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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
ハクロ王都編
83/148

クエスト78 豪華料理を食べよう

 第四後宮 王の影YUYUの館。


 ハルの着替えが終えたのを見計らい、年輩の女官長と二人の見習い女官が部屋へ食事を運んできた。


 ワゴンに乗せられたのは、色とりどりに飾り付けられた、見た目も美しい洋食オードブル。

 料理を自分で取り分けて選べるので、ハルは大喜びで皿に次々と料理を乗せる。


「はむはむ、このバラの花のように飾り付けられたサーモンとアボガドロールは、たっぷり掛けられたベリーソースが甘……甘すぎる。

 パクリ、うっ、ジャガイモとチキンのグリル焼きだと思ったら砂糖がこってり……甘露煮だ。

 ルビーみたいに綺麗な色のトマトスープの下に沈殿しているのは、まさか、飽和状態で溶けきれない砂糖!!」


 見た目は豪華な宮廷料理だが、すべて舌がおかしくなるほど甘く味付けされていた。

 ハルの身分(というか性別)を明かされていない女官長は、畏まった口調で料理を一品ずつ詳しく説明する。


「これほど素晴らしく豪勢な料理を食べたのは初めてでしょう。

 YUYUさまの計らいに感謝なさい、貴重な甘味を贅沢に使った、巨人王の寵姫にしか口にする事のできない最高級料理なのですよ」


 言われてみれば、この世界に来て使った甘味は果物と蜂蜜だけだ。


「特にコノ砂糖は、南の海の彼方から運ばれてくるとても貴重なものです。貴女の手に持つカップ一杯分の砂糖は、同じ重さの銀貨と交換されるぐらいです」


 その説明に、ハルは思わずカップを落としそうになる。

 いくら砂糖が貴重品だからって銀貨と交換……絶対取引相手にボラれているよ。

 ココ後宮では、甘味は富の象徴のようだ。でも、何でも甘くすればいいってもんじゃないっ。


 しかし、ハルは多めに皿に載せた激甘料理をすべて食べなくてはいけない。

 紅茶で必死に胃袋に流し込み、ひどい胸焼けに襲われながらなんとか完食する。


 食事を終えてフラフラと立ち上がったハルに、背後で控えていた警護の三人娘のリーダー檸檬が声を掛けた。


「ではハルさま、これから巨人族 鉄紺王後宮を御案内しながら、YUYU様の引きこもっ…お仕事を執務されている古代図書館へ参りましょう」


「ハルさま、他の後宮の者に声を掛けられても無視して下さいね。

 舐められたらダメですよぉ。ココを仕切っているのは第四後宮”くノ一”のアタシたちなんだから」


 あのう、もしかして僕も”くノ一”のメンバーに加えられてる?

 彼女達の気合いの入った様子にハルは黙って後ろを付いてゆく。

 やはりココは、愛欲渦巻く女達の戦場なのだ。



 ***



 ハクロ大地は巨大植物と巨大モンスターの生息する土地。

 その危険な大地から採取される貴重な鉱石は、巨人族の富の象徴だった。


 そして、黄金の都と人々が憧れと称賛で語る、ハクロ王都。

 巨人族の王宮は細かな装飾を排し、宮殿の柱は傷一つない透明水晶、床壁天井を形取る純白大理石そして屋根は金箔が張られ、王の象徴である金剛石のグリフォンが数体飾られている。


 宮殿そのものが巨大な宝物、他種族をしのぐ圧倒的な力は、五十棟に及ぶ華やかな後宮御殿にも表れている。

 巨人王後宮は、その貴重な鉱石を煉瓦状に積み上げた色鮮やかな館が立ち並び、遠目からみると宝石箱のようにきらびやかな光を放つ。


 女官の娘たちに案内され、後宮の中央に立つクリスタルの塔の最上階からハクロ王都全体を見下ろしたハルは、その意外な光景に驚きの声をあげる。


「ここは巨人族の王都だよね。

 白い城壁に囲まれた部分は、建物が大きいから巨人族のエリア。

 でも城壁の外も建物で埋め尽くされて、森の中まで入り込んでいる。

 森は巨大モンスターが生息する危険地帯だ」


 ハルは『巨人の都』をゲームイベントで訪れたことがあり、ゲームの中で『巨人の都の住人』は巨人族だけだった。


 今、ハルの眼下に広がる風景は、巨大で頑丈な巨人の住居、その周囲に木造で小さな家が密集して建っている。

 巨人王宮殿に伸びる広い道を埋め尽くすのは、ほとんどが小さな人間。巨人の姿はちらほら見えるだけだ。

 石造りの巨人の家と小さな木造の家が隙間なく立ち並び、城壁の外にまで溢れた人間の家が壁伝いに建てられている。

 

 豪華な宝石箱のような巨人の都を二重三重に取り囲む人間の都、そして巨大樹と巨大獣の生息する黒々とした深い森の大地。


「ハクロという地は、弱い人間が住むには厳しい場所です。でも、巨人族の持つ富に引き寄せられ大勢の人間が移り住んでいます。

 城壁の中に住んでいるのは、巨人王に忠誠を誓い庇護を受ける人間達。

 城壁の外に住んでいるのは、勝手にこの地に住み始めた人間です」


 以前居た鳳凰小都も大きな街だった、しかしココは数倍も規模の王都だ。

 巨人の都に寄生する人間の都。城壁の外に広がる人の都が、巨人の都より二倍以上の面積になっているらしい。


「人の都を支配するのはギルドと呼ばれる組織。巨人族との鉱物売買で得た富は、ほとんどギルドに流れているようですね。

 人の都に住む人々は、ギルドに使われる労働者です」





 ハルはクリスタルの塔を出て、宝石箱のような後宮を一つ一つ眺めながら、王の影の待つ古代図書館に向かう。


 冬の屋外だというのに、高価な炎の結晶を庭のあちらこちらに配置され、アジサイとコスモスとヒマワリとが同時に咲き乱れる季節感ゼロの庭に仕上がっている。

 つるバラの絡まったテラスに、可愛らしいクッションの並べられたベンチに腰かけてお茶会を楽しむ愛らしい姫とお付の女官。

 どこからか流れてくる音楽に合わせて小鳥のさえずりのような歌声が聞こえ、噴水から虹色の水が吹きあがっている。


 しかしロマンチックなテラスの隣には、丸太を人に見立て藁が巻かれた木型の人形が数体並び、額に鉢巻をして槍を構えた女官が打ちこみの訓練をしている。

 ふと上から視線を感じて見上げると、建物の間に渡された細いロープの上を綱渡りしている娘がいる。

 手に持つお盆の上にワイングラスがあるから、”くノ一”訓練をしながら仕事をこなしているのだろうか?


 履きなれないヒールの靴を鳴らしながら三人娘の後ろを付いてきたハルは、先頭の檸檬が止まるのにつんのめってぶつかる。

 巨人の血を引く彼女たちの細い身体は、ハルがぶつかっても微動だにしない。

 目の前の廊下を、派手に着飾った大柄な女性と女官の一団がこちらに向かって歩いてくる。


「ハルさま、前から来るのは第九位側室。身の程をわきまえず、YUYU様を目の敵にして正后の座を狙うおつむの軽い姫です。

 あの女に何を言われても無視してくださいね」


 えっと、オレンジの長い巻き毛に宝石の髪飾り、深紅のドレスにエラ、ではなく大きなフリル、シミ一つない透き通るような白い肌のトド、マツ@デラックスのような大柄なお姫さまだ。

 トド姫(と命名)は、その体型でありながら瞳の大きな綺麗な顔立ちで、痩せればYUYUさんと張り合うぐらいの美人になりそうだ。


 彼女が一歩一歩こちらに近づいてくるたび、地面が揺れる錯覚に陥る。

 先頭に立つ檸檬の前でピタリと足を止めると、アキバメイド喫茶風衣装を見回してクスリと笑う。


「あら、お久しぶりね。王の影の野蛮なアマゾネスの皆さん。

 今日はまた、ずいぶんと奇抜でハレンチな格好をしてらっしゃるのね。

 あら、新顔が一人、誰かしら?」


 YUYUをライバル視しているトド姫は、付き人の女官の顔も把握しているらしい。見かけより頭の回る姫かもしれない。

 声をかけられた檸檬は、ゆっくりと頭を下げながらにこやかに返事をする。


「第九位側室 菖蒲アヤメ様からのありがたいお言葉、光栄でございます。

 新顔の女官は、本日屋敷にあがったばかり。高貴なアヤメ様とお話できる身分の者ではありません」


 丁寧でへりくだった女官の態度に気を良くしたトド姫は、高笑いをあげながら廊下を通り過ぎてゆく。

 その丸い背中を見つめながら三人娘が舌打ちする様に、ハルは改めて女の園の怖さを実感した。



 ***



 宝石箱と例えられる豪華絢爛な後宮の最奥に位置する場所に、くすんだ赤レンガ造りの小さな古代図書館は紛れこんでいた。


 古代図書館の中は、これまで使われていたランプに代わり七色の光を放つ紙細工の鳥が飛び回わる。

 神科学の時代から終焉世界までの書物がココに保管され、特に古代禁書、破滅の書と呼ばれる本は王の影YUYUによって厳重に管理されていた。


 その古代禁書を保管する隠し部屋の中で、手にした本から顔を上げた銀髪のエルフは改めて周囲を見回した。

 破滅の書物と呼ばれ人々に畏れられるのは、実は少年マンガコミックス。

 出版社順五十音に並べられたコミック棚と座りごこちの良い椅子やソファー、ココはまるでマンガ喫茶のようだ。


 図書館に住み着いている巨人王の側室 王の影YUYUはテーブルを挟んで向かいに腰掛け、ドクロ表紙の怪しげな本をめくっている。

 ティダと一緒に訊ねて来た竜胆は、退屈して他の後宮に行かないように、宇宙人の女王の発明品でエッチな話になるダークネスなマンガ本を与えられ読みふけっていた。


「まさか、学問嫌いの竜胆様がこれほど真剣に本を読むなんて!?

 なんて恐ろしい古代禁書なのでしょう」


 呪いを信じて怯える水浅葱に、主であるYUYUは差し出された紅茶を受け取りながらなだめるように声をかける。


「水浅葱、大丈夫ですよ。王族や神科学種には、破滅の書物の呪いは効きません。

 ああ竜胆、本は貸し出し禁止、懐に隠した本を出しなさい」


 そして何かを耳打ちして合図を送ると、軽くうなずいた水浅葱は向かいに座るティダの前にカップを置き、その天女のように優麗なエルフの顔を覗き込む。


「ティダ様もいずれコノ後宮にお迎えしたかったのですが、まさか竜胆様と【王族の魂と血と肉の契約】を契られるとは思いませんでしたわ」


 何気なさを装って訊ねる水浅葱は、王の影の命でティダに対して読心の術を発動させている。

 もちろんその事に気付いているティダは、悠然と微笑みながらその眼を見返す。


「貴女は好きなだけ俺の心を覗くとイイ。

 俺の望みと竜胆の望みを叶えるには、その【王族の契約】方法が一番簡単で手っ取り早かったからだよ」


 外見は可憐な天女の姿をしているが中身はドS属性のティダだ。

 読心術を発動させていた水浅葱の表情が変わり、みるみるうちに頬を赤らめる。


「ええっ、そんな激しい!?まさかこんな亀@縛りや花と蛇!!」


 と思わず甲高い声が漏れ、慌てて口元を押さえる。


「いけません水浅葱、心を読むのをおやめなさい。

 ティダさん、緊縛モノAVを妄想して、水浅葱が目覚めたりしたらどうするんですか」


「俺の妄想ぐらいでパニクるなら、SENの妄想なんか覗いた日には人間不信に陥るぞ。

 それに俺が竜胆と契約しても、何一つ巨人王に不利になることはないはずだ」


 巨人王に敵対する霊峰女神神殿の法王アマザキと紫苑王子。

 その紫苑に目を付けられた竜胆とハル。

 いずれ衝突は避けられないなら、先にあらゆる手立てを講じていた方がよいのだ。


「確かに、巨人王は表立って一人の王子を支持できませんが、霊峰女神神殿が絡んでくるなら話も変わります。

 では、仮にも王子である竜胆とそのような関係になったのなら、フフッ、これからはティダ姫と呼びましょう。

 もうハルくんからは手を引いて下さいね」


「俺は、互いの望みを叶えるための契約をしたんだ。

 ハルちゃんは別の話だ」


「まぁティダさま、お盛んな竜胆様のお相手は大変じゃありませんか。

 ホホホッ、私たちにハルさまのお世話はお任せ下さい」


 これは千載一遇のチャンスとばかりに、復活した水浅葱も加わってきた。

 確かに王の影の支配する後宮に居れば、ハルは安全は保証される。

 しかしそれは篭の鳥と同じだし、あのハルは決して大人しくできないだろう。


「そうだな、以前も話したように、誰を選ぶのかハルちゃん自身が決めることだ。

 今は、貴女たちにハルちゃんを預けよう。ただし条件がある」


 あのティダが諦めて引き下がったと勘違いして、YUYUと水浅葱の顔が明るくなる。


「ティダさん、どのような条件でもかまいません。何でもおっしゃって下さい」


 その時うっかり口を滑らせたことを、YUYUはヒドく後悔する。


「巨人王後宮に出入りできるのは王と王子だけだが、神科学種も自由に出入りできるように。

 そう、SENもコノ古代図書館に入れるように手配してくれ。

 SENならここに納められた書物の情報を、全てデータベース化できるだろう」



 ***



 それから半刻後、三人娘に連れられ愛らしいメイド服姿で古代図書館に来たハルは、YUYUの姿を見ると開口一番叫んだ。


「見た目はすごく綺麗なのに、食べていて胸焼けするぐらいの激甘で、ココの後宮料理は一体どうしたんですか!?」


 図書館に来るまでに見た後宮の美しい姫や女官や、宝石箱の様な目もくらむ館よりも、料理オタクのハルにとって一番の関心事は、せっかくの食材の味が台無しの許せない料理だった。

突っ込みどころ満載の回でした

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