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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
74/148

クエスト69 完全蘇生魔法を練習しよう

 それは想定外の展開、法王 白藍であった魂を持つ青年と、その魂を探す聖騎士の彼女が巡り会えば、緊急クエストは完了するはずだった。

 しかし、白藍としての記憶データを持たない青年は、これまでのハルの境遇に同情していた経緯から、彼女を救うことを拒む。


 これは、どこでクエストの選択ミスを犯したのか?

 バッドエンディング・クエスト失敗・重苦しい鬱なBGMがティダの脳裏に鳴り響く。


 だが、大怪我をしたままの彼女を放置出来ないし、女神の名を呼んだ願いは叶えなければならない。

 ティダは一考した後、彼女に背を向ける青年に声をかけた。


「彼女は村人を守るために、随分と大怪我をしているわね。

 これからお姉さまが、『完全蘇生魔法』を行使するから、しっかりと見てなさい」


『完全蘇生呪文』は、口移しで自分の命を相手に注ぎ込む、目覚めのキスのようなエモーション(動作)だ。


「おおっ、美人にキスするのなら、俺が蘇生してやってもいいぞ」


 ティダの発言に、何故か竜胆がすかさず食いついてくる。


「竜胆さん、ゲロ味のチュウだから止めてよ」


 ハルはキスの味を思い出しげっそりした顔で口をはさむと、ティダにお願いしますと頼む。


 天女と見まごう美しいエルフが、傷つき倒れた彼女に覆い被さり接吻すると、ほんのりと体から七色の光が溢れだし、顔の殴られた鬱血も腕の深い刀傷も、全身の傷が癒えて治ってゆく。


 ティダは赤い右目で、彼女のステータスの変化を見ていた。

 生命力、体力は魔法によって完全回復するが、沈黙の呪によるバットステータスで、傷付いた舌は癒えない。

 いや、最上位蘇生魔法の威力で、僅かではあるが舌の傷も癒え、マイナスステータスが底上げされている。


 目の前で、蘇生魔法という濃厚キスシーンを見せられ、青年は顔面真っ赤にして立ち尽くしていた。

 ティダは意地悪く笑うと、青年の肩を叩き命じる。


「今のをしっかり見ていましたか?

 まだ舌の傷は完全に治らないから、ほら、蘇生魔法の練習をしてみなさい」


「えっ、えっ、な、なんですって!!

 俺が、その、完全蘇生魔法を、彼女に、ですか?」


 キャアーと、大きなお腹のモモが黄色い声を上げ、青年は周囲から好奇の視線に晒される。

 ティダはわざと、強い口調で青年に告げる。


「これは、秘術中の秘術とされる『完全蘇生魔法』。

 それを貴方に授けてやったのですよ。

 彼女の、呪われた舌の傷を治すには、そうですね、蘇生魔法を五十回練習しなさい」


 ここまではお膳立てしてやるから、後は二人で何とかしろ。

 ティダは心の中でそう叫ぶ。


 彼女の手当をしていた妊婦の娘と目が合い、好奇心とお節介に燃える目で、任せてくれ。と言うようにティダに向かって大きく頷く。

 ティダは、硬直状態で動かない青年を置いて、ハルたちの元へ向かった。



 ***



 ティダがハルを迎えに来るのに、一週間も遅れたのには訳があった。


 かつて巨人王に謀反を起こし、風香十七群島の奴隷海賊を支配する廃王子と、霊峰女神神殿との結びつきが明確になった。

 しかし、コクウ港町エリアを統治する廃王子の双子の弟 第十二位王子 青磁せいじとの交渉は難航していた。


 ここ二年ほど豊漁続きで、経済的に発展し続けるコクウ港町エリアで、事を荒立て奴隷海賊と戦う事に渋る者が少なからず居た。

 恐怖で奴隷海賊を支配する兄と、温厚で対話により人々を統治する弟。対照的な双子の兄弟。

 無意味な説得で時間を浪費し、もはや港町エリアの海上警備隊ではなく、巨人王 王都軍を直接投入するしかないと諦めていた。




 ゲームの中では存在しない風香十七群島、そして巨人王への謀反により敵対した双子の兄弟。

 SENはゲームおたくのプライドが疼き、”無知は罪”の信条の元、交渉の合間ひたすら情報をかき集めた。


 そして判った事は、十三年前の巨人王暗殺未遂事件。

 YUYUが暴力王に迎えられ『王の影』として力を振るい、霊峰女神神殿との争いが形勢逆転をした時、巨人王の膝元に敵が存在していた。


 第十二位王子 青磁との、最後の対談の席を設けられた時、SENは彼に問いかける。


「何故、仲の良い双子の片割れが、絶大な力を誇る巨人王へ、無謀にも謀反を起こした?

 暴力王の後宮に住む、エルフの美妃に惑わされたのが原因ですね。

 元々、エルフは神を模した存在と言われ、彼女は霊峰女神神殿側のスパイだった。

 貴方も兄と同じく彼女に誘われていたから、巨人王暗殺を直前で阻止できたのです」


 双子の弟 青磁は、巨人族にしては細身で、理知的な顔立ちに赤い髪は少し白髪が混じっている。

 整った顔立ちの、しかし左耳から左目周囲の皮膚が赤黒く焼け爛れていた。


「この顔の醜い傷は、兄の放った焔獄術呪から、父上を庇った時に負った傷です。

 皆は私を、王を救った名誉ある王子と呼ぶが、私もその瞬間まで美妃に魅入られ迷っていた。

 兄を責めることはできないのです」


「そのエルフの美妃の息子は、鳳凰小都で会ったハーフエルフ、第十七位王子の紫苑なのか?

 奴は今、法王と結託して、巨人王の次期王位継承者の取り込みに暗躍している」


 SENとは別に、王の影からの情報網を持つティダが何気なくその事を告げると、青磁の顔色が変わり、自分の赤黒く焼け爛れた顔に何度も触れる。


「美妃は事が明らかになると後宮に火を放ち、大勢の側室の姫を道連れにして、自らの命を絶った。

 兄はまだ、美妃に魅入られたまま、王になるという野望を捨てられない。

 今度は、その息子の口車に乗って巨人王を裏切るのか。

 巨人族のエルフ狂は、ここまで深い業なのか」


 少し考えさせてくれと席を外し、隣の部屋へ姿を消した青磁王子を見守っていたティダが、不思議に思ったことをSENに尋ねる。


「ゲームの中では、巨人とエルフは敵対する設定だったが。

 今、青磁王子の言った 巨人族のエルフ狂って何だ?」


 SENは腕組みをして、美しいエルフの器を持つ友人に、渋い顔で告げる。


「ゲーム内での巨人とエルフは、純粋に魔力と武力による対立だったが、実際の終焉世界はかなり内容が異なる。

 巨人族もエルフ族も、遺伝子操作とクローン技術によって生み出された新種族だが、エルフは子孫を増やせず自然淘汰された。

 数少ないエルフを取り込み知識と魔力を得る、そして圧倒的な武力で終焉世界の覇者になったのが巨人族だ。

 巨人族は覇者で居続けるために、エルフが欲しくて仕方ないのさ」


「だから、鳳凰館で出会ったハーフエルフの紫苑は、俺に、竜胆を選ぶのか。と激怒したのか」


 この人望熱く統治能力の優れた、第十二位王子も悪くは無い、とティダは考える。

 しかし竜胆の、人々の心を引き付ける(今はまだ女性に対して発揮しているが)カリスマ性には及ばないな。

 それにしてもおかしな話だ。

 自分達は、女神の憑代であるハルちゃんのオマケで、終焉世界に取り込まれたハズだ。

 もしかして自分にも、この世界で成さなければならない役割があるのか?

 

 そうして二人の話し合っている間に、青磁王子が部屋に戻ってきた。

 現れた王子の姿は、焼けただれた顔半分を隠す黒い漆塗の鬼の面の様なマスクに、黒い鋼の重厚な鎧を着こんでいる。


「兄の凶行を辞めさせることが出来るのは、弟の私だけです。

 これよりコクウ港町エリア海上警備艇とコクウ自警団の船団は、風香十七群島の奴隷海賊島を制圧に向かいます」



 そうしてSENとティダは、青磁王子率いる海上警備艇とコクウ自警団の船団より一足先に、ファイヤードラゴンに騎乗して黒岩島にハルを迎えに来たのだ。



 ***



 コクウ港町エリアで散々足止めを喰らったティダは、ハルを保護したら、早急に風香十七群島から連れ出そうと考えていた。


 しかし巨木の集会所の外に出てみると、乗ってきたファイヤードラゴンの姿が見当たらない。

 その代りに、丸一日こき使われ羽を畳む体力すら残っていない、竜胆のドラゴンが地面に蹲っていた。


「ティダさんのファイヤードラゴンなら、反乱海賊たちと話し合いがあるからって、竜胆さんが乗って行きましたよ」


 そう返事するハルは、座るユニコーンの腹を枕にして、うつらうつらと舟をこぎ就寝モードに入ろうとしていた。


「あのぉクソ王子め。また逃げやがったな!!

 あっ、ハルちゃんもまだ寝ないで、もう少し我慢して起きてっ」


 ハルは一度眠ってしまうと、最低六時間は熟睡状態から目覚めない。

 ティダが慌ててハルを起こそうと近寄ると、全身から蒼い炎を迸らせたユニコーンが、歯を剥き出しにして太く鋭い角でティダを威嚇する。

 

 まさかハルちゃんを巡って、YUYUの他に、聖獣までが恋敵になるとは思ってもみなかった。


 そして、穏やかな天女から血に飢えた狂戦士モードになったティダと、巨大な牛の様な勇ましいユニコーンは、周囲の猫人族が怯え青年が止めに入るまで、半刻以上睨み合うことになる。

ちょっと甘酸っぱい。ニヤリッ

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