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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
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クエスト63  『赤い女神の和弓』と『黒い小弓』

 黒岩島の砂浜で雇われ傭兵たちが罠に嵌まり、蒼牙ワニの餌食になっていた頃、海の上でも新たな戦闘が起こっていた。



 奴隷海賊と雇われ傭兵たちは、深緑島の村にいる娘たちを強奪し村を焼き滅ぼす。

 ここまでは計画通りだった。

 しかし傭兵のリーダーを任されていたハーフ巨人の男が裏切り、猫人娘達の入った鉄檻をドラゴンを使って掠め取った。

 そして信じられないことに伝説の女神そっくりの猫人娘が、宙から巨岩を出現させ、奴隷海賊船を岩の雨で押し潰して沈めた。



 男は海賊船から海に投げ出されたところで、運良く木切れに掴まり、半分溺れながら波間を漂っている。

 海の中には、鮮やかな赤い背びれの10メートル台の巨大紅鬼サメが五匹、餌を求めて回遊している。

 数時間前まで、男の他に数人が生きて泳いで居たはずだが、今はその姿も見えない。

 なんとかサメから逃れようと足掻く男の前に、沖から三艘の大型船が現れた。


「おーーいぃ、助けてくれ。

 空から岩が降ってきて、俺の乗っていた船が沈んじまった。

 チクショウ、女どもは黒岩の島に逃げこんだぞ。

 あの半巨人男にメス猫達も、捕まえたらヒドい目に遭わせてやる。早く助けてくれ」


 大型船の甲板にいる傭兵達は、げらげら笑いながら、荒波の中を必死で助けを求める男に返事をした。


「ひひっ、空から岩が降ってきただとぉ。貴様は酔って幻でも見たんだろ。

 俺たちは、お前を助けている暇なんてネェんだよ」


 裏家業の雇われ傭兵達は、互いに相手の獲物をかすめ取るなど日常茶判事だ。

 遭難した男を助けようとする者は一人もいない。

 罵り声をあげる男を笑いながら、甲板の上で眺める雇われ傭兵達の頭上を、黒い影がよぎる。


 こつん


 雲一つない空から、小石が一つ降ってきた。


 こつん こつん


 船の甲板に落ちた石は、大きく飛び跳ねて海に落ちる。

 波間を漂っていた男が、船から離れようと顔面を蒼白にしながら、両足をばたつかせる。


 なんだ?

 甲板にいた傭兵達が天を仰ぐと、黒い石の雨が降ってくる。

 ただそれは、小石ではなく、両手で抱えきれないほど大きな岩の固まりだった。


 慌てて進路を変えて逃げる大型船を追うように、岩の雨が降り注ぐ。

 巨岩が船にぶつかり、船体が粉々に破壊される轟音と水柱があがる。



 ***



 青年と猫人族漁師たちに島での戦闘は任せ、竜胆は沖にいる大型船を攻撃するために、ドラゴンに飛び乗った。

 大型船への攻撃は、船に乗り込んで直接破壊するかドラゴンのファイヤーブレスで焼き払う事を考えていた。

 しかしハルの行った、アイテムバッグに収納した巨岩を船の上に落とすという無慈悲で情け容赦のない方法なら、簡単に船を沈めることが出来る。

 神科学種の母親の血を受け継ぐ『魔力マナ持ち』の竜胆は、ハルのアイテムバッグを扱えるのだ。



 ***



 隣の船の帆柱によじ登り空を見た男は、まがまがしい紅い翼のドラゴンの背に巨体の悪魔の姿を見た。

 空の星は、地上に落ちると岩になると言う話を聞いたことがある。

 これは、天罰だ。奴隷海賊たちの行為にミゾノゾミ女神が怒り狂い、天の星を降らしているのだ。

 その様子を唖然と眺めている男の居る帆柱にも、星が落ちてきた。



 木っ端微塵になった二艘の船の残骸の合間を縫って、紅鬼サメが泳ぎ回り、所々で海の中から悲鳴のような声は聞こえてくる。

 それを無視して、竜胆は残る一艘の大型船の真上にドラゴンを待機させる。


 船のマストには紺色の長い布がなびき、甲板に飛び降りた竜胆の周りに集まった奴隷海賊は皆、紺色のターバンやハチマキを頭に巻いていた。


「リンの旦那、いや、竜胆王子。雇われ傭兵達は全員船底に閉じこめました。

 ココにいる連中は全員猫人族の味方、反乱海賊です。

 これから俺たちも、奴隷海賊と戦いますぜ」


 竜胆にそう告げる中年過ぎの痩男は、八年前廃王子の口車に乗せられて風香十七群島にやってきた。

 だが、廃王子は海賊首領を名乗りながら船に酔う、噂では泳げないらしい、船に閉じこもったまま外に出てこない。

 手下を使って冷酷な命令だけを出す奴隷海賊首領の廃王子に、愛想を尽かしていた。

 痩男の日々の暮らしは漁師と変わりない。いや、廃王子に搾取され、奴隷という身分では猫人族以下ではないか。


 そして「猫人族娘を百五十人捕らえろ」という命令を受けたとき現れた、巨漢の若い男。


 痩男独自の情報網では、台風に襲われた港町で住人を手助けしていたハーフ巨人が、実は暴力王の息子、神科学種の血を引く末席の王子である。

 オアシスでの女神降臨と鳳凰小都の聖人出現に関わり、密やかに次期巨人王後継者にふさわしいと噂される王子。


 噂はガセネタか真実か?

 目の前に現れた竜胆の姿に、痩男はあっさりと奴隷海賊首領を見限った。


「やつらは娘を食いものにするために、わざわざ風香十七群島まで出稼ぎにきた、人の姿をした飢えた獣だ。抵抗する奴を生かしておく必要はない、サメの餌にでもするといい」


 そう告げる竜胆に、禿頭を紺色のターバンで隠した痩男は黙って頷くと、銛を手に仲間を連れて小舟に乗り込む。



 小型船での海賊同士のバトルは、銛の先に蒼牙ワニの牙を仕込んだ武器を反乱海賊たちに竜胆が与え、 ほとんど防具を身につけない奴隷海賊たちは、その武器の威力に次々と敗れる。

 また戦闘に加わらず中立の立場の奴隷海賊には、上空から小石を一つ二つ船に落としてやれば、恐れ戦いて反乱海賊側にあっさりと寝返った。



 日没前には、深緑島と黒岩島周辺にいた奴隷海賊船は、殆ど海の藻屑と化した。

 そして、夜の闇にまぎれて黒岩島に上陸しようとした愚か者たちは、本来夜行性の蒼牙ワニに襲われ、夜目のきく猫人族の放った矢の雨に貫かれた。



 夜半過ぎ、約束通りハルを迎えにきたティダとSENが黒岩島に到着した頃には、この一帯での戦闘は終結していた。



 ***



「着いたぞネコミミパラダイス、天がこの世に造りし楽園。

 妖艶にて可憐、美しい獣人の娘達が我を待って」


 ドカバキッバキッ!! キラーーン☆


 黒岩島にドラゴンで降り立った途端、うわ言のように電波語を発信し続けたSENは、乙女を守護するユニコーンの後ろ足で、高々と蹴られお星様になる。

 ハルが送りつけた大量の猫人娘画像は、島に向かう二人を、特にSENを悶絶状態にしていた。


 沖に出て海上戦を続ける竜胆は、まだ島に戻って来ていない。


 蹴飛ばされたSENを捨て置いて、息をのむような美しい銀髪の優美な姿をしたエルフが、その場に集まった猫人族を見渡すと告げた。


「我々は、巨人王の使者であり神科学種のSENとティダといいます。

 奪われた神科学種の仲間を取り戻すために、鳳凰小都からこの地へ来ました。

 ハルちゃんは何処にいますか?」


 猫人族の間で緊張が流れている。

 ハルはこの島に来て、彼らに様々な豊穣を与え、今も奴隷海賊たちとの戦いに加わっている。

 仲間の神科学種が現れたというコトは、ハルは風香十七群島から去ってしまう。


「これは赤い右目の神科学種さま。

 ハルさまでしたら、浜辺を見下ろす岩山に陣取り、娘達に弓の扱いを教えています」


 黒髪に眼帯をした硬い表情の青年が、ティダの前に進み出た。

 ティダは青年をチラリと見て、冷静さを取り戻した背後のSENに目配せする。

 SENの赤い右目を起動して相手のキャラデータを確認、元は神科学種アマザキの違法BOT、それに異なる魂が埋め込まれている

 終焉世界でも随一の『祝福』を宿す、法王 白藍だったモノ


「その様子なら、ハルが何者であるか、もう知っているのだろう」


「はい、神科学種さま。ハル様はミゾノゾミ女神自身、もしくはその憑代でしょう。

 女神を我がモノにしたい、猫人族の聖騎士の女に攫われて、この地に来たのですね。

 ハルさまに拒まれて、私はその女を見たことがありませんが」


 青年の言葉に、SENとティダは意外そうに驚いた顔を見合わせる。

 聖騎士の娘は、法王 白藍を探すためにハルを攫ったはず。

 しかし、これほど近くにいながら、娘と青年は互いにまだ出会ってない。

 それは、終焉世界のクエストシナリオがまだクリアされていないという意味だ。



 チッ、思わずティダは舌打ちをした。

 港町エリアを出てハルを探そうとすると、ソレを足止めするよう厄介ごとに次々巻き込まれた。

 とにかく、今はハルちゃんの無事な姿を確認したい。

 青年の案内で、浜辺の見える岩山へ向かうティダの脚は自然に早くなった。



 多くの猫人族たちが潜んでいるであろう岩山の一角が、ほんのりと明るくなっていた。

 周囲に七色の光を放つ紙細工の鳥を飛ばして、敵を引き付ける囮役の青い髪の少年。

 その光に誘われ浜辺を離れ、岩山に登ろうとする蒼牙ワニを狙い、ハルは黒い小弓の弦を引き絞り二本の矢を同時に放つ。

 頭部に二本の矢が射られ岩山を転げ落ちるワニに、猫人族の娘と漁師たちはハルを手本に、弓を番える練習をしていた。

 


 夜目の利く猫人族に、弓は最適の武器だ。

 奴隷海賊たちとの戦いでは、八人が横並びで一斉に矢を放ち、十本射ったところで後ろと入れ替わる。

 敵の姿が見えれば、数分間絶え間なく矢の雨が降り、敵を剣山状態にした。


「あっ、お久しぶり。ティダさんSENさん!!

 と、ハルお兄ちゃんが言っています」


 まるで変わらない、いつも通りに笑いかけるハル。その隣には萌黄は付き添っている。

 ティダは表情を消し黙ったままハルの傍まで歩き、一息深呼吸をすると口を開く。


「やぁハルちゃん、久しぶり。

 ねぇ、確かハルちゃんには、むやみに動き回らない危険な事はしないと約束したよね。これはどういう事かな」


 怒りの黒いオーラを放ちながら隣に立つティダに、ハルは一瞬何のことか思い出せずキョトンと上目づかいで見上げている。

 それからやっと思い出したのか、顔面蒼白になり両手を合わせて頭を下げて謝り倒す。

 確かに自分は竜胆に過保護すぎると言われる訳だ。この一週間無事でいるか、夜も寝れずに心配した相手は、サバイバルライフをエンジョイしていたのだから。

 怒りを通り越して、虚脱感に襲われるティダを横目に、SENがハルに話しかける。

 

「ハル、その黒い弓はどうした。かなり激レアな、俺でも見たことのない弓だ」


「これは、クジラにーにさんの捕まえたワニの胃から出て来たんです。スゴイ性能が良くって、なんと二本打ちが出来るんですよ!!

 と、ハルお兄ちゃんは言っています」


 そしてハルは、二人の目の前で試し打ちをするため、ゆったりとした美しい射姿で弓を引き絞り矢を放つ。

 的は70メートル先に飛ばした小さな折ツルの、左右を羽根を二本の矢が貫いた。


 ティダは以前から微かに疑問に思っていた事だが、やはり気になった。

 素人目で見ても、ハルが言う師匠の真似をした付け刃とは思えない、見事な弓の腕を持っている。


「ハルちゃんは弓道部の補欠だって言っていたけど、ちゃんと公式戦に出たことある?」


 ティダの質問に、ハルは少し嬉しそうな顔をして答える。


「最後の大会で準決勝に出してもらえて、ちゃんと勝ちましたよ。

 決勝はさすがに控えだったけど。ああ、その試合を皇族方が見学にいらしてました。

 と、ハルお兄ちゃんは言っています」


「えっ、まさかハルちゃん、皇族方がご覧になる大会行事って全国高校インターハイだよね。決勝戦まで進んだとなると……」


「ティダ、ハルは全国二位チームの準レギュラーで、高校トップチームの指導者から、直接弓の腕を鍛え磨かれている。

 本人がマネージャーみたいなポジションだったと言っているのは、副部長の仕事だ」


 フォローするようなSENの呟きに、ティダは呆気にとられる。


 ハルの扱う『赤い女神の和弓』と『黒い小弓』は、廃ゲーマーのSENすら見たことのない激レアアイテム、いや、ハルのためだけに出現したアイテムかもしれない。

 そして弓のゲームスキルをカンストするのに何時間必要だろうと、ハルのリアルスキルは、それを遥かに上回る。


 ミゾノゾミ、ここではミゾニャン女神が風香十七群島にもたらした豊穣とは、猫人族に弓の扱いを教える、弓射技術そのものだった。

部活動ネタは色々な体験談が紛れ込んでます。

インターハイネタは、ボランティアで参加した大会に皇族方がいらしたとか、

補欠だけど副部長だったとか、

まさか、母校が甲子園2連覇するとは思わなかったとか。

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