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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
60/148

クエスト55 良く切れる包丁を使おう

『End of god science -神科学の終焉-』

基本無料プレイのゲームで、人間タイプアバターは三種類用意されていた。

【女神/平民/戦士】

どのキャラクターも整った顔立ちだが、マネキンのように全く個性が無い。


したがって、ゲームに慣れはじめたプレイヤーは、自分の個性を出すため、アバターの容姿や体格を変更する有料アイテムを購入することになる。

また、特殊クエストを受けるために、ゲームマネーが必要な場合もある。

ここで需要があれば供給が生まれ、ゲームマネーはRMTリアルマネートレーディングの業者を介して盛んに取引されるようになる。

ソレを本業にして、ゲーム内ダンジョンに籠り、稼ぎのいいクエストをひたすらこなす廃プレイヤー。

違法なAIプログラムで動く無料キャラクターが、二十四時間オートマでモンスターを倒しコインを集める。


牧場をイメージして作られた広い初心者フィールドを、中身プレイヤーの居ない、同じ姿形をした平民キャラ『違法BOT』が数十体、ひしめいて雑魚モンスターをエンドレスで皆殺しにしている。

その光景を見た無垢な初心者プレイヤーは、初めてゲームの洗礼を浴びるのだった。



 ***



 今、ハルの目の前にいるのは、『違法BOTデータ』を持つ神科学種だ。

 右目の眼帯を直す青年に、ハルは指さして尋ねる。


「ああ、この目変だろ。

 俺の右目は細かい傷が入っていて、両目を使ってると頭が痛くなるんだ。

 だから普段は眼帯をして、右目は休めている。

 良く利くと言われる目薬を試したり、毎日目を洗ったり色々してるけど、目の傷は全然治らないんだ」


 あれ?おかしいなぁ。ハルは不思議に思った。


 リアルから来た神科学種ゲームプレイヤーなら、瞳に書かれた『ERROR』警告文字だと判別できる。

 しかしクジラと呼ばれる青年は、それを目の傷だと思いこんでいる。

 そして子猫たちを可愛がる様子や蒼牙ワニとの戦闘の様子をみると、この青年は普通の人間で、決して『違法BOT』AIではない。


 声の出ないハルは、棒切れを手にすると砂の上に文字を書いた。


(クジラさんは、この島に来る前は、どこに住んでいたの?)


 その文字をのぞき込み、青年はため息をついて答える。


「それが、二年前に海で遭難して、ココの聖堂の神官爺さんに助けられる前の記憶が、俺には一切無いんだ」


 困ったような笑みを浮かべ答えた青年は、話を続ける。


「爺さんの話によると、俺は白波クジラの背中に乗って、海を漂っているところを見つけたらしい。

 聖獣の白波クジラと一緒にいたから、怪しい者ではないだろうと、記憶の無いまま聖堂の世話になっていた」


「俺もじいちゃんといっしょにクジラにーにを見つけたっ。

 神様クジラの背中で昼寝していたよ」

「ばーか、にーには海で溺れていたのを、クジラ神様に助けられたんだよ」


 青年にじゃれつきながら、子猫の兄弟も話に加わってきた。

 子猫たちの頭をガシガシと乱暴に撫でながら、笑いかける。


「猫人族は眼がいい。運良くこいつらが俺を見つけてくれたんだ。命の恩人さ」


「それに、クジラにーにがこの島に来たから、魚が増えて大漁続きだぜ。

 兄はクジラの化身じゃねえのか?なぁ、みんなそう思うだろ」


 背が高く、片耳のちぎれた猫人族の青年漁師がそういうと、周りの仲間たちも口々にしゃべりはじめた。

 異邦人で記憶を失い種族の違う神科学種の青年が、猫人族の漁師たちを率いている。竜胆とタイプは異なる、一見、人目を引く要素皆無の平凡青年は、不思議なカリスマ性を持っていた。




 それから砂浜では、初めて自分たちの力で倒した、蒼牙ワニの解体ショーが始まった。


 ハルが『良く切れる包丁』を手に、非常に硬い蒼牙ワニの鱗皮を楽々と剥ぎ取っている。

 側で見物していた漁師たちは、おおっ、とか、うひゃあ、とか、驚きと感嘆の声を上げる。魚をさばき慣れている漁師から見ても、ハルの手際は良かった。


 ワニ皮を捌くのはハルに任せ、誰がソレを貰うか、じゃんけん合戦が始まっていた。

 クジラ兄がワニ皮を腹に巻いて、サメの攻撃を防いだ防御力に、他の漁師たちも目を見張り欲しがったのだ。


「クジラ兄はじゃんけん禁止だよ。あんた絶対負けないんだから。

 ほれ、みんな行くぞ、最初はグー」


 大の男達が、子供のように勝った負けたと砂浜を転げ回って、じゃんけんをしている。

 また、ワニの肉も大量に取れて全員で分けても五日分はある。オレンジの髪の猫人青年は、奥さんがオメデタだというので、ワニ肉を一番多くもらった。




 浜辺でにわかバーベキューが始まり、ハルはクリスタルシールドの上で白身肉を切り分ける。


(そういえば、ワニ内蔵はモツみたいに食べられるかな。

 海水で綺麗に洗って焼いたらおいしそうだよね)


 さっそくハルは、蒼牙ワニの膨れ上がった大きな胃袋に『良く切れる包丁』を突き刺す。

 胃の中に異物があり、食べたエサが出てくるかと恐る恐る取り出すと、中から棒切れと太い筒が出てきた。

 ハルの祝福が発動して、レアアイテムが現れたのだ。


 一瞬木の枝と見間違えたモノは、黒い漆塗りに赤文字の書かれた弦のない小弓。

 そして筒の中には、黒の漆塗に薄桃色の羽根の弓矢が入っている。


(これは、何かクエストが起こるから、装備して使えと言っているね。

 弦が無いけど、バンジージャンプのツタで代用できるかな)


 弓に関しては、ハルはゲームスキルより、リアルの弓道部活動経験によるスキルの方が上回っていた。

 小弓に弦を張ることもできるし、弓や矢もどきを製作することもできる。


 考えごとをしながら、切り分けた肉の側に『良く切れる包丁』を置いたところで、バーベキューから宴会になりアルコールの入った猫人族の漁師の一人が、ハルの隣に来た。


「なぁ、俺がここは見ているから、その臭いモノを海で洗ってこいよ。

 肉をコノ包丁で切り分ければいいんだろう」


 漁師の中で一番年長そうな男は、ハルを品定めする馴れ馴れしい口調で声を掛ける。

 堅いワニ皮を切り裂け、素早く解体できる包丁の切れ味に興味を示し、手に入れたいと思っていた。

 素早く掠め取るように手を伸ばし、声のでないハルは、漁師を制止できない。


「見た目、そんな大したことのない包丁だなぁ。

 どれ、俺が切れ味を、ウワッ!!ぎゃぁぁぁあーー」


 普通に肉の側にポンと置かれていた『良く切れる包丁』は、男が柄を握った途端、熱い鉄の棒のように真っ赤に焼け、炎を吹いて燃え上がった。


 男は悲鳴を上げて、包丁から手を離し、真っ赤に燃え上がる腕を振り回す。


「ひいっ、熱い熱い熱いっ、なんだぁこの火ぃ消えないぞぉ」


 少し離れたところで、子猫たちに肉を配っていた青年が、驚いて駆けつける。

 呆気にとられ、側で立ち尽くすハルの顔を一瞬見ると、腕を振り回し悲鳴を上げる漁師の燃える腕をわし掴む。


「あわてるな、ちゃんと自分の腕を見ろ!!全然燃えてないぞ。

 これは妖刀の見せる幻影だ。好奇心で触れると呪われるぞ」


 青年は呪解除の印を結ぶ。男の腕の炎は一瞬で掻き消えた。

 それは神科学種の魔法ではない。オアシス聖堂で退紅神官や、鳳凰小都の黒鳶大神官が、祈りの際に行う魔避けの仕草だ。


 漁師の男は、恐れおののいた様子でその場を離れると、青年は神妙な面もちでハルに話しかけてきた。


「神科学種様に、仲間が失礼なことをした。

 力の無い邪な感情を持つ者が触れると、妖刀の呪いが発動するのだろう」


 青年は、しっかりと『良く切れる包丁』を掴むと、柄の方をハルに向けて手渡した。

 呪われた妖刀の刃を素手で掴み、平然とした顔をしている。


『祝福=幸運度』は非表示ステータスだが、ハルはソレを、光の流れを感じとるように知る事ができる。

 岩山の聖堂に置いた祝福の折紙は、青年がいると倍の明るさで七色の光を放っていた。


 (ふむむ、思った通り、この人は多くの『祝福』を持っている。)


 ハルは、青年から『良く切れる包丁』を受け取るとニッコリ笑った。



 ***



 ファイヤードラゴンに騎乗した竜胆と萌黄は、まだ疲労感の抜けない魔獣を休ませながら、1日掛けて風香十七群島エリアに辿り着いた。

 大海原に白い砂浜のリングがポツンと浮かんでいる。


「いち、にい、さん、しい、ごお……。あれ、おかしいよ竜胆様?

 風香十七群島なのに、島はひとつ多い。十八あるよ」


 ファイヤードラゴンは、全ての島が見渡せる上空から、ゆっくり旋回しながら降下を始める。萌黄の言う様に、海に浮かぶ首飾りの宝石の様な十七の島と、ひとつ歪な形をした島が見えた。

 さらに降下を続ける、低い雲の中に隠れながら、歪の形の島に近づく。

 

「なんだ、あれは?島じゃない、巨大船みたいだな」


 それは、浅い砂地に乗り上げた巨大船、しかも一艘ではなく十数艘が互いに繋ぎ合せられている。

 さらに異様な光景は、まるで砂糖に蟻が群がるように、大小の船が巨大船の周りに集結していた。


 7,80艘、下手したら100艘はあるかもしれない。

 すべて、霊峰女神神殿の命を受け「猫人族娘150人狩り」の獲物を求めて来た、奴隷海賊だった。


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