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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
62/148

クエスト57 弓矢を作ろう

 夜は、突然現れた萌黄(一緒に来た竜胆に、用事が出来たと置いていかれた)を岩場の聖堂に預け、ハルは一人洞窟に戻る。


 そして翌朝早く目覚めたハルは、洞窟の中に聖騎士の彼女の気配が無い事に気がついた。どうやら、昨夜はココに戻って来てないようだ。

 うっ、何で僕が彼女の心配をしなくちゃいけないんだ。もし彼女がトラブルに巻き込まれれば、ユニコーンが知らせてくれるハズだ。


 ハルはぶつぶつと一人ごちながらも、鍋の中のスープを温め直し、ちゃんと茹でたおにぎりの実を置いて、萌葱の居る聖堂へと出かけていった。



 ***



 また、子猫が増えていた。


 小さな聖堂の中に、六つ子に小さな子猫3人、それと萌黄に12歳ぐらいの少女猫が3人。計13名の子猫たちが、お腹を空かせてハルが来るのを待っていた。


 そして、さらにハルを驚かせたのが


「お早う、ハルお兄ちゃん。見て見てっ、萌黄もニャン子になっちゃった」

(萌黄ちゃん、か、可愛すぎる。そのネコ耳とシッポは一体!?)


 頭の上にネコ耳カチューシャをしている萌黄は、嬉しそうにハルの前でくるりと一回転する。ピンクのメイド風ワンピースのスカートがふわりと広がり、裾から白いシッポが覗いた。


 終焉世界では下級種族と言われている猫人族だが、オアシス育ちで異種族の巨人に仕える萌黄に、差別という概念は無い。

 そして、リアルから来た神科学種ゲームプレイヤーにとって、ネコ耳は憧れの存在ですらある。


 (開眼!!SENさん、これが”萌え”というもモノなんですね。)

 ハルは思わず『ネコ耳萌黄』をスクショ撮影して、SENへ画像を送りつけてしまい、それを見たSENは、中央広場の真ん中で奇声を上げながら「ふしぎなおどり」を踊るという黒歴史を作る。




 (なんだか、オアシスにいても鳳凰小都にいても、僕の役目って変わらないねぇ。)


 ボヤきながらも、ハルは手際よく大量の朝食を準備する。クリスタルシールドの下に炎の結晶を数個並べ、簡易ホットプレートにした。

 溶いた小麦粉に魚介類を混ぜ、お好み焼きのように平たく焼いたら、目玉焼きを上に乗せる。最後に甘辛いたれをたっぷり塗ると出来上がり。

 年上の子たちに焼くのを手伝わせて、20分ほどで朝食ができた。


「ハル神さま、魚パン(海鮮お好み焼き)凄くおいしいよ。」

「わぁい、パンがふわふわして柔らかい、こんな美味しいの初めて食べた」


 それは、山芋の代わりにサボテンのすりおろしを加えて、小麦粉生地がふんわりと仕上がっているんだね。

 キャベツがあれば、本物のお好み焼きが作れると考える料理オタク。


 恐ろしい勢いで子猫たちが食事をする様子をノンビリ眺め、気が付くとハルは味見しかしておらず、子猫の騒ぐ声で起こされたクジラにーにの分も残っていない。

 料理はすべて、子猫たちが平らげていた。



 ***



 お好み焼きを食べそびれた二人は、子供たちに食事の後片づけを命じて、小さな聖堂の中庭で、おにぎりの実にハーブティで簡単な朝食を取る。


「それにしても、女の子たちは隣の島に帰さなくてもいいんですか?

 ……と、ハルお兄ちゃんは言っています」


 声の出ないハルの隣には、ねこみみ装備の萌黄が付き添って通訳をする。


「ああ、帰さなくていい。

 娘たちは、奴隷として売られるのを拒んでココに逃げて来たんだ。

 隣の深緑島の村長は、奴隷商人から無料で酒や煙草や貰う代わりに、娘を奴隷として売り払う。

 娘を犠牲にして、自分たちは酒や煙草や賭事に明け暮れ、自堕落に生きているんだ」


「えっ、子供の母親は心配しないの?

 ……と、ハルお兄ちゃんは言っています」


「ハル神さま、ソレって子供を産む女の人のコト?

 村では子供を産んだ女の人は、奴隷として売られちゃうんだよ」


 話に割り込み、あっけらかんとそんなコトを言う六つ子の三果みかは、猫人族の村の様子を話す。

 母親はいない。父親は、村にいる数人の猫人族の男の誰なのか分からない。

 身なりを整える厳しい世話役の老女が数名いて、成長した猫人族の娘は奴隷として売られてゆく。


「以前は、風香十七諸島のうち、半分の島に猫人族の村があったそうだ。

 だが数年前、この海域に現れた巨人族の廃王子率いる奴隷海賊が、殆どの猫人族の村を滅ぼした。

 唯一奴隷として猫人族の娘を差し出す約束をした、深緑島の村だけが残されたんだ」


 ひどい、そんなことが……。

 鳳凰小都にいた綺麗な猫人族の娘たちも、そうして売られてきたのかな。

 青い顔をして、俯いてしまったハルに、青年は優しく語りかける。


「猫人族は、人間より強く逞しい。

 奴隷海賊から逃れて、再び村を作ろうとしている連中もいるんだ。

 それに、さすがの海賊も聖堂には手出しできない。俺は助けられるだけ猫人族を保護してゆくよ」


 笑顔でキッパリと断言した青年からは、覇気と力強い『祝福』の気配を感じ取れる。



 ***



 食後、子猫全員と萌黄を引き連れて、ハルは巨木の生えるバンジージャンプ台へと続く洞窟を目指す。

 ワニの腹から出てきた黒い弓の弦を、バンジーしても切れなかった巨木のツタで作ろうと思っていた。

 クエスト途中で現れたアイテムは、ゲームを左右する重要アイテムになるパターンが多い。この終焉世界でも、MMORPGゲームの法則は適用される、ハルはそう考えた。


 巨木の洞窟へ向かう岩山の道途中、僅かな土の上に生えているサボテンを見つけては、ついでに収穫をする。


 黒岩島のサボテンは、スイカ大の丸い実に、傘の骨ほど長い棘がビッシリ生えている。

 棘先端には毒があり、触れると蚊に刺されたような痒みに襲われる。さらに、刺さった場所を水に付けると、痒みが焼け付くような痛みに変わり、赤く爛れ腫れ上がる恐ろしい毒性を持つ。


 そんな毒サボテンなので、今まで誰も食べられると知らなかった。

 料理オタクのハルが、好奇心から毒見(赤い右目で毒が無いことは判断できる)して食べられると発見したのだ。

 緑のサボテンは大根味、薄桃色のサボテンは柿のような甘い味がする。

 そしてハルは、傘の骨のようなサボテンの棘も、アイテムバッグのコレクションに加えていた。




 小一時間ほどで、洞窟の中の、天井の抜けた巨木の生える場所まで来た。

 さっそく丈夫そうな巨木のツタを探して選ぶと、ワニの腹から出てきたレアアイテム、黒い小弓に張る。ピンと張った弦はと最高のしなやかさと強度がある。


 (これは、赤い女神の和弓みたいな呪は掛かって無いよね。

 普通の弓だから安心して使えそう、何か試しに射りたいな)


 岩山の島には、海を渡り翼を休める飛来地として、様々な種類の鳥が来る。

 ハルは、見晴らしのいい岩の上に餌の小魚を仕掛け、洞窟の岩陰に隠れた。


 数分もしない内に、鳩によく似た茶色まだらな鳥が、餌に気づき近寄ってきた。

 矢を二本同時につがえ、落ち着いて狙いを定める。


 ハルは、いつも洗練された優美な弓の引き成りの、先生カノジョを思い描きながら弓を弾く。

 手本の彼女は、その世界でトップレベルの弓道人だった。

 生徒ハルは、そのフォームを完璧にトレースする。


 指先から放たれた矢は、風を切る音と、慌てて飛び立とうとする鳥の翼を打ち抜き、胴を貫く。

 その様子を見ていた子猫たちから、おおっ、と歓声が上がった。


(やったぁ、鶏肉ゲット!!

 魚肉も美味しいけど、鶏肉、焼き鳥、唐揚げチキンも食べたいよね)


 浮かれてガッツポーズをするハルを、子猫たちは驚いたように見つめていた。


「すごぉい!!やっぱり、ハル神さまはミゾニャン女神さまだ」

「弓の上手な猫人族の女神さま、ミゾニャンニャンさま、バンザイ!!」


 (なにっ、そのミゾニャン女神さまって!!)


 子猫たちは興奮したように、ニャンミゾニャンニャン♪と歌いながら騒ぎだす。


 後からクジラ兄に聞くと、猫人族の伝説の中で弓の名手だった娘と、ミゾノゾミ女神信仰が混ざり合って、ミゾニャン女神に変化したらしい話だった。





 騒ぐ子猫たちに戸惑いながらも、ハルはしとめた獲物へと近づいた。

 鳩に似た鳥の胴体を貫いた黒い矢に触れると、矢は突然消え、背中に背負っていた矢筒が カラン と音を立てた。


(これはもしかして、射った矢が自動で矢筒に帰ってくるの?)


 それは、矢を拾いに行かなくてもいい、使い捨てではなくリサイクルする、地味だけとすごく便利なレアアイテムだ。


 獲物を手にしたハルは、改めて、洞窟の割れ目からブロッコリーのように頭が飛び出している巨木を見つめる。

 その樹の枝は片手で握れるほどの太さで、かすかに内側に湾曲して、まるで『これで弓を作れ』と言っているようだと思った。

 ハルは早速、子猫たちに命じて枝とツタを集めさせ、黒い小弓を手本にして、オモチャのような素朴な弓を作った。矢は、サボテンの棘に死黒鳥の羽を付ける。




 体がしなやかで手足の長く、視力の良い猫人族の子供たちは、あっと云う間に矢を射ることを覚えた。

 昼過ぎまでに、十羽の鳥をシトメ、全員大はしゃぎで意気揚々と聖堂に帰ってきた。



 ***



 一晩中、島から島へ浅瀬の砂地を徒歩で横断して、聖騎士の彼女が黒岩島の洞窟へ戻ってきた時には、すでに日は昇り、神科学種の少年の姿は無かった。


 洞窟の入り口に、逆さになった兜の鍋が置かれ、ぬるいスープと柔らかく茹でられたおにぎりの身が置かれている。


 最初は、海草と白身ワニ団子スープだったのが、今ではエビや貝も加わり、魚の卵を練りこんだ三色団子スープになっていた。

 不思議だ、料理がドンドン豪華になっている。これではまるで愛情料理じゃないか。

 そもそも、こんな島でどこから食材を調達してくるのだろう?


 彼女は、ハルの「高カロリー食で太らせそう」という企みを知らない。


 彼女は食事をかきこむように食べると、すぐ其の場でゴロリと横になり仮眠を取る。




 嵐の夜、女神が憑依した神科学種の少年との会話で、「神を信じないなら、現れない」と告げられた。

 私は、もう無様に神には縋らない、自力で白藍さまの手がかりを見つけだす。


 二年前、白藍さまを罠に嵌めた、あの不気味な黒髪の神科学種を探し出すのだ。


 数時間の仮眠の後、昼過ぎに起きた彼女は、おにぎりの実を腰の粗末な袋に仕舞うと、ユニコーンを優しく撫でてから、再び出かける。

 男の手がかりを求め、風香十七諸島すべて、しらみつぶしに調べる覚悟だ。

※サボテンの実の部分イメージ、ドラゴンフルーツ。

 外見は、こんなモノ食べられるの!!なフルーツです。

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