもハルの指示通り完璧に食事を作り上げる。


 クリスタルシールドの上に巨大ハンバーグを乗せ蓋(兜)をして蒸し焼きにする。

 深い森で採れた完熟フルーツのソースを焼き上がったハンバーグに廻し掛けると、辺り一面甘くてスパイシーな香りが漂う。


 表面にしっかり焼き色を付け肉汁を閉じこめた鬼イノシシ巨大ハンバーグは、肉本来の味に混ぜこんだ香菜の風味があり、テーブルいっぱいに並べられた色とりどりのトッピングピザは、見た目も鮮やかで食欲をそそる。


「肉うめぇ、中からじんわり染み出した肉汁と甘辛ソースが絶品だ。こんな柔らかいイノシシ肉団子は初めてだ」

「焼きたての平たいパンは、白い塊が溶けて具と絡んで美味しいな。この薄焼きパンならいくらでも食えるぜ」


 食にうるさい上級ギルドのハーフ巨人戦士も初めて見るピザと巨大肉団子ハンバーグ料理で、貧乏ギルド員はもはや脇目もふらす一心不乱に食べている。


 満足げなハルと、慣れない料理に疲れはてグッタリと座り込むウツギ。

 ハルはそんなウツギに声をかける。


「ねぇ、ウツギさんは荷夫の仕事をしてるから旬の食材が判るし、料理の手際もよかった。

 モンスターが怖いなら、無理して狩りに出なくていいよ。その代わり別の事をすればいいんだ」


 ハルの言葉にノロノロと顔を上げるウツギと、竜胆はすぐ側でピザを手掴みで食べながら話を聞いていた。


「ハル、なにを甘やかしてるんだ。

 こいつは腕っ節があるし、臆病風に吹かれなければ狩りに参加できるんだよ」


「豪勢な料理を準備しろっていったのは竜胆さんだよ。

 それなら竜胆さんは僕の指示通りに、ウツギさんみたいに料理を作る事が出来る?

 僕は竜胆さんに無理矢理ココに連れてこられたんだから、ウツギさんに料理を教えたら後宮に帰るからね」


 元々この騒動の発端は、後宮の劇甘料理が竜胆の口に合わないという食べ物ガラミの出来事だった。

 今の竜胆はお尋ね者で、王都の中を自由に歩き回ることが出来ない。

 ハルが後宮に帰れば、たとえ高級食材を手に入れたとしても、このような美味しい食事にありつけるだろうか?

 下手したら硬いイノシシ肉と馬の餌モドキを食う、腹を満たすだけの料理になってしまう。


 胃袋を握られて全く言葉を返せない竜胆は、勝手にしろと捨て台詞を残し大股でその場を離れていった。

 小柄な人間の召使いが獰猛な竜胆を言い負かす様子を見ていたウツギは、驚きながらハルに声を掛ける。


「ハルさん俺には無理だよ。ハーフ巨人は人間みたいに器用に料理を作れない」


「そんな事ないよ、ウツギさんなら大丈夫。

 料理は旬の食材を使えば、塩味だけでも美味しく食べることが出来るんだ。

 これから一週間、色々な調理方法を教えるから頑張って覚えてね」



 ***



 翌日早朝から深い森での狩りは、意外な事にほとんどのギルド員が参加し、中にはハーフ巨人戦士以上の働きをする者もいた。

 仕留めた巨大モンスターの報酬は、狩りに参加した頭数で分けても下請仕事の数倍稼げる。

 狩りの後は胃袋を満たす旨い料理が待っていて、家畜の餌もどきを食べていた時とは雲泥の差だ。

 

 ハルがウツギに料理を教え始めて一週間が経つ頃には、巨大モンスター狩りと美食料理の噂を聞きつけたハーフ巨人と、更には腕に覚えのある人間までが次々とロクジョウギルドにやってくる。


 貧乏下級ギルドの人数は、百人近くまで膨れ上がっていた。


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