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神科学種の魔法陣  作者: なんごくピヨーコ
風香十七群島編
59/148

クエスト54 違法BOTキャラ

 コクウ港町エリア、中央広場の全域転送魔法陣前に、猫人族の娘が七人並んでいた。

 どの娘も緊張で強ばった表情をしているが、それは劣悪な籠牢から出されほぼ自由に動き回れるようになった安堵と、これからの生活の不安と未知への期待である。

 猫人族の娘達は、スリムでしなやかな体格に、小さめの顔にぱっちりとしたネコ目がミステリアスで愛らしい。頭の上のぴょこんと乗った猫耳がピクピク動き、細い尻尾は真っすぐピンと立っている。

 娘全員、かなり高レベルの美少女を揃えていた。

 奴隷商人から救い出した彼女たちは、鳳凰小都のYUYUの元へ保護される事となった。


「奴隷商人からお前たちを買った金額は、金貨2枚。

 これを働いて返してくれれば、その後は自由の身にしてやる。

 鳳凰小都なら、食堂の配膳の仕事でも一月で返せる金額だ。

 ああ、これからは恩義を感じて、俺達の力になってくれるとありがたい」


 奴隷商人に売られ、一生涯、日の当たらぬ虐げられた生活を覚悟していた猫人族の娘達は、竜胆の言葉に歓声を上げる。

 口々に感謝の言葉を告げる娘達に、礼はいらない。と笑いながら何気にボティタッチする竜胆。

 さすがだな、女が勝手に寄ってくると豪語するだけある、これで何人かの娘は落とせただろう。半巨人の王子と娘たちの様子を眺めるティダは、口元に苦笑いを浮かべる。


 竜胆の性格、気さくで明るく情に厚い、勇猛果敢、我侭な面もあるが考え方は真っ当だ、そして不思議なカリスマ性を持っている。

 オアシスでも鳳凰小都でも、女神降臨と聖人出現に竜胆が関わっている事は、人々の噂で世間に知れ渡っている。


 これは、末席の王子が、次期巨人王候補に躍り出る事もありそうだ。

 ただし、竜胆が潰されずに王座まで上り詰めるには、それを支える参謀が必要。……先走り過ぎる、コノことを考えるのは、今はまだ時期尚早だ。




 約束の時間になり、鳳凰小都からの王の影の使者が現れる全域転送魔法陣の上に、見知った黒袴姿の青年が現れた。


「このオタク武士、帰れっ!!」ガコオォォッ


 SENが転送ゲートから姿を現したとたん、もはやティダの条件反射と化した、右足の飛び蹴りがSENの顔面に決まる。

 こいつは、YUYUに送信した愛らしい猫人族の娘達の姿を見て、画伯の子守という役目を放り出し、駆けつけたんだろっ。


「い、いきなり何すんだ、ティダーー!?

 しかも狂戦士モードで蹴りやがったなっ」


「なんで、お前がココに来るんだ。YUYUには、娘達に不安感の与えない常識人を寄越せと言ったはずだ。変態紳士は帰れ」


「それがなぁ、状況が変わったんだ。

 猫人族の娘達を守れる、腕っ節のある護衛を付けなくちゃならなくなった」


 ティダの渾身の蹴りにも、頬を軽く撫でるだけで回復したSENは、真剣な顔でそう告げた。


「霊峰女神神殿の、アマザキのバカが、猫人族の娘狩りを命じた。

 ヤツは、オアシスの女神降臨と鳳凰小都の聖人出現は、俺達の仕組んだ事だと思い込んでいる。

 終焉世界に降臨したミゾノゾミ女神、人々の間に俄かに盛り上がる女神信仰に冷や水を浴びせるため、そして逃げた猫人族の聖騎士への当て付けに、猫人族の生娘150人を生贄にして、自分の意のままになる偽女神を造り出すつもりだ」


 驚いたティダは、竜胆と顔を見合わせる。

 猫人族の娘達が、奴隷商人に捕らわれ酷い扱いを受けていた事を知っている。

 それが、150人もの猫人族の娘が捕らわれ、あれ以上の最悪な扱いを受け生贄にされるのだ。


「巨人王派の、黒鳶が取り仕切る蒼珠女神聖堂は、猫人族の娘の味方だ。

 となると、一番危険な場所は……」


 3人は押し黙り、人と猫人族が平和に暮らす、コクウ港町を見渡した。

 奴隷商人から救い出した娘達は、何も知らず楽しそうにおしゃべりをしている。

 彼女たちの住んでいた風香十七群島、猫人族の娘を狩るために、欲に駆られた獣が、どれだけ押し寄せてくるだろう。

 

 そして最も危険が迫っているのは、偽法王 アマザキの怒りを一身に買う聖騎士の娘と、捕らわれたハルではないか。


「これは、王の影からの伝言だ。

 只今より、コクウ港町エリア、全域転送魔法陣の出入り者の身元確認強化。

 そしてコノ地の支配者である、巨人族 第十二位王子 紺の青磁せいじに協力を仰いでくれ」


 そう告げると、SENは迎えに来た猫人族の娘達の方へ、歩んでいった。




 ティダは天を仰ぎ、溜息をつくと、隣に立つ竜胆に向き直る。


「この調子で、いつまで経っても厄介ごとは増えて、ハルちゃんを探しに行けない。

 ハルちゃんの居場所を突き止められるのは、王族の契約者のお前だけだ。

 この方法だけは避けたかったが……

 偽法王の悪事を止めるためにも、真のミゾノゾミ女神が誰であるか、終焉世界に知らしめる必要がある」


 ハルの化けたミゾノゾミ女神は、人目に曝した後、巨人王の後宮でほとぼりが冷めるまで隠していればいいか。結局、王の影 YUYUのシナリオに近い展開になりそうだ。


「竜胆、ハルちゃんを救い出したら、速攻、巨人族 乱暴王の住まうハクロ王都へ連れて行ってくれ。

 目の前で争いが起こり、例えば猫人族の娘が捕らわれ嬲られようが、決してかまうな。

 ハルは、終焉世界に降臨した、ミゾノゾミ女神の憑代だ。

 豊穣の使徒を失えば、破滅の使徒 アマザキの凶気に引きずられ世界は滅するだろう」


 それは、表情を消した、優麗な美貌を誇るエルフからの予言。

 口調は、普段のワザと作った女言葉ではなく、ティダ自身が語る言葉だった。


 巨大な終焉世界の運命の流れの中に、末席の王子である自分が組み込まれようとしている。ソレは、面白そうだ。コイツらと一緒に居たら退屈しない。


「では、俺様は先に島に渡って、ハルを探し救い出してやろう」




 半刻して、竜胆と萌黄が騎乗したドラゴンは、港町を後に風香十七群島目指して飛んでゆく。それを見送る二人の神科学種は、複雑な心境だった。


「竜胆に、俺たちはハルちゃんを過保護すぎる。と言われた」


「そうか?俺たち以上に、この終焉世界自体が、ハルに過保護すぎると思うな。

 絶海の孤島でサバイバルしてるのに、ハルは、毎日旨そうな食事を作って、聖獣を枕にして寝てるぞ。

 島の住人は、それまで飢餓と背中合わせの生活を送っていたのに、ハルが現れた途端、食生活が改善されているんだ」

 

 竜胆は、ハルをさっさと連れ帰ることが出来るだろうか?

 ティダは、何か嫌な予感に襲われる。

 ハルがまた余計に手を出して、奇跡という名のトンデモない事をしでかしそうだ。



 ***



 千切れ雲が浮かぶエメラルドグリーンの空と海、大きな波が打つ寄せる白い砂浜。

 おだやかな景色と裏腹に、その白い砂浜には2メートル越えの巨大ワニがウジャウジャひしめいている。

 その中から抜け出し、群れをはぐれた一匹の蒼牙ワニは、砂浜をのんびり歩いていた間抜けな黒髪の人間に気がついた。

 背後からゆっくりと近づく巨大ワニに、獲物は気が付かない。

 餌を、頭から一飲みに襲い掛かろうと跳躍した途端……


「チャンスは一度、今だ、縄を引け!!」


 黒髪の青年の掛け声に、砂の上に隠されていた罠の網を、岩陰に潜んでいた五人の猫人族の青年が、左右から一斉に引く。

 蒼牙ワニは見事罠にはまり、まるでハンモックに絡まったように宙に吊り下げられ、表と裏が逆になってジタバタ暴れている。


「上手くいったぞ、クジラ兄、頼むっ!!」


 縄に絡まり激しく暴れる蒼牙ワニを逃さないように、5人の若い漁師は必死に縄を掴んで離さない。

 一瞬ワニの動きが止まり、白い腹が見えた。


「うおおおおぉおぉぉーー!!」


 ワニを誘き出す囮役だった青年は、右目の眼帯を剥ぎ取り、両目で獲物の弱点を見極めると、両手で銛を振り上げ力いっぱい突く。

 銛の先端には、蒼牙ワニの牙が仕込まれていて、硬い鱗を突き破り、内蔵の奥深く、ワニの心臓まで一突きにする。

 固すぎる鱗に突き刺した銛は、喰いこんで引き抜くことが出来ない。

 しかし、銛の柄を伝い音を立てて噴き出す鮮血から、この怪物に致命傷を与えたことがわかる。


 2本目の銛が投げて寄こされ、ソレを受け取ると、すかさず同じ場所へ、渾身の力を込めて銛を突き刺す。

 今度はさらに奥まで銛が喰いこんだ。青年は力を振り絞り、汗で滑る銛の柄を手放さないように、更に捻りあげる。

 蒼牙ワニはガクガクと全身を震わせて痙攣仕出し、青年の力を込めた銛の柄が、中央からポキンと折れた。


「おい、仕留めたか?すげぇっ、やったなぁ」

「バカ、まだ油断するな、うわっ、罠が切れる!!」


 その瞬間、男5人がかりで釣り上げていた罠が、暴れる蒼牙ワニの鋭い鱗に縄が擦れて、音を立てて切れた。

 罠から逃れ、砂の上に落ちた蒼牙ワニは、瀕死の状態から信じられないほどの跳躍で、自分に銛を突き立てた黒髪の男の腹に噛みつく。

 

 だが、男の腸を引きちぎることは出来なかった。

 切り裂かれた薄いシャツの下から、蒼牙ワニの鱗皮で作ったベストが鋭い牙を防ぐ。

 ワニの噛圧で、骨の軋む音がする。

 青年は、モンスターの巨体に押倒されながらも、手にした白く細いナイフをワニの目に突き立てる。


 もう一度、激しい痙攣を起こし、蒼牙ワニの躰は動かなくなった。



 

「もう、動かないよなっ、ワニ、生きてないよな。ちゃんと死んでるか?」

「うおおっ、クジラにーにっー信じられねぇ!!本当に蒼牙ワニを倒したぞ」


 蒼牙ワニの体の下から、仲間の漁師の手を借りて抜け出した青年は、改めて自分の倒したワニを眺めると深々と頭を下げる。

 隣ではしゃいでいた、猫人族の若い漁師も、青年の様子につられて真似た。


 少し離れた岩の上から、蒼牙ワニ狩りの様子を見ていた子猫たちが、歓声を上げながら青年に抱きつく。そして子供たちの後ろを、色白で弱そうな人間の少年が、微笑みながら付いてきた。


 普段、クジラにーに以外の人間には、警戒感を示す猫人族の漁師たちも、子猫たちに懐かれ纏わりつかれる少年を不思議そうに眺めるだけだった。


「漁師のにーにたち、この人が僕たちを助けてくれた、ハル神さまだよ。ほら、いつもクジラにーにがミゾニャン女神のお話で出てくる、赤い右目の神科学種さま」


 あれ、今聞き間違えた?

 ミゾニャンってミゾノゾミ女神の事?なに、萌えるけど。


 それより、皆さんの視線が僕に集中していますよ。まぁ、見るからに平々凡々の僕を神様だと言われても、信じないよね。


 蒼牙ワニを初めて一人で倒し、全身返り血と傷だらけの青年が、笑いながら近寄ってくる。いつもと雰囲気が違うのは、右目の眼帯が取れているからだ。


 右目の色は黒い……ではない。

 ERROR ERROR ERROR ERROR

 ERROR ERROR ERROR ERROR

 赤い右目の中に、小さなエラーの文字がびっしりと書き込まれ、瞳の色は黒く見えるのだ。


 ハルは、自分の赤い右目を起動させ、目の前の青年のキャラデータを読み込む。


【NO NAME 神科学種(冒険者) 人間 男 レベルERROR】


 ああ、どうりで彼の姿に見覚えあるはずだ。

 ゲームの人間タイプ 無料キャラモデル【女神/平民/戦士】の中の平民キャラ。

 ゲームの中では、初心者エリアの平原を、『違法BOT』の平民キャラが大勢走り回っていた。

 青年は、その『違法BOT』のキャラデータを保有していたのだ。



※BOTとは、FPSやMMORPGなどで使われるAIプレイヤーのこと。ロボットの略称。

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