表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
オアシス編
7/148

クエスト5 オアシス自警団と戦おう

やっと戦闘シーン、あれ???

 オアシス自警団が蒼珠砂竜を追って村を離れたわずかな隙に、ゴブリンの群れは彼らの拠点としていた宿を襲い略奪し、仲間の少女を連れ去った。

 襲撃から一晩過ぎて宿に戻ってきた彼らは、必死で攫われた少女の行方を探す。




 砂漠の中にポツンと存在する壊れた転送ゲート前は、腐肉臭が漂い、数体のゴブリンの死体が黒厄鳥につつかれている。


竜胆りんどう様、この襤褸袋の中に子供の靴が入ってました」


 周りの男達より一回り大きな体格の、竜胆りんどうと呼ばれた青年は、目を矢で射ぬかれたゴブリンの死体を踏みつける。


「こいつらが萌黄もえぎを攫っていったのか。

 しかし、どうしてゴブリンは殺されているんだ?」


 防砂用のフードから覗く顔は浅黒く、太い眉に彫の深い彫刻のような整った顔立ちをした青年。

 人としては大きすぎる、巨人にしては小柄で動作も巨人特有の愚鈍さが見られない。

 見るからに勇猛果敢な青年は、苦り切った表情で辺りを見回していた。


 15人ほどの武装した自警団の半数は、彼のように大柄な体格をした巨人族 竜胆りんどうの従者だった。


「我々が砂漠竜を追っている隙に、聖堂のやつらはゴブリンに萌黄を攫わせたんだ」


「そして証拠隠滅に、ココでゴブリンと萌黄を殺したと……なんて卑怯な連中だ」


 諦めたような男の呟きに、竜胆の叱咤の声が飛ぶ。


「黙れ!あの色狂いの大神官は、美しい萌黄を簡単に殺しはしない。

 この方向には地下鍾乳洞があったはすだ、萌黄が連れ去られたのならそこだろう」


 奴らはどういう意図をもって少女を連れ去ったのか、怒りを押し殺した主の言葉に、従者の男たちはうめき声をあげる。

 そこへ、先行していた仲間の一人が慌てたように戻ってきた。


「地下鍾乳洞から、見慣れない姿をした怪しい連中が出てきました。

 人数は三人、子供を一人連れていてます。

 子供は攫われた萌黄のようで、なにやら豪華な服に着飾らせています」


「見慣れないとは、砂漠の民ではないのか?たった三人なら我々で簡単に奪い返せる」


 少女の無事と、取るに足らない少人数の敵に男たちは沸き立つが、それも一瞬のことだった。


「一人は武人のようで、もう一人はエルフ、そして少年が萌黄を監視してました。

 ただ……やつら三人とも、赤い右目の『神科学種』です」





 それは、大人から子供まで知らぬ者はいない。

 この世界の始まりから終焉を語る、教えの冒頭に明記されていること。


-----------------------


 神科学の霊廟【ミゾノゾミ】に眠るのは、紅い右目の『神科学種』


 人の姿でありながら、神の知識と魔法を操り、数倍の戦闘能力を誇る『神科学種』


 精霊の導きで終焉世界に蘇る彼らは、

 世界を豊穣へ導くのか、破滅へ導くのか。


-----------------------


 しかし、竜胆は面白い話でも聞いたかの様に瞳を輝かせると、腕組みをした。


「神科学種、霊廟のオモチャ達なら遊び相手として不足はない。

 この竜胆を謀り、村人を虐げる聖堂の手下どもを、生かして帰すものか」


 若き戦士の熱い闘気が全員に感染するかのように、男たちは手にした武器を握り直すと雄叫びをあげた。






 一晩を鍾乳洞ダンジョンで過ごし、ハル達は少女をオアシスに送り届けるために砂漠を進む。

 今日は風も穏やかで、砂に足を取られることなく砂漠歩きもスムーズだ。


 ここから二時間ほど歩いたところにオアシスがあるそうだ。

 水と食料を持って行けば、萌黄もしばらくは安心して生活ができるだろう。


 砂漠の向こうに、壊れた転送ゲートの形がうっすら見えてきた。

 ゴブリンの死体が転がっているであろう場所に、ハゲタカみたいな鳥が集まって奇声を上げている。

 ゲームなら、倒した敵は数分で砂のように掻き消えてしまうのに、あの場所のゴブリンはそのままなのか?


 鮮やかな青い色のローブを纏い、皆の先を歩くティダが急に立ち止まる。

 その場所には、今付いたような新しい多くの足跡があった。

 耳を澄ますと、その優れた聴力は周囲に潜む者の息遣いを聞き取る。


「ひとり、ふたり……全部で十五人。

 しかし、少し毛色の違うものも混じっているな」


 ティダの声掛けに、SENは頭巾を取ると、動きやすい様に和装の袖を襷掛け、襟の合わせを緩める。

 黒装束の武士は、潜んでいる敵に、刀を掲げるイチローポーズを見せつける。


「俺としたことが少し油断した、すっかり囲まれているようだ。

 おいティダ、相手は人間だ、やり過ぎるなよ」


 モンスターを倒すバトルと違う、まるでリアルのような状況で、しかも相手は人間。

 殺るのを避け、手加減して戦闘不能状態にしなくてはいけなかった。


 判った と答えたティダの取り出したのは二本の黒い木刀だった。

 体が弛緩したように姿勢が崩れ、再び顔を上げると、切れ長な紅い瞳は狂喜の色が宿り、薄い唇は薄ら笑いを浮かべ狂戦士モードのスイッチが入る。


「SENの旦那は、お嬢ちゃんを守ってくれ。

 さぁ早く出ておいで、あんたらはお姉さんが可愛がってやるよぉぉぉ」


 砂の中に潜み、顔を布で覆い、眼だけをぎらつかせた男たちが姿を現した。

 半月状の刀をもち、ティダに向かって正面から切り込んでくる。


「炎の精霊よ、我の敵を焼くつくせ!2チャージ、ファイヤボルト」


 木刀を手にしたティダが、まさか魔法攻撃すると予想できないかった敵は、防御する間もなく炎の弾丸に弾き飛ばされる。

 甲高い笑い声をあげながら、相手の腕や足を狙い、木刀で叩き、突き、払う。

 炎の魔法で派手に花火を打ち上げ、敵を己にひきつけ、まるでダンスを踊る様に縦横無尽の暴れまくっていた。


 SENは、初心者ハルと少女を背後にかばいながら目の前の三人と対峙する。

 人間にしては大柄な、筋骨隆々とした闘戦士と向かい合う。

 しかし、力任せに殴り合う必要はない、神科学種は、武と魔力を掛け合わせ戦うことが出来る。

 SENは、雷属性を帯びた太刀 タケミカヅチを一閃させる。


「雷神よ、邪を薙ぎ払え!稲光紫冥燕月」


 刃先から放たれた雷は、扇状に周囲に電撃を発生させ、男たちは避ける間もなく雷に打たれて昏倒した。





 派手な二人のバトルに巻き込まれないように、ハルは注意しながら萌黄を守るつもりだった。

 しかし音もなく砂の中から現れた男が、自分の背後に立つのに全く気付かなかった。


 振り返ると、見上げるほど大きな体格の、猛々しい形相の男が仁王立ちしている。

 太い丸太の様な腕が、風切る音を立て、ハルの耳元を僅かにかすめる。

 ハルの着るレア装備の回避性能のおかげで、頭が砕ける危機を逃れた。


 SEN達と距離を取ってしまったことが災いした。


「ちっ、コイツらは囮だったのか。

 逃げろハル、相手は人間じゃない!!ハーフ巨人ジャイアントだ」


 人の3倍の体力に攻撃力、しかも戦い慣れた戦士では初心者ハルは相手にならない。


 とっさに振りぬいた剣は、男の腕の篭手で塞がれ真っ二つに折れた。

 男は体勢を崩したハルの襟首を鷲掴み、がら空きになった腹に堅い拳から重いパンチが打ちこまれた。


「しまっーガッッ!ハァッアァ」


 ミシリ と肋骨から嫌な音がして、内臓が押しつぶされたような焼けるような痛みで、視界がブラックアウトしかける。


 ダメだ、眼を閉じるな 

 彼女を守れ 守れ 守れ

 見ろ 見ろ 見ろ 


 その場で腹を押さえて崩れ落ち、呻きながら砂に顔をうずめる。

 しかし、男が萌黄に掴みかかるトコロを、力を振り絞り震える腕で相手の足にすがりつく。


「萌黄っーー逃げーー」


「邪魔だ、この餓鬼どけっ」


「やめてっっ竜胆様!!この人たちは」


 鈍い音が背中に響き、巨体の男に高々と蹴り上げられた。

 舌を噛んでしまったのか、口の中が生暖かい血で溢れ出すのがわかる。


 うわっ、こんなに痛いんじゃ死んじゃうかも。まるで現実リアルみたい。


 ラノベでよくある、異世界トリップとか、そんなモン。

  ・

  ・

  ・

  ・

「ハル、大丈夫か?まだどこか痛いところはないか」


 ぺちぺちと頬を打つ手が邪魔、痛いです。


 これは逝ったと思ったけど、完全蘇生呪文で生き返るよね。

 え、完全蘇生呪文ってチュウするんだよ、接吻とか口づけとか。


 ま、ま、まさま、まさか


 がばっと勢いよく起き上がる僕の目の前には、心配そうに覗き込む萌黄ちゃん、目を爛々と輝かせたティダと無表情で腕組みするSEN。


「い、生きてるってことは……そ、完全蘇生呪文使ったん、ですか?」


「うふっハルちゃん、お姉さんのキッスの味は「やめんか!変態エロフ」げふぅ」


 SENはおもむろに、僕の目の前に黒く焼け焦げた羽を差し出した。

 これは、僕のベレー帽に付いていた綺麗な羽根飾り?


「一度だけ身代わりの『鳳凰の羽根』がお前の命を助けてくれた。完全蘇生呪文は使ってない」


 そう言ったSENの後にいる男たちは、僕らを襲った連中だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ