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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
69/148

クエスト64 海賊王宮

挿絵(By みてみん)


 風香十七群島の、十八番目の奴隷海賊船島。

 砂の浅瀬に乗り上げさせ、何艘もの大型船を繋ぎ合わせた中心に巨人王族用の豪華客船だった船がある。

 別名 海賊王宮 奴隷海賊首領 第十一位廃王子 砂磁サジが住んでいる。

 その船内にある一級の調度品は、埃にまみれ汚れがこびり付き、毛の長い青い絨毯も汚れた土足で踏みつぶされ擦り切れている。


 海賊王宮の大広間で、キツネ顔の男はこめかみに青筋を浮かべながら、部下から黒岩島で起こった事件の報告を聞いていた。


「南天さま、も、申し上げます。

 深緑島の猫人族の村から奪った、メス猫七十二匹に逃げられました。

 手引きした赤髪の傭兵と共に黒岩島に逃げ込み、後を追った俺達は罠にはまり、蒼牙ワニに三十人以上が襲われ喰われました」


「な、なんだと!?

 たかが猫人ごとき下級種族相手に、雇われ傭兵が殺されたというのか」


「ワニから逃げ延びた傭兵たちも、潜んでいた猫人族の弓矢攻撃を受け、大勢の傭兵が負傷して捕らわれました」


 そう怯えながら報告する男の言葉の終わらぬうちに、続いて全身ずぶ濡れの男たちが飛び込んでくる。

 二人の男は目を血走らせ、口から泡を吐き錯乱状態で叫ぶ。


「ミゾノゾミ女神の怒りだ、天罰が下ったぁぁ!!

 血濡れた真紅のドラゴンにぃ、赤い髪の悪魔が騎乗してるのを俺は見た。

 捕らえた娘たちの中に、ミゾノゾミ女神が紛れ込んでいた。」


「女神は怒り狂い、空から岩の雨を降らして船を沈めた。

 俺たちの船も他の船も、沖にいた大型船五艘は全部破壊されて海の藻屑だ」


 その錯乱した騒ぎに、周囲の人間は唖然として見ていたが、頭の切れるキツネ顔の男は話の意味を素早く読みとった。


 ドラゴンに乗った赤髪の男、自分が傭兵のリーダーに指名した、リンと名乗る半巨人。

 自分が留守中に、リンは言葉巧みにバカな傭兵どもを騙し、猫人娘を横取りしたのだ。


「それで貴様等は、俺にわざわざ命乞いをするために、ココに来たというのか。

 ミゾノゾミ女神が現れただと?

 空から岩が降って来ただと?

 そんなバカな話、この俺が信じると思っているのか」


 いらだつが募るキツネ男の声が大きくなり、神だ天罰だと譫言のように叫び続ける男に向けてレイピアを抜く。

 危険を知らせようと、命懸で海賊王宮に辿り着いた男の喉を、レイピアは深々と貫いた。


 キツネ顔の男 南天は、頭に血が上り、ココが何処で自分が誰と面談するために居るのかを、すっかり忘れ去っていた。


「今の話、どうやら傭兵の中に、巨人王のネズミが入り込んでいたようだな」


 キツネ男の背後から巨大な影と、野太く暗い声が響きわたる。

 歯をむき出して、部下を怒鳴り散らしていた南天の顔面が蒼白になった。


「こ、これは奴隷海賊首領 第十一位王子 砂磁サジさま。

 見苦しいトコロをお見せしました。実はコイツ等が猫人娘を逃がしてしまったのです。

 でも、ご心配には及びません。

 私、南天が直々に、メス猫どもを取り戻して参ります」


 巨人王に謀反を起こし、廃王子となった第十一位王子 砂磁サジ

 年まだ四十前だが既に五十過ぎた老け顔で、活力のない死んだ魚のような目に、口元は歪んだ笑みを浮かべている。


「お前が話していた半巨人の赤毛の若い男、その情報は紫苑から入ってきている。

 オアシスで起こった女神降臨の噂を知っているか?

 その場にいた末席の王子は、半巨人の赤毛だったそうだ」


「はい、存じております。 

 全域転送魔法陣が壊れ、一年間オアシスに閉じこめられていた王子が、砂漠竜を倒しミゾノゾミ女神降臨に立ち会ったとか。

 しかしそれは、ただの噂話でしょう……まさか、まさか砂磁サジさま」


 キツネ顔の男の主、目の前にいる白髪交じりの赤髪の王子が、肩を震わせ狂ったように笑い出す。

 次期 巨人王に一番ふさわしいと言われていた自分が、弟の裏切りに遇い、奴隷海賊の首領という肩書きの、実は流刑地の罪人のように朽ち果てようとしている。

 ところが、降って湧いたようなチャンスが訪れ、霊峰女神神殿の法王の後ろ盾と十七位王子紫苑の持つエルフ族の秘術を得た。

 巨人王の手下の末席王子、自分を裏切り監視している双子の弟 第十二位王子 青磁、二人の王子を屠ってやる。


「雇われ傭兵の中に裏切り者がいるように、猫人族漁師の中にも裏切り者が紛れ込んでいるのだ。

 バカな連中だ。苦労して救い出したメス猫を、再び奪われる事になるのだから」


 廃王子 砂磁サジの死んだ魚のような目が、ギラギラした獰猛な肉食獣の、いや、それよりも狂気を帯びた色に変わった。



 ***



 夜半過ぎに、ドラゴンに乗って現れた二人の神科学種。

 黒岩島の小さな聖堂に場所を移し、ティダとSENはこれまでの詳しい経緯を、青年と猫人族漁師たちに伝える。


 その席にハルの姿はない。

 戦いの気配と血の匂いを嫌い、興奮する聖獣ユニコーンをなだめるようにと、意図的に席を外させたのだ。


 黒衣に黒髪、研ぎすまされた刀のような、赤い右目の神科学種の男が、漁師たちを前に口を開く。


「我々神科学種は、干ばつと悪政のオアシス、欲望と貧困の鳳凰小都を、ミゾノゾミ女神と共に豊穣へと導いた。

 それは救いを求める民の声に答えた行為。

 しかし霊峰女神神殿の法王は、女神降臨が自分の与り知らぬところで行われた事に激怒した。

 そして、自らの意のままになる女神モドキを創り出すために、禁術の素材となる猫人娘の生け贄を欲している」


「えっ、その話はおかしい、待ってください!!

 法王は、ミゾノゾミ女神と神科学種さまの終焉世界への降臨を、手助けする一番のしもべとして仕える存在です」


「もし女神や我々より、法王の魔力マナが強いとしたらどうする。

 二年前に強大な魔力マナを得た法王が、自分より劣る者に大人しくしもべとして従うか?

 はっきり言おう、力だけなら霊峰女神神殿の法王が我々より上だ。

 ただしヤツは、終焉世界に何一つ豊穣をもたらさない。

 そしてお前たちは、弱く力無き者が豊穣をもたらす事を、今実感しているはずだ」


 猫人族漁師の間からざわめきと、ハルの名前を呼ぶ声が聞こえる。

 SENは予想通りというか、前にも似たような出来事を体験していた。

 ハルによって猫人族も、すでに食べ物や様々な出来事で、きっちり餌付け済みなのだ。


「そう、豊穣をもたらすハルちゃんは弱い。法王アマザキに狙われれば全く相手にならない。だから一刻も早く、ハルちゃんを危険の及ばない安全な場所に保護する。

 もちろん私たちは、あなた方猫人族を見捨てたりしない。

 コクウ港町エリア海上警備艇の船団が風香十七群島に向かっているし、神科学種は奴隷海賊と戦い、猫人娘を全員救うと約束する」


 銀の髪の天女のような神科学種は、相手を説き伏せ納得させるように、一人びとりの顔を見渡しながら話しかける。

 しかし、ついさっきまでハルから弓の扱い方の手ほどきを受けていた漁師からは、不満の声が挙がった。

 それを青年が押さえると、ティダの前へ歩み出て深々と頭を下げた。


「どうぞハルさまを、安全な場所へ連れていってください。

 俺の弟を、ハルさまは命がけで助けて下さいました。

 我々に、蒼牙ワニや奴隷海賊と戦う術を教えて下さったのもハルさまです。

 俺は、その御恩に報いたいと思います」


 迷いのない澄みきった目で二人に答える青年に、ティダとSENの方が気圧される。


 今はまだ、アマザキにハルの存在は知られていない。

 とにかく一刻も早く、ハルを王の影の庇護の元、ハクロ王都に連れていこう。

 

 と、そこへ猫人族の六つ子が、悲鳴を上げながら聖堂に飛び込んできた。


「クジラにーに、大変だぁ」

「牛みたいな大きな馬が、暴れてハル神さまの服をくわえて、攫って逃げたよ!!」

「びゅーんと空を飛んで、隣の青紫島の方に行っちゃった」


「な、なんだってぇ!!」


 それは終焉世界の理。

 定められたクエストの途中離脱は認められないのだった。



 ***



 青紫島に住む猫人族は、数名の漁師と深緑島から逃げてきた猫人娘数名。

 小さな畑と森での果実や蜂蜜の収穫、そして売店で酒を売って生計を立てていた。


 その売店に一週間前から、ハクと名乗る猫人娘が手伝いに来ていた。

 眉上と肩先で綺麗に切りそろえられた黒髪に、形の良い真っ白なネコ耳。

 整った美しい顔立ちに品のある立ち振る舞い。

 それでいて、重い大量の商品を軽々と持ち運ぶ力持ちだ。


 ハクを雇った妊婦の若い娘は、まるで妹のように彼女になついていた。

 彼女は自ら進んで、大きなお腹をしている娘の世話と、店を訪れる客の相手をする。

 しかし彼女の本当の目的は、法王 白藍の、魂の行方を知る黒髪の神科学種を探し出すことにあった。




 その日、彼女は痩せた奴隷海賊の男に武器を渡され忠告を受けた。


「隣の島の、聖堂へ逃げろ」


 しかし夜になると、妊娠した娘の腹痛がひどくなり、とても動かせる状態では無くなった。

 まだ出産には半月早いらしい。

 彼女は一晩看病して、夜明け頃には娘の状態も落ち着き、ホッと一安心して水を汲みに外へ出た。

 青紫島の高台の小屋からは海が見渡せ、その眼下に広がる光景に唖然とする。


「昨日、奴隷海賊の男が言っていたのはコノ事だったのね」


 小さな黒岩島を挟んで位置する深緑島に、今まで見たことのないほど大量の奴隷海賊船が押し寄せている。

 その場で立ち尽くす彼女と同じように、島の住人も絶句としたまま海を眺めている。


「ハクさん、恐いよ。あんなに沢山の海賊船に襲われたら、アタシたち助からない」


 腹の痛みが収まり、体を起こせるようになった身重の娘も、窓の外に見える景色に怯えていた。


「だ、大丈夫さぁ。いつもの猫人娘の奴隷を買いに来た奴隷海賊連中だ。

 俺たちとは無関係だよ」


 誰かが大声で、なんとか安心しようと言葉を発し、それに同意しあう島の住人。

 しかしコノ時すでに、住民の中に裏切り者が居たのだ。

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