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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
61/148

クエスト56 奴隷海賊船を発見しよう

 風香十七群島の十八番目の島。


 浅い砂地に乗り上げ、互いに繋ぎ合せられている十数艘の巨大奴隷海賊船は、まるで一つの島の様だ。

 そして砂糖に蟻が群がるように、大小の船が巨大船の周りに集結していた。

 猫人族の娘という獲物を捕らえに、わずが2日でこれだけの船が、風香十七群島に集まっている。

 竜胆は上空のドラゴンの背から、数十艘の船団を眺めながら、鳥肌の立つ思いで、人間の強欲さを見せつけられていた。


 海に浮かぶ方の大型船の甲板には、2メートル四方の鉄製の檻がいくつも並んでいる。

 偽法王の布命では「ミゾノゾミ女神への祭事に、猫人族娘を150人生贄に捧げる」とされたが、この期に乗じて、猫人族の娘を捕らえて荒稼ぎしようと集まった奴隷海賊、闇商人、裏稼業の傭兵もいる。


 このままでは、150人どころかその倍、もしかしたら猫人族の女は、全て狩られるのではないか?

 すでに檻が準備されているという事は、捕らえられた獲物がいるのだろう。


「竜胆さま、ハルお兄ちゃんのトコロに早く行こうよ」


 自分の懐に抱え込んでいる小さな少女が、焦ったように声をかける。

 ああ、そうだった。

 俺たちの最優先は、ハルを助け出すことだ。


 それでも、眼下の奴隷海賊船の甲板に置かれた、頑丈そうな鉄の檻から目が離せない。

 なるほど、ティダに強く念を押して忠告したのはコレか。

 猫人族の男を奴隷にするというものなら弱肉強食の世界、見逃せたかもしれない。

 だが「猫人族の娘を狩る」というのは、完全に欲に駆られた人間達の狂気の蛮行だ。


 竜胆は迷うことなく決意すると、幼い少女に話しかけた。


「なぁ萌葱、俺はちょっとあの船に用事ができちまった。

 ハルの居る島に着いたら、一人でハルのトコロに行けるか?」


 竜胆は海賊船の島からドラゴンを再び上昇させ、砂の浅瀬の、リングのちょうど反対側にある黒い岩の島を目指した。



 ***



 浜辺で飲み食いして騒いだ後、漁師たちは漁の仕掛けをするため、再び海へ出かけて行った。

 ハルは、島で留守番の六つ子と三人の子猫を連れて、赤い夕焼け空の中聖堂を目指し歩いていた。


「ハ ル お 兄 ち ゃ ん ハルお兄ちゃーん」


 えっ、遠くから聞き覚えのある声する。

 ハルは、聖堂とは正反対の島の山頂へと続く道へと目を向ける。

 真っ赤な夕焼けを背に、黄金色の長い髪を振り乱して、小柄な人影が急な坂道を下りてくるのが見えた。


「お兄ちゃん、ハルお兄ちゃーーん、会いたかったよぉ!!」


 身軽な少女は、どんどん加速しながら、急な坂道を駆け下りる。

 あわてて少女を受け止めようとするハルは、毎度お約束のように胸部に弾丸の様なタックルを喰らい、後ろに弾き飛ばされる。


(うっ、息が、ゲホゲホっ、は、肺が潰れるかと思った。

 それにしても、どうして萌黄ちゃんがこんなトコロにいるの?)


 仰向けに倒れたハルにしがみ付いて、名前を連呼しながら泣き出す萌黄に、周りにいる子猫たちも驚いている。


「うわぁ、人間の子供だ。初めて見みたよ」

「スゴイ、細くてさらさらした金色の髪、色も真っ白」

「小さくて手足も細くて、お人形さんみたいに可愛いわ」

「ねぇお人形ちゃん、ハル神さまの上から降りないと、起き上がれないよ」


 子猫たちは萌黄を抱き上げて、ハルの上から退かせる。

 8歳という年齢より小柄な萌黄は、ピンクのメイド服を着てお人形のようで、初めて人間の子供を見た子猫たちは大はしゃぎする。

 最初驚いて大人しくしていた萌黄も、しつこく付きまとう子猫たちに癇癪を起こす。


「もう、ちょっと離してっ!!ハルお兄ちゃん、萌黄が助けに来たよ」


 大股で自分の所にズンズン歩いてくる少女の姿は涙目で霞み、ハルは思わず感極まって、小さな体を抱きしめた。


(萌黄ちゃん、心配させてゴメンね。誰と一緒にここまで来たの?

 ああ声が出ない、萌黄ちゃんは余り字が読めないし、どうやって気持ちを伝えよう)


 ハルは、パクパクと金魚のように口を開け閉めするばかりで、萌黄は不思議そうに眺めるとコクンと頷いた。


「うんハルお兄ちゃん、とても心配したよ。

 あのね、ここまでは竜胆様と一緒だったの。

 海を飛んできたドラゴンとユニコーンは天敵で、ユニコーンの居る島に着陸できなくて萌黄だけ来たの。

 竜胆様は、後から迎えに来るから、大人しく待っていろって」


(あれ?萌黄ちゃん、僕の言いたいこと判るの)


「うん、ハルお兄ちゃんの声は、ちゃんと萌黄に聞こえるよ」


 これは驚いた。ハルの声にならない微かな息遣いから、小さな少女は言葉を読み取る。

 天性の戦士としての、様々な才能の片鱗が芽吹いてきているのだ。


(それなら、萌黄ちゃんが僕の通訳をして、皆に言葉を伝えてくれる?)


「萌黄は、ハルお兄ちゃんの助手だもん。お手伝いするよ」


 気が付くと既に日は沈みかけ、辺りは夜のとばりが下りてきた。


 聖騎士の彼女がいる洞窟に、萌黄ちゃんは連れて行けない。

 ハルは少し考え込んだ後、岩場の聖堂に小さな少女を連れてゆく決意をする。

 出来るだけ、彼らをコノ件には巻き込みたくなかったが、仕方ない。

 あの不思議な青年に、自分の真実を明かさなくてはならない。

 


 ***



 小さな聖堂の中庭で、突然現れた金髪の愛らしい少女と対面した青年は驚く。

 少女は、堂々とした態度で青年に語りかけた。


「ハルお兄ちゃんは、霊峰女神神殿を脱走した聖騎士の女に誘拐された神科学種さまです。巨人族の王子 竜胆さまと萌黄は、ハルお兄ちゃんを助けに来たの」


 静かに話を聞いていた青年は、厳しい顔つきでハルの方を向き直る。

 信仰心の強い青年は、女神の使徒である神科学種が、理不尽な扱いを受けている事に怒りを感じているようだ。


「くっ、その聖騎士の女、許せない。

 厳しく糾弾したいが、しかし只の漁師である俺には何もできない。

 貴方様には様々な施しを受けているのに、何もお助けできず、申し訳ありません」


「もうすぐ味方が助けに来ます。だからそんな、物騒な事言わないで下さい。

 聖堂で萌黄ちゃんを預かってもらえれば、僕はとても助かります。

 ……と、ハルお兄ちゃんは言ってるよ」


 深々と頭を下げたまま、顔を上げようとしない青年にハルは慌てる。

 信仰心が強すぎるのも怖いな。こういう場合、どうしたらいいのだろう。


「あのさぁ、眼帯のお兄ちゃん。聖騎士の女の人はとても強かったよ。

 萌黄の宮廷剣舞技の軽々と片手で跳ねかえして、子供でも容赦しなかった。

 もし眼帯のお兄ちゃんが争ったら、ここにいる子猫たちも巻き込まれるよ」


 小さな少女はそう告げると、青年の前で両腕に隠し持っていた短刀を取り出し、ひらりとステップを踏む。

 洗練された無駄のない動き、華麗に宙を舞い、両手の短剣を閃かせ宮廷剣舞技の天才少女は1分程度の剣舞を披露した。

 それは、素人目にも恐ろしいほどの攻撃力を持つ、王族を守護する殺人剣舞だと判る。


 しかし、それ以上の実力を持った聖騎士の彼女には勝てない。


 青年は気持ちを切り替えたように、普段の人懐こい温かな表情に戻り、ハルと萌黄に微笑みかけた。

 その夜は、萌黄は聖堂で過ごすことになり、子猫たちは大喜びで世話をしている。


(じゃあ、僕はユニコーンが心配だから洞窟に帰るね。

 そういえば、竜胆さんはいつ迎えに来るの?)


「それがねぇ、竜胆様はココに来る前に、海賊船を見つけたんだ。

 ちょっと偵察してくるって言ってるけど、すぐは迎えに来ないと思う。

 でも大丈夫、王族の契約でね、ドコに居てもハルお兄ちゃんの事は全部見えているみたいだよ」


 見えているなら大丈夫、よかった……えっ、全部見えてるって、王族の契約??

 ソレは何。と萌黄に聞いても、幼い少女は上手く説明できない。

 

(竜胆さんが迎えに来た時に聞けばいいかな。ちょっと嫌な予感がするけど。)




 そしてハルは何も知らされないまま、猫人族の危機に巻き込まれることになる。

少し短いけど、キリが良かったので投下。

嵐の予感です。

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