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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
65/148

クエスト60 猫人族娘狩り

 険しい岩山を駆け上がり、島の頂上から、隣の深緑島の周囲に群がる船を見る。

 大型船三艘に、小型船二十一艘。

 その大型船には、甲板に鉄製の丈夫な檻が十数個準備されている。

 島の周囲は浅い砂地に囲まれているので、大型船は直接島に近づくことはできず、沖で待機しているのだ。

 手漕ボートのような小型船が、島の小さな入り江にひしめき合いながら並び、そして割り込もうと船同士をぶつけ合って争う連中もいる。


 ハルが一番最後に岩山の山頂にたどり着いた時には、猫人族の漁師たちは息を殺して景色の一変した海を眺めていた。

 島から遠く、水平線にもポツポツと黒い点を散らしたような、奴隷海賊の船団が見えた。


 現在の状況が飲み込めず、混乱するハルの赤い右目が起動する。

 目の前に仮想モニターが映し出され、呼びかけの念話チャットが表示された。


 そういえば、萌葱ちゃんがこの島に着てから一週間が過ぎたが、竜胆はまだ迎えに来ない。SENやティダは、朝夕に挨拶程度のメッセージしか送ってこない。


 何かおかしかった。




 音声と文字の念話チャットで、ハルの脳裏にSENの普段より硬い声が流れる。


「ハル、今まで秘密にしていてスマン。

 お前を助け出す準備が整うまで、無駄に動揺させたくなかったんだ」


「 ∑(゜Д゜ ) 」


「ハルを誘拐した猫人族の聖騎士は、霊峰女神神殿のニセモノ法王を裏切り、ホンモノの法王を探している。

 偽法王は、実は神科学種でアマザキという名前だ。

 アマザキは聖騎士の裏切りを許さず、その見せしめに、同族である猫人族の娘狩りを命じたんだ。」


「 (゜◇゜;) 」


 ハルと聖騎士の彼女との間で、これまでマトモな会話は一切なかった。

 彼女は、唯一ハルと言葉を交わせる相手だというのに、ひ弱な神科学種だと判断して完全に諦め放置していた。

 ココで初めて、ハルは自分が連れ攫われた理由を知る。


「ハルちゃん、偽法王アマザキは、まだハルちゃんがミゾノゾミ女神の憑代だというコトは知らない。

 今夜迎えにいくから、それまで大人しくして危険な事はしないでくれ」


「 └(゜ロ゜;)┘ 」


 えっ、ティダ、待って待って!?

 ハルは焦りながら思った。

 今は僕より、猫人族が奴隷海賊たちに襲われて大変な事になっているんだよ。

 しかし二人との会話は一方通行で、島の状況は顔文字じゃ伝えられない。


 念話チャット中のハルは、ぼんやりと宙を眺めているように見える。

 そのハルの視界には、仮想モニターと二重写しになって、幼い子猫が叫びながら、小石を海に浮かぶ海賊船に向かって必死に投げる姿が映る。

 小石は手前でポトリと落ちて、斜面を転がってゆく。

 こんな場所から石を投げたって、奴隷海賊船に当たるはずもない。でも、何かをせずにはいられない。



 そうか、言葉で伝えられないなら、現場の映像をSENたちに見せて知らせるしかない。



 ハルはSEN達との念話チャットを一方的に終了させて、萌黄に声をかける。

 岩山の上で、成すすべもなく海を見つめる猫人族たちから抜け出すと、バンジージャンプの洞窟に向かって走り出した。



 ***



 深緑島は深い原生林に覆われた島で、中央に開けた土地に、猫人族唯一の村がある。

 村の中央広場には、娘たちが集められていた。

 酒焼けで濁った目をしたの太鼓腹の村長は、美しく着飾らせた娘たちが怯えて泣くのを荒々しい声で怒鳴りつけた。


「ギャアギャアとうるさい女どもだ。

 今まで俺がタダ飯食わせて、マトモな生活をさせてやった恩返しをしろ。

 それが嫌な役立たずは、ワニの群れに、裸で投げ込んで餌にするぞ」


 太鼓腹の村長は、奴隷海賊首領から、普段の倍の値段で娘を買い取るという話に大喜びで飛びついた。

 半月前に、奴隷商人に売った七人の娘が金貨十枚だった。

 それを倍の金貨二十枚、不細工でも乙女ならかまわないという絶好の条件なのだ。


「おい村長、メス猫の準備は出来たか?

 一匹金貨20枚で、100匹分の金貨2000枚は準備してあるぞ」


 キツネ顔で落ちぶれた貴族の様な服装をした、奴隷海賊首領の使いの男は、村長に声を掛けた。

 手にした黒塗りの木箱から、ジャラジャラと重たそうな金属音がする。


「はい、奴隷海賊の廃王子さまのご希望通り、美人の猫人娘を三十八人揃えました。

 へっ、人数が足りないですって?

 奴隷として使えるように、キチンと仕込んだ娘はこの三十八人でして、残りの娘達はまだ売り出すには早すぎます」


「生娘なら、どんなモノでも構わんといったはずだ。

 生まれたばかりのメス猫からココにいる奴隷娘まで、全部の猫人族の娘を連れてゆく」


 そうキツネ顔の男は告げると、見るからに凶悪な面相の傭兵たちが数十人、ゾロゾロと背後から姿を現した。

 怯えて震える娘たちの首に、乱暴に縄を掛け、後ろ手に縛ると引きずるように連れてゆく。

 傭兵たちはズカズカと村の家々に押し入り、中に隠れていた小さな子猫を捕らえると、髪を鷲掴みにして吊り上げて振り回す。


「ひゃははっ、霊峰女神神殿で生け贄として殺すだけだし、なぁどんなメス猫でも構わないんだよな」


 傭兵の男は、そう言いながら襤褸袋の中に小さな子猫を押し込むと、荷物のように肩に担ぐ。

 傭兵たちによる「猫人娘狩り」略奪の光景が、村中で繰り広げられていた。


「ええっ、生け贄として娘たちを殺すとは、どういう事ですか!?

 霊峰女神聖堂で、娘を奴隷として働かせるのではないんですか」


「なんだぁ、その口の聞き用はぁ。

 女神神殿の法王様が、御神託を授かったんだ。

 汚らわしい猫人族の生娘を百五十人生け贄として捧げれば、この終焉世界にミゾノジミ女神が降臨して、宝石の雨を降らせてくれるんだとよ」


「何をぬかす、猫人族が汚らわしいだと!?そんなバカな話があるか。

 二年前から法王が狂ったという話をよく聞く。そんな狂人……」


 口が滑るとはこの事だ。

 娘たちを売りさばく深緑島の村長は、傲慢なプライドを持っていた。


「猫人族ごときが、神聖な女神神殿の法王様に対して暴言を吐くとは聞き捨てならん。

 廃王子の味方である法王様に逆らう謀反人は、この場で即処刑だぁ」


 キツネ顔の男は、耳障りな高い声でそう告げると同時に腰のレイピアを抜き、太鼓腹の村長の左胸に深々と突き立てた。

 胸から真っ赤な血が勢いよく噴出し、心臓から背中まで貫かれ即死した村長の体を、男は細い腕で串刺しのままレイピアを上持ち上げて掲げる。

 まるで、血の雨が降っているようだ。


「こいつの他に、俺たちに逆らう連中はいないよな。

 おい傭兵ども。お前らもメス猫を誤魔化してかすめ取ろうとしたら、同じ目に合うと覚悟しろよ」


 そして、村長の死骸を広間中央に投げ捨て、その上に持ってきた金貨をばらまいた。


「この金貨は、残りの猫人族で仲良く分けるんだな。もうこの村に用は無い。

 廃王子さまが報告を待っていらっしゃる、さっさと引き上げるぞ」


 村長の手足だった村の男たちと、猫人族の娘を管理していた村の女たちは、村長の死体を踏みつけながら金貨を奪い合い醜く争っている。

 その姿を鼻で笑うと、キツネ顔の男はきびすを返し村に背を向けながら、側に付き従う部下に一言告げる。


「いい天気だ。火を放てば良く燃える」



 捕らわれ小型船に乗せられた猫人族の娘たちが見たのは、赤い炎に包まれて焼け落ちる島の姿だった。



 ***



 次々と小型船で運ばれた娘たちは、沖に停泊する大型船の甲板に並べられた鉄の檻に閉じこめられた。


 キツネ顔の男は、捕らえた娘たちの数を確認すると、大型船に乗り込んでいる傭兵達のリーダーである、赤い髪をした巨漢の男に声をかけた。


「あの欲深い目障りな深緑島の村長を、うまく片づけることもできた。

 メス猫七十二匹か、まぁ、一度のこれだけの数を集められれば、廃王子さまも満足されるだろう。

 いいか、傭兵達の見張りはお前に任せる。メス猫の商品価値を落とすなよ」


「はい、分かっております。大切な、生贄として殺される猫娘達だ。

 生娘のままでも楽しむ方法は色々とありますから、充分可愛がってやりましょう」


 涼しげな顔でそう告げる若い赤髪の男は、どこか他の傭兵達とちがう洗練された仕草で、自分を高位の貴族のような傅く態度で接してくる。

 直立不動の体勢から数歩後ろに下がり、深々と自分に対して頭を下げ続けたまま見送る傭兵のリーダーに満足して、男は廃王子へ報告するために船を走らせた。


 さて、邪魔者はいなくなったか。

 男を見送った、赤い髪の若い傭兵、竜胆は猛々しくニヤリと笑った。




 七十二人の娘達を捕らえた鉄籠は、三艘の大型船に五個ずつ積まれ、中には五,六人の猫人族の娘が入れられている。

 船を操る奴隷海賊と、娘を捕らえてくる裏稼業の傭兵に役割は分担されている。

 奴隷海賊と傭兵では、傭兵の方が身分は上になり、奴隷海賊は傭兵に逆らうことが出来ない。

 そして竜胆は、深緑島を襲撃する傭兵たちのリーダーを任されていた。


 一仕事終えた傭兵たちは、檻に囚われた美しい猫人族の娘を酒の肴にして、酒盛を始めていた。

 檻の中に手を伸ばし、まだ幼い娘の片足を掴むと、無理やり檻の手前まで引きずりよせる。娘を着飾っていた服に数本の手が伸びて、音を立てて引きちぎる。

 娘の哀れな悲鳴と男たちの囃し立てる嘲笑が響き、その様子を見た他の男達も、真似て檻の中の娘をオモチャにし出した。


 竜胆は空の鉄籠の上で胡坐をかき、その様子を黙ってしばらく見ていた。

 傭兵たちへの労をねぎらう為にと竜胆が買い与えた酒が殆ど空になり、そろそろかと腰を上げたところで、隣の船からどよめきが起こった。


「おい、その娘を早く捕まえろよ。

 スゲェ、黒い長い髪に肌も真っ白で、顔がミゾノゾミ女神そっくりじゃないか」

「人間じゃないだろ、ネコ耳に尻尾が生えてるぜ。

 それでも、確かに女神さまに瓜二つだ」


 船の端に置かれた檻は正面から檻の中に腕を伸ばすことが出来ず、中の娘は檻の反対側で体を小さくして蹲っている。

 檻の周りには、酔ったやじ馬の群れが、娘に触れようと手を伸ばしていた。


 透き通るような白い肌に腰まで伸びた絹糸のような碧の黒髪、ぷっくりとした桃色の唇に赤みがかった優しげな大きな瞳。

 白い小袖(白衣)に、膝上までの短い緋袴、膝小僧を隠す白く長い足袋ニーソを穿いている。

 ネコ耳カチューシャと尻尾を装着した、巫女姿の娘がいた。


 まさか、冗談じゃないぞ。でも、ヤツならありえるか。

 檻に近づいてきた竜胆を見て、娘は困ったように微笑み、竜胆は苦虫を噛みしめた表情になる。


 てめぇぇーーハル!?

 なに猫人族の娘達に紛れ込んで、あっさり捕まってるんだよ。


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