クエスト77 天蓋付ベッドで爆睡しよう
明けましておめでとうございます。
新章の始まりです。
タイショ砂漠エリア オアシス女神聖堂。
多くのミゾノゾミ女神信者たちが巡礼のために砂漠の道を数時間歩いてきた。
人々はオアシスが視界に入ってきた途端、感嘆の声をあげる。
砂塵吹き荒れる砂漠の中にありながら、深い緑に囲まれ薄桃色の花吹雪舞うオアシス。
微かに蒼みがかった清らかな水が満たされた奇蹟の泉は、いかなる病を癒すといわれる。
「アタシは膝が痛くて歩けない状態で、息子におぶられてココに来たんだ。半信半疑で女神様の泉につかって三日もすると、なんと膝の痛みが消えて歩けるようになったんだよ」
「俺も畑仕事の最中に鎌で腕も切っちまって、指の感覚が麻痺して働けなかった。もう、女神様にすがるしかないと思ってココに来たんだよ。
見ろよ、奇跡の泉に浸かって蒼い水を飲んでたら、指がマトモに動くようになった」
オアシス聖堂前の大広場にはミゾノゾミ女神に神託を受けた乙女 銀朱の姿を一目拝見しようと長蛇の列ができていた。
人々はその列に並びながら病が癒えた体験談を話す。
行列の後ろに並んだ行商人は、にぎわう露天や宿を選ぶ巡礼者の姿を見て感慨深げに呟く。
「二年前に来た時は、泉が枯れてサビレたオアシスが、僅か半年でここまで賑やかで豊かになるなんて、まさに女神様様だな。
俺の町にも女神様来てくれねえかな」
「でもよぉ、神殿の法王は女神降臨を認めてないらしいぞ。猫人娘を生贄にしてミゾノゾミ女神様を終焉世界に呼び出し、宝石の雨を降らすってとち狂ったコト言っている」
隣で並ぶ同業の男が返事をした時、オアシス女神聖堂前の大広場の左右に灯っていた”神の燐火”が突如音を立て煌々と燃え上がり、銀鈴が穏やかな音色から荒々しく激しい音楽を奏でだす。
列に並ぶ巡礼者は突如鳴り響く神曲に驚き、オアシス聖堂に目を向けると、聖堂の正面壁に描かれた色鮮やかなモザイクタイルが一瞬にしてオアシスとは異なる場所を壁面に映し出す。
映像文化の失われた終焉世界では、壁面に映し出された画像が理解できず、人々は聖堂の壁に穴が空いたのだと勘違いする。
その穴の向こうは、暗雲立ちこめる荒れた海で、恐ろしい姿をした三枚翼の黒い悪魔が暴れ、海の上の船を沈めようと襲いかかる場面だった。
大波に煽られ木の葉のように浮かぶ、今にも船が壊れてしまいそうだ。
人々は黒い悪魔の姿に悲鳴を上げ、その場から逃げ出す。しかし砂漠竜を狩るオアシス戦士はその場で息を詰め、穴の向こう側のコトの成り行きを見つめる。
「誰か、悪魔の背中に居るぞ。あれは、まさか、ミゾノゾミ女神様!!」
緋衣のミゾノゾミ女神が、鈍い銀色に光る刀を悪魔の体に振りおろす。
船を襲っていた黒い悪魔の首が断たれ、海の中に落ちてゆく。
そこで正面壁にできた穴は塞がり、オアシス女神聖堂は元の状態に戻る。
「な、何だ、今のは!!
ミゾノゾミ様が黒い魔物と戦っていたぞ」
人々がその場で立ち尽くし沈黙する中、聖堂の祭壇から長い黒髪の乙女が声を張り上げて叫ぶ。
「あれは、あの御姿は、私が神科学種の住まう世界でお会いしたミゾノゾミ女神様です。
オアシスの奇蹟の泉に再び水を蘇らせた、本物の女神様ですわ!!
ミゾノゾミ女神様は我々に豊穣をもたらすために降臨されました」
神懸かり状態の乙女は、澄んだ声色で唄うように大広場に詰めかけた人々に語りかける。
「それじゃあやっぱり、女神様は終焉世界に降臨なさっているんだね」
「でもなんで、女神様自ら魔物と戦っているんだ?
霊峰女神神殿の法王は、女神様を手助けしないのか」
「あの噂は本当かもしれないな。二年前から法王はオカシくなってるって」
その映像は終焉世界すべての女神聖堂を通じて、実況生中継される。
ハルがドラゴン料理で宴会してた頃、終焉世界では女神降臨と悪魔退治の噂が駆け巡り、混乱と驚喜と僅かな不安が入り交じる混沌とした状態になっていた。
***
風香十七群島を飛び立った巨人王の騎獣グリフォン。
その背の籠に乗せられたハルはYUYUと共に島を離れ、一路巨人族のハクロ王都を目指す。
「鳳凰小都から連れ去られて半月、やっと会えたのに、ハルくんは何とつれない態度でしょう」
グリフォンの背に据えられた籠の内部は、豪奢な椅子や寝台までしつらえられ、まるで小さな高級客室だ。
そこに乗り込んだ途端、ハルは今までの緊張の糸が切れたのか、バタンキュ状態で就寝モードに入ってしまった。
YUYUは水浅葱の膝上に抱えられ、ハルの寝顔を不満げに眺めながら心の中で呟く。
やっとやっと、邪魔者たちに仕事(猫人娘の保護と雇われ傭兵奴隷海賊の拿捕)を押しつけて、ふたりっきりになれたというのに。
切なげに頬を赤らめながら溜め息を漏らすYUYUを密かに堪能する水浅葱は、気持ちを切り替えてYUYUに話しかける。
「YUYUさまのお側だから、ハルさまも安心して休むことが出来るのですよ。
今回の騒ぎでは、ハル様お一人で頑張っていらしたのですから」
「それは私も解っています。
逐一もたらされる報告に、何度肝を冷やされた事か。
ハルくんは、一度聖騎士の女に殺されかけ、二度目は妊婦の猫人娘を救うために魔力を使いきり自分がデッドリー。
これは自己犠牲も厭わない、女神の憑代の危うい面です」
やっと、偽法王アマザキより先に手に入れた女神の憑代。
ハクロ王都 巨人王 後宮に匿ればアマザキでも手出しできないはずだ。
そう、ハルが大人しくして、決して動き回らず、騒ぎを起こさなければ大丈夫。
そしてグリフォン向かう巨人族のハクロ王都も、ほかの地と同様に様々な問題を抱えていた。
***
ふんわりふわふわ、柔らかくて体が沈みこむ、花の優しい香りがする。
あれ、ここは洞窟じゃないよね、ドコ?
深い眠りから覚めたハルの視界に映るのは、天井の木目……ではなく、ふんだんにレースの使われたカーテンが幾重にもかさなる天蓋ベッド。
ふかふかで軽い羽毛布団にくるまって、滑らかなシルクの手触りの枕を抱いていたハルは、驚いて飛び起きた。
「うわっ、デカっ、このベッド僕の四畳半アパートと同じサイズだよ」
重なるレースの天蓋カーテンをかき分け、ハルがベッドからはい出てると、そこは白とピンクと花柄で埋め尽くされたファンシーな部屋だった。
細やかな天使の彫刻が施された白い高級家具に、天使のモチーフが描かれたタペストリー。
見た目純真無垢で清らかな天使の姿をした「王の影YUYU」に似合いの部屋、だけどこれは本当に部屋の主の趣味だろうか?
好奇心を抑えきれず、広い部屋をうろつき始めたハルの後ろから、聞き覚えのある優しげな声を掛けられる。
振り返る水浅葱が微笑んでいた。
「ハル様、やっとお目覚めになられたのですね。
風香十七群島を出発してから丸三日間、一度もお目覚めにならなかったのですよ。
ここはハクロ王都、巨人王 鉄紺 第四位側室 王の影の住まう第四後宮です」
「えっ、後宮って、あの男子禁制の巨人王様の後宮!?
僕マズくないですかっ。
YUYUさんのベッドで、三日間もグッスリ眠ってたんですよね!!」
顔面蒼白になり言葉を失うハル。
そうだ、確か後宮に居る男は玉無し。うええっ、まさかCVfふじこuGin!!
涙目の表情でプルプル震えるハルに、水浅葱は思わず吹き出してしまう。
「ぷぷっ、ハル様大丈夫です。
YUYU様は、後宮の最奥にある古代禁書が保管された古代図書館に住まわれ、館には殆ど戻られません。
ですから、ハル様は館で自由に過ごされてください。
それに竜胆様は王子ですし、エルフ族のティダ様も大歓迎です。お二人はコノ後宮に自由に出入りできますわ」
あれ一人足りない、SENさんは?
水浅葱は相変わらず優しげに微笑みながらも、質問は受付ないという態度だった。
「巨人王陛下はご高齢で、後宮の管理はYUYU様に一任されています。
現在、後宮務めの女官の半数は、YUYUさまの手足となる娘たちを教育する場所。
ハル様の世界で言うと女忍者”くノ一”です」
えっと、現代には”くノ一”は存在しないけど、水浅黄さんの夢を壊しちゃいけないから黙っておこう。
後宮は、王の影YUYU直属の諜報部員の育成所「女スパイ版 虎の穴」のようだ。
「では、そろそろ昼食の時間です。
ハルさま、食事前に入浴とお着替えを済ませてください。今、お世話の者を呼びます」
水浅葱さんが食事と言った途端、僕の腹の虫が鳴いて恥ずかしかったけど……お風呂が先だよね。えっ、お世話の者って?
「お久しぶりです、ハル様。YUYUさまから命じられてまいりました。
これからハル様の警護と、あらゆるお世話を私たちが行います。蜜柑です」
「柚子です、よろしくお願いします」
「何でも命じて下さいませ、檸檬です」
ハルの前に現れたのは、鳳凰小都の完熟遊誘館の『脱衣ジャンケン』で衣服をはぎ取った少女たちで、その手には石鹸と桶とブラシが握られている。
「まさか、とは思うけど。
僕自分でお風呂に入れますから、遠慮して下さい」
「いいえハルさま、私たち脱衣ジャンケンで衣装を剥かれてた恨みを晴らすために、ハルさまをマッパにするのではありませんよ」
「ええ、ハル様は島で半月以上入浴されてませんね。
YUYU様から、ハル様を隅から隅まで綺麗に洗いあげろと命じられております」
「抵抗しても無駄ですよぉ。私達三人は少々巨人の血が流れてるので、ハル様を担ぎあげるなんて造作無いことです」
三人の少女に取り囲まれたハルは、部屋の隅に追いつめられると胴上げ状態で、水浅葱が見守る中風呂に連れ去られる。
***
ハルが目覚めたのを知り、念話状態にして会話を盗み聞いていたSEN。
助けを求めるハルのSOSに、
「我々の業界ではご褒美です!!」
と、訳の分からない絶叫をハクロ王都の正面門前でさけび、衛兵に不審人物として追いかけられることになる。
***
それから一刻後、ひと仕事終えたすがすがしい表情の少女たちと、疲れはてた表情で全身から薔薇の香りを漂わせピカピカに磨かれた少女?がいた。
「館に出入りする外部の者に、後宮で王族以外の殿方の姿を見られてはマズいのです。
ハルさまはしばらくの間、私たち女官と同じ服装をして下さい」
「最近大人気の、女神様の絵姿と同じ女官衣装ですよぉ」
絶対これは、SENさんが天才画伯に描かせたんだ。
終焉世界では見かけないデザイン、白いニーハイソックスにガーター、紺のミニスカにエプロンドレス。大きなフリル襟にオレンジ色のリボンスカーフ。
それは現代のアキバ系メイド喫茶 コスプレ衣装だった。
せめてもの救いは、紺のキュロット(外見はスカートに見える半ズボン)で「これは女装じゃない」とハルは自分に言い聞かせる。
がっくりと肩を落としたハルを気にせず、女の子達はキャアキャアはしゃぎながら二つのお椀形状物を持ってくる。
「ハルさま、これを胸元に入れて下さぁい」
「それなら僕、代わりのモノを持っているから必要ありません」
ハルがアイテムバッグから取り出したのは、薄桃色のサボテンの実。
それを慣れた手つきで胸元に押しこむと、ものすごい爆乳が出来上がり、少女達の目の色が変わる。
「ハルさま、なんて完璧なまでに美しい丸みとボリュームのあるお胸なのでしょう!?
ちょっと触らせて下さい」
「モミモミ。きゃあっ、はちきれんばかりに弾力があって、それでいて滑らかで撫で回したくなる感触。
こ、この詰め物は何ですの!!」
それから二日後
ハクロ王都後宮から、風香十七群島に百を越えるサボテンの実(桃色)の大量注文が発生する。